闇爪葬と休息
ちょっといつもより長めです
「リンタロー!大丈夫!?」
「おう、なんとかな。ノーライフキング…久々に骨のある敵だったぜ。…いや、別にこれはノーライフキングと骨をかけたダジャレとかじゃなくて、ホントに手強かったから…」
不本意なサムいギャグの言い訳をゴニョゴニョしてる倫太郎のもとへレディが駆け寄り倫太郎を強く抱き締める。
その瞳には今にも溢れそうなほどの涙を溜めている。
倫太郎を抱き締めるレディの身体は小刻みに震えていた。
「リンタロー!リンタロー!…何度もダメかと思ったけどやっぱり最後はリンタローが勝った。さすがレディのご主人様なだけはある」
どこか強がるように気丈に振る舞うレディ。ノーライフキングの恐怖から解放され、気と涙腺が緩んでついにポロポロと涙が溢れてしまった。
「…あれ?…ち、違う。別に怖かったとかじゃない。これは…そう、目にゴミが入っただけ」
ギャグの言い訳をする倫太郎に対して涙の言い訳をするレディ。
そんな絵面が可笑しくなり倫太郎が吹き出した。
「笑わないで!ホントに怖い訳じゃないから!」
「ああ、わかってるよ。…今回はありがとなレディ。レディがいなかったら多分勝てない相手だった。マールもありがとう。今俺が生きてんのはマールのお陰だ。闇魔法にかかってる俺を何度も解呪しようとしてくれたんだろ?あのときマールの呼ぶ声が聞こえなかったらまだノーライフキングの術の虜だったろうな。即席のパーティにしてはなかなかいいチームワークだったと思うぜ」
歩いて近寄ってきたマールは申し訳なさそうに俯いて話そうとしないでいる。
「マール?」
不思議に思った倫太郎が呼び掛けるとマールもポロポロと泣き出し、振り絞るように話し始める。
「…さっき……一番最後の最後、一番大事な踏ん張り所のあのとき、私はノーライフキングの恐怖に飲まれてなにもできませんでした。攻撃することも、走ることも、得意なはずの魔法を使うことさえ…。私は…臆病者です…」
ノーライフキングとの戦闘はマールの矜持に深い傷を作ってしまったようで、マールの涙が止まる気配はない。
それを呆れたような顔で倫太郎は立ち上がり、マールの頭に手を置いた。
ビクッと肩を跳ねさせるマール。だが倫太郎はポンポンと白く美しい髪を優しく撫でた。
「なに言ってんだ。俺を闇から引き摺り戻してくれたのはマールの魔法じゃねーか。さっきも言ったけどマールがいなかったら俺は永遠にノーライフキングの術中にハマってただろう。そもそも最初から俺がマールの忠告を聞いて戦闘を回避してたらみんなこんなに苦労することはなかったんだ。調子に乗って飛び出して術にかかった俺を見捨てず命懸けで呼び戻してくれたマールは臆病者なんかじゃねぇ。ありがとうマール。お前のお陰でまだ生きていられる…だから、その…もう泣くな」
倫太郎の言葉の途中から泣き止むどころかさらにマールの涙は水量を増すばかりだ。
「ヒック、ヒック、ぐずっ。リ゛ン゛ダロ゛ォ~!」
泣き顔を見られたくないマールはそのまま倫太郎の胸へと顔を埋め、倫太郎を抱き締めた。
「ま、まぁアレだ!結果だけみれば怪我はしたが生き残れた。誰も欠けることなく強敵を倒せたってことを今は喜ぼうぜ」
なぜか急に恥ずかしくなった倫太郎はマールを抱き締め返すわけにもいかず、ハンズアップ状態で無理矢理話を変え、柄にもなく陽気に振る舞ったのだった。
『オーイ、アンチャン。イチャついてるとこわりぃがオレを引き抜いちゃくれねーかい』
謎の声が倫太郎の頭の中に直接響く。すかさずナイフとM19を構えて警戒し、周囲をくまなく見渡すが人影も敵影もない。
「?…マール、レディ、今声が聞こえたよな?」
マールとレディは顔を見合わせて二人揃って頭上に?マークを浮かべている。
疲れて幻聴でも聞こえたのかと思ったがどうやらそうではないようであった。
『オオーイ!ココ、ココだよォー!』
「っ!?」
気のせいではない。間違いなく聞こえた。
声の出どころは倫太郎の足元、緋色の宝玉を砕き地に深く突き刺さるノーライフキングの大鎌、闇爪葬であった。
ぞわっと血の気が引き、その場を飛び退いてM19を構える。
