VS最強の盾&最強の剣①
サクッと書き進めていきたいですー
「何故だ、何故ここに他国の異世界人が!?」
騎士たちが一斉に新たな異世界人に槍を向ける。しかし当の本人はまるでそんなことを気にしている風はない。
「突然だけどさ。最強の異世界人って、どんな奴だと思う?」
そう言ってその紅い髪の青年は、怪しく光る剣をマリエスちゃんの腕に振り下ろす。
普通の剣であれば腕が両断される一撃。だが、腕は斬り落とされないどころか、薄く血がにじむ程度にしか傷ついていない。
その代わりに、斬りつけられた腕に蛇のような痣が現れた。
「この剣は仲間の異世界人の能力”スレイヤーズ”の力を帯びている。物質には殆ど傷を付けられない代わりに、寿命を斬り落とし、相手を三回斬ると即死させる最強の剣だ」
改めて青年は光る刀身を掲げて見せつけてくる。
「一回斬っただけでも相手の寿命を斬る。さっきの一撃で、この女の子の寿命をあと十日にまで斬り落とした。この能力の持ち主を倒せば寿命は元に戻るが、まぁそんなことはFランク能力者のお前には無理だ」
「お前、よくもマリエスちゃんを……!」
私のはらわたは怒りで燃えていた。
別に私は正義感が強いほうではない。目の前で誰かがゴミをポイ捨てしていても知ったことではないし、疲れている日は老人に電車の席を譲らないこともある。今斬られたのが男の騎士の誰かだったとしたら、私は”そうか、酷いことをするやつだなぁ”程度の感想しか持たなかったと思う。
でも、目の前で可愛い女の子が軽々しく傷つけられるのは腹が立つ。能力の説明のためだけにマリエスちゃんに手を上げたこいつは、絶対にボコボコにして後悔させると決めた。
「遅れたけど、自己紹介しとくぜ。俺の名前は……」
「男の名前には興味ねぇっすわ!」
足元に転がっていた、さっき破壊した床の煉瓦を屑野郎の顔面に全力で投げつける。が、赤い盾が青年の左手に出現してそれを防ぐ。盾の中央には白い星のマークが二つ付いていた。
「しかたねぇ、じゃあ先に俺の能力の紹介をしとくぜ。俺自身の能力は”盾の勇者の成り上がり”。最強の防御力と、敵を倒す度にスキルポイントを獲得して無限に成長する盾だ。俺はお前より数時間早くこの世界に召喚されてな。既にここに来るまでに何体も魔獣を倒してる。その分、スキルポイントが溜まってるのさ」
得意げに能力の説明をする青年の後ろから、数人の騎士が槍で攻撃を仕掛けてようとする。いいぞ、刺し殺せ!
「盾が成長するところを見せてやるよ。スキルポイント消費、”鎧形態変形”スキル獲得!」
盾の中心の星のマークが一つ増える。そして盾が変形し、青年の身体を覆う鎧になる。騎士たちの攻撃はあっけなく鎧の背の部分で弾かれてしまう。
「これで盾で守られていない部分を攻撃されることもない。俺は正真正銘無敵になったわけだ」
臆することなく騎士たちが青年を囲んで槍で突く。しかし鎧は壊れるどころか傷がつく気配さえない。
「おいおい、代理戦争なんだから国に所属する騎士たちが俺を攻撃するのはルール違反なんじゃねぇのかよ? ま、別に構いやしないけどな」
青年がスレイヤーズの力を持つ剣を振るい、一本の槍に軽く触れる。その瞬間、急激に槍が錆び始める。何十年も持つはずの槍が、一瞬でずぼろぼろの鉄屑になった。
「寿命があるのは生き物だけじゃない。物だってなんだって、いつかは錆びるなり朽ちるなりするさ。しかも人間と違って、ただの物体なら一回斬っただけで完全に破壊できる。防御は無意味だ」
今度は騎士の鎧を軽く斬りつけて、先ほどと同じ鉄屑に変える。
「そんな、鎧さえあれば怖くないと思ってたのに……! 化け物め!」
鎧を破壊された騎士が悲鳴を上げて逃げ出す。つられて他の騎士たちも、ガリエーも、部屋の隅にいた魔術師たちも一斉に逃げだす。
広間には青年と私、そして拘束されて逃げられないマリエスちゃんだけが残された。
「最初の質問に戻るぜ。最強の異世界人はどんな奴か? 答えはこれ。最強の攻撃力の”スレイヤーズ”と最強の防御力と成長性の”盾の勇者の成り上がり”。この二つを持つ、スライバー王国代表のこの俺”二階堂 ダイゴ”こそが最強の異世界人だ!」
二階堂の叫びが部屋に響く。
……。
なんだ。
他の異世界人の能力って、所詮こんなものなのか。
「丁寧な説明どうも。おかげであんたの能力は全部わかった。その対処法もね」
「へぇ? 対処方法が分かった? 面白いこと言うじゃねぇか」
剣を肩に担ぎながら二階堂が近づいてくる。兜の下で見下した笑みを浮かべているのが声の調子で伝わってくる。
「じゃぁこれは、どう対応するんだよ!」
振り下ろされる剣。
逃げるでも避けるでもなく、私はその斬撃を掌で掴んだ。
「何!?」
「三回斬られれば即死する能力。それは逆に言えば、二回までは斬られたところで問題ないってこと」
「お前、話聞いてなかったのか!? 一回斬られただけでも寿命があと十日まで縮むんだぜ?」
「もちろん聞いてたよ。能力の本来の持ち主を倒せば寿命は元に戻るってところもね。どうせ他の異世界人は全員倒さなきゃいけないんだ、おんなじことだよ!」
私は右掌に力を込める。刀身にひびが入り、粉々に砕ける。
「まさかスレイヤーズの能力を、こんな方法で攻略するとは……!」
「さて、これで針抜きが終わった」
「針抜き? 何のことだ?」
二階堂がまるで意味が分からない、といった声を出す。
「あんたは最強の攻撃力と最高の防御力を持つ俺こそ最強、と言っていたけどそれは違う。あんたはいいところハリネズミ程度の能力だ」
鎧の腕を掴み、頭上で一周振り回し、投げ飛ばす。悲鳴を上げながら二階堂の体が放物線を描いて吹っ飛び、床で数回バウンドし、壁にぶつかって漸く止まる。
「ハイ、突然ですがここであやぽんクイズです」
「ク、クイズだと……?」
恐怖と混乱からか、二階堂の声が震えている。
「あやぽんクイズ第一問。針を抜かれたハリネズミとライオンが喧嘩します。どちらが勝つでしょうか?」
あらび様(TwitterID:@Y04988399)に挿絵を描いていただきました!
感謝です!