闇魔法
33話の話が一本抜けていましたので、差しこみました。話が繋がらず混乱させてしまって申し訳ありませんでした。
ガァン!
凶弾が真後ろからノーライフキングの頭蓋をブチ抜き、額から飛び出した。
その一撃で頭蓋骨の三割が吹き飛び破片が飛び散った。
ガガガガガァン!!!
倫太郎は間髪入れず全弾撃ち尽くし残りの頭蓋骨をすべて吹き飛ばし、更に追撃を加える。
残ったの胴体を蹴り上げ、ノーライフキングを宙へと浮かせて倫太郎自身も跳んで空中で地をも踏み抜く剛脚をもって連続で蹴りを加える。
倫太郎が一発蹴り抜く度にバキッ、ボキィ、とノーライフキングの骨が粉砕される音が木霊する。
なす術なく倫太郎の連続蹴りで宙を踊っていたノーライフキングは最後には倫太郎の強烈な踵落としで地へと叩きつけられたのだった。
倫太郎は残りのわずかな滞空時間に手元がブレて見える速度でリロードを終わらせる。
すかさず一発、着地と同時に一発を妖しく緋色に輝く杖の宝玉へと撃ち込み、宝玉を粉々に砕いた。
しかし頭蓋骨を失い、両手では足りないほど骨を折られてなお起き上がろうと地をモゾモゾと這うノーライフキング。
「さすがに下層のボスともなるとしぶてぇな」
倫太郎は手近の岩へと手を伸ばしガッチリと掴んで持ち上げる。
「ぐっ…うぉおおおおおお!」
ボゴォン!
半分以上埋まっていた岩石とも言えるような巨大な岩を力任せに引っこ抜き、頭上へ掲げる。
どう見ても一トンは下らないであろう巨大な岩だ。
そんなものを引き抜き持ち上げてどうするというのか。答えは一つだ。
「くぅたぁばぁ…れっ!!!」
ビキビキと身体中の筋が悲鳴を上げるが「関係ねぇ!」とでも言わんばかりに力任せに放られた巨大な岩は、だらしなくモゾモゾと地でのた打ち回るノーライフキングを磨り潰すように直撃した。
ゴガァァァン!
ノーライフキングは避けることもかなわず岩石の下敷きとなり残りの骨を一切合切粉砕され、岩石と共に粉微塵に成り果てたのだった。
その場に残ったのは元の原型もわからないほど破壊し尽くされたノーライフキングの骨とボロボロに擦り切れたローブ、バキバキにへし折れた杖だけである。
さすがにここまで細かく砕かれると下層のボスと言えども死は免れなかったらしく、もうピクリとも動くこともかなわず物言わぬ骸となったのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、以外と、あっけなかったな…ふぅ」
不意討ちからの怒濤の連撃で終わってみれば完勝、苦戦もなくノーライフキングを制した倫太郎であった。
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「…り、リンタロー、あなたはさっきから一体何をしてるんですか…」
離れた場所から様子を伺うマールとレディは倫太郎の奇行に目を疑っていた。
『何もない空間』を連続で撃ち抜き、『空』を蹴り、飛び上がり『誰もいない空間』を蹴りまくって『地面』へと銃弾を浴びせ、巨大な岩を持ち上げたと思ったら『明後日の方向』へとそれを投げつける。
マールとレディにはそう見えていた。
肝心のノーライフキングは壁際で腕を組んで、ローブのフードから覗く本来は瞳があるべき空洞を妖しく光らせながら倫太郎の一連の奇行を嘲笑うように睥睨していた。
まるで馬鹿にでもしているかのように。
「マール、これってもしかして…」
「…ええ、おそらくリンタローは闇魔法の幻術にかかり、幻を見ています」
いつ、どのタイミングで術にかけられたのかは魔法に造詣の深いマールでもまるでわからないほど自然に倫太郎は闇へと引きずり込まれていた。
倫太郎が今、幻の中で何を見て何を聞き、何を感じているのか。それは術者のノーライフキングにかわからない。
