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03

「ちめた!?」


 なぜか美榎さんが家にいなくて暇なのもありお風呂に入った結果がこれだ。張られたお湯(おみず)は確実に私の足を冷やしてくれた。


「仕方ない……お小遣いもあるしあの銭湯に行こう」


――というわけですぐ行動しやって来た私、なんだけど、


「あれ、あんたまた来たの?」

「うん、家の給湯器が壊れちゃってるみたいでさ」

「ふぅん、ま、お金をきちんと払えばご自由にどうぞ」

「ありがと」


 偉いな、ただ口の悪い女の子ってだけじゃない。今日だって何気に助けてくれたわけだしね。


「……あの、そんな見られてると恥ずかしい」

「あっ……今日はあのお姉さん一緒にいないの?」

「あれはお母さんだよ? 美榎って名前なんだ」


 そういえば美榎さんが間違って入ってしまわないか不安だ。お風呂の栓を抜いてくるべきだったと後悔する。菊池さんは「似てないわね」と呟いていた。


「義理の母なんだ」

「あ……ごめん」

「いや、別に大丈夫だよっ。それじゃお風呂に入ってきます!」

「うん、ゆっくり入りなさいよ。少なくとも300円分はね」


 入ってみたらどうやら貸し切りのようだと気づく。それでもきちんと洗うところは洗って家のとは違う大きい湯船につかると自然と息が零れた。


「どう? 湯加減は」

「うん、気持ちいいよ……って、ええ!?」

「なによ? 別にここにはあたしだって入るわよ?」


 同級生の裸を見るとかドキドキするな。一時期は女の子だと決めて動いていたときがあったからちょっとそっちに染まっているので揺れてる自分がいる。


「こんばんはー」

「こんばんはー! あー! 君は問題の結望ちゃんじゃないか!」

「げぇ!?」


 そりゃここら辺で銭湯って言ったらここしかないから利用していてもおかしくはない。が、なにも私が利用した日に限って来なくてもいいのに!


「あ、あば、あばば……杏奈先輩のは、はりゃか……」

「恋菜ー鼻血出てるよー」

「はっ!? いけないいけない……こんばんはです、杏奈先輩、夏海先輩」

「ええ、こんばんは」

「あれ? いつの間にか結望ちゃんが湯船にいな――いた!」


 くそぉ……なんとか気づかれずに出られると思ったのに。


「桃瀬さん」

「――っ!? は、はい?」


 やばい、菊池さんが興奮したくなる気持ちもよく分かる。女子高校生でそんな体つきをしていていいんですか?


「なんでいちいち逃げようとするんですか?」

「いえ、邪魔をしたくないと思っただけですよ」


 そうだ、おどおどする必要はない。なんでもかんでも遠慮すればいいというわけではないのだ。彼女がこちらを睨むのなら私も睨み返す、それくらいの度胸は私にもある。


「今度は逃さないよ、杏奈お願い」

「すみません、今度は私も絶対に逃しません」


 本気モードを前にして私の脚力では話にならない。ならば同性だからできる必殺の攻撃――お胸掴みで戦意をなくす!


「えい!」

「ひゃあああ!? あ、あのっ、そ、そんなことっ、あっ……」

「あ、ああ、あんたなにやってんのよぉ!?」

「ねえ、私の杏奈になにをしてくれてんの?」


 いいんだ、これで仮にぼこぼこにされても最後のお土産として至高の感触であった。だから私の方にタックルを仕掛けてきたふたりを避けず、私はなすがまま押し倒されることにしたのだった。




「いたたた……」


 なんか連日ツイてない。

 そしてなぜか私が桃瀬先輩を送ることになってしまった。


「……自業自得ですっ、あんなことをするなんて……」

「そもそもおふたりが変な絡み方をしてこなければいい話じゃないですか?」

「怖いとか言われてそのままにしておけるわけないではないですか」


 3年生の間では知らない人がいないとか言っていたっけ。だからこそ自負があるんだろう。でも、私みたいななんにも知らない人間がいて、そしてなにも分かっていなくせに「怖い」と評価を下した――そりゃ誰だって納得がいかないだろうけどさ。


