倫太郎のために
ノーライフキングの闇魔法にかかっている倫太郎は今はマールとレディと合流してノーライフキングを倒したことを称賛されている幻を見せられていた。
「リンタローはいつも想像を越える強さですね!惚れ惚れします!」
「さすがリンタロー。レディのご主人様なだけはある」
戦闘能力を認められ、見目麗しい美女二人から賛辞を送られて倫太郎は悪い気はしなかった。
「いやいや、それほどでもねぇよ。以外と物理のゴリ押しでイケたから拍子抜けしたけどな」
「それほどでもあります!これは快挙です。歴史に名を残す偉業とも言えます!…ノーライフキングほどの強者も圧倒するこの逞しい腕…惚れ惚れします」
「リンタローが戦う姿…カッコよかった。なんだかリンタローを見てるとレディ…変な気分になる…」
マールとレディが倫太郎の手を片方ずつとり、恍惚とした表情を見せる。
まるでサカりのついた雌猫のように甘い声と潤んだ眼で倫太郎を見つめた。
「おい、お前ら。ここはダンジョンだぞ?そういうのは…むぐっ!?」
この魑魅魍魎が跳梁跋扈する『夢幻の回廊』で、場違いにも女の色香を振り撒き始めた二人に対して憮然とした態度で断ろうとした倫太郎だがマールがそれを唇で遮った。
「いいじゃありませんか。リンタローの戦闘を見てたら私の女の部分が刺激されっぱなしなんですよ。こういうところでスるのも気分が高まると思いませんか?」
「レディももう我慢できそうにない。リンタローなら二人同時でもきっと大丈夫。レディはこんな死と隣り合わせの場所だからこそ生を感じたい」
マールにキスされたあたりから倫太郎は不思議な、それでいて不快ではないフワフワした気分になっていた。
どんどん思考が曖昧になっていく。だがそんな事にも気付けないほど気持ちがいい。
(そうだなぁ、レディの言う通りこんな場所でってのもアリだなぁ。最近ご無沙汰だったし…まぁいいか)
いつの間にか甘ったるいが芳しい香りが辺りに充満していた。
まるで倫太郎たちのこれからの行為を後押しするように桃色の香りが立ち込める。
そんな中で倫太郎は二人を抱き寄せた。
それがすべてノーライフキングの見せる幻だとも知らずに。
──────────────────
岩影を飛び出したマールとレディはそれぞれ倫太郎とノーライフキングのもとへ疾走していた。
「レディ!五秒でいいです!五秒だけリンタローに触れることができれば解呪してみせます!時間を稼いでください!」
「わかった!絶対リンタローとマールにはちょっかい出させない!」
走りながら最低限の作戦会議を終え、倫太郎とノーライフキングまであとわずかというところまで迫る。
すでにノーライフキングには二人の存在は間違いなく気付かれている。
ノーライフキングはマールとレディを一瞥するも壁に寄りかかり腕組みの体勢を崩そうともしない。
それどころか二人にまるで興味の欠片もないように視線を倫太郎へと戻してしまった。
「…ナメられてる。ムカつく、絶対無視できないようにしてやる」
レディがスピードのギアを一つ上げて疾駆する。
マールを置き去りにしてレディはノーライフキングへと肉薄した。
鋭く踏み込み、倫太郎からもらった炎を思わせる短剣を赤い閃光を引きながら振るう。
それは人の反射神経では対応するのが難しいほどの速度でノーライフキングの髑髏へと向かう、が。
ギィン!
