キングウルフ戦、決着
何秒、何分経ったかわからない。倫太郎とキングウルフは互いに向かい合い微動だにしない。
達人同士の闘いは双方動くに動けないというのは格闘技の世界では稀に見られる事だが、人間対モンスターでも同様らしい。
倫太郎は平然とした表情を崩さずキングウルフを見つめているのに対し、キングウルフは犬歯を剥き出しにして喉で唸っている。
M19の照準は一切ブレることなくキングウルフの眉間を捉え続けているがまったく発砲する様子はない。
撃っても高い確率で避けられるという確信が倫太郎にはあった。
初速が音速を超える弾丸を視認してから避けるなど野生の獣でも不可能なはずだが倫太郎には撃った瞬間避けられ間合いを詰められて手痛いカウンターを喰らう未来が待っていると感じていたのだ。
「どうした?来ないのか?犬っころ。お手とお座りでも仕込んでやるからさっさと来い、このウスノロ」
魔物に言葉が通じるなどとは思っていないが、膠着状態というのは思いの外疲れるもので、体力的にというよりも精神的疲労が大きい。
なので僅かでも構わないので変化が欲しかったのだ。ダメもとで言ってみたが効果は意外なほどあった。
キングウルフは馬鹿にされたのを野性の勘で感じ取ったのかはわからないが剥き出しだった犬歯をさらに晒し、唸り声が大きくなる。
そして体を低く構える。今にも飛び掛かって来そうな体勢になるとキングウルフの体がブレて地面が爆ぜる。残像を残すのではと思うような速度で倫太郎の顔面目掛けて飛び掛かってきた。
正に刹那と言えるような瞬間的な出来事であったが倫太郎も神がかった反応速度を見せる。
キングウルフの体がブレた瞬間のけ反り、地面と平行になるほど上体を倒してその突進を回避した。
倫太郎のすぐ真上を通過しようとするキングウルフをそのまま見送ってやるほど倫太郎は甘くない。
のけ反った状態からさらに地から足を離し、超低空でがら空きのキングウルフの腹を真上に蹴り上げたのだった。ガゴン!と生き物を蹴ったとは思えない硬質な音が夜の森に響き渡る。
ぎゃん!
キングらしからぬ呻き声をあげ夜空に高く打ち上がる。翼を持たないキングウルフは地に足が着くまで自由落下に任せて落ちるのみ。その落下地点ではM19という死神の鎌を携えた殺し屋が待っていた。
「詰みだ。犬っころ」
ガガガァン!!!
三発の.357マグナム弾が早撃ちされ爆音を轟かせる。狙い澄まされた弾丸は矢継ぎのように同じ弾道を通り、同じ場所に着弾した。
キングウルフの表皮は硬く、一発目の弾丸は皮膚にめり込んだところで止まる。二発目が一発目の尻に当たり体内に侵入を果たす。だめ押しに三発目が二発目をさらに押込み、筋肉と内蔵を抉り体を貫通し外へ飛び出してきたのだった。
トドメと言わんばかりにロックドラゴン戦では出番の無かった愛用のナイフを倫太郎の胸の高さまで落ちてきたキングウルフに今ほどM19で開けた銃創、心臓、首の順番でナイフを持つ手が見えないほどの速さで三連の刺突を見舞う。が、銃創にはなんとかナイフの刃は食い込んだものの首と心臓の辺りは銀色の硬く厚い体毛に阻まれ掠り傷もつけられなかった。
「硬った!なんだコイツ…ホントに生き物か?ケブラー繊維の体毛でも生やしてんのかよ」
そうぼやきつつもその場からバックステップで距離を取り素早くM19を構える。キングウルフは血を撒き散らし力なく地面に激突し動きを止めた。
「すごい…」
一部始終を目撃していたエリーゼが呟いた。速すぎて目で追うのもやっとだったが、自分とグーフィの二人がかりで手も足も出なかったキングウルフを相手に一瞬で圧倒してみせた倫太郎の背中から目が離せないでいた。
戦いを制したはずの倫太郎であったが、本人はまだM19を構えてじりじりと倒れるキングウルフとの距離を詰めている。
「…リンタロー?もう終わったのではないのか?」
「いや、恐らくまだ仕留めきれてない。浅いがまだ息をしてる気がする」
視線は逸らさず答える倫太郎の瞳からは未だ殺意は消えていない。エリーゼには派手に血を流し横たわるキングウルフはどう見ても死んでいるようにしか見えなかった。
キングウルフまでもう三歩程というところで死に体のキングウルフが素早く身を起こし、倫太郎から距離を取るように後方へ高く飛び上がった。
ガァン!ガァン!
舌打ちしながら空中にいるキングウルフへと発砲するが身を捩り躱されてしまった。ならばと着地地点をおおよそ割り出し、そこに照準を合わせて着地の瞬間を狙う。
ガァン!
弾丸はキングウルフの前足の付け根辺りに着弾、しかし厚い白銀の体毛に阻まれ威力が殺され仕留めるには至らなかった。が、血を流しすぎて踏ん張りの効かないキングウルフは後方へと吹き飛び篝火の明かりが届かない暗闇の森まで転がった。
すかさずリロード。キングウルフの方向から視線は外さずシリンダーをスイングアウトし排莢、すぐさま装填しシリンダーを戻す。僅か一秒足らずでリロードを終わらせ構え直す。
油断なく構えキングウルフの方へと歩を進めるが…
「あれ?いねぇ…」
よく観察すると茂みから森の奥へと血痕が続いている。辺りはもう夜の帳が完全に降り、視界もロクにない。どうやら逃げられてしまったようだ。夜に土地勘の無い森へ入ることの危険性は重々理解しているので深追いはしない。
「リンタロー、キングウルフはどうなった?」
「すまん、逃げられちまった」
ホルスターにM19を納め、エリーゼへ歩み寄る。倫太郎とキングウルフの戦闘中ずっと剣を杖代わりに立っていたが、限界を迎えたようでペタッと尻餅をつき深く息を吐くエリーゼ。
一度は死を覚悟したが生き残れたことに深く安堵しているのか、甲冑越しからでも分かるほど震えていた。
「派手に吹き飛ばされてたな。歩けるか?」
手を差し出し、肩を貸そうと屈んで俯くエリーゼの顔を覗き込む。
「…ふぇ…」
「ふぇ?」
「ふぇぇぇぇーーーん!こっ…怖かったよぅぅ!死ぬかと思ったよぅっ!」
「!!?!??!」
異世界へ来てから一番衝撃を受けた倫太郎であった。
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