西日
木にもたれながら大きな欠伸しながら空を見上げる。
青を基調とした色に長短の白が所々点や線で存在し、人々を眺めるかのように浮いている太陽が一つあり、光から照らされるほど良い暖かさに眠気に誘われる。風から運ばれてくる冬を越した草木の匂いがまた心地良い。遠くからは子どもたちの遊んでいる声と、大人が彼らを呼ぶ声も聞こえくる。
いつもと変わらない日常。なんの変化も、なんの進化もしない、時間が止まっているかのようにのんびりと一日が終わる村、マアヤ村。
村の人口はあまりにも少なく、その数ざっと30にも満たない小さな所であり、人よりも家畜の方がずっと多い。
日が昇る前から大人たちが起き、農作物や家畜の世話を行い、日が一番照る頃には農作物や家畜の世話を行い、日が沈む頃には農作物や家畜の世話を行い、月が替わりに昇れば、村の人たちは一斉に寝静まる。朝から晩まで農作物と家畜に時間を費やし、その2つでなにか問題が起これば村全体で緊急に会議が行われる程生を尽くしに尽くしている。まるで、村の人たちの人生は農業に全てを握られてるかのようだった。生きるためにはまあ仕方ないなのだが。
魔法を行使できる村人たちは、魔物やモンスターを狩るために使うのは非常に少ない。日常の中で火を起こす、水を作る、暗闇を照らすといった事くらいにしか使用せず、魔法使用の半分以上を農業が占めている。
そのおかげというか、そんな生き方によって村は発展せず周りと比べ原始的なレベルで暮らす村が俺の住む村だった。
生誕歴765年、俺ことクローズ・エンド・ローグは18歳となった。
魔法というものを発動できるようになってから14年間、ろくに学ぼうともせず、働こうともせず、のうのうと非生産的に生き続けていた。親や周りの大人から村のために働けと酸っぱく言われるが、そんな事はしたくない。
いや正確に話すと、できなかった。
この世界において魔法というものは、幼少期にある日突然発現する。夜にいつものように眠り、朝になったら魔法が使用できる感覚が湧く。というよりも、魔法に必要な文言が勝手に頭の中に浮かびあがり、その文言によって発動する魔法の属性が自ずと分かるようになっている。
誰に何を教わった訳でなく、急に発動できるようになるのだからそれは驚く。まるで使い慣れた言葉を話すように、当たり前のように使用できるからだ。
火、水、風、闇、光。この5の属性の中から最初に発現できたものがその者が得意とする属性になり、覚えの速さも派生魔法の習得も早くなる。
最終的には全ての属性の魔法を使用することが可能だが、威力はたかが知れている。得意属性はやはり威力は高くなり、それ以外の4属性は日常的に使用する分には差し支えないレベルくらいにしかならない。
しかし俺はその5属性のうち、1属性のものしか発動する事が出来なかった。得意属性というよりも特化しすぎていてるといっても過言ではない。なんともまあ、不便極まりない。
他の属性が習得するのが出来ないと悟った5歳から俺は魔法を誰かの前で使用することが嫌になり、大人たちからの出来るようになるさ、と言った無益な言葉に期待をしなくなった。
魔法が使用できないから働かない、といった理由にはならないが結局は日常の大部分を魔法が占めているこの村では俺の役割なんて特にない。
なんとも悲しい運命か。
感傷に浸りながら目を閉じる。
日光により瞼を閉じても明るく、暗い世界に閉じこもりたいのに瞳からは自身の膜のピンク色が映し出される。舌打ちをしながらそのまま横向きで地面に体を預けた。
「またこんな所で寝てる!」
ゆっくり目を開け声の主を見つめる。
先程遠くの方で遊んでいた子どもの1人だろうか、首から背中に向け布を下ろし、手に枝を持つ少年がいた。
彼は俺が起きたと思うとにっこりと破顔する。
「俺はいいから遊んでたんだろ?早くあいつらのところへ戻っとけ」
俺は軽くあしらうと、少年の元へ同年代の少年と少女が後から駆けてきた。
「こいつは仕事もしないダメな奴だから放っておいていいんだよ!あっちで遊びの続きやろうよー!」
「ローグさん、ママとパパ達に後で怒られても知らないよ?」
2人の少年少女も似たような格好をしながら俺に話す。
最初に俺に話しかけてきたのは、今年で8歳になったマルコで、短く整ったオレンジの髪をし無邪気ながらも優しい目をした少年である。
次に話したのはバスコ。こちらはマルコと双子の兄であり、弟の世話を見るうちに兄として自覚が芽生えてきたのだろう、強気な態度である。見た目も弟とそっくりで唯一違うとしたら右の眉毛に小さな傷跡がある事くらいだ。これは、英雄譚や勲章なんかではなく、ただ単にバスコが道で転んだ時に出来た産物らしい。
最後に話したのはミーシャ。双子の兄弟といつも一緒にいる。肩ぐらいに伸びた青みがかった髪が特徴的で、誰よりも相手を思う気持ちが強いため感情移入をしてしまう。善も悪にも感情が入るので優柔不断と思われてしまうため、双子たちは妹のように大切に接している存在である。
バスコは弟の手を引き遊びの続きをしようと戻ろうとする。
「お前らマント羽織って、棒持ってなんの遊びやってんだ?」
暇つぶしがてら俺は少年たちに聞く。
「うっせー!働かない奴には教えないもんね!俺たちがなにやってようがローグには混ぜてあげないから!