「っ!?どうしたというのですか!?」
「リンタロー!?一体なに!?」
マールとレディの反応からして闇爪葬の声は倫太郎にしか聞こえてないようで、一連の倫太郎の行動は奇行にしか見えないだろう。
「この闇爪葬とかいう大鎌、俺の脳内に直接話し掛けてきやがった!」
マールもレディも不憫な人を見る目で倫太郎を見る。
「…リンタロー、あなた疲れてるのよ…」
どこかで聞いたようなセリフだが、倫太郎はそれどころではない。
M19の照準を闇爪葬に固定したまま闇爪葬を睨み付け、いつでも射撃できるようにトリガーに指を掛けた。
『そんな警戒すんなよォ。オレァ一人じゃ身動き一つとれねぇ幼気なただの可変型武器だからよォ。頼むよ、引き抜いてくれよォ』
泣きそうな声で懇願する闇爪葬、どこか哀愁漂う雰囲気を出し始める。
「可変型武器?…てめぇ、ノーライフキングの武器だろ。怪しすぎんだよボケ」
『ああ、ノーライフキングの武器"だった"なァ。だけどお前さんが殺しちまったからヤツとの契約はオシマイ。オレァ今フリーだぜ?アンチャン、お前さんかなりヤるみたいだな。どうだ?オレと契約しねぇかい?俺は使えるぜェ?今はこんな大鎌の格好しちゃいるが俺は契約者の思う通りに形を変えられる。契約者の使いたい武器になれんだよォ。スゲェだろ?』
まるで悪魔が人間に契約を持ち込むように囁く。
その怪しげな誘いに僅かばかり逡巡し、倫太郎はM19をホルスターにしまって闇爪葬へと歩み寄り柄を鷲掴みにして力任せに引き抜いた。
「…いいだろう。契約してやろうじゃねぇか。だが俺に実害があるようなら即座に火山の火口に投げ入れてやるからな」
『よっしゃ!じゃあ契約成立だなァ!アンチャン、お前さんの名はなんてぇんだ?』
「俺は倫太郎だ」
『じゃあリンタロー、血を一滴よこしな』
大鎌の刃に指を押し付けて指を少し切る。するとは闇爪葬は黒い霧となり倫太郎の体へと染み込むように消えていった。
「リンタロー!一体なにが起きてるの!?」
「闇爪葬が…リンタローの中に…!?」
一部始終を見ていたマールとレディだが、闇爪葬の声が聞こえない彼女たちは倫太郎の一人芝居を見ていたら急に闇爪葬が霧状になり倫太郎に入っていったように見えただろう。
「…んん~、一言でいうと、喋る武器と契約した、かな」
「わからない」
「全っ然、わかりません!」
やり取りを説明するのが面倒だった倫太郎はかなり端折った。マールとレディがわからないのも無理はない。
それにしても倫太郎はこんな怪しい喋る武器と怪しい契約をなぜしたのか。
それはこの世界に来たときから感じていた火力不足に起因する。
愛銃のM19の強力なはずのマグナム弾もロックドラゴンの額に弾かれ、キングウルフの腹を貫通するのにも三発も撃たなければならなかった。
そしてこの夢幻の回廊ではさらにM19の火力不足が際立った。
地球の生き物に対しては十分すぎる火力だがこの世界の化け物相手には火力不足感は否めない。
そこで持ち掛けられた謎の武器との契約である。その武器は.357マグナム弾でも傷の一つもつけられなかったノーライフキングの杖についている緋色の宝玉を破壊できるほどの破壊力を誇る。
倫太郎は契約しないかと言われたとき様々考えた。
闇爪葬との契約とやらで自由に使えるようになるメリットとデメリット。そして総合して出した答えは『目的の為に、生きて迷宮を出るために闇爪葬は有用である』、だった。
「その…大丈夫…なんですか?そんな怪しい契約して」
そうマールに言われ、手を握ったり開いたりして身体の調子を確認してみるが特に変わったところはない。強いて言えば…
『オイ、リンタロー。お前さん、こんなベッピンを二人も侍らせてんのかよ。隅に置けねぇなァ』
頭の中で闇爪葬の声がうるさいことくらいだ。
「来い、闇爪葬」
手を突き出し、そう言うと闇爪葬が現れる。一度二度振ってみるがやはり大鎌の形状は合わない、せめて刀のような形状ならいいのに。倫太郎がそう思った瞬間的、闇爪葬はフッと霧になり、次の瞬間には太刀のような武器となり倫太郎の掌に収まっていた。
「っ!?…こいつは…」
