103話 接触3 魔王アルフォンス救出の算段
響介一行、魔王ラヴァナの目的を知る。
「Jの運命の輪」
「Kの正義」
「この度はセフィロトのご利用ありがとうございます」
ルイナスの場末にある飲食店。ネロが「ここのカルトッフェルンと肉の腸詰めが美味い」と言っていたのでついて行き魔族の店員に対応したネロ含め6人は奥の部屋へ通された。対応の時聞き耳を立てていた響介はここがセフィロト関係の店と分かった。そもそもネロはセフィロトからプトレマイオス遺跡の情報を買ったと言っていたことからセフィロトとの接触方法を知っていても不思議ではない。
「おやおやおや、今日は話題の勇者殺しのピアニストご一行様もご一緒ですか!これはスクープですねぇ」
「勇者殺し?」
「おやご存知ない。アルスの建国祭の折、首都ルーブルで魔物を操り混乱させたオウレオールの勇者を討伐し、不完全ながら降臨した神トリウスの攻撃から人々を守ったピアニスト一行。っと我らセフィロトでは話題は持ちきりでごさいます」
意気揚々と語る魔族の若い女性のセフィロト構成員、どうやら今回の構成員は口が軽そうだと響介は感じた。なので
「そうですか、なら伝えてください。そちらの話題もどうぞと」
ふふと微笑む響介にネロとクラリッサ少し困惑の表情を浮かべる。構成員は反射的に「分かりました」と返事をすると
「おっと、サービスはここまで、ここからは有料ですよ」
急に仕事モードのように表情をガラリと変える。どうやらこっちの言いたい事は伝わったようだ。だが響介は銀貨一枚取り出しピンと弾いて構成員に渡すと
「この店のオススメ肉料理の腸詰め盛り合わせ大盛追加で、調理法はボイルで頼む」
この響介の行動に拍子抜けした構成員だったが一行を見て
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
そそくさと部屋を後にする。ネロとクラリッサは顔を見合せるとネロが響介に尋ねる。
「なあキョウスケ、どうしたんだ?情報いいのか?」
「それよりもメシだ。これ以上エリーに我慢させる訳にはいかない」
ネロとクラリッサが見ると口数が減っているものの普段の表情となんら変わらないエリー。何処が?とネロは疑問に思って気が付かないと
「エリーのあの表情はお腹が空いて早く食べたいと訴えている表情だ。見れば分かるだろ」
「何処がだよ!いつもと全く変わらねぇだろ!?」
「はぁ?ホントにネロ分からないの?」
「ネロ…」
「本当に申し訳ありません。全てが終わり次第ネロは亡霊騎士団が総力を上げて教育し直しますのでお許しください…」
「おいぃ!?」
このネロの発言に嘘でしょと言わんばかりの視線を向けるライミィとステラ、そしてまさかの弟分の失言を代わりに詫びるクラリッサにすかさず突っ込むネロ
「待たせてごめんなエリー。エリーのリクエスト通り肉の腸詰めの盛り合わせ頼んだからな」
「うん♪ありがとう」
「ちょっと待て。エリーそんな事言ってねぇよな?」
「お前は何を言っているんだ?出来ればお肉が食べたいと表情が物語っていただろうが」
「わからねぇよ!」
「は?」
「え?」
「申し訳ありません。重ね重ね本当に申し訳ありません。私共の教育が至らないばかりにキョウスケさん達になんてお詫びを…」
「おおい待てぇぇ!」
ネロの失言を聞いて呆れ果てるライミィとステラ。そして先程からの度重なる失言に平謝りのクラリッサだった。
「これ俺が悪いのか!?何処かだ!?そもそもクラリッサは何でソッチ側なんだよ!」
「ネロ…なんで貴方は分からないのですか?あのエリーさんのつぶらな瞳からの訴えを、キョウスケさん達が大切な話しをしてる中話しの腰を折らないように控えてる中でも子供故気付いて欲しいと訴えている表情を…!」
クラリッサの情に訴えるように語る言葉にすかさずうんうんと頷く響介達。
