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異世界転移

疲れた時でもサクッと読める軽いノリで

行きたいです!


是非読んでください!




「冬に食べるコンビニ肉まんは美味しいなあ」


 放課後のバイト上がりには、コンビニで買ったおやつを食べ歩きするの。これが私の至福の時間。


 そんなごく普通の女子高生ライフを送る私の足元に、突如ぽっかり穴が開く。


「はい?」


 悲鳴を上げる間もなく、私の身体は穴に吸い込まれた。




 次の瞬間、私は見たこともない西洋風のやたら広い部屋に立っていた。


 現代日本ではなかなか見ることのない煉瓦造りの床には、素人目にも高価だとわかる絨毯が敷かれている。

 足元を見ると、私を中心としては何やら文字らしきものと幾何学模様がびっしりと書き込まれた円が何重にも広がっていた。


 そして私を囲むように十数人、これまた西洋風鎧に身を包んだ騎士が立っていた。手に持った槍は私に向けられてこそいないが、何かあれば即座に襲い掛かってきそうな緊張感がある。


「ようこそいらっしゃいました、異世界人様」


 騎士達の奥から、一人の豪奢な服に持を包んだ中年男性が声をかけてきた。

 異世界人様……? 私に言っているのか?

 これはよく言う異世界転移というやつか。まさか実在するとは。


「もちろん貴方様のことでございます。さぁさぁ、まずはこちらへどうぞ」


 低姿勢の中年男性にテーブルに案内された。上には見たことのない、豪勢な料理が並んでいる。


「わたくし、代理戦争総括を任されておりますガリエーと申します。異世界人様、どうぞお召し上がりになりながら聞いてください。……結論から申し上げましょう、貴方様には、我が国代表の異世界人として闘っていただきたいのです」


 ガリエーいわく。

 有史以来、この世界では小国同士の戦争が続いていた。しかし、魔獣やら災害やらが続きどの国も戦争を続ける力が尽きてきた。しかし、話し合いだけでは解決できない問題がある。


 そこで始まったのが、この異世界人を使った代理戦争。

 元々10年周期で異世界人が100人一斉にこの世界に転移する現象が起きており、全員が特殊能力を持っているのだという。


 魔術の儀式で異世界人の転移する位置を自国に引き込み、国の代表にする。国の力が大きければ大きいほど優秀な魔術師を多く抱え、より多く、より強い異世界人を呼び寄せることができるため、これまで通り騎士を戦わせるのと戦力のバランスは変わらない。


「つまり私たち異世界人に代わりに戦わせることで、自国の人間を消耗せずに国同士の問題に決着をつけることができる、と?」


「ええ、その通りでございます。貴方様にはぜひ、我が国”レーグ”の代表異世界人として他国の異世界人と戦っていただきたいのです!」


 ずいぶんと勝手な話だ。そんな私の思いが顔に出ていたのか、すぐに中年男性は取り繕う。


「重ねて申し上げますが、異世界人様がこの世界に呼び寄せられるのは元々発生していた自然現象であって、我々はその着地点を引き寄せただけでございます。異世界人同士の戦いも、降伏させるだけで命まで取る必要はありませんのでご安心を」


「ふーん。で、私たち異世界人にとってのメリットは? まさかタダ働きってことはないでしょうな?」


「もちろん、報酬を用意しております! 代理戦争が終結すれば、結果にかかわらず人生を10回遊んで過ごせる程の報酬をお約束いたしましょう」


「負けても殺されない戦いに参加するだけでそんなに!?」


 最近うさんくさい迷惑メールでもそんなに都合いい話飛んでこないぞ??


「国の命運を左右するほどの戦いですから、この程度安いものでございます。そして更に、他の99人を倒した異世界人には、”あらゆる願いを叶える魔術”を使う権利が与えられるのです」


 あらゆる、願いを……!?


「例えば先代の勝利した異世界人様は病の恋人を救うために”この世界から全ての病を消し去る”ことを願い、大陸の全ての病院は廃業してしまいました」


 長ったらしい説明は途中から聞いていなかった。

 だったら私が願うのは!


「例えば、世界の法則を変えて”女の子同士で生殖活動が可能になって女の子同士で恋愛するのが常識になってしかもハーレムが許される風潮になってその上で私だけやたらめちゃくちゃモテるようになる”とかでもいける?」


 一瞬ぽかんとする中年男性。しかしさすがはプロ、すぐに思考を取り戻す。


「……か、可能で御座いますとも! 恐らく」


「あ、あと男は邪魔なのでみんなポメラニアンにでも変身させたい」


「ぽ、ぽめ……?」


 申し遅れましたが、私女の子が好きな女の子なのです。

 好きな花は百合。

 座右の銘は”オスはコンセントだけで十分”


