国宝をかっぱらう!
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「ほうほう、なかなか高そうなものが揃っているじゃないの」
二階堂を池に沈めてすぐ、私とマリエスちゃんは宝物庫に足を踏み入れていた。
本来は騎士に警護され、鋼鉄の扉で閉ざされているはずだが、警備は二階堂の襲来で逃げ出し、扉はさっき私が二階堂をぶつけたときに壊れてしまった。
つまりしばらくの間、完全に無防備なわけである。
広くはない部屋だが、並んでいる装飾品や武器はどれも貴重な品であることがただの女子高生の私にもわかる。
「あやぽん様、まさか能力を持った国宝級の装備を持ち出すつもりですか!? 絶対にまずいですよ! いくら異世界人でも国宝を持ち出すことを許してもらえるわけがありません! 泥棒ですよこんなこと!」
「泥棒じゃないよ、しばらく借りるだけだって。まぁマリエスちゃん、考えてみてよ。十日以内にスライバー王国、だっけか? の異世界人を倒さないと私たち死んじゃうんだよ? 少しでも生存確率を上げるために、やれるべきことはやっておいたほうがいいと思わない?」
「それはそう、ですが……」
「それに、さっきマリエスちゃん国のためにって言って殺されかけたじゃん? そんな国に義理立てする必要無いんじゃない?」
「それは……確かにそうですね。私とあやぽん様を殺そうとしたこの国が、国宝を持ち出されようと私の知ったことじゃないですね。思い出したら段々と腹が立ってきましたよ! いいですよ、持てるだけ持っていきましょう!」
「そう来なくっちゃ! マリエスちゃん、この一番大事そうに保管されている”初代国王の剣”っていうのは何?」
「文字通り、レーグを建国した初代国王が愛用していた剣ですね。年に一度の式典でも用いられる、この国で最も価値のある剣ですよ。特殊能力等は特に備わっていません」
「能力がないならただの棒切れじゃん。鉄屑屋に売るくらいしか使い道が思いつかないからほっとこう」
「国民にとって本当に大事な剣なので、あんまりそんなひどい事を言ってはダメですよあやぽん様……。能力が備わっているといえば、この”種の剣”ですね。持ち主の精神を映しとって能力を発現させる剣です。前の持ち主の能力が残っているかもしれませんが、そのうちあやぽんさま独自の能力が発現しますよ」
「マリエスちゃんは物知りだなぁ、頼もしいよ」
「えへへー、あやぽん様に褒められちゃいました」
マリエスちゃんの顔に満面の笑みが咲く。それだけで部屋の中が少し明るくなったような気がする。
(スマートフォンの充電が切れていて今の笑顔を写真に撮れないのがすごく残念だ!)
「そしてこちらの”雷光の弓”と”等価交換の腕輪”も能力を持った装備です。こちらについては私もみるのが初めてで、どんな能力を持っているのかも分かりません」
「とりあえず役に立ちそうだし持っていこう」
「ハッ! 今気づきました。あやぽん様、まさか最初から宝物庫の中身を狙って、二階堂の能力を逆手にとって宝物庫の扉を破壊したのですか……!?」
「にっしっし、正解~! 二階堂の鎧の爆発で壁が壊れたのを見て、閃いたんだ」
そう、ここまでの流れは全て計算通りだ。一つだけ計算外なことがあったとすれば、吹っ切れたマリエスちゃんがノリノリなことである。
結局、持っていくのは”種の剣”・”雷光の弓”・”等価交換の腕輪”の三つだけにすることにした。一旦これらの装備を崩れたがれきの下に隠しておく。
特殊な能力のない宝飾品や歴史的価値の高いお宝なども持っていきたいところだが、換金しにくい上に足が着きそうなため置いていくことにする。
「でもあやぽん様、こんなに国宝を持ち出したら必ずばれてしまいますよ? 大丈夫でしょうか?」
「それは大丈夫。私に考えがある」
一時間後。私達は再び、最初に降り立った広間に戻っていた。
二階堂の襲撃で逃げていた騎士たちやガリエーも呼び戻し、私が呼び寄せられた時と同じ面子が集まっている。私は全員の前で、二階堂との戦闘について報告をしていた。
――
「……こうして、二階堂の持つあの剣を木っ端みじんに壊してやったんですよ」
「おお、何という機転と度胸、お見事でございます」
私が何か言うたびにガリエーと騎士たちが感心したような声を上げながら何度もうなづく。感動して泣き出している者もいた。
――
「……と言うわけで、二階堂の獲得していたスキルを見破ることができました」
「素晴らしい観察力と洞察力でございます!」