「なんでクラリッサは分かんだよ!?しかも当たってんのか!?」
これにクラリッサははぁと呆れたように溜め息を付き
「全く、これだからネロは子供なんですよ」
「んだとおらぁ!とうとう言いやがったな!」
「言いましたよ。ええ言いましたとも。その辺りも本当にキョウスケさんを見習ってくださいませんか?こんなに気遣いが出来るいい見本がいるんですから。もう22にもなって…」
「さっきの会話から気になってたんだけどネロってホントに22歳なの?」
「え?ああ、そうだけど」
ネロのこの発言にライミィ達3人は衝撃を受けたように面食らい顔を見合せ、横の響介はまたこれかと言わんばかりの表情をしてテーブルに片肘を付き頭を抑えた。
「え?え?あの、どういうことですか?」
「クラリッサお姉ちゃん、お兄ちゃん、何歳に、見える?」
「キョウスケさんですか?しっかりしてますからねぇ、ネロを鑑みて24ってとこでしょうか?」
「そこは俺基準か!?まあでも自分で言うのも不本意だけど確かに俺より上そうだよな。でっけえし」
「だってキョウスケ」
「だからどういうことだよ?じゃあキョウスケっていくつだ?」
「17」
「「え?」」
「だから今年で17だ」
少し気まずそうに答える響介の言葉を聞いて時が止まったかのように固まるネロとクラリッサ。暫しの沈黙の後クラリッサから「うっ」と悲痛な声が漏れたと思ったら
「うっ、うっ、私は、私達は、何処で育て方を間違えてしまったの…」
「おおい!!?」
まるで本当に泣いているように鎧ごと机に突っ伏し嗚咽の声を漏らすクラリッサに今日一番の大声で突っ込むネロ。この個室がいくら外に声が漏れないように防音しているからと言っても中はうるさいことこの上ない。
「確かに、私やアレッシア姉様やハリエット団長、亡霊騎士団のデュラハンは皆、生前男性とお付き合いなんてしたことがありませんでした。中には手すら繋いだ事もない者もいます。ですが、それでも…!」
「クラリッサさん…」
「何でみんなしんみりしてんだよ!?」
「クラリッサさん。顔を上げて下さい」
「キョウスケさん…?」
自身の不出来を嘆くクラリッサに響介は側に来て優しく声をかける。そしてクラリッサの手を取り目線を合わせ
「皆さんは決して間違っていません。こうしてネロが喜怒哀楽の感情をはっきり表すことが出来るのは一重に皆さんの教育が素晴らしかった証拠です」
『人を育てるのに大切なのは感情を育てる事』
これも祖父の教えである。感情は人のみならず動物を始め生物に生まれ時から備わるものの一つで大切なものだ。
嬉しい時は喜び、怒った時は怒り、悲しむ時は悲しみ、笑う時は笑う、当たり前の事だがこれを真っ直ぐに育てるのは大変だと祖父は語っていた。
花に水をやらないと枯れるように感情を育まないとその感情は死んでしまうのだ。確かに価値観や考え方は千差万別人それぞれだ。
だがしかし、祖父は健やかな感情には正しい信念が宿り信念を貫き通す力になると教えてくれ響介は今でもその教えを大切にしている。
そしてそれに基づくと喜怒哀楽がはっきり育ち正しい心が育っているネロは紛れもなく正しい感情を持つことからクラリッサ達の教育はなんら間違っていないことになるのだ。
「ああ…、ありがとう、ごさいます……!」
まるで涙を流すかのように嗚咽を漏らし項垂れるクラリッサ。クラリッサの言葉を拾って考えるとクラリッサ達は何が正解で何が不正解かも分からない程手探りでネロを育てていたのだろう。今の彼女は最初に会った気の強そうな亡霊騎士ではなく大切な家族を思いやり健やかに育つように努力した姉の姿。その姿に
「お母さんも、こんな風に、考えてたのかな…?」
「当たり前だよエリー、エリーのお母さんもエリーの為にいっぱい考えてたはずだよ」
「うん…、ぐすっ…」
「良かったですね、クラリッサさん…」
