闇爪葬との語らい
『リンタロー、お前さんなかなかひでェ野郎だなァ。オレがもし普通の武器ならマジでサビッサビになってるとこだったぜェ?』
「言い方がキモい」発言で闇爪葬を水の壁へと容赦なくぶん投げた倫太郎だったが闇爪葬は着水する寸前に一瞬で姿を黒い霧に変え、倫太郎の掌に帰還していた。
「うるせぇ、次は海の中で呼び出してやるからな」
『おお、怖ェ怖ェ』
波紋をユラユラと揺らめかせる闇爪葬。
なんの鉱物で構成されているかもわからない変幻自在の謎の武器。さらに意思を持ち、会話もできる異様な存在。だが切れ味は抜群、強度は夢幻の回廊トップクラスの硬度を誇る緋王の宝玉に突き立てても折れず曲がらず刃こぼれの一つもしないほど強靭。
使い勝手は世の中の数ある武器の中でも最高と言っても過言ではない。
しかし倫太郎はまだ手に入れて間もないがために闇爪葬に全幅の信頼を寄せる相棒としては扱うことができない。
故に倫太郎は闇爪葬について知りたがっていた。少なくともイレギュラーが頻発するこの夢幻の回廊の第六階層最奥で爆煉石を入手し、地上に帰ることができる程度の戦力として扱えるくらいには。
「まぁいい。じゃあ話を戻すけど、お前言ってたよな?できることとできないことがあるって。その辺を詳しく教えてくれ」
『あぁ~アレなァ、まァ簡単なこった。オレは刃のついてる武器にしか変形できねェ。だからお前さんの懐に納まってる銃とか言う武器への変形は無理だ』
刀、槍、鎌、斧、薙刀はもちろん、オリジナルの刃物や刺突に特化した武器にはなれるが、弓、杖、棍棒、戦鎚などの刃を持たない武器にはなれないと言う。
『それとなァ、魔装つってよォ。武器に属性を付与して属性効果を持たせる技があるんだけど、それもオレには使えねェ。魔素をオレに注いでもオレが全部喰っちまうからなァ』
付与魔法も各属性の適正も皆無の倫太郎には関係のない話だ。
実は剣に炎を纏わせて「紅蓮剣!」とか言いたかった倫太郎だが、逆に闇爪葬が魔装を使えないと聞いて少し安堵していた。もし『オレァ付与魔法が超得意なんだァ』とか言われたら、倫太郎は闇爪葬の力を十全に発揮できないということになるのだから。
「へぇ、まぁ俺は付与魔法も各属性の適正も無ぇから関係ねぇなぁ。あと魔素を喰うってなんだ?」
『説明するより実際見たほうが早ェ。リンタロー、オレがいいって言うまで魔素を送ってみなァ』
言われるがまま倫太郎は錬金魔法で鉱物へ魔素を送る要領で倫太郎は闇爪葬へと魔素をゆっくりと送っていく。
すると闇爪葬の刃が根本から徐々に黒く染まってゆく。
切っ先まで真っ黒になると闇爪葬が叫んだ。
『一気に振り抜けェ!』
「あん?…フッ!」
なにがなんだかよくわからないが言われるがまま倫太郎は袈裟斬りに闇爪葬を一閃した。
ズパンッ!
わずかに押し戻されるような手応えを闇爪葬越しに感じたと思ったとき、闇爪葬の斬撃の距離が伸びた。いや、斬撃が『飛んだ』と言ったほうが正確かもしれない。
不可視の飛ぶ斬撃が遥か遠くのダンジョンの壁を深々と抉り、倫太郎は呆然としていた。
「こ、こんな…」
『ハッハァ~!どうよォ?すげェだろォ?』
「こんなことできんならもっと早く言え!今さら言いやがって。これならもしかしたらフィンネルとかいうガキを逃がさずにすんだかもしれねぇのに!」
威力や飛距離に驚愕するわけではなく倫太郎はこのタイミングで飛ぶ斬撃という有用な技を教えてきた闇爪葬を怒鳴る。
まぁそれもそうだろう。あのときこの技を使えていたら間違いなく仕留められていたであろう威力だ。
『おぉう…。わりィわりィ。ビビらせてやろうと思ったんだけどよォ…』
倫太郎に怒られてしょんぼりしたようだ。
少し言い過ぎたかと思った倫太郎は頭をかきながら闇爪葬を見ると心なしか刃の波紋が弱々しく変化しているように見えた。
そもそもフィンネルを取り逃がしてしまったのはなにも闇爪葬のせいではない。あれは眼球にマグナム弾を食らわせて怯んでる隙にトドメを刺さなかった倫太郎に責任がある。
「…いや、アイツを逃がしたのは俺のせいだな。別にお前は悪くねぇ。…よし、じゃあお前のことを詳しく教えてくれ。必ず使いこなしてやる」
闇爪葬の柄を強く握り直して決意する。
『リンタロー…よし、じゃあ付き合ってやるかァ』
