105話 遺跡2 隠し通路の実態
響介達、作戦を立てる
ヴーレ達からの情報を頼りに例の隠し通路がある遺跡へとやって来た響介達。既にヴーレの部下達が先行しているおかげもありエリーのテレポートで直ぐにたどり着いた。人狼族が転送してきた響介達に気が付くと
「これはキョウスケ殿」
皆一斉に右手に握り拳を作り左手をピンと揃えて両手を合わせ頭を30度程下げる武道か何かのような挨拶を響介達にしてきた。例えるなら空手とかの試合前の礼だろうかと思い響介も人狼族達に対して同じ礼を返した。どよめき始める人狼族に頭にはてなを浮かべるライミィ達だったがネロが
「いや、キョウスケはしなくて良いんだよ」
「ん?何でだ?」
「人狼族達のその挨拶は敬意を払うべき相手にする最上位の挨拶なんだ」
ネロがそう説明すると響介は納得
「なら尚更必要だな」
「だね~」
「は?」
話しを聞いていたライミィとエリーとステラも響介に習いその最上位の礼をすると人狼族達はその光景を見てざわめく
「お、おい、みんなやるのか?」
「コウガミ家、家訓その2『礼を重んじ礼と筋を通せ』ですよネロ」
「れ、礼を?ってどういう意味だ?」
『礼を重んじ礼と筋を通せ』
これも祖父の教えである。現役の任侠者でもあり合気道の師範の顔を持つ祖父は誰に対しても礼節を重んじる人物だった。(但し外道や敵にはドス)
礼に始まり礼に終わる。礼儀を以て相手に接し礼儀を尽くす。今も大切にしている教えである。元の世界では響介は組長の孫という立場だったがやって貰うことして貰うことを当然だと思っていない、家族とも言えた組員達にはいつも感謝の念を忘れずに接していた響介は組員達から大変気に入られていた。
「成る程、その考え方は騎士の矜持に通ずる所がありますね」
響介の説明を聞いて関心を示すクラリッサと人狼族達。闘うということに重きを置いている人狼族達にも理解を得られたようだ。
「俺、またおいてけぼりなんだが…」
「ネロ、要は、偉いからって、ふんぞり返っちゃ、駄目って事、だよ」
「あー、成程分かりやすいな。要はアルフォンス様みたいにメリハリって事か」
エリーの説明で意味を理解したネロ。ネロの発言も言い得て妙ではある。しかし本題はそこではない、ライミィはパンと手を叩き
「みんな納得したようだし、本題に入ろっか」
その場にいる者全員に聞こえるように話す。良く通るライミィの声は大声を出さなくても全員に聞こえたようだ。
「そうだな。すいませんが隠し通路が見つかったと報告を受けましたがどちらに」
「はっ、こちらです」
響介達を案内したのは弓を携えた人狼族の弓兵らしき男。弓兵が先導し響介達は遺跡を少し歩いたところで
「徘徊していたアンデットは粗方始末しましたがまだ沸いてくる可能性がありますので気を付けてください」
先を歩く弓兵から注意が、その弓兵の言葉にエリーが首を傾げる。
「粗方?全部じゃ、ないの?」
「ええ、遺跡全てのアンデットを片付けてしまうとラヴァナ達に動向を勘づかれる可能性がありそれを考慮して最小限に留めろとヴーレ様から命を受けています」
「成る程ね~、私でもそう言うよ」
こう関心しながら漏らしたライミィに響介は思わず頷く
ライミィの巧い所はリスク管理だ。長年種族で隠れ住む生活をしてきたライミィ達ラミアは身の安全確保の為のリスク管理が徹底している。この世界の人間にとっては卑怯と言われることもあるが響介にとっては祖父の組では当たり前に行われていたことなので気にもしていないし響介もラミア達から上手と言われていたが自分以上に巧み行うライミィに敬意を払っている。そう思いながら
「前方左方向、距離おおよそ100、3体徘徊」
「熱的にスケルトン、こっち気づいてないね」
「スルー安定だな」
「オッケー」
