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始まりの草原

拙い作品ですがよろしくお願いします。

爽やかな頬を撫でる春の風と、広葉樹の揺らめく葉の隙間から差し込む陽の光に倫太郎は眠りから半ば覚醒しつつある。


厄介な『仕事』を終わらせてくたくたになって夜明け前にマンションに帰宅し、シャワーも浴びずそのままベッドにダイブし今に至るわけだが…。


「………は?…ッ!?」


状況がおかしいことに一気に脳が覚醒する。

本来今自分が居るべき場所は都心の五十階建てのマンションの最上階。付け加えるなら倫太郎が所有している部屋の寝室のベッドの上であるはずなのだ。


しかし辺りを見渡せば地平線まで続く草原と背後には一本の広葉樹。しかも草も木も倫太郎の知識にはない種類のものであった。

仕事柄倫太郎は植物、そこから派生する薬学等には自信があったのだ。それに加え、


「なんで太陽が三つあんだよ…」


そう、上空には燦々と輝く三つの太陽が世界を照らしていた。

ひとつは見慣れた色合いの太陽だが、その両脇にうっすらと赤く光る太陽?と、うっすらと青に光る太陽?があるのだ。


「…よし、夢だなこりゃ。明晰夢ってやつか?」


考えるのを放棄し、またその場に寝転び目を瞑る。春のような麗らかな気候が後押しし、寝そべったそばから睡魔が込み上げてくる。

ウトウトしてそのまま意識を手放そうとした瞬間、背筋を伝う明確な殺意を感じ倫太郎は常人では目で追えないほどの動きでその場を飛び退いた。


ドンッ!!!


耳を劈く衝撃音が鳴り響き今ほどまで寝転んでいた地面が捲れ上がり直径一メートル程のクレーターが出来ている。隕石でも降ってきたかとも思ったが、空へと目をやれば、さっきまでの眠気を吹き飛ばすものがそこに佇んでいた。

三つの太陽を背に正にドラゴンと言い表す以外言い様のない生物が翼を広げ倫太郎を睥睨し、


ゥゴォアアアアアァァァ!!!!!!!!


大音量の咆哮とともに混じりけのない純粋な敵意をぶつけてくるのだった。


「いや、意味がわからん」


夢の中では感じ得ないリアルな殺意と夢とはとても思えないプレッシャーが倫太郎を襲う。

額に浮かぶ汗を拭い、思考の渦に呑まれた。


これ夢じゃねーの?ドラゴンて実在したの?いやいや、んなわけあるか。つかここどこ?俺ん家は?やべぇ、風呂入ってねーからちょっと汗臭ぇ。あっ、今日の金曜○ードショーはレオ○じゃん。


…などと、やや現実逃避気味なことを考えていた。


その一拍の硬直とも言い換えられる隙にドラゴン(仮)の胸部が膨れ、次の瞬間に口からなにかを倫太郎に向けて吐き出した。


はっと我に返り、本能に任せて横っ飛びに転がった。直後、倫太郎が突っ立っていた場所に空を切りながら人間の頭部ほどの岩石が飛来し突き刺さり、轟音と共に二つ目のクレーターを作った。


「マジかよ…。ドラゴンて岩吐き出すんだ…」


空想モノに登場するドラゴンであればその口腔内から吐き出されるのは炎と相場は決まっているのだが、目の前にいるゴツゴツとした表皮を持ったドラゴンは岩石を飛ばす種であるようだ。


いよいよ「これは夢だ」という線は消えてなくなった。リアル過ぎる殺意と敵意、飛び散った土と小石が降ってきたときの感触。どれもこれは現実で気を抜けば死ぬことを犇々と伝えてくる。


…となれば偉そうに上空から見下ろすでかいトカゲは敵。敵は殺す。なんてことはない、いつも通りだ。


殺し屋。それが倫太郎の職業だ。あるときは超長距離からの精密射撃、またあるときはゼロ距離での刺殺とオールマイティーにこなす。一対一でも一対多の戦闘もお手のもの。重火器、刃物、爆薬、毒薬、格闘術全般、果ては戦車、戦闘機の操縦、なんでもござれな若き職人として裏の業界ではちょっとした有名人であった。


しかしさすがにドラゴンを殺したことはない。が、生物であるかぎり殺せないことはないはずだと切り換える。


素早く左足に仕込んであるナイフを取り出し逆手に構え、ジャケットの内側のホルスターから愛銃のS&MのM19を抜き照準を合わせ迷いなくトリガーを引き絞った。


ガァン!


