98話 ステラ編 爆走する大剣メイド
エリー、おじさん達をわからせる。
「待ちなさい!逃がしませんよ!」
荒れ果て足場が悪い荒野を走る一団を私ステラはミーティアに乗り魔王ラヴァナの兵をバスターブレード片手に追っております。
私が転送魔法で飛ばされたのは丁度撤退中の、私目線ラヴァナ軍と呼称しましょう。ルイナスを襲撃し撤退するラヴァナ軍の後ろにいきなり現れた形となりそのままラヴァナ軍と戦闘、私の戦闘中に十闘将の馬の人獣族のゼブラスと死肉を漁る魔獣ジャコウから進化した人獣族のハイエナーガが戦闘を部下に押し付け逃走。部下達を両断した私は賢者の懐中時計からミーティアを取り出し追撃していると言うことです。
「見えてきました、私とミーティアから逃げられると思わないで下さい!」
馬を始めとした陸上の獣から進化した人獣族達。只の人間なら歩くのも大変なほど覚束ないこんな足場の悪い荒野でも持ち前の脚力はまるで整地されたかのように全速力で走ります。向こうからすれば地の理はあちらにあり逃げようとも誘い込んで袋叩きにする事も出来るでしょう。
「ですが、私にはこれがあります!」
そう!開発者が作ったミーティアがあります!
500年程前。過去の争いによって衰退し今では遺産物となってしまった魔導機達、その中でも魔導技術の全盛期に造られ魔導技師の権威であり優れた空間魔導師だった開発者謹製反重力ドライブシステムが組み込まれた魔導エアバイクミーティアはこんな荒れ地なんて物ともしません。追走してすぐに走って逃走を謀っていたラヴァナ軍に追い付きました。
「追手が来ました!」
「くそっ!追い付かれる!」
「お前ら!そいつの足を止めろ!」
先頭を走っていたゼブラスと思われる馬の人獣族が後方を走っていた人獣族達に指示を飛ばすと幾人かが踵を返して私に飛び掛かってきました。
「想定内です!」
私はすかさず背負っていたバスターブレードを手にとるとミーティアの出力を調整し
「はあぁぁぁぁ!」
ミーティアを勢い良くスピンさせてその勢いを乗せてバスターブレードの横一閃、襲ったきた人獣族達を断末魔を上げることすらさせず両断し斬り捨て追走を再開します。
「まだ付いてきます!」
「アホ!接近しても意味ねえだろ!魔法使え!」
斬り捨てられた仲間の様を見て相手は逃げながら魔法で攻撃を試みて来ました。しかし
「狙いが甘々です」
走りながらの魔法攻撃は慣れていないのか狙いが定まらず掠りともしません。それに私は人造人間、あんなへなちょこ魔法当たったところで何ともありません!
「な、なんで効かないんだ!?」
「怯むな!どんどん放て!」
臆せず突っ込む私を見てほとんどの魔族達が魔法を放ちます。相手が放ったストーングラットやウインドアローが身体や顔に当たりましたが何ともありません。全然効きません人造人間ですから。私の命を取るつもりならライミィ様の本気のゲイルマグナム並みの魔法をぶちこみなさいと言いたいくらいです。実際に私自身の限界を知りたくキョウスケ様達に魔法攻撃をしてもらい実験しましたがライミィ様の本気の魔法はいけません。
人造人間でなければ即死でした。キョウスケ様も死にかける位ですから相当です。
「ふん!」
閑話休題。
距離を詰め魔法攻撃をする人獣族をバスターブレードを振り取り巻きを一人また一人と斬り撥ね、もう残りは十闘将のゼブラスとハイエナーガとなり私は迫ります。
「くそっ!役立たず共がっ!」
「ど、どうする!?」
「どうするもこうするも…!」
「随分悠長ですね」
直ぐ後ろに迫る私を見て驚愕の表情を浮かべるゼブラスとハイエナーガ。
…こいつら本当に十闘将やらなのでしょうか?
