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マールの武器

「いきなりこんなお願いをするのは不躾だとわかっていますが、どうしても欲しい武器があるんです」


マールは魔法のみで戦うスタイルだと思っていた倫太郎にとっては予想外のお願いである。


ここまで武器どころか魔法使いらしい杖すら持っていなかったので、マールはそういうスタイルだと倫太郎は勝手に思い込んでいた。


「おう、別に構わないけど…何が欲しいんだ?俺の知識にない武器は無理だけど知ってるものなら多分大丈夫だぞ」


実は倫太郎は爆煉石を手に入れたらその場で銃弾をしこたま作って心行くまでブッ放そうと、インゴット各種をダンジョンに持ち込んでいた。その重さ実に五十キロ。

背負っている麻袋の中はインゴットで半分埋まっていたのだ。つまり女性一人を背負ったまま走り、戦っていたということである。


その事実に一番驚いていたのはマールである。なにせオーク達との戦闘の現場までのダッシュで身体強化(ブースト)を使ってもブッちぎられているのだから。


「はっ!?えっ!?そんな重たいもの持ったまま走ったり戦ったりしていたんですか!?馬鹿なんですか!?」


「馬鹿とは心外な。この程度なら誤差みたいなもんだ。トレーニングのときはこれの十倍以上の重りを背負ってるからな」


馬鹿は馬鹿でも体力馬鹿と言うのが適切だろう。


「じ、十倍…めちゃくちゃですね…。って、あぁっ、そうじゃなくて、作って欲しいものなんですが…リンタローは弓は作れますか?」


どうやらマールは弓を御所望のようである。


「弓ぃ!?弓なんてそこらじゅうで売ってるじゃないか。市販の弓じゃダメなのか?」


倫太郎の疑問はもっともである。

夢幻の回廊街でも武器屋はそこかしこにあり、売ってる物と言えば剣や槍、斧に棍棒、そして弓。これらはどの武器屋でも必ず取り扱っていた。

だから逆になぜ所持していないのかわからなかったのだ。


「あの…それはですね…その…なんと言えばいいか………折れたり、切れちゃうんです」


「えっ?折れる?切れる?なにが?今、弓の話してんだよな?」


モゴモゴと恥ずかしそうにマールは言いにくそうに目を逸らしている。指同士をチョンチョンして若干顔も赤い。

倫太郎は倫太郎でマールが何が言いたいのかサッパリな状態だ。


「…ですから!私が弓を引くと弓が折れたり弦が切れるんです!!!」


ヤケクソ気味に大声で叫ぶようにカミングアウトするマール。


マールが引くと弓が折れたり弦が切れる。そう言われて倫太郎は「あぁ~~~~~!はいはいはいはい!」と納得した。その原因に思い当たる節がありすぎるのだ。


「はははっ!お前馬鹿力だもんなぁ!…っうおぁ!あっぶねぇ!」


馬鹿力発言の瞬間マールの平手が飛び、それをギリギリで回避する倫太郎。

彼女の平手打ちに比べたらオーククイーンのジャブなど可愛いものである。


「乙女に向かって馬鹿力とはなんですか!私は他の人よりちょぉ~~~っとだけ力持ちなだけですぅ!大体リンタローだって人のこと言えないじゃないですか!」


マールは顔を真っ赤に染めてキィーーーッと怒り、その場の地面をダンダンと踏むが倫太郎としてはダンジョンが崩落しないか割りと本気で心配しているのは内緒だ。


「わ、悪かったよ。そう怒んなって。作ってやるからさ」


「ホントですか!?是非お願いします!折れず曲がらずよく(しな)り、弦が切れないヤツをお願いします!」


作ってくれるとわかった瞬間大喜びで注文を付け出すマールは喜び一色である。


実は「ってか弓より棍棒とかのがいいんじゃない?」という言葉が喉まで出かけていた倫太郎は必死にそれを飲み込んだ。

だって二発目のビンタが来るのがわかりきっていたから。ビンタで空中で回転するのはもう勘弁なのだ。


じゃあ早速と、倫太郎はゴソゴソと麻袋からデューロ鉱石とビステキー鉱石という非常に靭性に優れた鉱石のインゴットを取り出した。


そして目を瞑り、集中しイメージする。

弓の長さと太さ、弦の張り合い、ディテール、想定飛距離、マールの馬鹿力具合。それらすべてを統合し錬金魔法を発動する。


再び強烈な赤黒い光が発生するが、レディもマールも二度目なので驚きはしないが、やはり直視できないようで目を瞑って耐えていた。


「ふう。まぁこんな感じか?」


光が消えて倫太郎が握っていたのはもちろんマール御所望の弓だ。だがそれは息を飲むほど美しい純白の長弓だった。


