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グーフィの料理

短いです。

早朝、というよりは日も昇らぬ夜明け前、倫太郎はテントの中の簡素なテーブルにランタンとともに弾丸を並べ溜め息をついた。


この世界に転移したとき身に付けていた装備しか持って来られなかった。愛銃のS&W M19、タクティカルナイフ、身体中に仕込んであった弾丸、タバコとマッチ。これが倫太郎の所持品だ。


タバコの残弾も気になるが、今一番の悩みの種は弾丸の数であった。ロックドラゴンに三発、キングウルフに六発、計九発使っている。

上着、スラックス、靴に仕込んで隠し持っていた弾丸を取り出し机に並べてみたところ…


「あと二十一発か…。心許ないな」


自宅に戻ることができれば.357マグナム弾など五十発入りの箱がダース単位で保管してあるのだが…。


倫太郎は基本的に武器や重火器は一通り何でも扱うことが出来る。

扱うことは出来るのだが一番得意な戦闘方法が射撃で、一番手に馴染んでいるのがM19なのだ。


剣を持っても槍を持っても人並み以上の技量を発揮できるが、命を賭ける戦闘において二番目三番目の武器で挑み死んだとき後悔が残るだろう。

そういう理由から他の武器はサブウエポンで使うぶんにはいいが、主力はどうしてもM19でいきたかったのである。

倫太郎にとって弾丸の確保、またはそれに代わる代用品の調達が目下の課題であった。


テントの外に出て伸びをする。朝は気温がやや低めだが目が覚める気持ちのいい空気だった。朝日も今しがた昇ったばかりのようでまだ周囲は薄暗い。

どうやらエリーゼはまだ眠っているようで微かに寝息が聞こえてきた。


近くでも散策しようかと考えたとき、ふわっといい香りが鼻孔を刺激し誘われるように焚き火の方へと向かうとグーフィが焚き火で料理をしている姿があった。


「おはよう、副団長。見張りお疲れ様。お陰でぐっすり眠れたよ」


「おお、リンタロー殿、おはよう。今朝は早いですな。ちょうど良かった、これの味見をしてはもらえぬか。昨日の夕餉の残りをアレンジしてみたのだ」


焚き火の上に木の枝で作られた鍋掛に鍋が吊るされていてがコトコトと煮たっている。しかし昨日食べたチュシーの優しい香りとは違い、スパイシーで食欲をそそる匂いが辺りに広がっていた。


「旨そうな匂いだな。喜んで味見させてもらおう」


手渡された小皿の元チュシーをスプーンで食べると倫太郎に衝撃が走った。


「うっまい!なんだこれ!めちゃくちゃ旨い!めちゃくちゃ旨いとしか言い表せない自分のボキャブラリーのなさが恨めしいけどすげぇ旨い!」


美味しいは正義だ。厳つい髭面のおっさんが作ったものでも美味しければそれは是となる。語彙力の乏しい賛辞ではあったがグーフィは満足げに説明する。


「おぉ、お口に合ったようでなによりだ。これはチュシーにチーズと香辛料数種類をブレンドしたものを加えてひと煮立ちさせたのだ。チュシーだけでも旨いには旨いが昨日と同じではつまらんだろうと思ってな」


顔に似合わずグーフィは料理が得意らしく、美味ではあるがどこか大味のチュシーは繊細で緻密な計算され尽くされた別物の料理へと進化しているようだった。倫太郎に誉められて気をよくしたグーフィは満面の笑みだ。


倫太郎は地球にいた頃は自称グルメで有名料理店や隠れ家的な店へ行くのが趣味だったが、その中でもトップファイブに食い込むほどの鮮烈で新しい味であった。


「副団長、これは金をとってもいいレベルの味だぞ。もし騎士団を引退したら思いきって食堂でも開いてみたらどうだ?俺は常連になるぞ」


と、惜しみ無い賛辞を送るがグーフィは首を横に振り否定する。


「いやいや、お褒めに与り光栄だが私は生涯現役で騎士団で生きようと決めているのだ。料理の道へは行かんよ。それに趣味は趣味のままがいい。趣味を仕事にすると趣味が嫌いになってしまいそうでな」


それは残念、と肩をすくめる。倫太郎は料理ができない。

某有名レシピサイトとにらめっこしながら挑戦したこともあった。『サルでも作れる!お酒に合う簡単おつまみ』というタイトルの揚げ物に挑んだときは鶏肉、チーズ、山菜の食材すべてを黒焦げの暗黒物質に錬金したのは焦げだけに苦い思いでである。


「団長が起きたら朝食としましょう。それまでしばらく時間を潰してきてくだされ。もう一手間加えてさらに美味に仕上げておきますゆえ」


「そりゃ楽しみだ。俺は近くを鍛練がてら散歩してくるよ」


鍋に謎の粉を加えて混ぜながら教えてくれたグーフィの情報によると、この森に生息している魔物はウルフ系統ばかりで、そのどれもが夜行性であり日が出ている時間帯は洞窟や穴ぐらの深くに籠り出てこないから日中は比較的安全とのことだった。


倫太郎は林道へ向かい歩く。ここから十分程歩いたところで拓けた広場に小さな湖があったのを夜営地に着く前に確認している。そこで日課のトレーニングをしようと思ったのだ。


林道と言っても全く整備されておらず獣道に近い道だ。この森を通る人や馬車などが通りやすいところを何度も通り道が形成された経緯が見てとれる。


記憶を頼りにゆっくり歩くと木々の間から湖が見えてくる。周囲には鳥以外の動物もいないようだ。


「さてと…」


手足をブラブラさせ簡単なストレッチを行い倫太郎は鍛練を始めるのだった。



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