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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第5章 魔族領へ ~ピアニストと囚われの魔王~
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107話 釈明 経緯の説明

ラミア達、異変を感じる。




 ランガ達から今後の計画を知らされた一行、しかし


「落ち着けライミィ!キョウスケ息してねぇ!」

「お姉ちゃん、やりすぎ」


 全貌を知った涙目のライミィが大蛇の体を使い響介の胴体部分を、そしてコブラクラッチで首を絞め上げた事で響介は体内の酸素が枯渇し失神した。グリズリアを一撃で蹴り殺しレオエッジを一方的にぶちのめし魔族達から恐れられていた響介は今ピクリとも動かず項垂れており


「ちょっと家族会議しまーす」


 ぷんぷんと怒ったライミィに運ばれて行くのを見てランガ達は呆然とする。エリーとステラも最初こそライミィと一緒に詰め寄っていたがあの絞め上げには焦って止めに入り今も慌てて後を追って行った。

 まるで嵐が去ったように静まりかえる会議室でまた取り残されたネロが


「…取り敢えず、キョウスケの言い分聞いて来るわ」


 だけ残してライミィ達の後を追い部屋を後にした。その一連の光景を見たクラリッサが


「これが愛が故のいざこざですか…」


 どこか嬉しそうな発言を溢してネロについていった。






「う、ううん…」


 どのくらい寝ていたのだろう?

 響介は目を覚ました。いうか何で寝ていたのだろう?と思った響介は目を覚まして最初に気付いたのは体中の生暖かい感触だ。確認しようと体を起こすと


「あっ、キョウスケ起きた」


 不意にガバッと抱き着かれる。抱き着いた人物は言うまでもなく


「ライミィ」


 ライミィだった。大蛇の体を存分に使い巻き付いて背中に回されてぎゅっとする両手も自慢の天然グレネードを惜しげもなく押し当てて抱き着くのは何時もの事だ。

 しかし抱き着いていたライミィはふと響介の顔をじーと不機嫌そうに見ながら


「キョウスケ」


「はい」


「私は怒ってます」


「はい」


「何で私が怒ってるか分かりますか?」


「ライミィ達になんの相談もなく勝手に決めたこと、か?」


「ばか!」


「!?」


「私が怒ってるのはそんな事じゃない!キョウスケが自分を大切にしてないから怒ってるの!」


 面と向かって響介を叱るライミィ。その表情は確かに怒っている。しかしそれはいつぞやの聖女達のような怒り一色ではなく何処か悔しそうな色を滲ませていた。


「キョウスケは何時もそう!何時も自分蔑ろにしてばっか!」


「ただ俺は自分の事を二の次に考えてるだけで」


「だからそれが蔑ろにしてるって言ってるの!キョウスケはいいかも知れないけど私はいやなの!」


「え…?」


 ライミィの言葉に響介は戸惑う事しか出来ない。


「私は、キョウスケが私達に傷付けないようにしてるみたいに私はキョウスケに傷付いて欲しくないの!だってキョウスケいつもいつも自分はどうなっても気にしないし、それにランガさんの作戦ってのでも絶対無茶するでしょ!」


 図星だった響介。その様子をライミィは見逃さない。しかし響介もいたいところを言われて申し訳なくしてしまうのを見て先ほどまでヒートアップしていたライミィは徐々に落ち着いていき


「でも、キョウスケの反応を見るにランガさん達のあの作戦は大体がキョウスケが考えてそのままなんだろうと思うしキョウスケも思う所はあると思う」


「……」


 ライミィの話を黙って聞く響介。


「言いたいこといっぱいあるよ?でも、だから、これだけ言わせて」


「?」


 ここで響介の背中に回してる手をぎゅっと力を入れ巻き付く体にも力を入れライミィは


「もしキョウスケが死んだら私は追いかけてもっかい殺すからね」


 突拍子もない言葉に面食らう響介。真っ正面から向き合うライミィの紫色の瞳は涙で潤んでいたが完全に目が据わっており冗談で言っていないどころか覚悟を決めているのが響介でも分かる。


