96話 ライミィ編 ラミアの流儀
響介、元魔王を一撃で仕留める。
「ぎゃあ!」
「ぐあっ!」
「くそっ、敵はどこから侵入したんだ!」
「分かりません!ですが、があぁ!」
深く生い茂る森の中、私は弦を強く引き絞り矢を射る。時には人間の姿で、時には元のラミアの姿に姿を変え、射る高さも射角も全て変えて自分の位置を絶対に悟らせないように細心の注意を払い茂みの大体20メートル先の向こうで私を探す人虫族と呼ばれる魔族達を確実に一人また一人と仕留めていく。
人虫族は人獣族と比べて聴覚も嗅覚も人間以下で劣るけど触覚が優れていて少し厄介。厄介って感じるのは
ガサッ
「あそこだ!」
5秒前に私がいた所に魔法や投げ槍で攻撃してくる。虫から魔力を浴びて人型に進化したあいつらの触覚は熱を探知するラミアとは全然違って振動を感知するのにすごい優れてるの。だから少し茂みを音立てただけで今みたいに直ぐ反応してくる。だけど
「だからこそ付け入る事が出来るんだよね~」
私はくいっと弓を持ってる左手の小指を器用に動かして仕掛けた魔法を使う。すると
ガサッ
「向こうだ!」
私がいる反対方向に攻撃し始める。今のは風属性魔法のフェーンを限りなく弱めたもので私の合図一つで作動するようにしたものだよ。
フェーンって本来魔法は広い範囲に高温の突風を起こして攻撃する魔法なんだけど今回はただの生暖かいそよ風が吹くぐらいで抑えたの、だけど音を立てて注意を引くのには十分。私は矢筒代わりに使ってるアイテムバックから矢を幾分か取り出して素早く矢を射る。
「があ!」
「うおあ!」
数人いた相手の丁度真ん中にいる奴二人を射抜く。
キョウスケが言ってたんだー、こういうのは真ん中からやっていけば相手はこっちの位置が分からなくなるってね。普通弓や魔法での攻撃は射角から居場所を割り出されるけど(ちなみにキョウスケは当たり前のように見破る)今みたいに振り回して攻撃する場合は相手を混乱させるのには丁度いいの。
「くそっ、敵は何処だ!」
「何人いるんだ…?こんなの一人で出来るはずが」
「落ち着け!相手の思うつぼだぞ!」
思惑通り相手は混乱。仕上げるよー
ガサッ
「なっ、いつの間に!」
少し前にいた所に仕掛けたフェーンを発動させると振動に反応して私に後ろに見せる。勿論私が見逃す筈もなく身体を伸ばして真後ろを取ると矢を射り残り四人の頭に正確に命中して仕留めた。
「まっ、こんなもんでしょ」
ラヴァナってやつの手下共を片付け人間状態に変身して周りを警戒しながらも一息ついた私が魔方陣で飛ばされていたのはこの人虫族だらけの森、ネロの話しだとドライビーって奴はリベール(キョウスケはトンボって言ってた)って虫から進化した人虫族らしいから多分そいつんとこの部下らしいんだけど熱探知をしながら周囲を見渡す私の目にあるものが映った。
「あれって、お城?見た感じボロッちいから荒城ってやつだね」
私が見つけたのは少し離れたところにあった荒れ果てて放置された半分くらい崩れたお城。試しにそのお城に熱探知すると
「結構いるね。ドライビーってのはいるとしてスパイダスってのもいるのかな?」
スパイダスってのはドライビーと同じ十闘将の一人でアラニャ(キョウスケはクモって言ってた虫)の人虫族、ラミアみたいな上半身が女性で下半身がクモのアラクネとは違って人間とクモが混ざったような風貌らしい見た目だってネロが言ってた。でも
「誰が相手だなんて私にはどうでもいいけどね、っと!」
すかさず後ろにいたのを素早く射抜く、放った矢は木に突き刺さるとクモの魔物が突き刺さってた。私はそのクモを見て
「…魔力を感じる、この魔物にしては不自然な魔力だからスパイダスってのもいるねこれ」
人虫族は各々進化の元となった虫を操る事が出来るみたいで多分このクモはスパイダスが送った偵察かな?幸いこれみたいな魔力を持ってるのはいないし
「こっちの手の内はあんまり見せたくないからとっとと行こっか」
私の率直な意見。出来れば火と光属性魔法位は使ってもいいけどそれ以外は出来れば使いたくないね。だって今から戦う奴らはぶっちゃけ前座だし手の内全部出す必要もない。隠密スキルを使って荒れ果てたお城を目指して移動をしながら