改めて二度三度振るう。まるで何十年も使い込んだ相棒のように手に馴染む。倫太郎の体格、手のサイズに合わせた作りだ。
「っフッ!」
手近にあった突き出た岩に向けて闇爪葬を振るうと、なんの手応えもなく岩を真っ二つに両断した。
「なんて切れ味だ…」
鋭すぎる切れ味に呆然とする倫太郎。これはかなりイイ拾い物をしたと本音で思えた。
『ったりめぇだ。天下の闇爪葬様だぜェ?』
脳内に響く闇爪葬の声が響くが無視だ。
「闇爪葬の実験をもっとしたいとこだけど…さすがに疲れちまったな」
マールとレディにも疲労の色が濃く出ている。いつまでも次の魔物が現れてもおかしくないような場所に留まるのは得策ではないことは明白だ。
「あっ、では私が休める場所を知っていますのでそこに行きましょう」
何度もこのダンジョンに潜っていただけあってマールは近くの休憩ポイントを知っているようだった。
是非もなく、疲れていた倫太郎とレディはその提案にのって移動し始めたのだった。
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さすがに激戦の後とあって三人はかなり疲弊していたため、どこか休めるような場所はないかと話し合ったところマールが四階層へ降りてすぐのところに魔物もいない隠し部屋があるのを知っていると言うので三人は今その安全地帯で一時の休憩をしていた。
ノーライフキングとの戦いの場所から四階層へ続く階段が近くにあったことは不幸中の幸いであった。
ある程度休み、マールはマナポーションと呼ばれる滋養強壮ドリンクに似た小瓶を呷り、体内の魔素をそこそこ回復させたところでマールは全員に水属性の回復魔法を使ってそれぞれの怪我を治していった。
それは倫太郎の背中の深い切創でも僅か数秒で完全に塞がり、倫太郎は目を剥いた。
「…その、先程はお見苦しいところをお見せしてしまって…すいませんでした」
すっかり泣き止んだマールは今は恥ずかしそうに顔を赤らめている。泣いてしまったことと勢い余って抱き付いてしまったことが今思い返してみるとマール的に非常に恥ずかしかったようだ。
倫太郎もわざわざその話を蒸し返すことなくサラリと流す…つもりでいたがレディは空気を読むつもりはないようだ。
「マールに抱き付かれてもレディに抱き付かれても抱き締め返さないリンタローはヘタレ」
抱き返されなかったことが不満だったむすっとしたレディの一撃が倫太郎に突き刺さる。
「いや、それはだな…」
「リンタローはマールにもレディにも女としての魅力を感じてない?」
言い訳をしようとした倫太郎に今度はレディのジト目が突き刺さる。
レディだけならまだしもマールも「そうなんですか?」と言いたそうな目で倫太郎を見ている。
ノーライフキングとの激戦の功労者であるはずの倫太郎は女子二人によってなぜか針の筵にさらされるのはなぜなのか。
どう言えばいいものかと逃げ道を探すように言い訳を考える倫太郎にレディがさらに追い打ちをかける。
「…はっ!?…まさかリンタローは男色のケがあるんじゃ…」
黙っていたらいつの間にかホモ疑惑まで浮上する始末。さすがにそこは否定しようと口を開こうとすれば、それより先にマールが援護射撃ならぬ援護誤射で倫太郎をさらなる窮地に追い込んできた。
「そんなはずありません!…だってリンタローは私と初めて会ったとき私の胸をガン見してましたし、それどころか胸を揉みしだいて唇も奪われました!」
凍りつく空気。レディのドン引きした視線が倫太郎へと固定される。
「…訂正する。リンタローはキングウルフも裸足で逃げ出す肉食系。女なら見境ないエンペラーウルフ。…いくらご主人様でも…さすがにそれはレディも引く…」
たしかにキングウルフは倫太郎を前にして逃げ出したことがある。事実だけども!そうじゃないと、言い返す言葉を探しているうちに男としての株が暴落し始め慌てて弁解した。
「待て待て、お前ら俺をなんだと思ってんだよ。説明は端折るけどマールにしたのは湖で溺れたマールの救命措置だ。胸を見たのは…否定しない」
潔く「見たものは見た!」と言うのが男らしさだろうと思って肯定したが女子二人からは寒々しい視線が倫太郎へと送られる。
