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レガリア

今さらだが、『解呪の義』として魔素を目覚めさせたわけだが、とくに呪いを受けて魔素を封じられた訳ではない倫太郎は、そのことに釈然としていない様子であった。


「なあ、特に疑問に思わずに解呪の義とやらを受けたわけだけど、俺は別に誰かに呪いをかけられたってわけじゃないんだわ。一体なにを解呪したんだ?」


脳天をスリスリとさすりながらロゼッタは恨めしそうにむくれていた。


「…頭叩かれ過ぎて忘れちゃいました」


ジト目の視線に刺され、さすがの倫太郎も居心地悪そうに目を逸らす。


「うっ…悪かったよ。あんまり叩きやすくてポコポコいい音が鳴るもんだからつい連打しちまったんだ」


「全然謝ってないですよねそれ!?」


わーわーきゃーきゃーと不満を垂れ流すロゼッタをどうにか宥め、なんとか話を聞いて要約するとこういうことらしい。


倫太郎の場合、解呪と銘打って儀式を行ったものの、もともと倫太郎の中の魔素は全く使われない期間が長く倫太郎にとって不要の長物として錆び付き、身体の奥底で深い眠りについていた。その眠りの期間が長くなるにつれて呪いの類いで封印された状態に近くなっていく。

倫太郎はどんな死の窮地に立たされても魔素に頼ることなく切り抜けてきたためその封印に拍車をかけたというわけだ。


「なるほど、まぁ一応理屈は通ってるな」


そもそも魔法を行使することが一般的ではない地球人はほぼ全員が倫太郎と同じく魔素が身体の奥でスリープ状態なのかもしれない。


「じゃあ解呪の義を執り行えるあんたが魔法を使えないってのはどういうことだ?俺の魔素を目覚めさせたのはロゼッタの魔法とは違う力が作用したってことか?」


そうロゼッタに聞くと難しい顔をして考え込む。それを見てまさかとは思うが解呪の義で魔素が解放される理屈をよくわかってないのではと、倫太郎は疑いの目を向けた。


「正直…よくわかんないんですよねぇ。女神様に祈りながらの必要な詠唱と必要な手順は覚えてるんですけどなんでこれで解呪できるかは難しくてよくわかんないです」


そのまさかだった。

てへぺろ…とでも言いたそうにあっけらかんと返すロゼッタを頬をひきつらせながら信じられないものを見るような目で倫太郎は見る。


「ち、ちなみに解呪の儀が失敗するとどうなるんだ?」


「えぇーと、実際に失敗した現場に居合わせたわけじゃなくて聞いた話ですけど…心臓が破裂したとか身体中の穴という穴から血を噴いたとか気が触れて廃人みたいになったとか…あだぁっ!」


倫太郎の怒りの殺人デコピン(弱)に弾かれ、ロゼッタの頭が盛大に揺れた。これは倫太郎じゃなくても怒る案件だろう。


「お前…理屈もよくわからなくて下手すりゃ死ぬような儀式を俺にやったのか」


もう二、三発デコピンを打ち込まないと気がすまないようでデコピンの素振りをしながらロゼッタに詰め寄った。


「だっ、大丈夫ですよっ!今まで一度も失敗なんてしたことなんてないですもん。さっきの失敗したって話の聖職者は直前までお酒を飲んでてベロベロに酔っぱらってたり、詠唱をうろ覚えで挑んで失敗したみたいですから!」


まぁ済んだことはもういいと、懐から財布を取り出した。先の老婆の件でこの世界でも地球でもカネを払い渋るとろくなことにならないと再認識した倫太郎は言われる前に支払うように決めていた。


「成功したからまぁいいか…。それじゃ施術料はいくらだ?」


するとロゼッタはなんだか言いたくなさそうに口を開いた。


「お気持ちほどで…」


「なんて?」


「お気持ちほどで結構です…」


「…」


この教会が財政難に陥る理由がはっきりした。金品を受けとること自体は禁忌とされているわけではないだろうが、決められた金額を相手に要求することはしてはならないと言ったところか。


「…そうか、わかった。んじゃこれくらいでいいか?」


そう言い、財布から金色の硬貨を五枚取り出しロゼッタへと渡す。


「!?!!!?!。!??!、??!」


「いや、喋れ。言語機能死んでるぞ」


受け取った金額にびっくりしすぎて言語能力が一時的に麻痺したのか口をパクパクさせて掌の五十万ベルと倫太郎を交互に見ている。


「こっ、こっ、ここっこ、こーこここ」


「ニワトリのモノマネうまいなぁ」


「こんなにいただけません!!!あと誰がニワトリか!」


言語能力が回復したらしく聖堂に響き渡る声量で倫太郎へと突き返す。その手も震えていて、異常に耳のいい倫太郎には心臓もロゼッタの急激に激しく脈打つ心音も聞こえていた。