「キョウスケも言ってたけどこれは道徳の時間だからね~」
道徳の時間。ぶっちゃけカチコミの事だよ。なんでこう言ってるのかだけどキョウスケと話し合ってね
「「エリーの教育上良くない(ね)」」
私達は同意見だった。そもそもカチコミって言葉はキョウスケが教えてくれたけど殴り込みって意味なんだって。
…うん。エリーに言って欲しくないや。エリーは絶対「カチコミー」っていうもん。うん。只でさえ唐突に喋る言葉何処で覚えたんだろうって私も思うし特にキョウスケが頭抱えて悩むくらいだからホント真剣にエリーの事を考えてるんだなって思う。そこも好きだからいいんだけどね~
そんな事を考えながらも周囲の探知は怠らずに魔物や魔族達を射っては片付けて5分、ようやくお城に到着。
「ふう、ある程度倒しながら来たけど~」
瓦礫だらけの城門だったものをくぐり私は歩みを進めると反応があった。隠れてるつもりなのかな?私は聞こえるように
「出てきなよ。相手してあげるからさ」
するとブブブと虫が羽ばたくような音が聞こえると瓦礫の間からゆっくりと出てきた。パッと見人間みたいだけど背中にはトンボの羽と身体の部分が尻尾みたいに生えて頭は半分トンボ。周りにはトンボの魔物リベルフライが飛んでる。
「貴様か!我らに弓引き、我らの部下を襲った者は!」
特に目の辺りがまんまトンボみたいで沢山ある目で私を見たと思ったら怒鳴り散らしてきた。
あーやだやだ。キョウスケなら絶対しないよ、いかにキョウスケが優しい紳士なのが分かる。
「そだよ~、あんたがドライビーね」
「そうだ!この前線基地司令官スパイダス様の補佐をしている!答えろ!貴様の目的はなんだ!」
「あんたらの首だけど?大人しく殺られてくれない?」
そう言って私はクイックモーションで矢を射り周りに飛んでいたリベルフライを射ち落としていく。
「うーん…」
射ち落としたけど何処からともなく新しいリベルフライが飛んできて直ぐにあいつを守るように飛んでる。
手応えがない、私は新しい矢を取り出しながら走る。
「よくも俺の部下達を!フォーメーション!」
あいつが号令みたいに言うと飛んでたリベルフライがあいつを中心に一斉に周囲に集まる。そしたら
「撃てっ!」
リベルフライが一斉に魔力弾を撃ってきた。私は魔力弾の軌道を冷静に見ながら避わし光魔法のフラッシュを詠唱する。
「うわぁ!」
トンボって虫は沢山目があるの、だから今みたいな強烈な光での目潰しは良く効くんだよね~。その隙に物陰に隠れ体制を整える。
「成る程、あいつは魔力をあのリベルフライ達に渡して使ってるんだね。通りで魔力の流れが変だと思った」
そう言いながら私はアイテムバックに手を伸ばすと
「ん?」
なんか変。そう思って見るとなんだかねばねばしたのがアイテムバックに引っ掛かってた。
「何これ?きゃあ!」
なんだろうと思った瞬間。勢い良く引っ張られる。するとどこかに引っ掛かったみたいにねばねばしたのに絡め取られちゃった。ってやだ髪の毛にくっついた!そんなとこに
「ダースダスダスダス!」
おもっくそ気持ち悪い笑いかたをするのが近付いてきてそいつは私の前で現れた。何故か逆さ吊りで、どうやら
「ダースダスダスダス!ドライビー情けないダスね」
「も、申し訳ありません!スパイダス様!」
やっぱりこいつがスパイダスね。ってことはこれはこいつが出した糸か
「こんな小娘一人にしてやられるなんてお前達も落ちぶれたダスね」
なんかスパイダスってのがドライビーに説教し始めた。もう勝った気でいるのが腹が立ったからあいつの糸を外そうとしたら
「ダースダスダスダス!無駄ダスよ、俺の糸は俺の魔力を行き渡らせた特別製ダス。小娘の力では抜け出すのは不可能ダス!」
なんかムカついたしドン引きなんですけど、ホントにもう勝った気でいるのが分かった。
それに魔力を込めてるのか。
ホントかどうか確認すると糸はあいつの身体から出て今でも繋がってるのが分かった。なによりもせっかく作った服や髪の毛にねばねばしたのが引っ付いて気分は最悪。
「ふーん」
「なに強がりをしてるダス。久しぶりの人間の小娘ダス。お前達可愛がるダスよ」
ホントにドン引き。もうあったまきた!