「無理やり掴むようなことをしてこなければ私だって他の手段を選びました。私もそこまでアホじゃないんで」


 女の子が好きだと言ったとき「気持ち悪い」と言われたことがあったのだ。そのため対女の子のときだって慎重に動いている。あんなことほいほいとできるわけがない。ましてや桃瀬先輩のなんかはね。


「あと、なにもしてないのに睨むのやめてくれませんか?」


 さっきだいぶやらかしちゃったけど。

 そして件の彼女だが「え? 私が睨んでいたと言いたいのですか?」と実に白々しい反応を見せてくれた。勝手に怖い認定した私もあれだけど、この人もなんだか抜けてるというか自覚なしというか……やれやれ。


「今日はこれで失礼します。先程のはすみませんでした、それでは」

「……あのっ」

「まだなにかあるんですかっ?」

「暗闇が怖いので……家まで付き合ってください」


 はぁ? ……なるほど、そりゃ放っておけないわけだ。強気なところがあっても、こういう可愛い女の子らしいところがある。でも顔、体は綺麗、と、本当に卑怯だねこの人は。

 私も地味に怖いし一緒なのはありがたいけど、家から離れる毎に心細さがどんどんと上がっていくのだが……。


「あ、ここです、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「もうっ、それは言わないでください……」

「すみません……おやすみなさい」


 別に胸のことについては言ってないが、まあいいや。


「はい、おやすみなさい」


 もう私を睨んではいなかった。もし仮に及川先輩に近づいたとしても彼女がなんとかしてくれる、自分の元に戻ってきてくれると思っているからかな?


「うぅ、ひとりじゃ怖いよ……」

「そんなときに私の存在が重要だよね」

「ひゃっ!? あ、及川先輩……菊池さんはどうしたんですか?」

「もう送ってきたよー。杏奈のこと送ってくれてありがとね!」

「逆で良かったんじゃないですかね」

「まあまあ、家まで送ってあげるよ。今日のお詫びとしてさ」


 ありがたいので一緒に付いてきてもらう。


「でさ、恋菜って銭湯にいるときは大人しいよね」

「あ、それ分かります。私にも優しくしてくれて嬉しいです」


 ああいう切り替えができる子は偉い。


「で、どうだった? 杏奈、怖かった?」

「いえ、私が怖いと言ったのは発育の良さにですから。それ以外はまあ、人気なのも頷けるかと」

「でしょー! 杏奈は魅力的な子なんだから!」

「及川先輩は桃瀬先輩のことが特別な意味で好きなんですか?」

「んーそういうのはないかな、長年一緒にいるからこそみんなに認めてもらいたいってだけ」


 私がそっち系じゃないという判断をしての発言なのか?


「あの、私は女の子が好きですよ」

「え? へえ、彼氏がほしいとかじゃないんだ?」

「はい」


 それでも及川先輩は「そういう意味じゃないよん」と答えて私の手を握ってきた。暗闇なのと急に手を握られたことにどきりとしてしまった私はなにも言えず。


「別にいいんじゃない? そういう形でもさ」

「は、はあ……」


 本当に特別な意味で好きにすらなったことのない私では全然分からないままだ。早く体験したいとも思うし、別にいますぐでなくてもいいかなという気持ちもある。


「でも、杏奈は任せられないかな」

「そもそも釣り合ってないですよ、私があの人に」

「どうだろうねー」

「あ、ここです。ありがとうございました」

「うんっ、それじゃあね!」

「あっ!」

「ん?」


 いくら余裕そうな態度でいる及川先輩とはいえ女の子ひとりで夜道を歩かせるのは不安だし嫌だ。これは女の子好きな一面が多大に影響を及ぼしている。


「やっぱり泊まっていってください」

「え、いいの? それなら泊まらせてもらおうかな~」


 なぜか先程からずっと握ったままの手。言う際にちょっと力が入っちゃったから緊張したの伝わっちゃったかな?

 

「はい、特にお構いもできませんけど」

「大丈夫! お邪魔します!」


 そんな感じでよく分からない義務感から彼女を泊めることになったのだった。  

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