心打たれ貰い泣きをするライミィ達3人。そして
「なんだこれ?」
すっかり取り残されたネロ。
「俺はどうすりゃいいんだ?そもそも貶されてんのか誉められてんのか分かんねぇだけど、マジで温度差すげぇしどうすりゃいいんだ?」
「笑えばいいと思いますが?」
「んな訳ねぇだろ!?」
「お待たせしましたー!カルトッフェルン大盛に腸詰めの盛り合わせ大盛ボイル、ザワークラウトに白腸詰めの壷焼きです!」
ナイスなタイミングで注文した料理を持って来た構成員はテーブルに料理を並べていく。腸詰めこと茹でられたソーセージが湯気を立たせて大皿いっぱいに盛られ、ザワークラウトにフェルの実と呼ばれた芋を炒めたカルトッフェルンの大盛、中でも一行が目に付いたのは
「ネロ、この壷、何?」
「これは白腸詰めの壷焼きだ。壷ごと焼いて中の腸詰めを蒸し焼きにしてるから壷にはさわんなよ。食べ方は教えるから」
「どれも美味しそうだね~」
「では皆さん、お手を拝借」
響介達が料理の前に手を合わせるとネロも合わせて手を合わす、すっかり立ち直ったクラリッサも困惑しながらも一行につられ
「「「「「いただきます」」」」」
みんなで食前の挨拶をし食事を始める。中でもお腹ペコペコだったエリーがまず手を伸ばしたのは山盛りのソーセージだ。
「おー♪」
いの一番で目の前のソーセージをフォークで刺すと茹でたソーセージ特有の弾力ある手応えがあり目を輝かせる。躊躇いなく刺したソーセージからは見るからに立つ湯気が熱々なのを物語っているがエリーは迷うことなくかぶりつく。一口噛んだ瞬間パリッ!と心地好い音と中に詰まっていた肉汁が口の中に広がる。しかしそれだけではない、肉と共に練り込まれたハーブやスパイスの旨味がしっかりあり特にピリッとくるスパイスが食欲をそそりエリーは余程気に入ったようで嬉々として食べ進める。それを見て
「頼んでよかった」
「ホントに美味しいよキョウスケ~」
「食感で茹でるか焼くか好みで別れるからな、腸詰めは」
そんな響介が食べているのはカルトッフェルンと呼ばれた料理だ。見た目と食べた食感、塩コショウのみのあっさりとした味から元の世界でジャーマンポテトに該当する料理だろうと思う響介。元の世界ではじゃがいもと呼ばれたフェルの実をふかした後に炒めさっと塩コショウで味付けした料理はじゃがいも本来の甘味がたって美味しい。
「多分こっちの野菜に合わせたんだろうな」
「ずいぶんと塩辛いですね、酸味もあります」
「これは塩漬けしてるからな、これと交互に食べるのが丁度いい」
「塩漬けなのに酸っぱいの?」
「漬けている時に発酵して酸味が出るんだ。だから酸っぱくなる」
ステラが塩辛いと言ったのはザワークラウト、葉菜類の塩漬け一言で言うと洋風の漬物だ。土地柄葉菜類の野菜が少ないながらも長期に渡って食べる為に塩漬けにして保存が効くようにしたのが伺える。一口だけでも塩辛く感じてすぐにカルトッフェルンを口にすると塩加減がかなりマイルドになり交互に食べるのが丁度いい。響介視点魔族の食文化は元の世界ではドイツ辺りが当てはまると感じた。そうしてると
「ネロ、これどうやるの?」
ソーセージを黙々と食べていたエリーがとうとう壷焼きに興味を示す。
「おう、これなまずは蓋とって中にな」
「おー」
「皆が食ってるのよりデカイ腸詰めがあるんだ。それをナイフとフォークで中身を取り出すんだ」
「中だけ、食べるの?」
「この腸詰めの皮固くて食えねぇんだ。だからこうやって」
この料理を食べ慣れているようで器用に皮を切り分け中身を取り出す。白腸詰めの中身はどうやら鶏肉と多数のハーブを混ぜたもののようで切り開かれると閉じ込められていたハーブの香りが食欲を刺激する匂いが鼻孔をくすぐるようだ。ネロは白腸詰めをきっちりと切り分けるとエリーの皿によそう。エリーは切り分けられた白腸詰めこと白ソーセージをまじまじと見てから口にする。