「えぇ…。…乳をガン見してすいませんでした」
男の性に逆らえなかった過去の自分を恨む倫太郎だった。
「ふふっ、冗談ですよ。あのときはありがとうございました。今回の件でその時のいやらしい救命措置はチャラってことにしておきますね」
いやらしい救命措置とはなんなのか。問いただしたい気持ちでいっぱいだった倫太郎であったが、余計なことを言ってまたややこしくなるのも嫌だったので黙って頷くだけにとどめておいたのだった。
それはそうと、とマールの眼が真剣なものに変わり倫太郎を見据える。
「リンタローはもしかして…エルドミニアから来たんじゃないですか?」
「…?。エルドミニア?聞いたことあるような…ないような…」
どこかで聞いた覚えのある単語であったが倫太郎はなかなか思い出せずに首を傾げる。
「南の海を越えた先にある大国です。次元魔法と、それの延長線上にある召喚魔法の研究が盛んな…」
そこまでマールの話を聞いてピンときて倫太郎の記憶が蘇る。
トルスリック騎士団団長のエリーゼからその国の話を聞いて、装備を整えたら必ず行こうと決めていた国のはずだったが王都グランベルベに到着してからというもの慌ただしかった倫太郎はすっかりエルドミニアという国名さえ忘却の彼方であった。
「あぁ~!ハイハイ。思い出した。でも違う、エルドミニアには行ったこともねぇ。だけど行こうとは思ってんだ」
倫太郎の頭の先から爪先までまじまじ見てさらにブツブツと難しい顔で考えて込むマール。
それに対して倫太郎よりレディのほうが気になったようだ。
「どういうこと?エルドミニアと倫太郎がなにか関係あるの?」
「…いえ、さっきも話しましたがエルドミニアでは召喚魔法の研究が進められています。…で、リンタローはもしかしたらその召喚魔法でこの世界ではない世界から来た人間なのでは、と思ったんですけど…あははは、そんなはずないですよね」
「そうだ。俺はこの世界の人間じゃねぇ」
「「え?」」
事も無げにサラリと答えた倫太郎にマールもレディも一瞬眼が点になる。だがどうやら冗談だと思ったようだった。
「ま、またまたぁ、リンタローもそういう冗談言うんですね」
「ビックリした。なんだ、冗談か」
「いや、マジだ。エルドミニアは関係ねぇけど、自宅で寝て起きたらこの世界へ飛ばされていたんだ。元の世界へ帰る手掛かりを探すために近々エルドミニアにいく予定だったんだが最近忙しくてな、すっかり忘れてた。イチイチ異世界から来ました~とか言ってたら面倒くせぇことになるから人里離れたとこで育ったから世間知らずって設定にしてたんだ。騙してて悪かったな。マール」
そう言う倫太郎の表情は嘘でも冗談でもなく真剣そのもので、マールやレディをからかうような素振りはない。
「…じゃあ、ホントに…」
「ああ、お前らから見たら俺は異世界人てことになるな」
「…名前の響きや見たこともない武器、着ている服やその素材も初めて見る物だったので、もしかしたらと思ってたんですけど…まさかホントに異世界人だったとは」
「これが異世界人か」とでも言いたそうな顔で二人は倫太郎を見るので図太い神経の倫太郎もなんだか気恥ずかしくなってきたようである。
「ま、まぁ、だからこの世界の人となんか違うのかって言われたら別になんも違わねぇんだけどな。だからそんなに見るな」
「この世界の人でも異世界人でもリンタローはリンタロー。レディのご主人様ってことに変わりはない。リンタローがエルドミニアに行くならレディも行く。元の世界に帰るならレディも付いて行く」
レディはいつになく真剣に倫太郎へ詰め寄り服を掴んだ。その瞳には捨てられそうな仔犬を思わせる不安が滲んでいる。
元の世界へ帰ると言うことは倫太郎と別れなければいけないと思ったのだろう。
『オレもオレもォ!お前さんに付いてってやるよ!』
今まで黙っていた闇爪葬が茶化すように急に喋り始めたが今はそういう空気ではないためスルー。
「…んん~、帰るって言っても帰れるかどうかもわからないからなぁ。一生この世界で生きなきゃいけないかもだし。その辺はまぁ追々な」