「ねぇ」
「なんダス?今さら命乞いダスか?」
「問題。抜け出せないならどうすればいいと思う?」
「「は?」」
「こうするのよ!」
私はスパイダスが張った糸という糸に炎属性魔法のバーンウェーブを詠唱。バーンウェーブは射程が短いものの強烈な炎を放射して相手を瞬時に火だるまにする魔法。
だけどこの魔法は魔導書にも書かれていない特徴があるの、それは
「ぎゃあああああ!」
「ス、スパイダス様!」
使用者の魔力、適性によって炎の伝播速度が異なるの。
魔力が高くてアビリティ『神遣いの一族』で補正を受けた私のバーンウェーブの炎の伝播は異常に速いの、そのおかげで炎は糸を伝い
「も、燃えるダス!早く火を消すダス!!」
スパイダスはあっという間に火だるまになってパニックになってたし
「スパイダス様!ま、不味い俺の部下達が!」
私のバーンウェーブで張られていた糸が全部燃えてこの荒れ果てたお城はあっという間に火の海、そんな中を虫の魔物のリベルフライはいられるはずもなくほとんどがあっという間に消し炭になってった。
「ざまぁないわね!」
ちなみに私は無事だよ。だって私が作ったこの服は念入りに練った魔力でフレイムウォールを付加した特別製、服はもちろん髪の毛一本燃えることはないんだよ。
毒蛇が自分の毒で死なないようにラミアは自分の魔法で死ぬような間抜けじゃないの。
糸を焼き切り自由になった私はコンジットボウに魔力を込めて弦を張り魔力で矢を形成して瞬時にスパイダスを射る。スパイダスの頭と両手両足と胸2箇所、計7箇所に矢を射ち貫いて壁に標本みたいに張り付けにしてやった。黒焦げになっちゃったけどねー♪
私は元の姿に戻って
「な、な、な」
リベルフライとスパイダスを失ったドライビーが狼狽えてる。やっぱりこいつはリベルフライや他人頼りの数的有利の戦いしか出来ないみたい。
「自然の中で人虫族がラミアに勝てると思ってんの?」
あらやだ。つい本音が出ちゃった。それはそうでしょ?
蛇が、火を扱う事に長けてるラミアが虫に遅れをとる訳ないじゃん。そうして私は弓を構えようとしたら
「あああああああああ!!!」
「どべらっ!?」
なんかが勢いよく飛んできてドライビーを巻き込んだ。一体なに?よーく見ると人獣族みたいだけどおっきい方は冷たくなってるみたいだから死んでるー
「な、なにが?お、お前はレオエッジ!?どうして」
「た、助けてくれドライビー!!あ、あ、悪魔が、ぎゃあああ!!」
いきなり現れた人獣族になんか刺さった。ってあれキョウスケの棒苦無だ!って事は
「なんか暑いなここ、何処だ?」
お城の奥からキョウスケが出てきた!流石に私はびっくりしちゃった。嬉しくて♪
「あっキョウスケ!」
「ライミィ?成る程転送先はここか」
「転送先って?」
「いや、そいつが転送魔方陣に乗って逃げたから追いかけて来たんだよ」
キョウスケがくいって後ろを指差すと確かに空間魔法の魔力を帯びた魔方陣があった。でも残念。
「逃げた先、悪かったね」
私はさっきみたいに瞬時に矢を射りドライビーに撃ち込む。頭と両手両足と胸は同じだけど4枚ある羽も丁寧に1枚に1本ずつ射ちこみドライビーは壁に標本となって絶命した。
「さ、キョウスケ」
「ああ」
私とキョウスケは逃げようとするレオエッジってのを捕まえて笑顔で
「「お話の時間だ(だよ)」」