111話 侵入 状況確認とエリーの掛け声
響介、万を越える敵に啖呵を切る。
「ピュセル平野に跳んだ主力部隊がラヴァナ軍と交戦を開始しました!」
転送魔法で戻って来た伝令から例の廃墟にいた魔族達に一報が入る。
「おっ、始まったか。戦況は?」
その場にいたネロの言葉に反応して伝令の魔族の兵士は地図を広げると指を指しながら説明する。
「はっ、ランガ様の部隊を中心に平野と城の丁度中間に位置するこの辺りで交戦、ヴーレ様の部隊はこの東側で交戦しております」
「まぁ、そうなるか。で、キョウスケは?」
「キョウスケ殿ですか?ええと…」
この質問に魔族の兵士はキョロキョロと辺りを伺い始める。それを見たネロは
「大丈夫だ。今ライミィ達は隠し通路の方に行ってる。言ってみな」
「それが、キョウスケ殿はこのルートで先行しておりましたが転送で送り込まれた敵や城からの増援に囲まれ完全に孤立しております…」
「成程な、キョウスケの思惑通りだな…」
「あの、それでルイナスに残っている兵達からキョウスケ殿に助太刀をとの声が上がっておりどうしますか…?」
それを聞いてネロは改めて響介の凄さを知り驚く。人間を見下す傾向にある魔族達にこんな言葉を言わせるとは、響介の戦闘における実力もあるが襲撃されたルイナスがここまで早く立ち直ったのも響介達の尽力故、間違いなく響介の人格の良さが魔族達にも伝わったのだろう。その魔族の兵士の申し出にネロは
「却下だ。それに関してはむしろキョウスケの予定通りだからお前達は下手に動くな」
「ですが…」
「お前達の言い分は分かる。だがお前達までルイナスを離れるとそれを奴らが逆手に取られかねない、それにかえってキョウスケの邪魔になるから下手に荒らすな」
そう伝令に告げると奥の通路から鎧を着込んだ鬼人族の戦士がやってくる。
「ネロ、時間だ」
「おう、じゃあお前はルイナスに戻って防御を固めろ」
「はっ!」
伝令がテレポートを唱えて消えるのを確認したネロは鬼人族の戦士の後を追い隠し通路へ、そこには今か今かと時を待つ鬼人族の戦士達がおり、それを掻き分けて行き止まりの例の魔方陣の前には
「ネロ、遅い」
エリーがいた。鬼人族でひしめく中をポツンといるエリーはネロ目線なかなか異彩を放っていた。
「悪い悪い、伝令からなもう向こうは始まったらしいんだ」
その言葉を聞いて鬼人族達はやっと出番かと言わんばかりに騒ぎ出す。いよいよ出陣かと、しかしネロはあることに気が付いた。
「エリー、ライミィとステラとクラリッサは?」
「偵察、様子見てくるって、先にあっち、行っちゃった」
「おいマジか」
「うん、でも後5分後に戻るって。その時魔方陣に、魔力込める」
そして、先に潜入していたライミィ達はというと
「いやはや、助かりましたわい」
「グラットン殿、よくご無事で…」
転送魔方陣と繋がっていたのはアングリフ城の城内にある裏庭の側にあった放置された納屋の地下室だとクラリッサが話していた。辺りを警戒して地下室から出たライミィ達が見つけたのはセフィロトからの写真で見た例の魔方陣が浮かび上がる鎖に囚われている魔法使いが着ているようなローブを着た骸骨。響介の言葉を信じてライミィはヒートベールを唱えて魔方陣に当てるとたちまち魔方陣が効力を失いステラが鎖を断ち切りクラリッサがローブの骸骨を回収してこの地下室へと戻ったのだった。
骸骨を見た瞬間クラリッサが驚いていたのを見たライミィとステラは何かあると思い助け出したがどうやら当たりだったようだ。
「そちらのお嬢さん方、ありがとうございますじゃ」
人が良さそうに温和な表情をするかのようにお礼を言う骸骨。それを見たライミィは
「えっと、グラットンさんでいいのかな?貴方スケルトン?」
「いかにも、私めはアルフォンス様にお仕えするスケルトンワイズマンのグラットンと申しますですじゃ」
「スケルトンワイズマンですか、これはまた珍しい」
「私めは生前医者をしており治癒魔法も習得しておりました。恐らくはそれが起因してアルフォンス様の操霊魔法でレブナントに、果てはワイズマンに変異したかと」
スケルトンとはアンデットに該当する骨の魔物、スケルトンは生者を見つけると生者の魔力を食らう為本能的に襲い掛かる知能が無い魔物だ。だがアンデット化に伴って精製される魔石が生前の魔力や知力に比例する場合があり知能があり魔法を扱う個体も現れると魔物図鑑に記載されていたのを思い出したライミィ。グラットンが言うには自身の死後にアルフォンスの操霊魔法によって精製された魔石に純度の高い魔力を当てられた事でレブナント化し生前の自我が呼び戻されてワイズマンに変異したのではと付け加えていた。
「にしてクラリッサ殿や、貴女が居るということは」
