表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/96

試験の終わり

白髪の優男はバッキムが言うには探求者ギルドのトップツーである副ギルド長のようだ。


そこまで、と言っていたことから試験は終わったと解釈していいだろう。


倫太郎はバッキムの上から退き、腕を解放した。

バッキムものそのそと起き上がり倫太郎を睨み付けて副ギルド長に抗議し始める。


「まだだ!俺ぁまだやれる!止めないでくれ!」


副ギルド長は冷めた目でバッキムに一瞥くれて、微笑みを(たた)えながら倫太郎に向き直った。


「リンタロー君ですね?私はここの副ギルド長を勤めているサッジと申します。探求者試験は合格です。おめでとうございます。このあとの手続きはカウンターでミミナ君が担当します。あなたの合格は伝えてあるのでスムーズに受理されるはずです」


ギルドのトップツー直々の合格判定をいただいた倫太郎はサッジから差し出された手を取り握手を交わす。


「倫太郎だ。これから世話になる。ところでミミナってのは誰だ?」


「ウサギの耳の受付嬢ですよ」


「ああ~、あいつね」と、倫太郎はピンときたようだった。ウサミミのミミナとはなんと安直なネーミングだ。と内心思ったようで目が若干笑っていた。


「ちょっと待て!俺ぁまだ負けたとも思ってねーしコイツが合格とも認めてねーぞ!副ギルド長だからって俺が担当の試験官なんだから横から口出しするんじゃねーよ!」


倫太郎はすっかり存在を忘れていたがバッキムが真っ赤に紅潮させた顔で詰め寄ってきた。


「バッキム君、最初からあなたとリンタロー君の試験の様子を見ていましたが、あなたはリンタロー君が一撃でも入れたら即合格というルールで試験を始めたにも関わらず、三回も投げられてもまだ試験を継続していましたね?それはなぜでしょうか?それにこれはあなたとリンタロー君の勝ち負けを競う場ではないですよ」


サッジはどこか冷めたように、面倒そうにバッキムに向き合い責める。バッキムは興奮冷めやらぬようでサッジに食ってかかった。


「一撃ってのは木剣での一撃のことだ!あんな子供だましのような投げ技で合格がくれてやれるか!」


「バッキム君、いいですか?剣を振り回す相手を投げ飛ばすなんてかなりの高等技術です。それを三度も実戦で行えるということはリンタロー君は武の高みにいるということ。ここまではわかりますか?それに最後には身体強化(ブースト)を使ったあなたをも投げ飛ばし組伏せてみせた。リンタロー君の持つ木剣が真剣であったら、これが本当の殺し合いであったなら、あなたはもうこの世にはいないでしょう。それでもまだ合格も負けも認めませんか?」


やれやれと呆れた表情を浮かべ、サッジは諭すようにバッキムに丁寧に説明する。

だが納得のいかないバッキムは掴みかかる勢いでサッジへと詰め寄って抗議を続ける。


正直飽きてきた倫太郎はもうカウンターで手続きをしてさっさとダンジョンへ向かいたい気持ちでいっぱいであった。


「こんなヒョロヒョロが武の高みにいる?笑わせないでくれ!コイツの戦い方じゃダンジョンでは通用しねぇ!小手先ばっかりの技じゃ巨大なモンスターと出会ったら何もできずにすぐ死ぬに決まってる!」


頭痛を感じているように頭を抱え、ため息を隠そうともせずにサッジは呆れたジェスチャーを見せる。

その態度も面白くないようでバッキムはさらにヒートアップした。


「彼は単独でロックドラゴンの成体を仕留めていますよ。これはトルスリック騎士団団長からの情報で確かなものです。ロックドラゴンと単独でやりあえる実力ならば『無限の回廊』の二十階層であっても通用するでしょう。十分すぎる実力だと思いますがバッキム君、あなたはどう思いますか?」


急に水を向けられあくびを噛み殺していた倫太郎へと二人の視線が向けられた。


「こんなやつがロックドラゴンを?…単独でだと?そんな訳あるか!」


バッキムの疑いの目が突き刺さる。が、倫太郎はどこ吹く風である。そんな態度が気に入らないのかバッキムが今度は倫太郎へと詰め寄ってきた。


「おい、近ぇよ。また投げちゃうぞ?」


「…殺してやる」


倫太郎の言葉にとうとうバッキムがキレる。持っていた木剣を投げ捨て背中に佩びていた真剣に手をかけて抜剣しようとしたバッキムだったが。


「いい加減にしなさい」


パァン!


