104話 作戦立案 世界は違えど考えるのは皆同じ
響介一行、楽しいご飯
アジトへと戻った響介一行、中には種族問わず様々な魔族がいるが皆響介達を見るとこぞって行く道を空ける。だれも響介達を奇異の目で見る者はおらずむしろたった5人で十闘将を壊滅させた響介達に対して戦鬼族を始め敬意の念を向けている者もいる。その響介達はランガとヴーレがいる部屋へと入る。
「失礼します」
「む、キョウスケか」
「おお、キョウスケよ。どうしたのだ?」
「…?ネロはどうしたんだ?寝ているのか?」
響介が背負っている寝ているネロを見て首を傾げるヴーレ
「ええ、少々騒いだので、エリーすまないがネロにクリアを頼む」
「はーい」
エリーはクリアを詠唱すると「ううん…」と唸りながら目を覚ますネロは
「あれっ?ここは…?」
「アジトだ」
アジトと聞いてネロははっと何かに気が付くと捲し立てるように響介の背中に乗ったまま大声を出した。
「ってそうだ!!キョウスケ良いのかよ!?」
「耳元で騒ぐな、暴れるな、良いのかよって何がだ?」
「セフィロトだよ!こっちの足元を見てあんな金額ぼったくりやがって!」
「ぼったくりなんかじゃねえよ」
「は?いやいやいやありゃ…」
「取り敢えず降ろすぞ」
背負っていたネロをひとまず降ろしイマイチ納得がいかないネロを響介は説明を始める。
「まずなネロ、情報というのは価値が変動するもんだ。変動する理由としては人によりその情報の重要性が違うからだ」
「情報の重要性?」
「そうだ。ネロが文句を言っていた魔王アルフォンスの今置かれているこの現状の情報だが俺とネロとではこの重みが違う」
「は?」
「ネロは足元見てるかのように捉えられたと思っているが俺にとってはかなり破格だったんだよ」
「破格…?金貨5000枚でか!?」
「ああ、まず一つネロが場所を聞いただけで理解したこと、二つこの写真からして魔王アルフォンスがどういう状態か分かったこと、渡された写真の裏に書かれていたことだが『全ての魔力が奪われるまで後一月』だそうだ」
「後一月……!」
「そして三つ、この魔方陣がセフィロトでも分からないこと」
「いやそれが重要だろう!?それがわかんなきゃ…」
「あっ」
ネロが響介に食って掛かろうとした時、写真を見ていたステラが声を上げた。
「どうしたの、ステラお姉ちゃん?」
「この魔方陣、あの時見たのに似てますね」
「あの時?」
「アルスでキョウスケ様とライミィ様に攻撃してきたオウレオールの神官やトリウス神が魔法で攻撃した時に良く似た魔方陣が浮かんだんです。それに良く似てます」
「いや、ほぼほぼおんなじだよ」
「お姉ちゃん?」
「ステラに言われて気がついたけど細部は違うけどほぼおんなじだよ。魔方陣ってのは本来魔力を増幅させる為にあるから私もいろいろ調べたけど本来こんなに複雑じゃないの、だから神聖魔法の魔方陣見たときすごい印象的だったんだよね~」
と、ライミィ達が話しているのを聞いていたネロは勿論周りの魔族達も唖然とする。
「情報屋であるセフィロトが分からない。と言うことはこの世界に知れ渡っている魔法ではないということになり後は消去法で詰められる。俺も気になってセフィロト構成員に他の魔方陣の詳細を聞いたからこそこれは神聖魔法だと消去法で詰められた。で」
ここからが本題だと思う。だからこそ響介は一歩出て皆に向き合い
「こっちには神聖魔法を無効化することが出来る手段がある」
神聖魔法の無効化。その方法を明かした後に俺はランガさんに主だった者を集めて貰いランガさん達が集めた情報と共有、作戦を立てる事になった。それに携わったのは俺、ネロ、ヴーレさん、クラリッサさんの4人。ランガさんは辞退した。と言うのも
「某は下の者達を宥めよう。今さらキョウスケ達の事をとやかく言うものは我ら戦鬼族や鬼人族にはいまいが万が一ということもある。不満を聞く者も必要だろう」
自ら損な役目を買って下さった事に感謝しかない。どんな世界でもぽっと出の奴が好き勝手しているのを面白くないと思う者もいる。どの世界にも血気盛んな奴はいるはずだ。
うちの組もそうだった。よく京町さんが武闘派組員達のストッパーになって言い聞かせていたのを思い出す。
ランガさんも自分の手で同胞の仇を取れなかった事は悔しいと思う。少なくとも俺がランガさんの立場ならめちゃくちゃ悔しい。だからこそこの大切な局面俺を信じてくれたんだと思う。
ラヴァナ達がいる居城周辺の地図をテーブルに拡げ作戦を立てる。
「キョウスケ達が言っていた神聖魔法の無効化、試してみる価値はあるだろう」
ヴーレさんが静かに口にする。あくまでも現時点俺の憶測ではあるがセフィロトの情報からするとアルフォンスはそう猶予はないだろう。だからぶっつけ本番だ。
「じゃあどうする?エリーの空間魔法で一気に乗り込むか?」
「いや、それをしたら相手にバレない事を前提で進めないといけなくなる。リスクが高いし退路を断たれたら終わりだ」
「俺も同意見だ」
「私も」