「お気持ちでって言ったのはそっちだろ?それが俺の気持ちばかりの金額だ。それとも受け取っていい上限が決まってんのか?」


そう返すと「そういうわけじゃないですけど…ゴニョゴニョ」とはっきりしない。


「下手したら死んでたかも知れないし、死ななくてもめちゃくちゃ痛い思いもしたけど、俺はこれで魔法を使える足掛かりを得たんだ。別に払いすぎだなんて思ってないから黙って受け取っとけ」


ロゼッタは受け取った硬貨を握りしめる。受け取ってもいいのか悪いのかの前に教会の財政難をどうにかしなければという思いが先にたち、受けとることにしたのだった。


「…では、ありがたく頂戴しようと思います。これは教会の修繕と経営に使わせてもらいます」


「おう、それに最低限ぶっ倒れないようにちゃんとメシも食えよ?」


そして倫太郎は教会をあとにしたのだった。


────────────────


教会を出て倫太郎は武具屋の大通りまで戻ってきていた。


別に武器を買うために戻った訳ではなく、大通りから一本道を外れたところにあるという魔法に関する書物やマジックアイテムをメインに売られている店が立ち並ぶ路地に来ているのだ。


大通りとは違ってここには魔法使い然とした出で立ちの者が多く、倫太郎の今着ている一般市民の人ごみにはよく溶け込めた服が今はやけに浮いているように思えた。


この世界の字を読めない倫太郎だが、あわよくばサルでも理解できそうな一番易しい内容の魔法について書いた本を買い、それで文字を勉強しながら本の内容も覚えようと考えていた。


そしてそれらしき本を求めて本屋の店先を覗いていると、店と店の隙間にギリギリ人が通れるだけの細い小道を発見した。

その道をただの隙間かとも思ったがよく見ると通路の壁に矢印とおどろおどろしい文字が書かれた看板が貼られている。

矢印は小道の奥を指しており、明らかにこの先に何かあることを示していた。


「…怪しすぎんだろ…」


警戒し呟くがこういういかにも掘り出し物がありそうな雰囲気を放つ看板の魔力に逆らえず、「でもまぁ見るだけならタダだし」と誰かに言い訳するようにその小道に入っていったのだった。


その小道は建物と建物の隙間で出来ていて右へ左へと何度も曲がり方向感覚を狂わせるような道であった。建物で光は届きにくく薄暗いが歩けないことはない程度の視界が延々と続く。帰りも同じ道を戻ることを考えると若干気が滅入ってくる。


どれくらい歩いたかわからなくなった頃、路地の突き当たりに片開きのドアが現れた。木製の煤けたドアは来客者など別に歓迎していないような雰囲気が感じられ、倫太郎は入ろうか戻ろうか立ち止まって逡巡したとき、扉の奥から声が倫太郎に投げ掛けられた。


「入ってきなぁ。鍵は開いてるからさ」


「っ!?」


倫太郎は歩くとき、ほとんど足音をたてない。仕事柄がさつに歩く奴など問題外なのだ。加えて服の擦れる音、呼吸音などを極限まで消した歩行術がクセになり身体に染み付いて久しい。


その倫太郎の存在を扉一枚隔てた向こう側から察知したのだ。ただ者ではない。

声はハスキーな二十代後半ほどの女の声だった。警戒しドアをゆっくりと開ける。

そっと覗くと六畳ほどの狭い部屋の壁に棚とショーケースが掛けられ、その中に用途不明の品が一定間隔で陳列されているのが見えた。

部屋の奥には銭湯の番台のように高くなった所に足を崩し、肘掛けに身を預けて頬杖をつきながら倫太郎を見下ろす女性がいた。


「よう、いらっしゃい。客なんて数ヶ月ぶりだぜ」


男勝りな口調と堂々とした佇まい、エルフのマールが着ていた着物のような服を着崩して大きな胸にサラシを巻いた女がいた。一言で言い表すなら不良花魁とでも言えばしっくりくる。いや、まずそれよりも…。


