邂逅
聖女、ピアニストに会う
とある森を進む一行がいた。その内の一人が口を開く。
「で、ホントに『コレクター』はここにいるんでしょうか?」
その神官の若い女性は鈴が鳴るような声で丁寧な口調で仲間達に訪ねる。
「わからん。じゃが王からの依頼なら断れんじゃろ」
答えたのは魔導師風の老人男性。その口振りからやれやれと言った感じでかぶりを振る。
「まあ、いいじゃないの!とっととしょっぴけば万事解決だろ」
色黒の青年が気楽に笑う。その男の身軽な身なりをしており、どうなら格闘家のようで少しオーバーリアクションを交えて話していた。
「皆さん。気を緩めてはいけませんよ?どこから来るかわかりませんから」
「心得てます。聖女様」
先頭を歩く、腰に剣を携え金属製の鎧を着込む聖女と呼ばれた女の子。聖女にして勇者の称号をもつアリシアは
「パメラさん、聖女様って呼び方辞めてくれませんか?」
アリシアは困ったようにパメラに頼む、パメラと呼ばれた神官の女性は困惑し
「ですが……」
「パメラ嬢は真面目じゃのう」
「しょうがねえだろウィル爺さん。うん十年振りの聖女様だからな。その聖女様に遣えて嬉しいんだろ」
「それはお前もじゃろ。レイモンド」
アリシア一行は神聖王国の国王からの依頼でコレクターなる人物を捕らえる為に魔族国家との国境付近の森まで来ていた。
「それにしてもコレクターの野郎はなんでこんな辺鄙な所に来たんだ?」
「儂が知るわけなかろう」
「ですが、彼は何十人もの命を奪った罪人です。そんな人間を野放しには出来ません」
「一理あるの。あんなのを国外に出そうものなら神聖王国の信用問題じゃからなぁ」
「ウィル爺さん俺とパメラで温度差酷くね?」
「いつもの事、ですね!」
「その通りじゃ、アリシア嬢」
こんな調子で森を進む一行。どうやら何時もの事のようだ。しばらく進んで行くとふとレイモンドが足を止めた。
「レイモンドさん、どうしましたか?」
「音聴こえね?なんだこの音」
「儂は耳が遠いからの、わからんな」
「爺さん、魔法使えばよくね?」
パメラ達が喋っている中、アリシアも気が付いた。この音の正体が朧気ながらわかった。
「ピアノかしら?この音」
「ピアノ?」
いまいちピンと来ないパメラ達を尻目に音が聴こえた方向に歩みを進めるアリシア。すると開けた所に出て
「あ……」
いた。
いたのは一人の男の子。多分自分より年は変わらない男の子がピアノを弾いていた。その彼の周りには森にいたであろう動物達がおり、彼の演奏を聴いていた。その曲は聴いたことがない曲だったが終始穏やかでとても優しい印象の曲だった。
「アリシア様!いきなり走られては……」
パメラ達も追い付いて来たようだが、アリシアは目の前の光景に目を奪われて気が付かない。
しかし一匹の動物がアリシア達に気付き逃げてしまう。それに他の動物も気付き皆逃げてしまい彼も異変に気が付いたのか演奏の手を止めた。
「ん?どうしたんだ?みんな」
彼はキョロキョロと見渡しアリシアは彼と目があった。
変わった服を着た黒髪の男の子。整った顔立ちで何よりも彼の青い瞳が綺麗で印象的だった。目を奪われて何も話せず緊張して慌てるアリシアを察したのかウィルが前に出て
「お邪魔してすまんの。儂らは神聖王国から来た冒険者での、お主、コレクターなる人物を知らんか?」
「コレクター?申し訳ありません。自分は存じ上げません」
「そうか、にしてお主はここで何をしているんじゃ?」
「連れがいまして、お花を詰みに行っていますのでその間にピアノを弾いていました」
「お花?その辺に咲いてるのじゃ駄目なのかよ?」
意味が分かっていないレイモンドが口を挟む。するとアリシア達から批難の眼差しと
「レイモンドさん最低です」
「聖女様に同意します」
「察せんかいアホ」
厳しい言葉が、レイモンドはまだ分かっていないようで困惑していた。
「連れがすまんの」
「いえいえ、お気に召さらず」
「でも、どうしてこんな所で?」
「自分は旅のピアニストをしていまして、ご清聴して頂ける方がいるなら弾いているんですよ」
「それが、さっきの動物達?」
「ええ」
「へぇ、なら魔族でもかよ?」
空気を読めてないのかレイモンドの発言にまた批難の眼差しを向けようとしたアリシア達だったが
「勿論」
「へ?」
彼の即答に呆気に取られた
「ご清聴頂けるなら誰でも自分のお客様です。それ以上、それ以下はありませんよ」
と穏やかに言う彼に嘘は見られない。自分達が何か目の前の少年に言おうとした時
「お待たせ!」
一人の女の子が彼の側に来て抱きついた。私よりも少し背が高めで弓矢を携えた金髪の美少女。
「ごめんね、ってあれ?この人達は?」
「冒険者さんだって。この人達からコレクターを知らないかって聞かれたんだけど」
「コレクター?なにそれ?」
「連れも知らないようです」
「そうか、すまんの」
「いえいえ、では自分達はこれで。じゃあ行こうか」
「うん!」
その二人はアリシア達に別れを告げピアノを消してみせた。恐らく空間魔法を使ったのだろうかと考えている内に彼らは自分達が進んで来た道に向かって消えて行った。
横ではレイモンドがウィルに「言葉には気を付けんかアホ」と言って叱られていたがパメラは優しくアリシアに声をかけ
「何だか不思議な方々でしたね」
「ええ」
本当に不思議な人達だったなと思いアリシア一行はその後も進み何日もかけて捜索したがなんの成果も得られなかったのだった。
読んで頂き誠にありがとうございます!!
作者のみえだと申します。
これにて第1章終了となります。まだまだ若輩者で拙い部分ありますがブックマーク等を頂けるなら今後の励みになります。
第2章もよろしくお願い申し上げます。