「ああ、分かった」


「ならオッケー♪」


 満足のいく返事だったからかライミィは嬉しそうに響介に抱き着く、スリスリと身体を絡ませて抱き着き一種の告白とも取れる事を言ったライミィを愛しく感じ押し倒したい衝動が沸き上がるがそこは響介、何時も以上に理性が本能をマウントポジションから鬼の形相でぶん殴っている。


「キョウスケも知ってると思うけどラミアって一途で義理堅いんだから。私は筋金入りだけどねー」


 あははと明るく笑うライミィを見て


「もうおちおち死ねないな。俺」


「当たり前でしょ?私を残して死にたいの?」


「あるわけないだろ、愛する女を残して死ねるか」


「うふふ、ありがと♪」


 そうするとライミィは響介の首の後ろに手を回して抱き着き直すとお互い見つめ合う。暫し見つめ合うと示し合わせたかのように口付けを交わす。すると


「お姉ちゃん、終わった?」

「失礼しま」


 ガチャと扉が空きエリーとステラが入って来たが響介達は気付いていない。2人を見てエリーとステラは固まった。そこへ


「おい、二人共なんでそこで突っ立てるんだ?」

「どうしましたか?」


 今度はネロとクラリッサが入って来てしまう。エリー達が微動だにせず立っていたのが気になり中を見て


「へ?」


 気の抜けた声が出たネロはエリー達同様呆然と見ていたがこれでも響介達は気付かず口付けを交わしたまま、それを見て


「エンダァァァァァァァァ!!!」


「「!」」


 目の前の光景を見たクラリッサが歓喜の余り大声を上げた事でようやく響介とライミィは状況に気が付き二人揃って目を点にさせる。響介とライミィが見たのは頬を赤らめて凝視している3人と興奮故か照れたようにガシャガシャと音を立てて体をくねらせるクラリッサ


「素晴らしい!これが種族を越えた愛なんですね!ああ、お二人の愛し合う美しいお姿はなんて素晴らしいのでしょう!饒舌尽くせないとはこの事ですわ!!」


「クラリッサ、お前な…」


 またこの発作かと言わんばかりに突っ込みを入れるネロの横ではエリーとステラは


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、仲良し」

「我が主様達の仲睦まじい光景を見るのは従者としても幸福でございます」


 すっかり慣れているようでこの反応。慣れというものは時として怖いものである。


「「あ、あははははは」」 


 顔を真っ赤にし目もぐるぐるさせて揃ってあははとしか笑わなくなった響介とライミィ。部屋の中は混沌(カオス)と化したがネロは何とか収拾させることに成功し10分後


「「申し訳ありませんでした」」


 まだ顔を赤くはしていたもののすっかり落ち着いた響介とライミィから謝罪が入る。しかし


「眼福ー」

「眼福でございました」

「眼福です。ご馳走さまでした」


「混ぜっ返すな!こいつらまたあははしか言わなくなるぞ!!」


 満足したと言わんばかりの表情を浮かべる3人にすかさず突っ込みを入れる横でまた顔を赤くする響介とライミィ。本題忘れてイチャついていたとは思っていなかったネロはキレ口調で突っ込む。


「それよかキョウスケの申し開きはどうしたんだよ!どうせまだやってねぇだろ!」


「流石ネロだな。そこまで分かってるか」


「あの状況みたら分かんだろーがこのバカップル!」


「「いやぁそれほどでも」」


「誉めてねぇよ!どいつもこいつも隙あらば好き放題ボケ散らかしやがってよぉ!いい加減申し開き始めろキョウスケ!」


「分かった。今回どうして俺があの提案をしたのか説明させて欲しい」


 ライミィ達が静かに頷いたのを見て響介は説明を始めた。


「まず一つ目、俺が悪目立ちし過ぎた」


「悪目立ち?」


「悪い意味で目立つ事だよエリー。ウィクル達も目を付けているだろうけど奴らに対しての宣戦布告もあって嫌でも俺をマークしてくるだろうな」


「ああ、あれな。あれは中々迫力あったな」


「それを考えて俺が真っ正面から戦えば向こうの魔族がいくらか釣れると思うんだ」


「要は囮、と言うことでしょうか?」


「向こうからすれば俺の首は名を挙げるチャンス、十闘将が全滅した今自分の名を売り魔王に近づくまたとない機会だからな。二つ目、俺が悪目立ちした事でライミィ達3人が上手い具合に実力を隠す事が出来た」