普通の弓より二回りは太く、だが持ち手はマールの手のサイズに合わせて(くび)れており、弓本体には森をイメージさせる葉や(つた)や鳥などの装飾がなされている。

パッと見は真っ白なゴツい和弓である。

そして弓だけでなく矢もついでに錬金したようで、弓を持つ反対の手には真っ白な矢が十本ほど握られていた。

その矢も特別製で、長弓に合わせて通常の物より長く作られている。そしてなんと言っても矢羽根が最大のミソである。

銃のライフリングのように螺旋状に取り付けられ、射出された瞬間から超高速で回転して精密性と飛距離を格段に伸ばす工夫がされていた。


「…すごい…すごいですよリンタロー!今まで見た弓の中で一番美しい弓です!」


「ああ、だけど見た目だけじゃないぞ?完全にマール専用仕様の超長距離まで射れる特別仕様だ。…おっ、ちょうどいい、まだかなり遠いけど魔物がこっちの方に向かってきてるな。あれは…」


「オスのオークですね。実は私も視力には自信があるんですよ」


マールはエルフは森の住人と言うだけあって相当目が良いようだ。常人ならばまだ点にしか見えていない四百メートルは離れているオークの性別まで識別してみせた。


「試し撃ちしてみるか?ホラ」


マールは手渡された弓矢を受け取り、軽く振ってみる。長さ、グリップの握り心地、取り回し、すべてがしっくりくるどころの話ではないほどピッタリとハマったのをマールは感じていた。


「ホントにすごい…長い間使い込んだ弓みたいに手に馴染む…これなら…もしかしたら…届くかもしれない…」


遥か遠くの点、オークを見据えて半身に立ち、弦に矢尻を引っかけギリギリと弓を引き狙いを定める。

一瞬の停止の後、限界まで引き絞った矢を解き放った。


ピュァン!


弓矢から放たれた矢は倫太郎の狙い通り超高速で回転し、重力を置き去りにしたように空を切りながら真っ直ぐにオークへ向かって一直線に飛んでいった。

だが驚くべきはその初速である。倫太郎の見立てでは音速を越えていると、飛距離と矢筋から弾き出した。


そして矢はついに目標のオークへと到達し醜く肥えた腹のど真ん中に突き刺さった。いや、貫いた。

射られたオークはまるで反応できずに鮮血と臓物を撒き散らして膝から崩れ落ちる。

それでも矢の勢いは微塵も衰えずダンジョンの壁に深々と突き刺さり、やっと止まったのだった。


「…っはぁ!?…弓の威力じゃないです…よね?」


一番驚いていたのは矢を放ったマールであった。


「マール、ちょっと貸して」


マールから弓を借りたレディはマールの見様見真似で弓を引く。


「んっ!…ぐっぎぎぎぎぎ…はぁっ!はぁっ!…うん、絶対無理」


顔が赤くなるまで力いっぱい弓を引こうと力むレディだが、どんなに力を入れてもわずかに弦が(しな)

程度でとても使えそうにない。


「…嘘ですよね?…ちょっと大袈裟過ぎませんか?レディ」


「大袈裟でもなんでもない。まず弓自体が馬鹿みたいに重すぎて持ち運ぶのも苦痛、弦は無理矢理引けば引ききる前に絶対指が千切れて飛ぶ、コレを扱えるマールはどう考えても馬k「おおっと!そこまでだレディ!その先は命懸けになるから止めとけ」


レディの失言ストッパーとして倫太郎が割り込んだ。

マールと大して体格の違わないレディが絶対無理でマールが楽勝、そこから導き出される答えはただ一つだがそれは言ってはいけない答えなのだ。


次はマールがさっきのオークのように膝から崩れ落ちた。

「やっぱり私は馬鹿力なんだ…」などと呟きながら暗い空気を作り出し始めたのだ。


「ま、まぁアレだ。気に入ってもらえてよかったよ。作った甲斐があったってもんだ。な、なぁ?マール」


うっすら涎を垂らしながら「…ええ、そーですね…」などと覇気の欠片もない生返事で返すマール。


「それから別にカネはいらないぞ。パーティーの戦力補強は当たり前だ。これで強力な魔物にも対抗しやすくなったわけだから俺も得するわけだしな」


気前よく倫太郎がそう言うとマールが飛び起きた。ニッコニコのフルスマイルで。


「えっ!?ホントですか!?よかったぁ~、こんな高性能な弓だからいくらとられるか内心ヒヤヒヤしてたんです。ありがとうございます、リンタロー!その代わり魔法ならお望みのものを使っちゃいます!なんでもリクエストしてください!」


以外と現金なマールであった。

感想、誤字脱字、おかしな表現の指摘お待ちしてます。豆腐メンタルなので辛辣な批判は勘弁してください。

「面白い」「続きはよ」「頑張れ」と思いましたら応援よろしくお願いします。

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