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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第5章 魔族領へ ~ピアニストと囚われの魔王~
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108話 戦前 験担ぎと決意を抱く

響介とライミィ、いちゃつくpart2




 ルイナスの街は慌ただしかった。


「準備は出来ているか!」

「予定時刻には問題ないかと」

「物資も問題ないな!」

「方々に散っていた者達が共に持ち込んでいます!揃っているかと」

「スリガラ!貴様が確認してこい!」

「御意」

「ランガ様!東の拠点で籠城していた鬼人族(オーガ)達がルイナスへ入りました!」

「分かった。(それがし)が出迎えよう、案内してくれ」

「はっ!」


 ランガとヴーレが中心となり部下に指示を飛ばす。その堂が入り風格ある姿は指揮官と呼ぶに相応しい堂々たるもので指示を受けた彼らの部下達は皆キビキビと動いて戦の準備を急ぐ。そして響介は今何をしているかというと


「~♪」


 ピアノを弾いていた。

 殺伐としたアジトの一室から場違いなピアノの演奏が聞こえてくるが響介は気にせず気分良く弾いている。アルスを出国してから約一週間、今の今までピアノの弾くタイミングも無くずっと動いていた事もあり弾けなかったがライミィから


「キョウスケ、ピアノ弾かないの?」


 その言葉を聞いてもう一週間もピアノを弾いていないことに気が付き無性に弾きたくなりライミィ達からのリクエストもあり弾いている。今弾いている曲は連弾のようにテンポが良くリズミカルで聞いていて楽しい曲だ。


「はえ~」


 そんな響介の演奏を初めて聴くネロは口を開けて感嘆の声を漏らして聴いていた。


「ピアニストって異名通りだな、キョウスケこっちで食えるんじゃね?」


「元々キョウスケはピアノで食べてくつもりだったんだけどねぇ」


「そうだったんですね、ですが元々とは?」


「オウレオールで勇者ぶしのめしちゃってあの聖女に追われてるからね~」


 あの聖女とはアリシア・クラインのことである。セフィロトからの情報によるとあのアルスでの一件以降どうやら聖女は響介の事を目の敵にしているようで聖都の教会で「ピアニストを討つ」と大々的に公言したらしい。

 面子を守る為といえば聞こえはいいし理解は出来るが響介にとってはただの迷惑でしかなく、ライミィにとっては愛する響介に危害を加えることを公言しているアリシアに対してポツリと


「あの時殺しとけばよかった」


 と、無表情且つ淡々と発言していたのを聞いたネロは戦慄していた。

 しかし、その後セフィロトから買った情報からすると直ぐに手を打つというのはする必要性がなかった。何故なら


「今、向こうそれどころじゃない」

「そうですねエリー様。まさかこんなものが出回っているとは思いもしませんでした」


 ステラがおもむろに出したのは一部の記事、それはアルスの建国祭に起こった出来事を書いたもので一面にはドラゴンに立ち向かう響介達の写真が掲載されていた。この記事は人族国家に広く出回っているようで勿論オウレオールも例外ではなかった。

 その記事には建国祭の時に起こった襲撃事件の詳細が書かれており事件の犯人であるトリウス教の勇者ロン・ハーパーを聖女アリシアが庇うシーンも掲載されていることからオウレオール以外の国では五神教会に批判の声が上がっているそうだ。そして記事にはその五神教会もアルスから建国祭の損害賠償を請求される事を示唆されていた。

 セフィロトによると響介達がランベール卿に提供した有り余る証拠含めアルス側の証拠を元に莫大な賠償請求を起こした結果アルスの訴えが通ったそうで今後掲載されるだろう。

 これには教会の影響力を削ぎたいオウレオール王家の思惑が絡んでいるそうだが響介達にとってはただの対岸の火事であって大人達の醜い足の引っ張り合いなのは確か、そのおかげで五神教会は批判が集まっている状況で教会の象徴である聖女アリシアを国外に出す訳には行かなくなり「ピアニストの情報を集めるまで待って欲しい」というパスク教会の申し出を鵜呑みにしたアリシアは聖都の教会で軟禁状態になっているそうだ。他の教会の勇者達も活動自粛を命じられたらしい。


「まっ、聖女なんて気にしなくてもいいんじゃね?」

「そうですね、いくら聖女といえど限られた状態の中でここまで来るのは現実的ではありません」


 ネロの発言にクラリッサが続いた。と、いうのも人族国家と魔族領の境には凶悪な魔物が蔓延る要塞のような森ダンジョンがあるそうだ。そしてそれを超えてもいるのはオウレオールの友好国であるコンバーテと抗争している魔族達。