「美味し~♪」
「だろ?」
ふふんと得意気に話すネロを見てつい微笑ましくなった一行はその後も穏やかに食事を楽しんだ。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
大量の料理を平らげた一行は食後の挨拶をしセフィロト構成員からアフターティーを貰い口直しをする響介達。淹れられた紅茶を一口のみ響介が口を開く。
「魔王ラヴァナの動きは?」
少し思案すると構成員は
「そうですね、金貨100枚」
「払おう」
懐中時計から金貨袋を構成員に渡す。構成員は確認すると
「確かに。今現在魔王ラヴァナの軍勢は十闘将の全滅で浮き足立っておりエルフの国、獣人の国、龍の国に出兵していた兵全てを引かせて自身の城に戦力を集めようとしています」
「何日かかる?」
「早くて一週間と言ったところでしょう」
「ならそいつらが帰ってくる前に…!」
少し唸るようにネロが呟く、しかし響介は焦らず次の質問へ
「魔王アルフォンスの今の状態は?何処に囚われている?」
「それは、」
構成員は答えに詰まったように考えると
「金貨5000枚」
「おい!てめえ足元見てんのか!?」
「ネロ!」
「ステラ、ネロを黙らせろ」
「了解」
額を聞いてセフィロト構成員に詰め寄ろうとするネロをステラに抑えてもらい響介は構成員に頭を下げる。
「大変失礼をした」
「いえいえ、慣れてますから。それより」
「払おう」
即決すると先程と同じように懐中時計から金貨袋を50袋取り出して構成員に渡すと構成員は続きを話す。
「魔王アルフォンス様は今現在城の地下牢の一番奥で幽閉されています」
「地下牢の一番奥?あそこか!?」
地下牢と聞いていの一番にネロが反応したのを見て響介は
「ふむ、それでどのような状態だ?」
「こちらを」
構成員から渡されたのは一枚の写真、そこには怪しい光を放った鎖を厳重に巻き付けられ項垂れている男が写っていた。しかし響介が写真を見て目が行ったのはそこではない
「この足元の紋様はなんだ?魔方陣みたいだが」
一際怪しい光を讃える魔方陣だ。ライミィ達に見せても誰も分からないようで構成員に尋ねたが
「申し訳ありません。こちらも調査中でして…」
「おいおいおい!そりゃないだろ!セフィロトが知らないってどういうことだ!?」
「ネロ!やめなさい!」
「キョウスケゴメン、昏睡」
「ぐぅ…」
また騒ぎだしたネロにライミィが昏睡をかけて強制的に黙らせる。かけられたネロは直ぐに眠りに付いたようでいびきをかいて寝ている。
「何度もすまない」
「謝罪をいれるのは此方です。今城に潜伏している二重スパイが調べていますがまだ時間がかかるようで…」
「いや、じゃあ質問を変えよう。この魔方陣は妖精魔法か?それともドラゴンや魔女が使うと言われる特殊な魔法か?」
「いえ、妖精魔法はこのような魔方陣を使うことはありません。ドラゴンもですが魔女が使う魔術にもこのような紋様の魔方陣があったという報告はありません。ですからそれ以外になると思われます」
「分かったありがとう。じゃ最後の質問だ。アルフォンスの城の構造か何か分かる図面はないか?」
「金貨500枚」
「払おう」
即答してまた響介は金貨袋を渡すと構成員も何処からか何枚かの図面を取り出した。
「こちらになります。アルフォンスの居城は500年程前に存在したアングリフという国の王城アングリフ城をそのまま使っているようでこちらの情報ではこの図面に書かれている事からさほどの差異は見受けられないそうです」
「どうもありがとう。またそのうち来るよ」
「「「ごちそうさまでしたー」」」
「えっ?あの?もういいんですか?」
セフィロト構成員から情報を買った響介一行はまだ困惑しているクラリッサを連れて店を後にしアジトへ向かうのだった。