闇魔法は長時間かけられると精神の崩壊を引き起こす。
それは第三者から精神的干渉を受ける心へのダメージが時間に比例して大きくなってゆくからだ。
なにもなかも思い通りになる夢、快楽に溺れ続ける幻、そんな甘い一時はどんどん抜け出せなくなる蟻地獄なのだ。
現に倫太郎は今ノーライフキングを圧倒した幻に捕らわれ、薄ら笑みをうかべて焦点の定まらない虚ろな眼で佇んでいる。
「マール、リンタローが自力で闇魔法を解く可能性はどのくらいあるの?」
「ゼロではありませんが…闇魔法に精通していないリンタローには難しいでしょう…。こうなったら一か八か…私が行って解呪するしか…」
眉間にしわを寄せ、険しい表情で可能性の低い算段をし始めるマールの腕をレディがそっと握って首を振った。
言葉はないが、その顔には「行ったら絶対死ぬから止めろ」と書いてあった。
「行くならレディが行く。レディはリンタローの奴隷、主のピンチは奴隷のピンチ。レディが行って助ける」
助けるなどと口に出すのは容易いが、いざこの状況を解決するにはレディでは力不足、いや、知識不足と技術不足であった。
闇魔法を解くには術者を殺して術を強制的に終わらせるか、対となる光魔法を使えなければならない。
闇魔法にかかっている者の頬を引っ叩いたくらいでは闇魔法は解けないのだ。
「レディ、光魔法は使えますか?」
「…使えない」
「ならあなたが突撃しても意味はありません。いたずらに犠牲が増えるだけです」
「っ!それは…」
冷たく突き放すように聞こえるが、それはマールの優しさである。
もうマールは腹を決めて解呪しにノーライフキングと倫太郎のもとへ突っ込む気でいたのだ。
マールとレディ、どちらもノーライフキング相手には逆立ちしても敵わない、つまり倒すのは無理。
ではマールとレディ、解呪できる可能性があるのは?もちろん魔法全般に長けたマールだ。
ならば自分が行くしかないと、最悪の場合ノーライフキングとやり合うことになっても絶対に解呪してみせると決心していた。
解呪には解呪対象の身体に触れていなければならない。離れた場所から解呪できるならとっくにやっている。
「もしも…もしも私の身になにかあったときは…レディ、あなたは逃げてください」
「…主人や仲間が殺されて一人で逃げろって?バカにしないで。レディも行く」
黙り俯いていたレディがマールの優しさから出た言葉に怒りを露にした。
「あなたが来ても…」
「時間稼ぎくらいならできる!マールよりも避けるのも防ぐのもレディのほうが上手い。レディはリンタローとマールに助けられた。だから今度はレディの番。マールは一人で絶対にリンタローを助けられる?」
「…絶対とは言えません」
「二人で行っても絶対助けられるわけじゃない。むしろまだ死ぬ確率のほうが高い。それでも二人で連携したほうが成功の確率は上がる。違う?」
優しさ故の「私は行くけど私が死んだらあなたは逃げて」という提案も場合と解釈によっては侮辱にも聞こえるのだ。
なにを言われようとも絶対に引かない強い意思を宿した眼でレディに見つめられ、マールは折れた。
お互い倫太郎を助けたいという気持ちは同じだった。
「ふぅ、わかりました。二人で必ず彼を助けましょう。じゃあ行きますよ…三、二、一…今!」
倫太郎のように気配を消して近づくなどという高等技術は彼女たちにはない。
できるのは全力で走ることだけだ。だから二人の存在はノーライフキングには間違いなく気づかれるだろう。
でも命をくれてやるつもりはない。倫太郎を正気に戻して絶対逃げ切ってやるという気持ちだけで二人は同時に岩影から飛び出していった。
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