100話 戦慄 慈悲があるなんて思うなよ?
ネロ、蜂の巣にする。
「な、なんだと!?」
魔王ラヴァナを始めその場にいた者は伝令の人獣族の報告を聞いて騒然とした。
「う、嘘おっしゃい!ルイナスに侵攻からまだ1日と経ってないのよ!?ラヴァナ様の前でふざけた事を言ってるなら掘るわよ!」
「う、嘘ではありませんスティーナ様!それが…」
「一体どういう事だ!」
バンと開かれた扉から飛び込んで来たのはリオレンやスティーナと同じ四天王の戦士ウィクルだ。肩から息をしておりどうやら報せを聞いて駆けつけたようだ。
「ウィクル!」
リオレンがウィクルを呼ぶがウィクルは一目散に伝令に詰め寄り
「お前どういう事だ!!グリズリアは!スパイダスは!ホークロウは!ゼブラスは!ロブザスは!全員やられたと言うのか!?」
「はい、十闘将はみな、殺されました…」
「な、なんだと……」
呆然とするウィクル。伝令からのまさかの報せに言葉を失ってしまった。するとそこに
「ラヴァナ様。どうなさいましたか?」
ウィクルに遅れて玉座の間に入って来たのは騎士甲冑に身を包んだ魔族の男
「帰ったかプリモ」
「きゃ~~プリモ~~!」
スティーナの野太い声援と共に現れたのは四天王のリーダープリモ。魔王ラヴァナの勅命で単身動いており報告の為一度城に帰還していた所だった。
「プリモ、実は」
ここでリオレンがプリモに今のいきさつを伝える。
「何!?十闘将が全滅だと!?」
「ええ、そうなの。それで…」
「うむむ…」
報告の為に戻った城でとんだ報告を聞き唸ってしまうプリモ。少々思案してから伝令に向き
「おい、十闘将が全員死んだということだが本当なんだろうな?確証は?」
「はっ、こちらを見て下さい…」
そう言うと伝令はプリモ達に何か紙切れのようなものを大量に差し出した。プリモが受け取り紙切れを見るとたちまち顔色が変わり紙切れを何枚か落としてしまう。それにいち早く反応したスティーナは
「プリモ、落としたわ、よ…」
「スティーナ?どうしましたか?」
プリモが落とした紙切れを見てリオレンとスティーナが衝撃を受けた。それを見たウィクルも何事かと2人から紙切れ全て取り上げると確認する。
「な、なっ!」
プリモ達が見ていたのは写真。その中身は
頭を潰されたグリズリア
虫の標本のように壁に貼り付けにされたドライビーとスパイダス
氷付けにされたコンコード
彫刻みたいにされたホークロウ
左右真っ二つにされたゼブラス
横真っ二つにされたハイエナーガ
頭に弾丸を撃ち込まれ絶望の表情を浮かべたフライオ
全身血塗れのロブザス
部下達の成れの果ての姿。写真に写る無惨な姿を見てウィクルは怒りで肩を震わせる。この十闘将達の変わり果てた最後の姿に魔族達は騒然となるが写真を見てプリモが気が付いた。
「レオエッジがいない」
プリモが口にして玉座の間にいた魔族達が気が付く。伝令の人獣族は開口一番レオエッジの名前を出した。だがこの場にはレオエッジの死を明確にするものがないのだ。魔族達の視線が伝令に集まると伝令は重たい様子で口を開いた。
「…自分はこの写真があった為先に報告に参った次第です。今近くにいた者達に運ばせています」
「運ばせている?」
伝令の言った言葉の意味が飲み込めず困惑するプリモ達だったが
「…!」
「!」
「ラヴァナ様?!」
「どうしたリオレン!」
突如様子が変わったラヴァナやリオレンを見て玉座の間は騒然となる。特にリオレンは気持ち悪いのか顔色が悪くなる。
「大丈夫かリオレン!」
倒れそうにふらついたリオレンを抱き止めるプリモ。周りを見ると人獣族を始めとした嗅覚が優れている者の様子がおかしい
「はい、大丈夫です。ですが…」
「なんだ?」
「酒と血が混ざった酷い臭いが…」
そうしているとあるものが玉座の間に近付くにつれ臭いが強くなるのかより苦しそうになる。そして運ばれてきたものを見て
「…!?」
「なっ…」
「これは…」
「レオエッジ…!」
「嘘でしょ…?」
魔王ラヴァナすら絶句した。運ばれて来たのは壺に入れられ絶望と苦痛を存分に味わったような表情を張り付かせ事切れたレオエッジ。その横には
「む、惨い…」
何処かから声が漏れた。壺の横に綺麗に並べて置かれていたのはレオエッジの手足、壺に入れるのに斬り落とされたようで綺麗に斬られていた。
「う…」
「リオレン!」
「あの壺、酒が詰められているようです…」
「この臭い、ワインね。随分入れているみたいだわ」
「レオエッジの血とワインが混ざった臭いって事なのか…」
壺に入れられたレオエッジを見ているとスティーナが壺の側にあった物に気が付いた。
「何かしら?これは、サウンドセーバーかしら?」
