110話 開戦 アルフォンス軍対ラヴァナ軍
アルフォンス軍と響介一行、戦を始める。
「ヴーレ殿!拠点制圧完了致しました!!」
「直ぐに陣を敷け!後続に伝えろ!」
ランガや響介が転送される10分前の事、奇襲部隊としてヴーレ率いる人狼族達がラヴァナ軍がいるピュセル平野の拠点を強襲、突然の事態に拠点にいた魔族達は瞬く間に粛清されものの5分でヴーレ達は制圧した。
「ヴーレ殿!後続が到着します!」
乗っ取った拠点へルイナスから魔族達が順次転送される。転送された魔族達は到着するや否や
「許さんぞラヴァナ!その首掻っ切ってくれるわ!」
「ゴルザ殿に遅れるな!続け続け!!」
「我らも遅れを取るな!鬼人族の矜持を見せ奴らに天誅を下せ!」
今の今まで苦境に立たされていた魔族、鬼人族や戦鬼族と言った魔族達はラヴァナへ雪辱を晴らすため我先にと拠点を発ち城へと向かい戦いを仕掛ける。血気盛んな魔族達を見送っていると響介が転送されてきたのを見つけたヴーレが声を掛ける。
「来たか、キョウスケ」
「お待たせしましたヴーレさん」
ヴーレに挨拶を返し響介は周囲を見渡す。拠点とは言っていたものの屋根もない簡単な塀で囲っただけの殺風景な場所だ。ラヴァナに組する魔族の死体が至るところに転がっているのは別として
「流石のお手並みですね」
「この程度世話無い。ここの連中この地故に油断していたからな。そんな連中なぞ恐るるに足らん」
ヴーレの話しでは魔王アルフォンスの居城の周りは山や森に囲まれているのもあるが、かつて存在したアングリフ国の城下町を始めかつてあった街や村が遺跡となりダンジョンと化して今や天然の城壁となっているそうだ。が、しかしこのピュセル平野はそれらのダンジョンの内側に存在している事もありヴーレ達の事前調査でそのことに胡座をかき防御も手薄だったそうだ。
「だが、誘い込むには適している見方もある。しかしラヴァナの性格を考えてプリモ達を始め手練れを自分の手元に置きたいだろうからどちらとも言えん。油断はするな」
「成る程」
こっすい魔族だ。響介はふとそう感じたがヴーレの言葉も一理あると考える。しかしその間にも続々と戦士達が転送されては戦場へと発っていく。次々と戦いに行く魔族達を見ていると
「ランガ様だ!」
「ランガ様が来たぞ!」
「行くぞ者共!勝機は我らに有り!某に続くがいい!!」
「「「「おおおおぉぉぉ!!」」」」
ルイナスから転送された戦鬼族の大将ランガがこっちに来たと同時に多くの鬼人族や戦鬼族を引き連れて城へと向かって行った。最初出会った時の豪快さも去ることながらだが今のランガの目が異様にぎらついているのに気が付いた響介。
あの目は知っている。兄貴達や組員がカチコミの時していた目、戦いに餓えた目だ。敵を殺るのに覚悟を決めた決意の目だ。
そんなランガ率いる一団を見送ると響介はヴーレに地図を拡げ幾つかの質問をする。
「ヴーレさん。皆さんがここを出てから戦闘になるとどのあたりが戦場になりますか?」
「この辺りだ。最初に出たゴルザを始めとした戦鬼族の戦士達が戦っているならこの辺りの丘になるな」
「俺が進行するならこっちからですか?」
響介が指指したのは丁度ゴルザ達が戦っているであろう地点が丘から少し離れた西側の平地だ。ヴーレはそれを目で追うと
「そうだな、少し遠回りになるがそっちからなら敵の手を薄いだろうし、敵が居てもキョウスケが殲滅すればランガ達が横腹を突かれるリスクが下がる。こっちから進行してくれたら俺達として部隊の転送が終わり次第ここを放棄することを考えると時間的にも逆から攻める事が出来るから有難い」
「分かりました」
「魔王様!申し上げます!」
魔王城の玉座の間に一人の魔族の伝令が駆け込んでくる。そこには魔王ラヴァナが玉座に鎮座しその周りにはプリモ達四天王を始め多くの魔族達が控えていた。血相変えて駆け込んで来た魔族にリオレンは冷ややかな視線を飛ばしながら確認を取る。
「落ち着け、何事だ」
「ピュセル平野の拠点を落とされました!ランガ達が挙兵したようです!」
「何だと!」
玉座の間にいた魔族達が騒ぎ始める。しかし
「黙れっ!!」
プリモが一喝すると玉座の間は即座に凍り付いたように静まり返るとスティーナが口を開いた。
「ラヴァナ様、如何致しますか?」
ラヴァナは鋭い威圧を放ち暫し思案すると指示を出し始める。
「リオレン」
「はっ」
「各所に散った者共をテレポートで連れて来るよう部下に指揮を執れ」
「はっ!」
ラヴァナの命を聞きリオレンはテレポートを唱えると忽然と姿を消した。
「ウィクルよ」
「はっ」
「動かせる者を率い奴らを皆殺しにせよ」
「はっ!仰せのままに!!」
ウィクルは側にいた魔族に指示を飛ばし自身も剣を取り玉座の間を後にした。
「プリモ、スティーナよ」
「はっ」
「はぁ~い」
「城に賊が入り込みやもしれん、城内の警備を厳とし生きて返すな」
「はっ!」
「お任せくださいなぁ」