相手の中枢に入り込むんだ。行って終わりじゃない。講じられる手段は打っておきたいと進言するとそれにヴーレさんやクラリッサさんも同意してくれた。そんな様子にネロは文句をブーブーと言いながら
「じゃあなんか良い案あるのかよキョウスケ?」
「クラリッサさんの返答次第ではある」
「あるの!?」
「なに?」
「私の返答、ですか?」
そうすると俺はおもむろにセフィロトから買った魔王ラヴァナの居城である元アングリフ城の図面と見取り図をテーブルに拡げるとある部分を指差す
「ここです。クラリッサさん何か分かりますか?」
セフィロトから買った地図は500年前の物ではあるが俺が注目したのは裏庭に当たる開けた場所。何やら文字が書かれていたであろう痕跡があり読める文字を拾って読むと確かに『道』と読めたことに俺は気が付いた。クラリッサさんはそこを見ると暫し考えた後でハッとしたように兜を上げ
「思い出しました!ここにあるのは王族及び要人脱出用の抜け道です!」
良かった。アングリフ城と聞いてもしかしたらと思っていたのが当たった。生前のクラリッサさんはその国の騎士、要人脱出用の逃走経路の事を存じ上げているとは重畳だ。
「何!?そんなものが存在していたのか!?」
「ええ、王国時代にもしもの時の逃げ道がいくつも有りましてこの裏庭の道もその一つ」
「一つ?いくつもあるのかクラリッサ?」
「はい、この裏庭とあとは地下牢にもありまして二つ共国内の街に繋がる道があった筈です」
「狡兎三窟」
「こ、こう?なんだってキョウスケ」
「狡兎三窟。ズル賢い兎はいくつもの逃げ道を用意しているって意味だ」
何時の世も、どんな世界だろうとみんな考える事は同じだ。もしもの時の備えなんてのは当たり前にある。じっちゃんも
『三十六計逃げるに如かず、という言葉を覚えておくんじゃ響介。この渡世は勿論じゃが時にそれが肝になるときがあるんじゃ』
はい。身に染みてます。この世界に来て甚だ実感しています。ありがとうじっちゃん。
「クラリッサ、詳しい場所を教えてくれ。俺の部下に捜索させる」
「場所ですか、場所は確かこのルイナスから半日歩いた所の遺跡になっている街にあった筈、目印はアングリフ王家の紋様があったかと思いますが申し訳ありません。詳しい場所までは…」
「いやそれだけ分かればいいだろう。王家の紋様は?」
「こちらです」
クラリッサさんが鎧から取り出して俺達に見せてくれたのは簡素な魔方陣の中で剣が交差した紋様。これをまじまじとみたヴーレさんは一度頷き
「分かった、直ぐに調べさせる」
ヴーレさんは部下の人狼族を呼び直ぐに指示を出すとその人狼族は直ぐに出ていった。
「セフィロトに向かわせた。直に戻るだろう」
「ま、情報ならあそこが確実だな」
一先ずの手段は確保出来そうだ。だがさっきも言ったように潜入して終わりじゃない。だから俺は進言する。
「城に潜入するのは俺の中ではネロ、クラリッサさん、ライミィ、エリー、ステラは確定。あとは城内を熟知している方が入ればその方達も」
「えっ?キョウスケは?」
「俺か?」
俺は咳払いを一つすると地図のある部分を指差してはっきりと提案する。
「ランガさん、ヴーレさんを始めとした戦闘部隊に混ぜてもらって城と目と鼻の先のこの辺りで派手にドンパチさせて貰いたいと思ってます」
「「「は!?」」」
そりぁ驚くだろうな、だから俺はしっかりと3人に説明する。
「まず今回の俺の提案は陽動と潜入で別れること。城の目と鼻の先で派手に戦闘する事で敵の注意を向けてその間に魔王アルフォンスを始め囚われている連中の救出、その時の状況次第で継戦か撤退を決めたらと」
「いや継戦になるな」
「ヴーレさん?」
「大規模にやるなら部下達や戦鬼族達が襲撃の弔い合戦と息巻くだろう、そうなれば止められん。それに」
「それに?」
「我らの心願は主であるアルフォンス様の救出と裏切った者達の粛清。それ故奴らと戦うなら不退転だ」
まるで、怒りを抑えるかのように語るヴーレさん。
そうか、みんな悔しいのか。なら俺の選択は
「ヴーレさん、今から皆さんの部下を全て集めるのにどの位かかりますか?」
俺の質問にヴーレさんはニヤリと笑い
「1日は掛からん」
待ってましたと言わんばかりに不敵に笑うヴーレさん。どうやらヴーレさん自身戦いたいようだ。そうしているとクラリッサさんが声を上げた。
「潜入するならキョウスケさんが言った私含めた5人の方がいいでしょう」
「クラリッサ?」
「どういう事でしょうか?」
「ラヴァナの事です。恐らく囚われている者達は生きている筈、なら」
「成程!ハリエット達だな!」
ネロの言葉にクラリッサさんは頷く
「はい、ハリエット団長やアレッシア姉様達亡霊騎士団の皆を解放出来れば相当な戦力になる筈、実際に団長達はアルフォンス様を囚われた事で皆抵抗せずに囚われの道を選んでいます。それに恐らくラヴァナの事ですからアルフォンス様から奪う操霊魔法の実験台にする腹積もりなら尚更皆生きている可能性が高いと思われます」
こうして計画を練り話しを進めると先程のヴーレさんの部下が直ぐに隠し通路の情報を無事に入手したとの情報が入り、俺達はその遺跡へと向かうのだった。