「いや待って……! 過去を改変して、”隣の家に住んでいて家族ぐるみで付き合いがあって二階の窓越しに毎日のように遊びに来て登下校ももちろん一緒で付き合おうなんて一度も言っていないけど周りには完全に付き合ってるって認識されていてでも二人ともそれが満更じゃない、みたいな関係のおっぱい大きめでおっとり系の幼馴染ができる”という願いも捨てがたい……! そして水族館デートの帰りに予報ハズレの雨に降られて雨宿りにうっかりホテルに入ってしまってさぁ大変、みたいな展開になって……!」


「は、はぁ……」


「それか、”マンションの隣の部屋に未亡人の色っぽいお姉さんが引っ越してきて貧乏学生の私を良くご飯に呼んでくれるんだけどある日お部屋に呼ばれて成り行きでお風呂を借りたら『最近身体が火照っちゃって困ってるのよ……』なんて体験もしてみたい!」


「ええと、とにかく! 我が国に協力して頂けるということで宜しいでしょうか? 個人的には願いを叶えられると少々困るかもしれないのですが……」


「ええもちろん! 他の異世界人なんぞ(可愛い女の子以外)全員ぶっ殺して、ついでにこの……ナントカって国を大陸最強の国に発展させてやりましょう!」


「別に殺す必要はないのですが……。とにかく、心強い限りです。よろしくお願いいたします」


「ええとどうも、異世界の日本から来た――」


 本名を名乗ろうとしてふと思う。

 こんな右も左もわからない世界でいきなり本名を名乗るのってなんか抵抗あるな。


「――日本から来たあやぽんです。”あや”が家名で”ぽん”が名前です。どうぞよろしく」


「あやぽん様ですか……変わったお名前で……」


「おっと。我が一族の名と、両親から授かったこの名前に何か文句でも? 喧嘩なら買いますよ?」


「いえいえとんでもない! 非常に立派なお名前でございます! さあさあ、早速ですが、異世界人様の特殊能力を鑑定させて頂きたく。あやぽん様には一体どんな素晴らしい能力が宿っているやら……」


「お、早速能力鑑定やっちゃいます? やっぱ定番ですからねえこういうのうっへっへっへ……」


「おお、能力鑑定の際には異世界人は必ずニタニタと笑う。伝承の通りですな。はっはっは」


「やかましいわ」


 中年男性が部屋の隅にいたフードを被った集団に手招きする。その中から背の低い少女が歩み出てきた。


「今回異世界人様の引き寄せ儀式のリーダーを担当させていただきましたマリエスです。よろしくお願いいたします」


 年は私の一つか二つ下くらいだろうか。

 額で切り揃えられたさらさらの綺麗な金髪。シミ一つない真っ白な肌。そこにまじめで大人しそうな雰囲気が合わさり、規格外の可愛さを生み出している。

 学校にいたらまず男子からの、いや女子からも人気ナンバーワンになっていただろう。

 ちょっと気を緩めたら体が勝手に抱き付いてしまいそうだ。


 さっきガリエーは異世界人の引き寄せには優秀な魔術師が必要だと言っていた。マリエスちゃんも優秀な魔術師なのだろう。

 真面目そうだし、きっと周りの子供が遊んでいる時でも努力して魔術に打ち込んだんだろうなあ。健気な子だ、幸せになって欲しいなぁ……!


 あー、こんな可愛い妹か彼女が欲しかったなー!


 マリエスちゃんが装飾の施された杖を掲げて、呪文のようなものを唱える。すると、私の身体を白い光が包んでいく。


「……鑑定結果、出ました。これは……!」


 マリエスちゃんが杖を取り落とし、崩れ落ちる。


「能力ランク”F”、固有名さえない単なる”筋力強化”の能力です。筋力と耐久を十倍から数十倍に向上させる事しかできず、確実に今回召喚された異世界人の中で最弱です……」


 マリエスちゃんの報告に周囲がどよめく。


「ええと、ねぇマリエスちゃん。実は私の能力が規格外に強すぎて計測できてない、という可能性はないの?」


「あり得ません、計測は正常に行えています……」


「うーん、能力が今後成長して、AランクSランクに変化する可能性とかは?」


「それもあり得ません。ちなみに、Fランク能力者が召喚されることは珍しく、最後に召喚されたのは三十年前になります。そして私の記憶が正しければ、この世界ではそれほど強い存在ではない亜人との戦闘で脱落しています……」


「あっちゃー」


 マリエスちゃんの報告に周囲がどよめく。私の口からもため息が出た。

 しかし落ち込んでいても始まらない。試しにテーブルの上のナイフを手に取って力を込める。すると、きゅうりのようにべっきりと真っ二つに折れた。


「うーん、この能力別に悪くないんじゃ……」


「――足りぬ!」


 ガリエーがテーブルに拳を振り下ろして叫ぶ。


「全く! 足りぬ! 他国の異世界人に対抗するのにたった一人、しかも亜人に後れを取る程度のFランク能力者だと!? 毎回AランクSランク異世界人を複数人召喚する他国と、どう渡り合えというのだ!」