「はい。アルフォンス様を、皆を救出する算段が立ちました故戻った次第です」
「そうじゃったか、にしては同行しとるのがラミアのお嬢さんに人造人間のお嬢さんとは珍しいの」
温和な声色のままライミィとステラの正体を言い当てるグラットン。それにはライミィ達は驚いたが
「私めは医者ですじゃ。ある程度なら見ただけで、魔力の流れだけで分かりますわい。にしてクラリッサ殿これからは?」
「今はこの魔方陣の繋がる先の様子見で来た為これから戻り皆と合流しようと」
「懸命ですな、ならばこれからは私めも同行致しましょう」
「あの、大丈夫なのですか?」
「心配ご無用じゃ。それに私め自分の状態を見るにアルフォンス様はより消耗してらっしゃる筈、今の私めでもアルフォンス様の回復のお役なら立てる筈ですじゃ」
そうしていると後ろの魔方陣が淡い光を湛え始める。どうやら時間のようでライミィ達はグラットンを連れ魔方陣を通りエリー達の元に戻り体勢を整えるのだった。
「ちょっと!どういうことよ!あの骸骨爺さん姿が消えた何て!?」
アングリフ城の城内では兵士からの報告を受け四天王のスティーナがヒステリックに叫び部下に当たっていた。
「そ、それが先程見回りの兵によると魔力反応が消えたことに不審に思い納屋を見たら鎖が斬られて忽然と消えていたようで…」
「骨だけに忽然って?アホなの!?いい加減にしないと掘るわよ!?」
苛立ちながらスティーナはグラットンを押し込んだ城から一番離れた裏庭の納屋まで兵士に案内させ向かう。部下の報告を鵜呑みにせず状況を自分の目で確認したかったからだ。道中苛立ってはいたもののずっと引っ掛かっていたことが
(それにしてもどういうこと?ラヴァナ様はあの拘束魔方陣は五神の神から貰ったと仰っていたわよね?いくら魔力が高くてもあの魔方陣は同じ神の力が干渉しなければどうしようもない筈だわ、現にあの吸血鬼は手も足も)
スティーナはそう思案していた時だった。
ドオオオオォォォォォォォォン!!!!
「!?」
突如響いた轟音にスティーナは我に返る。
「何事?!」
周りの兵士達が混乱するなかスティーナは冷静に状況を確認しようとした時魔族の兵士がスティーナに駆け寄り開口一番
「大変ですスティーナ様!鬼人族達が城の中に!」
「何ですって!?」
「ウラー!」
「「「「ypaaaaaaaaaa!!!」」」」
突如納屋が吹き飛ぶと濃い煙や砂ぼこりが立ち込める納屋の跡地からそぐわない可愛らしい声が聞こえた途端野太い雄叫びを上げて勢いよく飛び出して来た鬼人族の戦士達。近くにいた魔族の兵士を一人残らず斬り捨て
「裏切り者共に粛清を!我ら鬼人族を麾下とし受け入れ頂いた大恩あるアルフォンス様をお救いするのだ!!」
そう名乗りを上げ鬼人族達は剣は勿論槍や斧などの武器とその腕力で猛威を振るい城内の至るところで戦闘を起こしていた。
「よし、始まった始まった」
鬼人族達が起こした騒ぎに乗じてすり抜けるように駆け抜けるのはライミィ達7人だ。ライミィ達は皆隠密スキルを使って混乱し浮き足立った魔族達を置き去りにして裏庭を走る。
「ほっほっ、これはまたやりますのうライミィ殿。ダブルサイクロンとサンダーボルトを同時に詠唱して目眩ましと転送魔方陣の反応を隠すのを同時にこなすとは、やはりラミアは侮れませんな」
魔力を器用に操作してホバークラフトのように浮いてライミィ達のスピードに着いていくグラットンはライミィの魔法に感心し舌を巻いた。
「ありがとございます。ってか貴方はいいの?あっち行かなくて」
ライミィは最後尾に殿に着くように着いて来た鬼人族の青年に尋ねる。それは響介が見た着物に胸当てを装備し刀を携えてた鬼人族の中でも特に軽装だったあの青年
「はい。不足の事態に備え殿は必要かと」
「ありがと。ええと」
「俺はイリウスと申します。詳しい話しは後程」
「ネロー、どこいくの?」
治癒術師の杖にグラビティを掛けて浮いた杖に乗って移動するエリーは改めてネロに確認する。
「さっきの打ち合わせ通りだ。鬼人族達が全滅する前に城ん内に入ってそのままアルフォンス様がいる地下牢に一直線。爺さん、ハリエットも地下牢にいんだろ?」
「その筈じゃ。ハリエット殿はいると言うのは見回りの魔族が言っとったからのう。ハリエット殿は間違いなくいる筈じゃがそれ以外は分からん」
「ならば急ぎましょう。騒ぎが大きい今がチャンスです」
「おう、此方だ」
魔銃を抜いたネロが先頭を走り一行は地下牢へと目指す。途中自分達を捕捉した魔族兵を走りながらもネロが銃撃し仕留めライミィが弓矢で正確に射抜き7人は城内へ突入する。
先頭を走るネロの目は決意に満ちた目をして
「アルフォンス様…!今お助けします……!」