――
「そうして二階堂は、まるで自分の家のリビングに入るような遠慮のなさでに宝物庫に入り、あろうことかこう言ったんです、“ほうほう、なかなか高そうなものが揃っているじゃねえか”と」
(私がでっち上げた)二階堂が宝物庫に侵入する下りに差し掛かると、場の空気は一変。全員が悲しげな表情になる。
「……そうして奴は、能力を持った剣や腕輪なんかを、別の能力者の時空を歪める力を使って自分の国に送っていったのです」
「お、おのれ二階堂め! よくも我が国の国宝を盗んだな!」
周りの騎士たちから怒りの声が上がる。
「そうして二階堂が、宝物庫の一番奥に保管されていた初代国王の剣に手を伸ばしました。そしてあろうことか、こう言ったのです“何だこのボロい剣は? 初代国王の剣? 能力がないならただの棒切れじゃねえか。まぁいいや、鉄屑屋に売っておやつ代の足しにしてやるよゲッヘッヘっへ”と」
周りの騎士たちがますます怒り出す。
マリエスちゃんが”いやそれ言ったのあやぽん様ですよね?”と言いたげな目で見てくる。
「これを聞いて私は完全にプッツンしました。まだ数時間程度ですが、この国に降り立った異世界人として、この国への侮辱は許せません。だから私はこういってやったんです、“待ちな二階堂。その剣はこの国の誇りだ。汚い手で触るんじゃねえ。どうしても欲しければ、この私を倒してからにしな”ってね」
まわりの騎士たちから歓声が湧き上がる。
「流石あやぽん様、俺たちの国の誇りを理解してくれているぜ!」
「初代国王の剣を守ってくれてありがとう、本当にありがとう!」
――
「……そして鎖で縛り上げられて身動きが取れなくなった二階堂は、今も中庭の池の底でおねんねしてるって訳です」
私が話を終えるころには、感動で全員が泣いていた。
「私が間違っておりました。貴方様こそ、我が国の代表に相応しい、誇り高く最強の異世界人でした。数々の非礼を、どうか、どうかお許しください……!」
「えー、しょうがないなー。いいよー」
(マリエスちゃんを殺そうとしたことは許さないけどな。これについては国宝を借りる分でチャラということにしておいてやろう)
「盗まれた国宝についてもご心配無く。私がついでに取り返して見せましょう!」
「本当に、本当にあやぽん様には何とお礼を申して良いやら!」
誰に言われるでもなく、周囲の騎士たちは揃って膝をついて敬礼のポーズをとっていた。
「この後は国王との謁見の予定でしたが、国宝を盗まれたショックで国王が寝込んでしまったためまたの機会にさせていただきたく……」
「私は早いところ国に乗り込んで、スレイヤーズの能力の持ち主を倒さなきゃいけないんでね。悪いけどこの後すぐに出発させてほしいな。国王に会うのは、国宝を取り戻してからでもいいでしょ?」
「承知いたしました。それでは早速、旅の用意をいたしましょう」
ガリエーが合図すると、彼の部下達が服やカバンを持って出てきた。
「こちらは、国の代表の異世界人のための支給品一式でございます。当面の生活資金とこの世界の衣類、地図類、国内の宿で使える宿泊券、その他旅をするために必要な物が入っております」
私はずっしりと重い袋を受け取る。
「異世界人の代理戦争のルールに従い、支給品はどの国も同じものを渡しております。ルールがないとどの国も際限なく支援することに予算をつぎ込んでしまい、代理戦争をしている意味がなくなってしまいますから。どうかご理解ください」
確かにその通りだ。本当は大金と万全の支援体制が欲しかったが、仕方ないだろう。
「しかし、国の命令ではなく自分の意志で異世界人ついていくのは自由。ですよね?」
そう言って、マリエスちゃんが歩み出て来た。
「あやぽん様、十日以内に能力の持ち主を倒せなければ死ぬのは私も同じ。どうか、私も連れて行ってください。きっと足手まといにはなりませんから」
……これは予想していなかった。最高にうれしい誤算だ。
「勿論。こっちからお願いしたいくらいだよ、マリエスちゃん」
差し出された小さい手を握る。するとまた拍手が湧き上がった。
私は城の小さな部屋を借りて、支給された服に着替え、ついでに隠しておいた国宝をこっそり回収する。貰ったカバンが大きかったので、何とか隠し通すことができた。
「ご武運を!」
「「ご武運を!」」
ガリエーと騎士達が見送ってくれる。
こうして私とマリエスちゃんの旅が始まった。
スレイヤーズのタイムリミットまで あと10日。
良い子は絶対にあやぽんの真似はしないでください。