国宝に秘められた力②
今週はこれまでで一番キャラが可愛く書けたと思っています
弓を使うところなんて大河ドラマでしか見たことがない。しかも、日本の弓と西洋の弓では扱いも違うだろう。必死に昔見た映像を記憶の底から引き出しながら、構えてみる。
外に見える岩の一つに狙いを定める。
限界まで引き絞り、かつ心を落ち着けて指先の震えを抑える。そして、放つ。
矢は岩目掛けてまっすぐ飛ぶ――事はなく、空中でへにょんと勢いを失い、すぐ近くの地面に落ちた。
「――!!」
マリエスちゃんが肩を震わせて笑っていた。
「ええと、今のはそう、地面を狙ったんだ。うむ、狙い通り地面に撃てた。流石は私」
「えー、本当ですかー?」
「わかった、じゃあ今のは無し! もう一回!」
二回目の矢はさっきよりほんの少しだけ長く飛んで地面に落ちた。
マリエスちゃんがにやにや笑ってこちらを見ている。
「ぐぬぬ……よし、今度はマリエスちゃんやってみて!」
「ええ、私ですか!? 私も弓なんて触るもの初めてで、あやぽん様程のパワーもありませんから……」
自信なさげなマリエスちゃんが弓を引いて、放つ。が、矢は飛んでいかず足元にぽとりと落ちた。
弓の弦だけが震えている。
二人で目を合わせ、大笑いした。
「……ちょっと、笑いすぎですよあやぽん様! あやぽん様も二回やったじゃないですか。私ももう一回です!」
足元の矢を拾ってマリエスちゃんがもう一度撃つ。
矢は少しだけ飛んで、これまたすぐ近くの地面に落ちる。
「やっぱり私のほうが飛んだんじゃない? はい、もう一回私の番ー」
いつの間にか二人で交互に矢を撃って飛距離を競うゲームになっていた。
国宝を使ってこんなくだらない遊びをしたのは、きっと私たちが初めてだろう。
――
そして、買ってきた矢を全て打ち尽くした。
残念ながら一本たりともまっすぐ飛ぶことはなかった。しかしとても楽しかったので良しとする。
「いやー、だめだねこりゃ」
「駄目ですね。弓の特殊能力を使えるようになるどころではないです」
ということで、ひとまずこの弓を戦闘で活用するのは諦めることにした。
「あやぽん様にも苦手な事があるんですね。ちょっとビックリしました」
「いやいや、得意なことのほうが少ないくらいだよ私はー。勉強もそこそこ、運動は出来たほうだけど結果は出せなかったし」
「そういえば、あやぽん様は戦闘には慣れているのですか? 我が国の騎士に囲まれた時も、二階堂に立ち向かった時も、魔獣の群れに囲まれた時も、一切怯んでいませんでした。あんなに勇敢な人、私はこれまで見たことがありません。凄くかっこよかったです!」
「ありがとう。でも戦闘慣れなんかはしてないよ。元の世界では、学費を自分で稼いでた以外は普通の学生だった。ただし、可愛い女の子が辛い目にあわされた時には絶対に助けるって決めてたよ」
「よければ、あやぽん様の武勇伝聞きたいです!」
「そんなに誇れる様なエピソードはないけど……そうだな、満員の列車の中で痴漢されてる女の子を見かけたから、痴漢を次の駅で引きずり降ろして線路に投げ込んだことがある」
「な、なんてことするんですか……!」
「そのあとやってきた警察官が”ちょっと触られたくらいで大げさだなーはっっはっは”とか抜かすからまた線路に投げ込んでやったり」
「なんてこと! するんですか!」
「いやー、そのあと仲間の警察官を呼んで追いかけまわされちゃった。おかげで一駅分全力で走るはめになったよ。高校受験の朝だっていうのに」
マリエスちゃんが大きなため息をついた後、
「あやぽん様の度胸と冷静さがよくわかりました」
とこぼした。
「でも凄いです。初めて会った女の子のためにそこまでできるなんて。私も助けてもらいましたし」
それからは、二人でずっととりとめのない話をしていた。元の世界の文明の話。この世界の歴史の話。マリエスちゃんが魔術の学院を飛び級であっという間に卒業した時の話。いろんな話題で盛り上がって、途中で””アレ、これデートみたいじゃない?”とか多分私だけ変に意識したりして。列車の中の時は過ぎていった。
「あれ? あやぽん様、腕輪の形が少し変わっていませんか?」
いつの間にか、腕輪に小さな溝が出来ていた。丁度硬貨を入れられる程度の大きさの。
そして、能力が使用可能になったということが腕輪から直接脳に伝わってきた。
――スレイヤーズの期限まで残り九日
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