「え?」
「なんでこんな所に…?」
リオレンが置かれていたサウンドセーバーを手に取った瞬間に起動し中に保存されていた音声が再生された。
『あぎゃあああぁぁぁ!』
『喧しい、まだ始まったばかりだ』
『それにしても流石は人獣族、腕を斬り落とされた位では死にませんか』
『それにエリー、こいつの心臓に治癒魔法掛けてるから、すぐ死なない』
『簡単に死なれても困るから助かるよエリー、ふん!!』
『ぎゃあああぁぁぁ!!!』
記録されていたのはレオエッジの手足を斬り落としている場面の音声、斧か何かが振られる重い音とゴトリと手足が落ちる音、そしてレオエッジの痛々しい悲鳴が続いた。時期にレオエッジの呻き声しか聞こえなくなりどうやら手足を斬り落されたようだ
『ステラ!準備は出来ているな!』
『はっ!こちらです!』
ステラと呼ばれた女性が何かを準備していた。恐らくこの壺だろうということは想像出来た。何かが水に入る音が聞こえるとまたレオエッジの苦痛な叫びが響いた。その後蓋のような物をする音が聞こえ
『ふん、趣味の悪い汚いオブジェだ』
『ちょっとー、キョウスケがやったんじゃん』
『ふふふ』
『これはまた面妖な』
『うわぁ~スゲエなこれ、ホントにキョウスケのとこであった刑なのか?』
『ああ、厳密に言うと俺がいた国の海の向こうにあった他国で実際にあった刑でな、悪女と呼ばれた女帝が見せしめにやったと伝えられているものだ』
『そーなのかー』
『勉強になりますキョウスケ様』
『しかも適切な処置をすれば想像を絶する激痛付きで数日生きるらしいからな、その女帝は部下に命じてその処置を徹底させて長く苦しめたとも言われている』
『うっへぇ、そりゃ拷問だわ。その人間って下手な魔族よりヤバいな』
『う、あああ…』
『どうした?死ぬ前に大好きな酒を全身で味わえて嬉しいか?』
『キョウスケは優しいね~、こんなどうしようもない外道にも最後の情けで大好きお酒を堪能させてるんだもん』
この言葉に反応しあははと楽しそうに笑う声が聞こえる。だがそれはこれを聞いているプリモ達からすれば恐怖でしかない。
『うう、死にたくない、死にたくない……』
『そうかそうか、死にたくないか』
がっと何か掴む音が聞こえると
『てめえが殺したあの魔族の親子も死にたくなかったに決まってんだろ。てめえは徹底的に苦しめ』
その男の声にプリモ達は戦慄し魔王ラヴァナでさえ本能的におののいた。
低く、威圧的で、殺意に満ち溢れ、一縷の希望すら叩き潰すような凄味がある声。
『そんな身勝手、聞き入られると思ってるの?あんたは絶望の中で苦しみ抜きなさい』
続いて聞こえたのは女の声。先程の男とは違い氷どころか零度のような冷たい声で冷酷で別のニュアンスで凄味のある声だった。
『ひいいぃぃぃぃぃ……』
尚もサウンドセーバーからレオエッジの絶望の悲鳴が流れていたが先程前まで魔王の宣誓により湧いていた玉座の間は水を打ったように静まり返る。その中で
「間違いない…!」
「ウィクル?」
「間違いない!あいつらだ!」
「あいつら?誰よウィクル?」
「ウィクル…!まさか相手は」
「間違いないリオレン、ピアニストだ!ピアニストがあの半端者達側に付いたんだ!」
ウィクルのピアニストという言葉に集まっていた魔族達は騒然となる。しかし
『おーい聞こえてるかー?』
サウンドセーバーから続いていた音声だがどうも声色が変わった。そしてその声色にプリモが気付く
「この声、ネロか!?」
『まだサウンドセーバーの容量があったからいれるぞー』
『何してるの?ネロー』
『えっ?いや宣戦布告にな、入れとこうと思って』
「宣戦布告だと?」
『ラヴァナ。てめえぜってえ後悔させてやるから覚悟しとけ!てめえらは俺一人じゃ何も出来ないとか抜かしてたみたいだが残念!俺には事情を全部知った上で協力してくれる頼もしい仲間がいるぜ!』
「仲間ですって!?」
『そうだ。俺だ。お前らにはピアニストと名乗った方が分かるよな?その外道は集めた情報からその方法で裁いた。そいつの今までの行いを調べても俺はそれくらいではまだ軽いと判断している』
「なんだと…」
『お前ら全員慈悲があると思うな。お前らはうちのもんの家族に手ぇ出した。うちを舐めた落とし前はきっちり付けさせて貰う』
ここでサウンドセーバーの再生が終わった。全て聞き終わった魔王ラヴァナ達が感じた感情は畏怖。相手は人間だというが人間じゃない『何か』を相手にしているようで魔王ラヴァナは体制を立て直すのに10日を要すると踏んだ。
…しかし、魔王ラヴァナや四天王は気付かない。
そんな悠長に事が運ぶのを鴻上響介が許すハズがない事を