探求者ギルド
二人と別れた倫太郎は改めて周辺を見回した。
比喩ではなく実際に天まで届いている外壁が街を囲っている為、街の中は薄暗いかと思っていたが全くそんなことはなかった。
どういう原理かはさっぱり解らないが日中の明るさをそのまま街の中まで届けているようで、外壁の内側さえ視界にいれなければ外を歩いているのと変わりない。
いつまでもキョロキョロしてお上りさん丸出しというのも恥ずかしいので早速探求者ギルドなる建物へと向かう。
両開きの重厚な金属製の扉を開けると三階まで吹き抜け状に作られている広いフロアが目に飛び込んでくる。
建物内の左手には丸いテーブルと椅子が並べられ食堂兼雑談スペースになっているようだ。
昼食時にはまだ早く人は疎らだが、よく見るとすでに酒をかっ食らい泥酔している者もいる。
倫太郎はそのまま進むと五列のカウンターが並ぶ中で受付の職員がいるのは一つだけだったので迷わずそこへ行き用件を伝えた。
「ようこそ探求者ギルドへ!本日はどのようなご用向きでしょうか?」
カウンターには元気溌剌という言葉が似合う十代後半の女性が倫太郎を対応する。
そしてなんと彼女の頭にはブラウンの髪から立派なウサミミが生えている。ピョコピョコと動くそれをガン見したい欲求をグッと堪え、なるべく彼女の目を見て話すように心掛けつつ切り出した。
「王国騎士団長のエリーゼからロックドラゴンの買い取りの件で話が通っていると思うんだg「あぁ~!はいはい!聞いてますよ!えーと、リンタローさんですね!スゴいですね~!ロックドラゴンなんて滅多にお目にかかれない逸品ですよ!この建物の裏手で解体作業してる最中なのでお掛けになってお待ちくださいね~」
お、おう…。と、人が喋ってる途中から被せてぐいぐいくる受付ウサミミに倫太郎は引きながら先程の食堂へ行き椅子に腰掛け頬杖を付いたまま辺りの様子を伺う。
カウンター席の奥では料理人の親父が暇そうに新聞を読んでいる。
他のテーブルに座る探求者たちは飲んだくれたりパーティーで談笑したり様々だ。
そして受付を離れたあたりから倫太郎をずっとジロジロと見ているガラの悪そうな男が二人、倫太郎の視界から外れるように斜め後ろでコソコソと何かの相談をしている。
なにやら嫌な予感がするが今の時点では無害なので放置する方向でいた。
「素材買い取りでお待ちのリンタローさん!準備ができましたのでカウンターまでお越しくださ~い!」
受付のウサミミに呼ばれ、受付カウンターに向かうと、カウンターの上に金色に輝くカードサイズの板が六枚、金色のコインが八枚置かれていた。
「お待たせしました!いやぁ、こんな大金見たの久しぶりですよ!スゴいですね~!」
ニコニコしながら倫太郎に受付のウサミミは言うが、もちろん倫太郎はこんなデザインの貨幣など見たことはないので、どの程度価値があるものなのかまるでわかっていなかった。
適当に「あー、そだねー」などと合わせつつ、買い取りの明細を頼むとウサミミは「よろこんで!」と紙に書かれた内訳を読み上げ始めた。
「ええーと、まず獲物の状態が非常によく、通常相場の二割増しでの査定になります!さらに騎士団長エリーゼ様の口利きの分で一割増しですので三割増しの買い取りとなります!
ざっくりした明細ですが、ロックドラゴンの肉一式で百二十万ベル、両手の爪が合計二百五十万ベル、表皮が百十万ベル、魔石が二百万ベルで合計六百八十万ベルです!ひゅ~おっ金もちぃ~!」
最後の一言が余計だったが、買い取り査定アップに一役買ってくれたエリーゼに感謝しつつ逡巡する。
通貨の単位はベルで、金の板が一枚百万ベル、金のコインが一枚十万ベルということなのだろう。
と言うことは十万ベルよりも下の通貨もあるはずだ。未だに金の価値がよくわからないので目の前のウザい受付のウサミミ、略してウザミミに訪ねてみた。
「なぁ、変な事を聞いてるのは重々承知だが教えてくれ、この王都では四人家族が不自由無く一年間暮らすにはどのくらいの稼ぎがあればいい?あとパンは一ついくらだ?」
聞かれた意味がわかってないのか「なに言ってんだコイツ」と思っているのかは定かではないが、ウザミミは倫太郎の顔を見たままフリーズしている。
「え、えぇと一般の庶民の所得は大体年間四十万ベルくらいで、それだけの稼ぎがあれば困らないかと。食卓に並ぶようなパンは一つ十ベルから十五ベルです」
思考回路が復活し慌てて答えるウザミミ。
その数字から換算すると倫太郎がロックドラゴンの買い取りで受け取った金額は日本円換算で六千五百万円から七千万円といったところか。
一般人ならば大喜びして公共の場だろうと小躍りでもしそうなものだが倫太郎の反応は実に淡白だった。
「ふーん、まぁ大トカゲ一匹の討伐ならまぁそんなもんか」
日本で普段から裏の仕事を生業とする倫太郎にとっては七千万円程度なら端た金とは言わないものの大した金額ではない、という金銭感覚だ。
「いやいや、ふーん…て」
この反応はさすがにウザミミも予想の範疇になかったようで言葉に詰まる。
「あー、最後にもう一つ教えてくれ。この国で強盗やそれに準ずる暴力行為なんかの被害を受けた場合は正当防衛としてどこまでなら許される?」
またしてもウザミミのお姉さんはピタッと動きを止めて目を白黒させた。いよいよ「コイツやべー奴なんじゃ…」という疑念が頭を掠めたことだろう。しどろもどろしながらも受付のプロとして返答する。
「えぇーと…『どこまで』…とは?」
「早い話が身を守るための殺人が許されるかどうか、ってことだな」
こいつぁやべぇ…という気持ちが隠しきれず営業スマイルのような張り付けた笑顔すらピクついてきている。
聞かれたことの意図はわからないがウザミミさんは心を殺して己の知識を喋るマシーンになりきって対応するすることに決めたようだ。
「はい、正当性が認められる正当防衛であれば殺してしまったとしても罪には問われません。ですがその正当性を証明するために数日から数週間の憲兵の拘置所に勾留される恐れがあります。正当性が証明されない、または正当性がないと判断された場合は強制労働や奴隷堕ちなどの厳しい罰則が課せられます。ですが目撃者が多数いる状況であればその限りではないでしょう。他になにか質問はございますか?」
めちゃくちゃ早口で捲し立てるウザミミ。彼女の中でなにかが吹っ切れたようだった。最初の頃のウザさも元気もなく淡々と死んだ目で言葉を垂れ流す姿に倫太郎が引いた。
「あ、い、いえ、ありがとう…ございました…」
そして営業スマイルを張り付けたウザミミは「それではまたのお越しをお待ちしています」と、倫太郎に一礼して姿勢を戻したとき何故か勝ち誇った表情であったのを倫太郎は見てしまった。
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