 ネロが言うにはそれを超えて初めてスタートラインなんだそうだ。魔族領はほとんどが手付かずであり至るところに未開のダンジョンがゴロゴロと存在しているそうで魔物含めそれらを超えるのにも苦労するらしくクラリッサ曰くレベルの目安としては30以上だそうだ。それを聞いたエリーが


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、なら、楽勝?」


「ああ、多分大丈夫だろうな」


 ネロが笑いながら答えるとふとピアノの演奏している響介に目をやる。


「てかキョウスケは準備しなくていいのかよ?」


 ネロの言葉が聞こえていないのか響介はピアノ演奏に集中していた。

 そう、魔王アルフォンスを救出する戦いは今日でもう決行まで12時間を切っているこの状況でネロは暢気にピアノを弾いている響介に疑問を持っていた。そしてやっと手を止めたと思いきや別の曲を演奏し始める響介。今度の曲は高音はダダダッと連弾のように退きながらも低音が良く響いている曲、そして何よりも先ほどのように楽しそうな曲とは打って変わってまるで何処か物々しい曲だった。


「お兄ちゃん、準備、してるよ」


「へ?」


「キョウスケ様が住んでいた国は昔、幾つもの国に別れて戦っていた「センゴクジダイ」と呼ばれた時代があったそうです」


「でね、「ブショー」って呼ばれてた中でキョウスケが好きな「ブショー」ってのが大きな戦いの前に楽器を演奏して「ワカ」ってのを歌ってたって言ってたよ」


「ブショー?」


「国の一番偉い人ってキョウスケ言ってたから王様みたいな人じゃないかな?実際そのキョウスケが好きな「ブショー」ってのは10倍以上の戦力差をひっくり返して勝ったらしくてキョウスケはそれに因んで「験担ぎする」って言ってたよ」


 そうライミィ達が話す中響介は聞き耳を立てながらも手を止めること無く演奏を続ける。曲は物々しいながらも聞いていて一種の『決意』が感じられるような曲だ。


 験担ぎ。この世界では馴染みのないようで疑問を持たれたがそこは文化の違いということで響介は割り切る事にしている。響介の好きな武将、戦力差をひっくり返して勝利したことや寺院の焼き討ちなど後の歴史に伝えられる事をしている人物で一言で言うなれば短気だと色々な書物には伝えられているがそれとは別で忍耐強く大胆不敵だったとも伝えられている。今回の戦い、間違いなく自分達の今後を左右する戦いだからこそ響介は心から覚悟を決める必要があると思い好きな武将に肖り験担ぎとしてピアノを弾いている。

 ふと響介は弾きながら以前ランベール卿から言われた言葉『君には力がある』という言葉を思い出した。


(力か、何だかつくづく縁があるな)


 力と聞いて思い出したのはこの世界に来た時の事でラミアの隠れ集落にいた時の事、占い師ビオラに試しに占ってみたいと言われ占ってもらった時も出たのは『力の正位置』だった。


(…俺の力か)


 自分にどんな力があるかなんてのは分からない。だが今の自分に占いのタロットのように何らかの役割があることは分かる。

 人には何らかの役割がある。それは組織に組みしていれば顕著だが響介はこの世界から見れば何処にも属していないイレギュラーな存在。


 良く言えば孤高

 悪く言えば異物


 特にあの五神教会や聖女達からすれば響介は排斥対象のラミアやダークエルフを超える異端者だろう。

 だからこそ響介は自身の役割を理解している。それはアルスで聖女に言った言葉そのまま「弱い者虐めに大義名分掲げてる奴の天敵」

 そう、正に今の状況だ。ラヴァナは大陸支配という大義名分を掲げてこの戦いを起こした。で在るから響介はその大義名分に巻き込まれて傷付こうとしている者達を助ける為に決意を抱き戦う事を選ぶ、その選択になんら迷いはない。

 最後の一小節の弾き終わると響介がピアノを懐中時計にしまうのを見たライミィは


「よーし!じゃ行こっか」


 パンッと手を叩きみんなに呼び掛ける。

 響介達の決意は決まっている、全員で戦い抜き勝つ覚悟を。






 誰もが神すら想像していない、この戦いが大陸全土否この星の歴史が大きく変える事になることを、そして魔族達は目の当たりにすることになる。伝承の再来を



更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした…

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