うだつの上がらない俺はため息しか出ない
異世界に来て数日。俺は午前中はスライム相手に剣と魔法の訓練をし、午後はマリーさんの店で調理アンド接客のバイトをして生活していた。
「はぁ~」
「どうしたのよ、大きなため息なんかついちゃって?」
店でテーブルを拭きながら大きなため息をついていた俺にをマリーさんが心配してくる。
「どうもこうも、全然魔力上がらないし、剣にも慣れないし、冒険者に向いてないのかなぁって思って」
現世では学歴も運動もそこそこスペックだったのに、異世界来たらチートどころか子供以下の最弱能力しかなく、悩みは尽きない。
「そうねぇ、このままウチの店の店員になっちゃえばいいんじゃないの? 歓迎するわよぉ」
それも確かに一つの手だが、それじゃあ元居た世界と同じだ。うだつの上がらない日々が待っている。
それどころか魔力無しの俺じゃあ現世以下の生活になるんじゃないか、という不安しかない。
現世での知識を生かして活躍しようにも多くの先輩がすでにその知識を広め、スマホやパソコンなども知られ、冷蔵庫やコタツやクーラーなど便利な家電は魔法の力を使い、この異世界にも存在している始末だ。
本当になんで俺が異世界に転生したのか意味が分からない。そもそも意味などないのかもしれない。
イラストレーターの夢を諦めきれなかったことにもいろいろと言い訳をしてきたが、ただ諦めが悪いだけなのだ。
自分の実力がないことにいろいろ理由をつけて、みっともなく足掻いて、もがいて、諦められないカッコ悪い男。それが自分という人間なのだ。
ほんとため息しか出ない。
「はぁ~」
「なによ、人の顔見てため息とか失礼しちゃうわ」
「はは、ごめんごめん」
「それより、そろそろお客来るわよ。準備なさい」
それからは料理の仕込みを手伝い、ウェイターとして忙しく働いた。働いているときは余計なことを考えなくて済む。
調理もウェイターも未経験だったが、意外に苦も無くすんなりとできてしまうのは集中しているせいだろうか?
忙しい時間は過ぎ、閉店時間も近づき客もほとんどいなくなりぼちぼち店じまいのため片付けをしているとテーブルに伏せている客に気が付く。
どう見ても寝てるなアレは……
酒場で酔いつぶれ寝てる客など日常茶飯事だ。俺も躊躇なく声をかける。
「お客さん、そろそろ閉店時間ですよ。起きてくださーい」
「んんん、うーん……」
起きた女性客の顔を見て顔をしかめてしまった。
あのイケメンパーティーのロリ魔女っ子のリンカだ。
「あれぇ、魔力3の人だぁ」
寝ぼけ眼のまま、虚ろな目で俺の姿を捉えるなりそれかい!
時間もたち、今は恥ずかしさより怒りが込み上げてきた。
「やっぱり知ってたんだな……そうやって三人で俺のこと笑ってたんだろ?」
「ん……うーん、あの二人は笑ってないよ。笑ってたのはわたし一人だけ……逆にリョーマに怒られちゃったんだから……」
えっ、そうなの?
てっきりあのイケメン主導で笑いものにされてたのかと思ってたけど。
「あの二人はいい人なんだよ……うん、ほんとにいい人」
「……あの二人となんかあったのか?」
矛先が違うことを知らされ、怒りはどこかに行ってしまった。そのせいかうつむき、様子のおかしいリンカについ聞いてしまった。
そんな俺の顔をしばらくボーっとした目で見つめていたリンカは口を開く。
「んー、あの二人ねぇつきあってるのよ。んで今わたしの隣の部屋でイチャコラの真っ最中なのよ」
んな! あの二人そんな関係だったのか? リア充め、あの巨乳美人を好きなようにできるとはけしからん!!
「そんな声が隣から聞こえてきてね、残されたわたしは立場無いからこんなところで一人でお酒飲んでるってわけ……」
辛い……それは辛い。こいつも苦労してるんだなぁ。
「わたしね、リョーマのこと好きだったのよ。そりゃあ冒険者としてはいまいちだけどさ、イケメンだし性格いいし、いい物件じゃない?」
あれ、なんかこれ、恋愛相談されてね? 酔った客起こしに来ただけだったのに?
マリーさんの方に顔を向けるといい顔で微笑んでうなずかれるし、俺は諦めて席に着いた。
「けっこうアタックして気を引いたりしてたんだけどね、全然ダメ。わたしなんて性格も悪いし、胸も小さいし魅力なんてないことぐらいわたしが一番よくわかってるのよ。だからね、たいしてアタックもしてないクレイシアの方が選ばれるなんて当たり前。性格いいし巨乳だし癒し系の顔だし、男の求めるもの全部持ってるんだもん」
リンカの言葉が胸に入ってくる想いだ。
こいつは俺と同じ足掻いてもがいて、どうにかしようと努力しても全く成果が上がらない、うだつの上がらない女なんだ。
めんどくさいと思っていた恋愛相談だがいつのまにか彼女に同調してしまっていた。
そんな俺に耳を疑う言葉が飛び込んできた。
「ねぇ、わたしの部屋来ない?」