(さて、あれの摘出も終わった。我輩はあの力を試させてもらうとしよう)
ラヴァナは立ち上がり玉座の間から戦場を見やるとそのまま玉座の間を後にする。プリモ達も後にしようとした時だった。
「伝令!伝令!申し上げます!」
先ほど違う魔族の兵が玉座の間へ飛び込んできた。それを見たスティーナが面倒そうにし
「どうしたのよ?騒々しいわね」
「それが敵は現在3つに別れ進軍しており、それが」
「要点を言いなさい!」
「はっ!その中でも西の平野に展開していた魔獣を含む魔族兵3000余りが全滅し進軍スピードが異様に速く早急に西の平野に援軍をと要請が!」
「何っ…!」
「はぁ!?」
この伝令の言葉にプリモとスティーナは耳を疑う。自分達に手も足もでない木っ端魔族や魔獣の寄せ集めとはいえ明らかに異様だ。手が無いわけではない。高威力の魔法を放てば話しは分かるがそんな報告も上がっていないしもし放てばここからでもプリモ達は判別出来る。それに相手は鬼人族、戦鬼族、人狼族と魔法を得意としていない種族ばかりで魔法が得意で名のある者達は全てラヴァナが懐柔していたからその線もない。
つまり魔法を使わずに殲滅したことを意味している。
どうなっているの?と言わんばかりの表情を向けるスティーナに代わりプリモが伝令に口を開く
「相手は誰だ?」
「それが、報告によると相手は一人だったようで…」
「はぁ?一人ですって?」
「はい、それがどうも人間のようで…」
「人間?」
「おい、その人間の特徴は?」
「見慣れない服を身に纏った黒い髪で青い瞳をした男だと…」
「うーん。どうやらここいらが限度みたいだな」
魔族や魔獣が力なく倒れ正に死屍累々と化している平野で飄々と一人呟く今噂の黒髪の男、鴻上響介。響介は軽く体を動かすとステータスボードを開きある項目を確認する。
「この青い瞳の悪魔ってアビリティ、どうやらこの敵の対象数は1000が限度みたいだ。これ上限決まってたのか、初めて知ったな」
今更このアビリティの限度を知った響介。思い返してみても今の今まで多くてアルスでのスタンピード鎮圧の時で大体600前後、その時はライミィ達もいたのもあるがアビリティを気にもしていなかったのと体の感覚に頭打ちを感じる事がなかったからか上限はないかと思っていた。しかし
「にしても、ヴーレさん手薄だって言ってたけどわんさかいたぞ。まあ三下ばっかだったからいいけど」
この平野にいた全ての敵を仕留めた響介。やり方は実に簡単。青い瞳の悪魔の効果によって上昇したステータスの状態でデカイ功掌を作りハエ叩きの要領でべちんと地面とサンドイッチにし叩き潰した。プリモ達を始め城の魔族が気が付かなかったのはそれらの動作を一瞬で行ったからであり単純に見られなかっただけである。後は残った敵を殴る蹴るして一人残らず仕留めて一息付いていたということだった。響介は聴覚スキルを入れ
「…ゴルザさんやランガさんの方は優勢そうだな。ヴーレさん達も問題なさそうだ」
ここからでも聞こえる怒号と鍔迫り合いのような金属音に魔法が放たれる音、遠くから聞こえる戦闘音と狼のような雄叫びを聞いて状況を把握する響介。どうやらまだこちらが攻勢のようだ。
「今のうちにとっとと行きたいとこだけどそういうわけにもいかなさそうだ」
こっちに向かってくる数多の足音や羽が羽ばたく音を聞いて響介は構える。
「城から来たか、ん?」
自分とランガ達との間に変わった音がしたのに気が付いた響介は即座に距離を取る。何故なら
「転送魔法か、どうやら団体さんが来るようだ」
呟いた直後にテレポートで跳んで来た先程の魔族達とは非にならない数の人獣族を中心とした魔族達が現れる。
「この人間は…!?」
「この人間を殺せ!こいつがグリズリアを殺った人間だ!」
「俺が殺す!手柄は俺のものだ!」
「ふざけるな!こいつは俺の獲物だ!」
魔族達は響介を見るや否やぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。響介の推察通り相手にとって自分の首は手柄に直結するようだ。すると今度は背後から魔法を詠唱する声が聞こえた。
「おっと」
放たれたサンダーボルトをひらりと躱わし一瞥すると城から来たであろう増援が見えた。
「いたぞ!例の人間だ!」
「奴を殺せ!ラヴァナ様に逆らった愚か者を許すな!」
「人間が!身の程を教えてやる!」
「報いを受けろ人間!」
四方八方何処を向いても響介には殺意しか向けられていないこの状況、常人なら震え上がり命乞いをするだろう。しかし響介はふと犬面の人獣族を見て
「弱い犬程よく吠える。知ってるか?吠えてる犬は噛みつかないんだよ」
涼しい顔をしてこのセリフ、悪意敵意殺意を向けられるなんて響介にとっては日本では日常茶飯事、こんな状況でも恐怖もなければ諦念もない響介は威圧的で不敵な笑みを魔族達に向けると
「吠える暇あったら噛みつけよ。俺の首、取れるもんなら取ってみやがれ腰抜け共が。死にたい奴から掛かってこい」