「数ヶ月ぶりの客って…大丈夫かこの店。そもそもここは店なのか?」


よく見れば陳列してある商品らしき物はどれもこれも扉と同じで煤けていて、年代を感じる物ばかり。早い話がガラクタにか見えなかった。


「はっはっはっ!なかなか愉快なこというじゃねぇかアンチャン。この宝の山を目の前にして店かどうかを疑うなんてなぁ!」


大袈裟に両手を広げ大仰に振る舞う女はどこか恍惚とした雰囲気だ。そう言われても倫太郎にはどうしてもそれほど価値があるようには見えなかった。


「そもそもアンチャンは通りの看板が『見ることができたから』ここに来たんだろぅ?」


その問いに倫太郎は大いに首をかしげる。


「見ることができたから?その言い方だと見えないやつもいるって聞こえるけど、あんな目線の高さに設置された看板が見えない奴なんているのか?」


意味がわからず聞き返すと女はクックッと笑い出す。


「アンチャン、ありゃレガリアで作り出した幻影の看板だよ。ちゃんと『この先レガリア専門店有り』って書いてただろ?あの看板が見えない奴はボサッと生きてきた奴、見える奴はバチバチのギリギリで生きてきた奴。スゲーだろ」


スゲーだろと言われればスゲーと思えるが、意味がわからなかった。

レガリアとはそんなアバウトな設定ができるものもあるのか、大体ボサッと生きてきた奴とバチバチのギリギリで生きてきた奴の差はなんなのか、真剣に考えるがさっぱりわからず倫太郎は困惑する。


「アタシはここの店主のザリアネってんだ。よろしくねぇ、アンチャン」


「あ、ああ、俺は倫太郎だ。よろしく。」


困惑しながらも名乗り返しザリアネが番台から伸ばす手をとり軽く握手する。異世界でも握手はコミュニケーションツールの一つのようだ。


「おっ!?おおっ!?わかる!わかるぞ!?リンタロー!あんたえれぇバッチバチの生き方してんだね!こんな奴ぁ初めてだ!」


ビクッと肩が跳ね上がりとっさにザリアネの手を離して距離を取った。それをきょとんとした目で眺めていたザリアネはまたクックッと喉で笑い始める。


「くっふっふっふっ、なんだい、見掛けによらずずいぶん恥ずかしがり屋なんだねぇ」


艶かしいく唇を舐めて劣情を誘う目と仕草、まるで男を誘惑しそこねたサキュバスのようだと倫太郎は評した。


「…今のもレガリアの能力ってわけか?人の情報を触っただけで盗れるレガリアとは…なかなか悪趣味じゃねぇか」


握手という行為をスイッチになにかしら相手の情報を抜き取るレガリアを使われたと思い倫太郎は即座に手を離したのだ。

だがザリアネの返答はまったく違うものだった。


「くっはっはっはっ!ああ~そういうことねぇ。いやいや、違うよ。これはアタシの能力さ。まぁ能力っつってもほとんど勘みたいなもんなんだけどね。バチバチかボサッとか。超バッチバチの伊達男か超ボッサリ野郎か、ハズレはしないけどテキトーな感じでしかわからない雑な勘みたいなもんだよ!」


ああそうなんだー。と納得できるほど倫太郎は日和ってはいない。

こんな怪しい店の店主の言うことなど疑ってかかるくらいがちょうどいいとさえ思っているくらいだ。


「証拠は?あんたがレガリアで俺の情報を抜いてないという証拠はあんのか?」


射貫くように鋭く睨むとザリアネは困ったように口元をへの字に曲げて思案する。


「…レガリアってのはねぇ、大別すると設置型と携帯型に分けられるんだよ」


そんなことは誰も聞いていないと倫太郎は口を挟むがザリアネに「いいから最後まで聞きな!」と強く一喝され口を噤む。


「…でだ、設置型のレガリアともなれば小さくても大の大人程度から大きければこの王都の城程のものもある。携帯型の物は小さいもので指輪位から、大きくてもせいぜい人の頭程だろうよ。…握手して相手の情報を盗む対人接触発動型ってぇなると携帯型のレガリアに絞り困れるわけだ。だから…」


一呼吸置いて妖艶に微笑み倫太郎にある提案を持ち掛けた。それは、


「裸に剥いて身体の隅々まで調べてみるかい?もちろん隠せそうな穴も探っていいよ?」


男として非常に、非っ常~に魅力的な提案だった。



予定にない女キャラをついつい登場させてしまう…。それに戦闘シーンを書きたいのに次の戦闘シーンに必要な街中シーンが終わらないジレンマに苛む今日この頃です。


感想、誤字脱字、おかしな表現の指摘お待ちしてます。豆腐メンタルなので辛辣な批判は勘弁してください。

「面白い」「続きはよ」「頑張れ」と思いましたら応援よろしくお願いします。

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