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うだつの上がらない俺は異世界召喚されてしまった

 月三十万稼いで、恋愛して結婚して、子供作って育てて、マイホーム買って自分の城を持つ。

 それが人並みの幸せだと言われてる――


 どこがだっ!!


 もうそれゴールじゃん! 勝ち組じゃん! 上級国民様じゃん!!


 それが人並みの幸せなら自分じゃ一生走り続けてても半分も行けないよ!


 月十八万の月収、家賃と生活費、趣味に少々お金を使えば貯金もできない。

 彼女いない歴=実年齢の童貞……彼女ってどうやって作るんですか? そんなの学校で習ってないのになんで皆うまくやれるの? 誰か教えて、いやマジで。


 そんなうだつの上がらない男がこの俺、鈴木 幸多(こうた)だ。

 両親は多くの幸せを――って名前を付けてくれたみたいだけど、完全に名前負けしてるよね、これ?


 明日はとうとう大台の三十路になる誕生日だ。『うぇーい』ってはしゃげる気にもならんし、そもそもそんな羽目外す人間性(パリピ)じゃない。

 社会人になって友達ともたまに会う程度で誰と会う予定もねーわ。彼女はいないけど友達はいるんだよ。二人だけだけどね。だからそこまで孤独じゃないはず……うん、きっとそのはず……


 そんな祝いの日を翌日に、一人で家にいる。

 仕事から帰って、スーパーで食材買って夕飯自炊して作ってる最中。うだつが上がらなくても、スペックはそこそこあるのよ。


 飯食って、風呂入って、レコーダーに録画した深夜アニメ見ながらPCいじって、趣味の範囲の情報収集してイラスト描いてる。少ない給料貯めて、なけなしの貯金崩してペンタブ買ってまで時間を費やした。

 

 そう、イラストレーターになるのが俺の夢——だった。


 もう二十九年も生きていれば分かるよ。自分にそこそこの才能しかないことぐらいね。


 でもね、自分より明らかに才能ないやつでも本に載ってたり、スマホゲームでキャラ描いてたりもするわけよ。そこそこの才能があるやつより、才能ないやつの方が需要あるってどーいうことよ?


 そんなんだから諦めたくても諦めきれずに、俺にもワンチャンあるんじゃないかって夢を追っかけちまうのよ。田舎から出てきて、職場から見える東京タワー見て泣きそうにもなるわけよ。

 