 テーブルの上の皿をひっくり返しながらガリエーが怒鳴り散らす。


「もう一度だ、もう一度異世界人の引き寄せ儀式を行え! 今ならまだ一人程度は引き寄せられるかもしれんだろうが!」


「しかし、もう我々には魔力が……」


 マリエスちゃんが反論すると、部屋の隅の魔術師達もうなずく。


「この際だ、手段は選ばん。禁術を使え。魔術師の肉体を生贄として強力な魔術を発動させる禁術があるのだろう? お前ほどの魔術師を生贄とすればもう一度異世界人の引き寄せ位はできるはずだ? 違うか?」


「それは可能、ですが……!」


 一人の騎士が泣き出しそうな顔のマリエスちゃんを床に押さえつけ、鎖でその体を縛り上げる。そして強引に魔法陣の中心に向かって引きずっていく。


「お待ちください、私はまだ死にたくなんて……! いやあああああああ!」


 一人の騎士がマリエスちゃんに槍を振り下ろす。

 だが、そうはさせない。

 私は槍の柄を掴んで強引に止める。


「貴様、何のつもりだ……?」


「”何のつもりだ”はこっちが聞きたいんだけど? こんな可愛い女の子、生贄なんかにして良い訳がないでしょうがクソジジイ」


 足元の煉瓦でできた床を渾身の力で踏みつけて破壊する。これで魔法陣は壊れて、儀式を再開できないはずだ。


「よ、よくも魔法陣を!! もういい、全員でこの異世界人を取り押さえろ! 殺しても構わん!」


 広間の騎士全員が槍を私に向けて構える。


「ヘイお兄さん、ちょっとこれ借りるよ」


 マリエスちゃんを刺そうとしていた槍を力づくで騎士から奪いとる。そして振り回す。

 それだけで私に向けて迫っていた槍を弾き飛ばし、手にしていた騎士達が無様に転がっていく。


 当たり前だが、単なる女子高生だった私に槍の心得はない。

 だが、攻撃にビビりさえしなければ腕力に任せて圧倒できる。次から次へと押し寄せる騎士たちを華麗に、とはとても言えないが危うげなく槍一本で捌いていく。


「もう良い。下がれ! お前たち!」


 怒鳴り声が響く。騎士たちの身体が硬直し、そそくさと私から離れていく。代わり、に一際体格の大きい鎧姿の男が歩み出てきた。


「お前たちは手を出すな。たかが力が強いだけの小娘、寄ってたかって斬りかかるなど恥と心得ろ」


 大男が掲げた大ぶりな両手剣が陽光に煌めく。


「我が名はレーグ王国騎士団長、ミキューツ!」


 名乗りを上げると、それだけで周りの騎士たちから歓声が上がる。


「王国最強の男、ミキューツさんが出たならもう怖いもんはないぞ!」


「小型とはいえ竜をたった一人で撃退したミキューツさんが負ける訳ねぇ!」


「俺はミキューツさんが圧勝する方に全財産賭けるぜ!」


 騎士たちが好き勝手はやし立てる。当のミキューツもやれやれと、いいつつまんざらではなさそうな顔をしている。腹立つなコイツ。


「異世界人よ。こちらの都合ばかりですまないが手荒な対応をさせていただこう。いざ尋常に、勝……ブッ!?」


 騎士団長が間抜けな声を上げて吹っ飛んでいく。その肩には私が全力で投げた槍が刺さっていた。煉瓦でできた壁に衝突した騎士団長は、白目を剥いて気絶していた。

 広間が一気に静まり返る。


「さて、この国最強の男を真っ向勝負で文字通りぶっ飛ばしたわけだけど、これでもまだ私を国の代表異世界人と認めるつもりはないかな? 異世界人召喚総括のガリエーさん?」


「で、ですがそれでも他の異世界人と比べて……」


「そんなことで悩む必要はないぜ、おじいちゃん」


 広間に若い声が響く。


「何故って? それはあの女が今ここで、異世界人サバイバル最初の脱落者になるからだよ」


 鎖で拘束されているマリエスちゃんの後ろに、いつの間にか青年が立っていた。


 ブレザータイプの学生服を着ているが、髪は赤くどこの学校へ行っても校則違反になるだろう。顔にはふてぶてしい笑みが浮かんでいる。


 そして何より目を引くのが、右手で持つ異常な輝きを放つ剣。光を反射しているのではない。剣自体が眩く発光している。触れてみたいと思う美しさと、触れたくない禍々しさを併せ持っている。


 なるほど、一目で分かった。

 この男が、蹴落とすべき敵、能力を持った異世界人なのだと。


お読みいただきありがとうございました!


この文章の少し下にある評価ボタンなど押していただけると励みになります、よろしくお願いします。


知り合いの絵師さんがあやぽんのイラストを描いてくださったので、二話の一番下に貼っています。是非見てみてください!

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