101話 哀悼の意 響介の矜持
響介一行、魔王ラヴァナに正式に宣戦布告する。
響介一行の道徳の時間から2日経ったルイナスは歓喜に湧き活気に溢れていた。それもそのはず、今まで防戦一方だった戦局が今ではガラリと変わった。
十闘将の全滅。
それは魔王アルフォンスを救出するべく戦う魔族達にとっては大きな吉報。ルイナス近辺のラヴァナ軍を排除しただけでなくラヴァナ配下の魔王を名乗っていたグリズリアやホークロウといった者やロブザスのような戦闘狂等十闘将の配下含め強力な魔族達が軒並み消えた事でラヴァナ軍の楽勝ムードは塵と消えラヴァナ軍の士気が下がった。
対してアルフォンス派のランガやヴーレは自身の部下の鬼人族、戦鬼族、人狼族の斥候に命じラヴァナ軍の動向に探りを入れる。
十闘将を討った響介一行はというと
「喜ぶかどうかは分かりませんが皆さんの仇を取りました。どうか安らかにお眠り下さい」
先のルイナス襲撃の際犠牲になった者達に哀悼の意を表し仮で供えられた石碑に手を合わせていた。魔族にも死者を弔う文化があるようで全てが落ち着いたら今までの犠牲者全てを弔う鎮魂碑を建てるとクラリッサは言っていた。
「おやすみなさい」
エリーが響介が聞こえる位の声で小さく呟いた。響介はエリーを横目で見ながら
(俺達の中でもエリーが一番怒ってたからな)
エリーが怒りを示した。この事には響介達も驚いたがエリーの思うところがあったようなのが分かった。その胸中も打ち明けてくれ
(母親とエルフに襲われた。か、やはり…)
大陸東にあると云われるエルフの国。エルフに襲われた事を考えるとエリーの出生が関係しているのは明白だ。
いずれは直面する問題だろうが今ではない。どうなるか分からない先の事を考えても仕方ないと考えてると
「皆さん、こちらにいましたか」
振り向くとそこにいたのはクラリッサだ。どうやら響介一行を探していた様子なのが見てとれたネロは
「クラリッサ、どうしたんだ?」
「実は先程、衛生兵からキョウスケさん達宛の手紙を預かっておりましてそれを」
「キョウスケ達宛の手紙?」
どういう事良く分からないといった表情をネロは浮かべたが、取り敢えず響介がその手紙を受け取り中を改める。読んでいた響介は内容を見て少し切なくなった。
「そうか…」
「キョウスケ?何て書いてあるの?」
神妙で、何処か悲しげな表情をした響介をライミィがいち早く気付いた。響介は内容を言おうかどうか迷ったがライミィの言葉にエリーやステラ、ネロも反応したのを見て響介は意を決して手紙を読む
「『この世に残した未練が晴れました。悔いを残すことなく私も妻子の元へ旅立てます。ありがとう』」
「えっ?それって…」
「クラリッサさん。差出人は?」
「…衛生兵から聞いた話ですが、先の襲撃で瀕死の重傷を負った魔族の兵士だそうです。手の施しようが無く時間の問題だったようで残された家族の件やキョウスケさん達が仇を討った事を聞いてこの手紙を頼むと残し息を引き取ったと」
クラリッサの話を聞いてライミィ達は言葉を失う。その場に沈黙が流れるがその時
「俺のやってる事は声を上げて言える事じゃない」
不意に響介が口を開いた。
「キョウスケ様?」
「どんな理由であれ他者の命を殺める事は善ではなく悪だからだ」
「お兄ちゃん」
「だが、こうやって誰かの未練を断て救われるヒトがいるのなら、俺が居る意味はある」
静かに自分の考えを話す響介は任侠を継ぐと祖父に伝えた時を思い出した。
『任侠、極道はいうなれば悪じゃ。渡世に生きるということは即ちそれは人様や世間様に後ろ指を指され続け真っ当な人生にならん。響介よ、お前の覚悟は本物じゃ。だからこそ言わせてもらうぞ。どのみち悪になるのなら誰からにも必要とされる「悪」になれ』
ニッと笑い語る祖父孝蔵の姿。
祖父は誰からも必要とされる悪だった。そんな祖父の生き方に憧れ祖父のように強く気高い人間に成りたい一心で響介は任侠の門を叩く決心をした。
その志しと覚悟は今でも変わらない。
「キョウスケの言ってる事、分かるよ」
「ライミィ様?」
「こういう事は結局は誰かがやらないといけない事だよ。でもキョウスケ」
するとライミィはキョウスケの手を取り優しく握る。
「一人でやる必要無いよ。キョウスケは優しいから色々考えちゃうし自分から汚れ役をやろうとするからしょうがないけど、キョウスケには私がいるじゃない。だから頼ってね?」
「ライミィ」
「ね?」
お互いに優しく見つめ合う2人、響介は少し切なそうな表情をしていたが穏やかに笑うライミィを見て段々と穏やかな表情になっていった。その様子を端から見ていたネロは
「…なぁ、エリー、ステラ」
「何?ネロ」
「どうしましたネロ?」
「キョウスケとライミィって、いつもこうなのか?」
「うん。いつも仲良し」
「いつもの光景ですね」
「ああ、そうなんだ…」
真っ昼間からイチャつき始めたバカップルにネロはため息が出そうになった。目の前のバカップルにだが一番は
「ああ、なんて素晴らしい…!人間とラミア、種族を越え互いに想い合う男女、お互いにお互いを信じるあの姿、まさしく愛です!!」
横で勝手に盛り上がっているデュラハンにだ
「ああ、また始まったよクラリッサ…」
「ねぇネロ」
「あの、クラリッサさんは…?」
「ああ、クラリッサとか亡霊騎士団のデュラハンってさ、大半が両想いの熱い恋愛だとかそこのバカップルみたいな仲睦まじいのが大好物でよ、始まったよ…」
「ネロ!貴方は分からないんですか!?あの清らかで麗しい姿が!22にもなってそれが分からないから貴方は童て」「でけぇ声で街ん中で何言ってんだよ!そんな事言ったらクラリッサは生前から処し」
「エリーの前で何言ってるんだ?」
「エリーの前で何言ってるのかな?」
「「ご、ごめんなさい…」」
途中から話しを聞きエリーの耳を静かに塞いでるステラを見て笑ってネロとクラリッサに注意を促すバカップルこと響介とライミィ、その笑顔がドス黒かったのは言うまでもない。