鼓膜に響く甲高い破裂音とともに一条の弾丸が射出され、それは狙い違わずドラゴンの眉間へと吸い込まれていった。

大概の普通の生物であればこれで終わっていただろう。だがファンタジー生物の代表格とも言える存在に普通という概念は通用しないようだ。


ギャィン!!!


眉間へと着弾した弾丸は硬質な音と共に突き刺さることなくドラゴンの額を滑り、後方へ逸れて行ったようだ。


「…えぇ…マジかよ」


よくよく観察してみれば本来鱗で覆われているはずであろうドラゴンの表皮はまるで岩石を張り付けたかのようなゴツゴツとしたものであった。触ってみないと確かなことは言えないが恐らく硬さも岩石か、それ以上の硬度を誇っていることだろう。


額に被弾したドラゴンも全くのノーダメージとはいかないようで、着弾時に頭を揺らされ脳震盪に近い症状を起こしている。首をふるふると振り意識をハッキリさせた後、ただの獲物のと思っていた相手に手痛いカウンターを喰らったことを自覚し、一瞬のうちにキレた。


グゥルルルァァアアアァァ!!!!!


今日一番の咆哮をもって威嚇、そして間髪いれず低く飛翔し倫太郎へ肉薄していく。


岩石のブレスではまた回避されると感じたドラゴンは倫太郎へと接近戦を仕掛ける。鉄をも切り裂くのではと思わせる人の腕位の長さの鋭い爪を倫太郎へと振るう。

巨体からは想像も出来ないほどの速度での高速移動からの爪撃。


殺った。ドラゴンはそう確信したに違いない。しかし爪を振りきってみれば土を抉った感触のみ。ドラゴンがもし言葉を喋れたなら「あれっ?」と呆けていたことだろう。爪を振り切った体勢のままわずかにフリーズしていた。

獲物がいたはずの場所には自身の爪で抉った深い爪跡のみ、では肝心の獲物は?


「こっちだ、トカゲ野郎」


声が聞こえてきたのはドラゴンの巨体の真下からだった。


───────────────


目測六メートルの巨体が急接近し、感じるプレッシャーも数倍にも膨れ上がるが倫太郎は冷静だった。


ドラゴンが接近し腕を振り上げる。爪による攻撃だとアタリをつけ、冷静に回避行動へ移る。が凡夫であればここで距離をとるように後ろへ逃げただろう。

しかし倫太郎は『前』に踏み込むことで活路を見出だした。


ドラゴンの視線が倫太郎とドラゴンの腕が重なる刹那とも言える一瞬、凶悪な爪付の腕をギリギリまで引き付け、極限まで低くした姿勢で掻い潜り腹下に潜り込んだ。敵の視界から消えることに成功した後、一呼吸置き飛び出す。


「こっちだ、トカゲ野郎」


その手に握られているのは鈍色に光るリボルバー。飛び出すと同時に構え、照準はロックオンされていた。標的は人の握り拳程もあろうかという二対一組の大きな眼球だ。


倫太郎は瞳に冷徹な、それでいて明確な殺意を宿し静かに引き金を引いた。


ガガァン!


ファニングの応用で放たれた弾丸は二条の軌跡を描き、狙い通りその双眸を撃ち抜いた。眼球を破壊し眼底をぶち破り侵入した二つの弾丸は脳に達し、硬い頭蓋骨の内側をピンボールよろしく跳ね回り内部を蹂躙した!


ギャオァッ!!!!!


巨大な体をビクンと跳ねさせ、短く呻き声を上げ、僅かな停滞の後にドラゴンは巨体を地鳴りを起こさんばかりに豪快に横倒しで草原に沈んだのだった。



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