まるで当たり前のように周囲の警戒を怠らない響介とライミィ、これを目の当たりにしたネロ達は
「…なんだこいつら?」
「一切の無駄がありません…」
「我らでもここまでは…」
三者三様関心していた。ちなみにエリーとステラは響介が言ったスルー安定という言葉に反応して特に行動は起こさなかったのを見たネロは
「エリーとステラはいいのか?」
「うん。お兄ちゃんの、スルー安定は、エリー達はしなくていいって、意味」
「キョウスケ様のスルー安定はエリー様の匂い判断、私の目視確認不要の合図ですから」
こっちにもネロは関心しながら一行は先へと進む、アンデットに警戒しながら暫く歩くと見えて来たのは半分程崩れた屋敷のような建物。全盛期はさぞ立派な物だったろうが今では見る影もない。
栄枯盛衰、一栄一落と言ったところだろうと響介は感じるところがあったが今は胸中に留めた。一行は弓兵に案内され中へ進み地下への階段を降りる。地下には灯りがなかったがこの場にいる者全員暗視能力を持っている為そのまま進む、長い回廊のような一本道を進むと突き当たりと思わしき前に幾人かの人狼族がたむろしているのを見つけた。
「スリガラ殿、キョウスケ殿達をお連れしました」
「うむ、ご苦労」
弓兵がスリガラなる人物を呼ぶと出てきたのは人間でいうなれば壮年に当たるだろう。ヴーレとはまた変わった風格を持ち大柄で戦斧を背負う隻眼の戦士だ。響介は
「できる…」
直感で感じた。常に戦場に身を置いてきたような空気を纏う目の前の人狼族は響介を一目見ると
「ヴーレ殿が言っていたのは本当のようだな」
一言そう言うと外にいた人狼族達のように自身達の最上位の挨拶を響介達にする。
「俺はスリガラ。ヴーレ殿の部下だ。ここまでのご足労感謝する」
「ご丁寧ありがとうございます。俺は鴻上響介。キョウスケで構いません」
スリガラに対して同じ作法の挨拶で返す響介達。響介達の対応に驚きはしたがスリガラは本題へ入る。
「こいつが例のだ」
スリガラが壁に親指をクイッとするのに響介達は首を傾げる。差している壁は相応に年季が入った汚れだらけで一見よく分からない、しかしクラリッサは何かに気づいたようでおもむろに壁を触って確認すると
「成程、キョウスケさんどうやらこの壁いっぱいに魔方陣を書いているようです」
「壁に、ですか?」
響介達は驚きこそしたものの直ぐに怪訝な表情へと変わる。どういう事かと考えていると
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、いい?」
エリーが何か気が付いたようでその魔方陣の前に、そこでエリーはおもむろに魔力を練ると
「お」
「おお~」
「成る程」
「「「!」」」
エリーが魔力を込めると魔方陣は淡い光を讃えて光出す。
「何故だ?我らが魔力を込めても反応はなかった筈…」
スリガラは顎に手を当てて考え始める。そこにエリーが
「空間魔法の、魔力、込めてみたの、光ったー」
どうやらエリーは魔力といっても空間魔法の魔力を魔方陣に込めたようだ。それを聞いて響介は納得する。隠し通路は空間魔法の魔力を込めることで魔方陣を起動させて対になっている魔方陣へと転送するものだと
「リターン、掛けとこー」
「そうなるとやっぱり入るのにはエリーはいなきゃ駄目だな。エリーが入れば行き帰りは大丈夫だろ。帰ろうぜ」
ネロの言葉で響介一行とスリガラ達は遺跡から撤収し遺跡を後にした。そしてルイナスへ戻った一行はランガとヴーレから魔王アルフォンスの救出についての作戦を伝えられた時
「ちょっとキョウスケ!どういう事!?」
「お兄ちゃん、なんで?」
「キョウスケ様!私に納得の行く説明を!!」
響介の案をまんま採用したランガ達の作戦を聞いたライミィ達が響介に激しく詰め寄るのだった。