キョウスケ様やライミィ様ならこんな失態は絶対にしません。よもや敵に隙を見せるなど特に
「はっ!」
バスターブレードを振りあいつらの足並みを崩すと
「今ッ!」
バスターブレードを振った勢いを生かしミーティアをクイックターンさせハイエナーガの横っ腹にミーティアをぶちかましハイエナーガをぶっ飛ばすと並走していたゼブラスに激突。2人の人獣族はもみくちゃになり仲良くゴロゴロと転がりました。ようやく足も止まり私はミーティアから降り懐中時計に仕舞います。
「追いかけっこは楽しめましたか?」
背負っていたバスターブレードを手にツカツカと歩み寄るとゼブラスとハイエナーガも直ぐに立ち上がり臨戦態勢に
「随分舐めた真似してくれたなこのアマ!」
「ただの実力の差かと」
ただ端的に言うと奴らは思わずたじろぎました。
キョウスケ様から威圧的な言葉はノウメンとやらのように冷たい無表情の顔をイメージして言えばよいと教わりました。
相手の様を見て上手く出来たようで何より、キョウスケ様にご報告しなくては。
「こ、このアマァ…!」
「それしか言えないのですか?見た目が獣なら頭も獣なんですね」
ハイエナーガの言葉にはぁ、とわざとらしく溜め息をつき肩を竦めて見せます。
このような相手は感情を逆撫でするような発言をすればいい挑発になるとライミィ様から教わりました。
案の定ゼブラスとハイエナーガは顔を紅潮させ鼻息を荒くします。上手くいったようです。これもライミィ様にご報告しなくては
「ふざけんじゃねぇ!後悔させてやる!」
そう言ってハイエナーガは吼えるとなんと3人に分身し一斉に襲い掛かってきました。確かにジャコウという獣はスリーマンセルで狩りをすると記憶してますがどうやら人獣族になった今もそうみたいですね。恐らくハイエナーガと連携してゼブラスも攻撃してくる筈、相手は数的有利になったと思うでしょう。ですから私は
「甘い!」
即座にバスターブレードをゼブラスに投げつけました。ゼブラスもよもや大剣を投げるとは思ってなかったらしく回避が遅れバスターブレードを下敷きに、そして私は懐中時計から2本のブロードソードを取り出し3体のハイエナーガと戦闘に、1対3となりますが1対多数の戦い方はキョウスケ様に教わっております故全く遅れは取りません。
「くっ、くそっ!」
「このアマ、強い…!」
「ぐわっ!」
私が強い?いえいえ貴方達が弱いです。弱すぎです。数的有利なのにも関わらず数を生かした戦い方をせずただ闇雲に攻撃をするなど愚の骨頂。これを見るとレブナント化したとはいえいかに我が同胞達が優秀だったかが分かりました。
「フッ!」
横薙ぎに剣を振り1体のハイエナーガを斬りましたがどうなら分体のようで霞と消えました。手応えがあるとなると少々厄介ですね。
「ちっ!」
「残念だな!外れだよぉ!」
そう言って2体のハイエナーガが吼えるとまた3体に分身し襲い掛かってきました。どうやら本物を倒さないと駄目なようです。
「成程…」
私が戦いながら考えます。本物を倒さない限りはずっと分身を生み出し攻撃する。吼えてる時に一網打尽にすればいいのですがハイエナーガはそれを警戒してか吼える時は私と距離を空けます。
「そこを狙いましょうか…」
ある方法が思いつき私が腰のマジックバックに手にかけた時
「よくもやってくれたな!小娘が!エクスプロージョン!!」
いつの間にか下敷きにされていたバスターブレードから抜け出したゼブラスが火属性魔法のエクスプロージョンを詠唱。ハイエナーガの分体2体にしがみつかれ振り払おうとした私の足元でいきなり爆発が起こります。
エクスプロージョンは火属性魔法レベル9のポイント取得で習得出来る魔法で対象の足元を突如大爆発させ炎と爆風で広範囲に攻撃する魔法。爆発に飲み込まれた私を見てゼブラスとハイエナーガが
「助かった、ゼブラス」
「ったくあの小娘、手を掛けさせおって…!」
まるで終わったかのようなやりとりをしていました。爆風に飲まれているからか私を視認出来ない様子。
「チャンスです」
私はマジックバックからあるものを取り出しゼブラスの足元に落ちている先程投げたバスターブレード目掛けて投げました。それは
マジックチェーン
アイテムランクA
魔法媒体不可
使用者の魔力保有量によって長さを調整出来る魔法の鎖。フック状の先端は何にでも引っ掛かることが可能で魔力が少ない者でも使用出来る。
爆風に気を取られて投げたマジックチェーンがバスターブレードに接続したのはバレてない様子。私はマジックチェーンをぐるんと身体ごと回して力を込めてブン回し
「この瞬間を待っていました!!」
私が生きている事に今さら気付いたゼブラスとハイエナーガでしたがもう手遅れです。鎖を振り回し勢いのついたバスターブレードが
「終わりだーーー!!!」
ゼブラスとハイエナーガを捉えて纏めてぶった斬りました!特にハイエナーガは距離も完璧だった為横一閃真っ二つになり即死を確認。ゼブラスは
「な、なん、だと…!」
血を吐きながらも斬られた箇所を必死で火属性魔法で焼いてなんとか止血したようですが致命傷ですね。長くは持たないでしょう。私は爆発し燃え上がる中悠々と歩み
「やり口は良かったですが相手が悪かったですね。人造人間の私にはこのようなチンケな魔法は効きません」
「タ、ターロスだと…!」
「来世では見る目を養う事をオススメします」
言い終わると同時にバスターブレードを振り下ろしゼブラスを両断。戦闘は終わりました。
「思った以上に散らかってしまいました」
キョウスケ様から十闘将の遺体は回収するように申し付けられていますのでバスターブレードに付いた血を払い真っ二つになったゼブラスとハイエナーガの遺体を袋に詰めているとふと一斉に飛び立つ鳥の群れに気付きました。
「なんでしょうか?」
見ると遠くに見える森から火の手が上がってました。こちらからでも視認出来る位の炎が上がっており何事かと見ていたら
「あら?」
その火の手が上がる所へ向かう飛翔体のようなものに気付きました。視覚強化のスキルを使い目を凝らして見ると
「エリー様ですね。ということはあの炎はライミィ様の火属性魔法のようです」
エリー様のことです。ライミィ様の魔力を感知するのは容易い事ですから間違いはないでしょう。
私は遺体を素早く纏めると懐中時計を取り出し遺体袋を仕舞いミーティアを出すとエンジンを掛け火の手の上がる森へと向かいました。