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「ふぁあああ~…よく寝た……!?…リ、リンタロー…?」
「んっ…ふう。…あっ、おはようございます。レディ、リンタロー…って何でそんな汗だくなんですか!?」
タイミングよくマールとレディが二人揃って起きたようだが、倫太郎の姿を見て信じられない視線を向けた。
「おう、おはよーさん。いや、ちょっと訓練をな」
マールとレディが眠ってから約六時間。倫太郎は少し離れた場所でずっと対話しなら闇爪葬を振るっていた。
その甲斐あって闇爪葬の能力の九割以上を把握、使いこなすことに成功している。
『…リンタロー、おめェとんでもねェ奴だなァ。あのノーライフキングだって俺をここまで使いこなすまでに数年を費やしたんだぜェ?それをたった数時間で…お前さんも大概バケモンだなァ』
というお褒めの言葉?を頂ける程度には十全に闇爪葬のポテンシャルを引き出せるまでにきていた。
「ちょっと訓練ってレベルの汗の量じゃない」
レディの呆れた視線が倫太郎に突き刺さる。
上半身裸になり、息が弾んでいる倫太郎はまるでサウナから出てきたばかりと言われても納得できそうなほどの汗を流していた。滴る汗がポタポタと地面にシミを作っている
…ゴクッ
「!?」
生唾を飲み込む音が隣から聞こえてきてレディはバッとマールを見ると、マールはヨダレを垂らして倫太郎を凝視していた。
「…マ、マール?」
「…えっ!?な、な、なんですか?」
ヨダレを袖でごしごし拭いて何事もなかったかのように振る舞うマール。が、かなり無理がある。
「…起き抜けに発情とか…マールはとんでもない淫乱ドスケベダークエルフ」
「なっ、なに言ってるんですか!?なんのことかよくわかりません!そ、それよりリンタロー!ダメじゃないですか!こんなに汗をかくほど体力を使っては!まだ二階層も潜らなきゃいけないんですよ!?」
レディから向けられた不名誉な発言をごまかし揉み消すように、マールは倫太郎へと話の水を向けた。が、レディはいまだにジト目でマールを見つめている。
出会った当初より、レディのマールを見る目が変態のそれになりつつあるのはおそらく気のせいではない。
「大丈夫だ。ちょっと休めば問題なく動ける。半刻ほどしたら起こしてくれ」
倫太郎は水の壁に浸けて絞った濡れタオルで体を拭くとシャツとジャケットを着て横になった。すると数秒でスゥスゥと寝息が聞こえ始める。
「寝るの早っ」
心地よい疲労感に身を任せて、倫太郎は眠りに落ちていった。
こんな危ない場所で安心して眠れるのは臨時のパーティとはいえ、マールとレディという信頼できる仲間がいるからだろう。
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五階層。そこは洞窟の中に木々や草花が生い茂る、まさに密林と言える自然に囲まれた階層である。
リス、鹿、ウサギ…のような小動物もさっきから倫太郎は視界の端に確認していた。
「…なぁ、マジでダンジョンって一体どうなってんだ?」
洞窟の中ならば陽の光が当たらない、光合成もできるはずもないのに植物が群生している光景は違和感の塊に倫太郎は感じていた。
倫太郎が眠り始めて半刻後、マールとレディはさすがにもう少し寝かせてあげようと起こさなかったのだが、倫太郎はそれからすぐにパチッと目を覚ますと清々しそうに伸びをして「あ゛~よく寝た。…よし行くか」と寝不足を感じさせない足取りで移動し始めたものだからマールは倫太郎の身体の作りがどうなっているのか不思議でしかたなかった。
「ダンジョンは解明されてないことのほうが余計なので考えるだけ無駄です。そういうものだと割りきるしかないのが現状ですね。…それよりリンタロー、寝不足じゃないんですか?」
「いや、全然。俺は昔から少し寝れば活動できるショートスリーパーなんだわ。なんも問題ねぇよ」
そう言いながら襲ってきた木の枝に擬態した蛇の魔物を闇爪葬の一閃で真っ二つにして屠る。その動きに疲れや寝不足など感じられない。
その調子のよさそうな倫太郎を見たらマールもレディも黙らざるを得ない。
「それより、さっきから気になってたんだけど…ありゃなんだ?」
闇爪葬の切っ先で倫太郎が示した先には…ゴリラがいた。
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