」
「お兄ちゃん、そんな風にローグお兄ちゃんに言わないんだよ?僕たち魔法使いごっこしてるんだ。この棒の先から魔法を出してぶつかった人の負け。でも、マントでガードしたらセーフ。ローグお兄ちゃんもやる?」
「マルコそれ言うなよ!つか、ローグは魔法使えないからやれねーよ」
「バスコ駄目だよ…。ローグさんにそんな風に言っちゃ怒られるよ」
(実際、お前たちは全属性の魔法を行使できるのに魔法使いごっこねぇ)
俺は3人の話を聞き、心の中でぼやくと大きく嘆息を吐く。
魔法使いごっこ。別名、模擬魔法戦争。
大昔にどこかの大陸で世界随一の魔法使いが自身の技術の向上と肉体鍛錬の為に編み出した練習方法である。
自分の魔力も肉体も心もそっくりにコピーした影を己と戦わせ、それを倒せば今の自分よりも少し成長する事ができる荒い練習方法。負ければ自分も影も消滅してなにも残らない無謀なやり方でもある。
これの改良版が、対人で魔法によって限界まで高められた防御力のマントを羽織り、脆弱な武器、最低ランクの杖を使うことで死ぬ事を抑える事ができる。しかし、決着が付かない為に、先に魔力切れになった方が負けという燃費の悪い練習方法。
それの2つが合わさって出来たのが模擬魔法戦争。
ルールは先程マルコが語ったように、先に肉体に魔法をぶつけたものが勝つ。しかし、それに補足して説明するならば、肉体は自身でなく、自身が魔法によって作り出した影の肉体に当たったら勝ちというものになる。
つまり、自身は相手の影を攻撃しながら、自分の影を操り防御も徹底しなければならない高度な技術である。が、マルコたちは子どもということもあるので、せいぜい自分の影ではなく、動く影の何かに敵が当てたら勝ちという、狩猟の延長線みたいなものなのだろう。
「ローグは影魔法【シャドウ】も出せないから混ざれねぇもんね!」
バスコは俺にそう放ちながら高らかに笑う。
俺は体を起こし大きく伸びをすると背骨あたりからポキポキと軽快な音が鳴った。
「確かにそうだな。だけど、そんな幼稚なごっこ遊びに付き合うのも悪くはないな。よし、今日は天気も良いから付き合ってやる。負けたら俺のことをローグ、ではなく、ローグさんと言え」
「【シャドウ】も使えないローグが魔法使いごっこできるわけねぇじゃん!」
「いや?どうかな?」
俺の言葉に3人は驚くが、俺の言葉が嘘だと思ったのだろうバスコだけはニヤリと笑った。
「いいよ、やってやるよ。俺が負けたらローグにちゃんとさん、をつけてやるよ!俺に負けたらローグは俺のことを、バスコ様と呼べよ!」
バスコは手に持っている枝を俺に向ける。その様子を2人の少年たちが見守っているが、彼らの頭にも次第に俺の言葉が嘘である、と理解してきているようだった。
バスコの言う通り、俺は過去に4属性の魔法を使用できないと悟った後、一度も村の人たちの前で魔法を使う姿を見せてはいない。それに、まだ8歳になったばかりの彼らは産まれてもいないので、悟った時すら見てはいなかった。
「了解だ。場所はどこがいい?バスコに任せるが」
「ここでもいいぜ!俺の勝ちに変わりはないんだから!ミーシャ、ローグがズルしないようにちゃんと審判しろよ!先行の攻撃はローグからでいいよ」
バスコの言葉にミーシャがどきりと体が動く。
彼女の性格もあり、俺が強がりで言っていると思っているのか不安そうな目で見つめてくる。
俺はそれを受け入れ、開始の合図を頷くという動作で送る。彼女もそれに応えるように小さく頷くと試合開始の合図を告げた。
「そ、それじゃあいい?ローグさん対バスコ、始めてください」
先に口火を切ったのはバスコであった。
「光、照らされしものの下にのみ現れし夜の住人。闇、いつ如何なる時も現れし夜の住人。光と闇の狭間の住人。出でよ【シャドウ】」
バスコの詠唱にて地面から現れたのは彼と身長が一緒な影だった。自身と同様な影を作るにもそれ相応に高度な魔力や技術が必要だが、それを難なくこなすバスコは世間から8歳にしては褒められるものだろう。
バスコは自身の布を影の首で結ぶ。
準備が整った影はゆらゆら揺れ続けた後、またゆっくりと地面の中に潜っていく。
「いきなりやられちゃ意味ないからな。影は影らしく隠させてもらうぜ。ちなみにだけど、俺は影を操りながら攻撃もできる!さあ、ローグ!俺に勝てるかな?」
「ほう。同時に攻撃も可能なのかそれはすごいな。その年でそれだけの技術と魔力は正直羨ましいくらいだ。でも、それは俺からしたら少しすごいってことだけで、俺の前では意味はないな」
俺の言葉にバスコの眉が上がる。
「んじゃ、ローグも早く【シャドウ】を使い俺の影を倒せよ!影魔法使えないローグじゃ無理だけどね!」
小さな少年にここまで言われるのか、と俺は思い大きな嘆息を1つ吐く。そして、炎の渦のような刺青が入った右手を前に出し彼に話す。
「魔法使いごっこ。別称、模擬魔法戦争の影は別に【シャドウ】で無くてもいいんだ。自身の投影であれば良い。そして、俺は【シャドウ】を使えないから、昔からできるこの魔法のみでバスコお前に勝つ。獄炎の煉獄をその身に刻め。」