 俺なにしてるんだろうって。


 そんなことを考えながらイラスト描いてたら急に胸が苦しくなる。いや、悲しいからとかそういう理由でなくホントに痛い……


 これはヤバいやつだ、これはヤバい。


 かゆい……うま……




 あっ間違えた。


 これ……ヤバ……









 はっと気が付くと見知らぬ通りに立っていた。


 古い洋風の建物、行きかう人々の見慣れぬ服装。中にはケモミミ生やした奴までいる。そりゃあ、すぐに察しが付いたさ。


 あれっ、これって異世界転生じゃね? ってね。


 しばらく呆気に取られていると、目の前の八百屋らしき店のおっさんが話しかけてきた。


「おい、おまえさん、ぼーっと突っ立ってどうした? なにか買うのか?」

「えっ、あ……すんません」


 そそくさとその場を離れようとするとおっさんから意外な言葉が投げかけられる。


「おまえさん、異世界転生者だろ?」

「えっ、なんでそのことを!?」

「あー、お前さんの恰好見りゃあな。ここら辺じゃ転生者なんて珍しくないんだ」


 なんということでしょう。

 あまりにも異世界旅行者(トラベラー)が多すぎて、遂に異世界側から当然のように認知されるようになってしまったらしい。言葉が通じるご都合主義もデフォルトらしい。


「それなら、あの道の先にある酒場に行くといい。今後の面倒見てくれるはずだぜ」


 おっさんは指さし教えてくれる。強面の顔に似合わず親切なおっさんだ。

 俺は礼を述べると教えてもらった通りへ行ってみると、その酒場はすぐに見つかった。


「こ、こんにちはー」


 西部劇でよく見るようなパカパカした扉をやや緊張した面持ちで通ると、カウンター越しに声を掛けられる。

 もみあげから顎にかけてと口周りの髭を丁寧に切りそろえ、開いた白のワイシャツから豊満な胸毛が

覗いている化粧をした男性……どう見てもあっち系の男性だ。


「いらっしゃぁい」

「えーと、異世界転生者なんですけど、ここに来るように言われて来たんですけどー」


 本当にこれで伝わっているのかと、しどろもどろに伝えるとドリンクが差し出される。


「ようこそ異世界へ! これウェルカムドリンクよ」


 ホントに異世界転生者が当たり前の世界なんだな。小洒落た居酒屋みたいに招かれるなんて思わなかったぜ。


「こっちにはいつ?」

「ついさっき来たばかりです」


 差し出されたドリンクに口をつける。あれっ、アルコールじゃなくただのジュースだ、これ。


「じゃあラッキーだわね。何人かはここに来るまでに悪い子に騙されて連れていかれたり、何も知らずに街の外出て魔物に殺されたりしちゃうから」


 さらっと怖いことを言われぞっとする。


「わたしの名前はマリーよ。あなたは?」

「俺は鈴木 幸多です」

「ふぅん、コウタ君って言うのね」


 マリーさんがじろじろと無遠慮に俺の姿を嘗め回すように見つめてくる。

 そんな視線に気づかないフリをしつつ、ドリンクを飲み干す。


「それじゃあこれから先の話をしましょうか?」

「えっ先の話って?」

「生活の話よ。住むところやお金稼がないと生きていけないでしょう? 何か特技ややりたいことはある? ほとんどの子は冒険者になりたがるけど?」


 冒険者? やっぱりこの世界にも魔物(モンスター)とかいるんだ?


「うーん、PCってないですよね?」

「よくは知れないけどいろいろ便利な箱のことよね? 残念ながらないわ」


 ですよねー。あったらイラストとか描けるのだが、俺はデジタル専門で筆じゃ描けない。


「じゃあ、特技は特には……それでも冒険者とかなれますかね」


 異世界といったら定番はやはり冒険者だ。特殊能力で無双して、うはうはのハーレム生活はオタクの憧れ。


「冒険者がご希望なのね。じゃあとりあえず魔力を測ってみましょう」


 マリーさんが懐から水晶玉のようなものを取り出す。そんなもの普段から忍ばせているのか?


「じゃあこれ持ってみて」


 言われた通りに手に持つ。ぬくいし、多少しっとりしてて不快だ。

 次第に玉が光だし、数字が浮かび上がる。


「あら! これは驚いたわ、今まで見たことない数値だわ」


 えっ、もしかして俺ってば物凄いチート魔力持ってたりするの?

期待感が高まる。


「3ね」

「3? えーと、どういう基準での3なんですか?」

「そうねぇ……どう伝えたらいいかしら? えーとね、あっちのバーテンの子が五百二十くらい、あそこにいるおじいちゃんが四百くらいなのね……」

「つまり?」

「あなた、めっちゃ弱いわ」


 思わず耳を疑う。


「あーんと、1に近い方が強いとかじゃなく?」

「単純に高い数値の方が強いわ」

「つまり、冒険者にはなれない?」

「うーん、難しいけれどもなれないこともないわよ。魔力に頼らず剣の腕で冒険者になった人もいるわ。その人でもここまで魔力低くはなかったけどね」


 一言余計だがそれでも冒険者への道は絶望的ではないことに一安心する。

 きっと俺は剣の才能があるはずだ――是非ともそう信じたい。


「とりあえず魔物と戦ってみたいんですが?」

「そうね、とりあえずお古だけど服や装備一式貸してあげるわ。ここの酒場の二階の部屋も貸してあげるからそこで着替えてらっしゃいな」

「あっ、ありがとうございます」


 着替えを受け取るとさっそく二階に向かうと呼び止められる。


「あっ、あなたの部屋、わたしの部屋の隣だから……行けばすぐに分かるわ」


 場所を教えてくれたのかな? なんか妙に引っかかる言い方で背中がぞわぞわしたのだが。

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