縋ってくる女を厳しく突き放すこともできない自分の甘さに辟易しつつも、どう転ぶかわからない話に無責任に確約するわけにもいかず曖昧に濁す倫太郎だった。
クゥ~~~
誰かの可愛らしい腹の音が鳴った。徐々に顔を赤らめるマール。正直緊張感からの解放で今まで気にもならなかった空腹を感じていた倫太郎は野暮なことは言わず「そう言えばハラ減ったな」と独り言のように呟いて麻袋をゴソゴソと漁り始める。
オークキング、スピリットゴーストときてトドメのノーライフキング。激戦に次ぐ激戦で三人とも相当カロリーを使っているのは明白だった。腹だって減るはずだ。
「念のため食材は結構買い込んで持ってきたんだ。ここは比較的安全そうだしメシにしよう」
そう言いながら広げた綺麗な布の上に食材と調味料を並べる。するとマールの生唾を飲む音が聞こえた気がした。
「レディはともかくマールはなんか食料は持ってないのか?」
マールはスッと視線を逸らし、非常に気まずそうである。
「こんなに長く潜ってるつもりはなかったので…もう僅かな干し肉くらいしかありません…。私のことは気になさらずお二人で食べてください」
クゥ~~~
再び聞こえてくる空腹のサイン。明らかにマールの方からだ。
「なに遠慮してんだよ。仲間同士メシを分け合うのは当たり前だろ。よし、じゃあちゃちゃっと料理して食おうぜ」
「じゃあ…遠慮なくご馳走になります。ではせめて私が調理しましょう!こう見えても料理は結構得意なんですよ私!調理器具は持ってるので任せてください!」
マールは着物の袖を捲り上げ、長い髪を髪紐で後ろで結わえて気合いを入れる。
「そうか?じゃあ頼もうかな。ぶっちゃけ食材はもとの味もわからずに適当に買ってきたもんだからどう料理していいか悩んでたんだ。マールが料理してくれるなら助かる」
「はい!期待してていいですよ」
マールは調理用ナイフを鮮やかに扱い肉や野菜を素早く切り分けていく。手慣れた手つきだ。
これは本当に期待できそうで、でき上がりが楽しみである。
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「っ!?うまい!なんだこれ!?」
初めて見る食材を使った初めての料理、だがそれはトルスリック騎士団副団長のグーフィのチュシーに負けず劣らずの旨さだった。
「ホントに美味しい。レディも料理は作れるけどここまでのは無理。マールは料理人として生きていけるレベル」
倫太郎とレディはガツガツと貪るように平らげていく。よほどマールの料理が気に入ったようだ。
「気に入ってもらえてよかったです。作った甲斐がありました」
二人が食べる姿を自分も食べながら嬉しそうに見ている。
目を悪くした母が気になり、最近は何を食べても味気なく感じていたマールだったが、誰かと食卓を囲む暖かさを思い出していた。
「いや、マジでうめぇよコレ。マールは絶対いい嫁さんになるぜ」
「「!?」」
バッとマールとレディがモリモリと食べる倫太郎を凝視した。
なにかマズイことでも言ってしまったのかと「な、なんだよ?」と見返すと予想してない答えがレディから返ってくる。
「リンタロー、それはこの世界では定番のプロポーズの言葉。今リンタローはマールに求婚したことになる」
「!?」
日本で言うところの「毎日お前の味噌汁が飲みたい」的な表現なのだろう。
「いや、そう言うつもりでいったんじゃなくて…」
明らかに否定しまうとマールの女のプライドを傷付ける可能性もあるので倫太郎は次の句を言い淀む。
だがマールはたいして気にしていないようだった
「わかってますよ。リンタローの世界では一般的な誉め言葉なのでしょう。まぁ私もその表現でプロポーズしたことになるっていうのは前から疑問だったので特に気にしてません」
「そ、そうか?紛らわしい言い方して悪かったな」
なんでもないように笑うマールだったが、心臓が破裂しそうなほどバクバクに脈打ってるのを倫太郎に気付かれませんようにと必死に祈っていた。
感想、誤字脱字、おかしな表現の指摘お待ちしてます。豆腐メンタルなので辛辣な批判は勘弁してください。
「面白い」「続きはよ」「頑張れ」と思いましたら応援よろしくお願いします。




