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うだつの上がらない俺はそれでも前に進む

 翌日、俺はいつも通りに日課となったスライム退治に向かっていた。


 あんな夜を過ごしたのだ、悶々としてろくに寝られなかったせいで目の下にはくまができている。

 あんなところで日和ってしまった自分の不甲斐なさに自己嫌悪したり、リンカにはどう思われたのかとか今でも悶々とした思いは止まず歩く。


 まぁいいさ、元々友達でも何でもない関係性だ。何かが得られたわけでも、失ったわけでもないんだし、いい加減切り替えよう!


 そう思った矢先だった。


 のどかな草原の道なり、立ててある柵に寄りかかり立っているリンカの姿があった。顔を合わせたくない想いから咄嗟に逃げようかとも思ったがもう遅かった。


「おーい、来るの遅いよー!」


 ん、俺に言ってるのか? 待ち合わせなんてしてないぞ?

 などと思いながらも片手を上げあいさつをする。


「よ、よう。どうしたんだ?」

「んー、今日はねコウタにご報告があります!」


 えっ、何突然? 昨日の今日で悪い予感しかしない。もしかして俺なんかの罪で訴えられちゃうの?


「わたしね、リョーマのパーティー抜けてきちゃった」


 リンカのテンションは高めで言葉が浮ついている。


「ど、どゆこと?」


 あまりにも予想外な報告に俺の思考が追いつかない。


「それはもう一つの報告と関係があるから、そっち先に言っちゃうね」


 リンカは深呼吸をするように息をつく。心なしか顔が赤いような気がする。


「わたし、コウタとパーティー組むことにしたから!」


 んんっ、なんの話だ? いつそんなことが決まったんだ? マリーさんか? 当事者の俺は聞いてないぞ?

 予想外な報告が続き、だいぶ頭が混乱してきた。


「ど、どゆこと?」


 再度同じセリフを言ってしまう。どもるところまで一緒で間抜けっぽい。


「ほら、コウタ魔力が3しかないんでしょ? だったら優秀な魔法使いが入り用でしょ? 聞けばこの世界に来たばっかりっていうしツテもないだろうし、じゃあわたしが入ってあげるしかないよね?」


 だんだん意図が読めてきて、頭の整理がついてきた。


「えーと、じゃあそのためにリョーマのパーティーも抜けたと?」

「……うん、そうなるね……」


 『それって俺と一緒にいるために?』


 その言葉が危うく口から出そうになったが寸でのところで呑み込んでしまった。


「そ、そうなんだ? えーと、今からスライム退治に行くんだけど、よかったら一緒に行く?」


 代わりに出たのがこんな『下手なデートの誘い方』みたいな台詞だった。


 無意識的に先に進むことを怖がり、相手のことを考えてると言い訳して本心に踏み込めない。こういうところが俺がうだつの上がらない要因なのかもしれない。

 さっき呑み込んだ言葉を言っていたらリンカの反応はどうなっていただろうか? 


「うん、もちろん!」


 こうして俺とリンカはスライムを探し歩き始めた。


 なにやら妙なことになってしまった。

 俺はおそらく慕ってくれているリンカにどう向き合えばいいのだろう?




「てぇい!!」


 魔力を込めた剣でスライムを断ち切る。


「これで今日のノルマは達成……拍子抜けした?」


 剣を鞘に納め、わざとお道化た調子でリンカに尋ねてみる。


「魔力がないから一匹しか倒せないのかぁ……不便だね?」

「まぁね、修行して魔力上げようにも一日一回しかできないからね」

「でも大丈夫。わたしがいれば修行し放題だよ」


 リンカはにっこり微笑むと、俺の背中に手を当てる。


「えっ何してんの?」

「いーから、じっとしてて」


 背中がじんわり暖かい。


「はい、終了! 魔力分けてあげたから、また剣に込めてみて」

「えっマジで! そんなことできるんだ?」

「ふふ、わたしこう見えてもそこそこ有能な魔法使いなんだからね」


 さっそく剣に魔力を込めると確かにできた。これなら練習がはかどる。

 午前中いっぱい時間の許す限り魔力を分けてもらい、スライムを倒し続けた。





 そして午後になり、リンカとは別れ酒場のバイトに向かった。

 店に入るなりマリーさんに声を掛けられる。


「あら、なんか調子よさそうじゃない? なにかあった?」

「ええ、おかげさまで。そうだ、また魔力測ってもらえませんか?」

「いいわよぉ」


 マリーさんはすべてを見透かしてるかのような微笑みを浮かべ水晶玉を取り出した。

 実際『見透かしてるかのよう』ではなく事実、その通りなのだろう。リンカが俺の行動パターンをしって待ち伏せしてたのもこの人が教えたに違いない。


 早速、その玉を手に持つと数字が表れる。


『5』


 水晶には確かにその数字が浮かび上がっていた。


「やった! 魔力が2も増えてる!」


 たった2上がっただけだが着実に進歩している証拠に、思わずガッツポーズする。


「あら、よかったじゃないの。訓練のタマタマね」


 それを言うなら賜物(たまもの)だろ、オカマジョークか? 心で思っていても俺は突っ込まないからな。


「いや、これはリンカが訓練に付き合ってくれたおかげです。彼女が魔力を分けてくれたから、何度も訓練することができたんです……マリーさん、ちょっと相談乗ってもらってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 この人は本当に面倒見のいい人だ。異世界に来た時からお世話になって、感謝しかない。


「俺、冒険者として成長したいんです。そのためには今は強くなることしかできない。だから剣の腕を磨きたいんですけどどうすればいいのかなって」

「あら、魔力上げはもういいの?」

「ええ、魔法使いの仲間ができましたから……その仲間のためにも応えてやりたいんです」


 そう、リンカは俺を選んでくれた。


 性格がよくイケメンのパーティーを去ることになっても俺の方を選んでくれたのだ。

 それは単に妥協なのかもしれない、パーティーにいずらくなったって理由だからかもしれない。


 でも、理由はどうあれ俺は嬉しかったのだ。


 誰からも必要ともされず、認められもせず、うだつが上がらない。そのことを知ってなお選んでくれたリンカの気持ちに応えたいのだ。

 そのためには腕を磨き、一端の冒険者になることがスジなのだろう。


 俺は強くなりたい。


 うだつが上がらなくても、魔力が無くてもひたむきに前に進むしかないんだ。






 これは魔王を倒し平和を築く英雄譚でもない、血沸き肉躍るような冒険譚でもない。


 うだつの上がらない男がそれなりの努力をして『人並みの幸せ』を手に入れるだけの、極々つまらない話なのだ。


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