空気が弾けるような乾いた音が鳴ったと思ったときバッキムはビクンと一度痙攣し、頭頂部からプスプスと細い煙を上げながら白目を剥いて倒れた。


「…今のって雷魔法か!?すげぇ!初めて見た!」


倫太郎が子供のように眼を輝かせた。


試験中の武術の達人もかくいう動きとのギャップにサッジもバッキムへの怒りという毒気を抜かれてしまったようだ。


「ええ、初歩の雷魔法ですね。殺傷能力はありませんが魔素の込めかた次第では相手を気絶させるくらいなら容易いですよ」


「へぇ~、カッコイイなぁ」


プスプスといまだに薄く煙を上げているバッキムをつつきながら倫太郎は攻撃魔法への憧れを隠せないでいた。

実際に使えたとしてもおそらく実戦ではほとんど使わないだろうが。


「リンタロー君、あのままバッキム君が抜剣していたら…あなたはどうしてましたか?」


急に話題を変えるサッジだが、なにかを確信しているような目で倫太郎を見据えた。


「…さあ?斬られたくないから逃げてたんじゃないか?」


「…ふむ、じゃあそういうことにしておきましょうか。ああ、もう手続きに行ってもらって結構ですよ?」


抜剣していたら…。もしかしなくてもバッキムを殺していただろう。場所や場面を問わず殺す気でくるならば殺し返す、倫太郎のその信念に揺らぎはない。


殺気など微塵も漏らしてはいないはずの倫太郎だったが、サッジには見透かされているように思えてしょうがなかった。


「ああ、世話になったな」


そう言い残してそそくさとカウンターへと向かう倫太郎だった。


────────────────


「合格おめでとうございます!いやぁ~、すごいですねぇ!二等探求者の試験官を倒しての合格者なんて何年も出てないんですよ!こう、しゅっ!って投げてクイッと捻って!」


なぜかテンション高くウサミミをピコピコさせながら試験の様子を身ぶり手振りで興奮を伝えてくるミミナに対して倫太郎は真顔だ。


「ああ、そうだな。それより手早く手続きをしてくれ」


む~っと膨れるウザミミ改めミミナは話にノってくれない倫太郎に不満げにしながら一枚の紙を取り出して倫太郎へと差し出した。


「ではここにお名前と年齢を。その下は必須項目ではないですがなるべく埋めるように記入お願いします」


カウンター備え付けのペンでサラサラと項目を埋めていく。名前と年齢は正直に、出身地や得意な武器や魔法関係の欄は適当に。


ものの数秒で記入し終わるとミミナはカウンター下からドックタグのような白色のプレートを取り出した。


「これは探求者の証明書のようなもので、探求者タグと言います。軽く魔力を込めていただくとリンタローさんの情報が記録されてリンタローさん専用のものとなります。等級によって色が変わりますが、白色は一番下の等級を表しています。身分証の代わりになるほか、ダンジョンで亡くなった場合、死体はすぐにダンジョンに取り込まれてしまいますが探求者タグはいつまでも残り続けるので拾われてここへ届けられれば死亡を受理されるというわけです。紛失時の再発行は費用がかかりますので気をつけてください。説明は以上ですが、質問はございますか?」


「いや、ない。十分だ。ありがとう。これで終わりか?」


一刻も早くダンジョンへ向かいたい倫太郎はミミナへの対応もおざなりであった。


「はい、今からあなたは探求者としての活動を許されることになりますが、探求者の品位を落とすようなことのないように日々、励んでください!」


お前が言うな、と言いたそうな目でミミナを見た。ミミナにも倫太郎の心の声が届いてしまったようだ。


「…しょ、しょうがないじゃないですか!探求者タグのくだりからこう言えってマニュアルがあるんですよ!」


「あ~ハイハイ、そだねー」


振り返り、手を振りながらカウンターをあとにする。後ろでまだミミナがわーわー喧しかったが、相手にしてられるかとそのまま探求者ギルドをあとにした。


なにはともあれ、これでダンジョンへの探索が可能となった。


ダンジョンで必要になるものは値は張ったが道具屋のブタの店員のオススメを聞きながらすでに購入済み。ダンジョンの位置も調査済みだ。


あとは六階層最奥まで突き進んで目当ての爆煉石を入手するのみ。

もうすぐ夕暮れ時を迎えようとする王都グランベルベを出て未踏破ダンジョン『夢幻の回廊』へと歩を進めた。


────────────────


『夢幻の回廊』は王都を出て東へ行くとすぐに岩山地帯となるが、そこら五分と歩かずに着く場所にその入り口はある。


倫太郎は『夢幻の回廊』などという物々しい名称から、荒れ果てた荒野にポツンと仄暗い入り口があるような殺伐とした雰囲気を想像していた。

だが、その予想は真逆の方向に外れていた。


「素泊まり一泊、百ベルからだよー!『夢幻の回廊街』最安値だよー!」


「『夢幻の回廊』へのチャレンジの前に武器の最終チェックはウチで!修理、調整、研磨は任せてねー!」


「戦闘前のメシはここ!上等な各種ステーキ!柔らかいパン!染み渡るスープはここだよ~!セットでお得になるよ!」


王都の喧騒や人波もかくいう賑わいを見せる。


「思ってたんと違う…」


商魂たくましい王都の商人達がしのぎを削る商売激戦区が『夢幻の回廊』の見所の一つとして定着していた。


『夢幻の回廊』を取り囲むようにちょっとした街とも言える規模の店や屋台、宿場や鍛冶屋が(ひし)めき合う様は倫太郎の想像とかけ離れすぎていて半開きの口をそのままに町中を見渡して歩いていた。


「あっ!!!あなたは!」


オノボリさん丸出しで露店を見ながら歩いていた倫太郎の目の前で着物の褐色のエルフが倫太郎を指差し叫ぶ。

一瞬「誰だ?」とも思った倫太郎だったが、ある日の頬のビリビリした痛みと共に記憶が甦ってきた。


「あなたは…」

「お、お前は…」


「変態紳士のリンタローさん!」

「カナヅチ馬鹿力エルフのマールさん!」


「誰がカナヅチ馬鹿力エルフですか!?」

「誰が変態紳士だ!?」


お互いがお互いをかなり失礼な認識のし方をしていたようである。


『夢幻の回廊街』で倫太郎が再会したのは湖で溺れて倫太郎に殺人ビンタを喰らわせて去っていったダークエルフのマールだった。


やっとダンジョン前まできました…。長かった。


過去話の改行、誤字脱字の修正を行っていきます。

読みやすく分かりやすく面白い?をモットーにしていきますので、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。


感想、誤字脱字、おかしな表現の指摘お待ちしてます。豆腐メンタルなので辛辣な批判は勘弁してください。

「面白い」「続きはよ」「頑張れ」と思いましたら応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