「実力を、隠す?」


 どういう意味か分からずクラリッサは首を傾げた。


「ネロはともかくライミィ達に確認しときたい、十闘将との戦いの時奴らの部下はどうした?」


 響介のこの質問にライミィ達は力同然と


「全員殺したよー」

「みんな、やっつけた」

「全て切り捨てました」


「コイツらの殺意がヤバい」


「だと思ったよ。ちなみに俺は逃げた奴らは見逃した。これはどういうことか?そいつらの報告を聞いて奴らは俺を優先的に警戒するだろう。だがライミィ達に関しては目撃者が多分もうこの世にいないため調べようがないだろうし一番はリオレンだ」


「リオレン?リオレンって確か」

「あの、加齢臭臭い、おばちゃん」


「エリーはそうやって覚えてんのかよ、まあ確かにアイツ150歳位だけどよ」


「ステラと出会う前の事を2人は覚えてるか?」


「うん。キョウスケがカッコよく蹴り一発であの変態蹴り飛ばした時でしょ?」


「変態…?」


「ウィクルの事だよクラリッサ」


「その時は2人はどうしてた?」


「えっとー、キョウスケが私達を守ってくれて私達は特に」

「うん」


「そう、ライミィとエリーは手を出していない。それに奴も言っていたろう『守られている女のクセに』ってな」


 それに対してネロが何処か合点がいったように口を挟んだ


「成程、ならライミィ達はノーマークで見ていいな」


「そうなの?ネロ」


「ああ、アイツ無駄にプライド高くてさ、それに先入観強いんだ。それを考えれば情報の少なさからキョウスケ優先になるな」


「情報の少なさは勿論だがアルフォンス救出の為にはライミィ達の力が必要になるからこそこう提案したんだよ。三つ目、これは」


「?」


 響介は少し間をおいて咳払いをして続きを話す


「面子の為だ」


「「「「「面子?」」」」」


「ああ、それは俺達の面子じゃない。ランガさんヴーレさん、クラリッサさん、勿論ネロも、魔王アルフォンスの救出せんと戦う魔族達全員の面子の為だ」


「あの、どういうことでしょうか?」


「俺達4人はあくまでも今回は協力者、本来はこの戦いに関わる事がない要は余所者だ。そんなポッと出の余所者に出番や戦いを取られたとなれば今まで戦っていた魔族達の面子に関わる」


 その言葉を聞いてネロは思い出した。ここまで響介は提案や頼みこそしていたものの命令や我を通すことは一切していない。最後の決断はいつも自分達で響介は常に委ねていた。


「プライド、面子、体面、矜持、言い方は色々あるが言うなれば彼らには誇りがふさわしいな。誇りってものは『力』だ」


「力?」


「誇りは力になる。その力は活力となり自身を突き動かす力になるんだ」


『誇りは力になる』


 これも祖父の教えの一つだ。昔からの売り言葉買い言葉で誇りや理想じゃ腹は膨れないなんてのがある。

確かにそうだ、腹は膨れない。

だが自身を突き動かす原動力となり気力となり前へ進む力になると祖父から教わった。


「ランガさん達もヴーレさん達もクラリッサさんは魔王アルフォンスに対する忠義に、その誇りの為に戦う面子は侵害してはいけません。それには種族は関係ありませんから。だから俺は最終的なところは皆さんに委ねました」


 それを聞いたクラリッサは響介という人間の人となりが朧気ながら分かった気がした。

 それはまるで主である魔王アルフォンスのような気高い精神のようなものを感じたからだ。そう思っていると


「成る程ね~、そういう事なら納得かなぁ」


「納得なのか」


「まーねー、確かにキョウスケは私達ラミアの矜持とかもしっかり理解してくれてるからね。それに他の説明もその通りだから納得したってこと」


「エリーも」


「私も、遣える主の為に尽くす事は何も間違ってはいません」


 その後も少し家族会議をした後に改めて作戦を確認した響介一行。


 決行は2日後の夕刻、襲撃の基本的な時間帯である夜になる前と意表を突く時間だ。




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