硬質な音が響く。
よく見れば薄い膜のようなバリアがノーライフキングを満遍なく覆っていて、それがレディの刃を止めていたのだった。
「っ!このっ!」
何度も何度も短剣を振るうレディ。赤い刃がいくつもの剣閃を引いてノーライフキングを襲うがバリアにはヒビどころか傷一つつかない。
少し遅れてマールが倫太郎の元へ到着し、倫太郎の手を握りながら素早く詠唱し始めた。
「世を照らす光よ、我が願いに応え彼の者の闇を祓い給え、エクスディスペル!」
最低限の詠唱で高難度の魔法を構築する。
これは本来ならば一分以上かかる長ったらしい詠唱を必要とする魔法である。それをここまで縮めて本来の効果を引き出せるのはマールの類稀なる魔法のセンスと深い知識があってこそ初めて可能となる超短縮詠唱だった。
一瞬でマールと倫太郎を眩いほどの光が包む。
「リンタロー!リンタロー、聞こえますか!?」
光が収束してすぐにマールは倫太郎へと呼び掛けるも依然として倫太郎の光を宿さない虚ろな瞳は変わらないままだ。
マールの光魔法をもってしても闇は祓えないようだ。
「リンタロー!…そんな…エクスディスペルが効かない…」
バリアを破壊しようと微塵もスピードを落とさず短剣を振るい続けるレディ、何度も解呪を試みるマール。そんな二人を放置していたノーライフキングがついに動いた。
「鬱陶しいわ、蝿どもが」
地獄の底から響いてくるような、人の恐怖心を掻き立てるような悍ましいノーライフキングの声をマールとレディは聞いた。
パチン
それはノーライフキングが指を鳴らす音だ。
それだけで次の瞬間、マールとレディは同時に吹き飛んでダンジョンの壁へと背中から激突する。
ドゴォン!
「がっ…!?」
「げふぅっ!?」
何をされたのかもわからなかった。ズルズルと壁づたいにずり落ち、膝をついて四つん這いになって血反吐を地面に撒き散らす二人。
マールとレディから興味を無くしたかのようにノーライフキングは再び闇に墜ちて行く倫太郎へと視線を戻したのだった。
「けほっ、けほっ。…ここまで差があるなんて…」
「はぁ、はぁ、はぁ、短剣が通らない…かすり傷の一つもつけられない…」
二人は一連のやり取りでわかってしまった、いや、理解させられてしまったのだ。
ノーライフキングにとって彼女たちなど自分にまとわり付く羽虫と大差ないということ、まともに相手をする価値などないと思われているということが痛いほど伝わってきて二人はギリっと歯を強くくいしばった。
わかっていたのだ、最初から。どうあがいても勝てないということは。
だが、それが彼女たちが諦める理由にはなりえなかった。
「…げほっ、レディ、まだ、動けますか?」
「はぁ、はぁ、う、なんとか…」
「そう、ですか。私はもう一度行きますよ。あなたはどうしますか?」
どこか挑戦的な眼でマールはレディを見る。だがマールも立ち上がるのも精一杯なほどのダメージを受けていて、顔には冷や汗が流れている。虚勢を張ってはいるが壁に叩きつけられたダメージはけして軽くない。
「…もう一度?レディはリンタローが正気を取り戻すまで何度だって行く。マールがへばったらリンタローを治す人がいなくなるからマールには何回でも付き合ってもらう」
「ふふっ、気が合いますね…。実は私もそう思っていたところです」
レディがノーライフキングに突っ込んで時間稼ぎをしてマールがその間に倫太郎の解呪をする。他に策などない。
「ぐっ、ああああああああっ!」
痛みで軋む身体に鞭打ってレディは立ち上り駆け出した。
「んっ!はあああああああ!」
マールも気合いのみで倫太郎へと向かい走る。身体強化を使う魔力も勿体無い。
次はありったけの魔素を魔力へ変換し、放てる最大威力のエクスディスペルを倫太郎にかけるために。
再度レディがノーライフキングに短剣を突き立てるように襲いかかる
マールは先程のエクスディスペルの数倍の魔力を込めて詠唱を紡ぐ。
そして奇跡は起こる。
感想、誤字脱字、おかしな表現の指摘お待ちしてます。豆腐メンタルなので辛辣な批判は勘弁してください。
「面白い」「続きはよ」「頑張れ」と思いましたら応援よろしくお願いします。
毎回のサブタイトルですが、その場その場で適当につけています。
内容にマッチしないタイトルもあるかも知れませんがご容赦くださいm(_ _)m




