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始まりの出会い

 大きな彗星が見えるらしい。

 

 子供のようにはしゃぐおじいちゃんがそう言っていた。

 なんでも、大きな彗星が地球の近くを通るらしい。

 僕は宇宙の事になると目を爛々と輝かせて語るおじいちゃんが大好きだった。

 彗星についてはおじいちゃんが詳しく教えてくれていたからよく知っている。

 だから僕もおじいちゃんと嬉しくなってはしゃいだ。

 一緒に近くの山に見に行く約束をしてからというもの毎日がウキウキで楽しみだった。

 

 だけど、おじいちゃんとの約束は守られなかった。

 

 彗星の見られる前の日。

 おじいちゃんは風邪をひいてしまったのだ。

 90歳を超えるおじいちゃんは少しの病気で簡単に死んでしまう。

 両親から無理だと言われ、目の前が真っ暗になったのを今でも思い出せる。

「私が連れてってあげるよ」

 そう名乗り上げたのはおばあちゃんだった。

 正直、僕はおばあちゃんが苦手だった。

 おばあちゃんは真面目で几帳面で厳格だった。「寝癖は直す!食べる前にはいただきますだよ!左手で皿を持って!」

 

 今では大事な事だと分かるが、あの頃の僕にはただただ疎ましかった。

 

 

 ウキウキだった気分はガタ落ち、楽しめない状態のまま彗星の降る夜になった。

 おばあちゃんと丘の上に登って場所を取った。

 丘の上から空を見ると満天の星空が見れて少しだけ楽しい気分が戻ってくる。

 おじいちゃんから聞いていた時間になり、すっかり元気になった僕はわくわくと空を眺め彗星を待っていた。

「わぁーー!!」

 それまで流れ星は見たことはあって、今回の彗星も早く通り過ぎて行くと思っていた。

 だけど予想に反し、彗星はゆっくりとだけどもあっという間に僕の真上を尾を引いて通り過ぎていく。

 

 次の瞬間、彗星は真っ赤に輝き小さな彗星を周囲に放った。

 親子のように1つの大きく真紅の彗星と周りに小さな緑や青といったカラフルな彗星が沢山飛んでいる。

 あまりに幻想的な光景に僕は言葉を失い、ただその景色を見つめていた。

「…おじいちゃんと見たかったなぁ」

 思わず出てしまった言葉に言い終わってから後悔した。隣におばあちゃんが居るのだ。せっかく連れて来てもらったのにこんなこと、絶対怒られてしまう。

 怖くておばあちゃんの方を見られない。

 

「あら?」

 それまで黙っていたおばあちゃんが口を開いた。

 慌てて空を見ると1つだけ、それも1つだけ虹色の彗星の軌道が逸れていた。

 

 これもおじいちゃんから聞いていた。

 彗星の欠片は時々地球に流れ星として落ちてくるのだ。

 今回もきっと流れ星になるんだろう。僕は見えているうちにお願いをすることにした。

 

 次はおじいちゃんと見れますように。

 

 虹色が強く光った気がした。

 

 

 

―――流れ星は、隕石として町の真ん中の小高い山に墜ちた。

 

 

 強い衝撃が全身を襲う。ぐらっとめまいを起こす。体に何かが無理矢理入り込んでくる感覚に見舞われる。吐き出したかった。気持ち悪かった。

 

 衝撃が収まると、僕の体には何事も無かったかのように元に戻った。

 

 隣を見ると、おばあちゃんが倒れていた。

 

 息をしていない。

 慌てて胸に耳を当てると心臓の音が聞こえない。

 手を取ると、凍っているように冷たかった。

 

 死んでる。

 

 幼い僕でも分かる。目の前の人は死んでいる。

 あのおばあちゃんが、厳しかったおばあちゃんが死んでいた。

 

 

 

―――なのに、なぜか僕の目からは涙が出てこなかった。

―――……ぃ。……ぉ……ぃ!……ぉいッ!!

 

 

 バシッ。

 

「…って!」

「いつまで寝ているんだ!授業中だぞ!」

 

 教室中にうるさく響く笑い声の中、俺、栗宮灰人はいつものように教科書で叩かれた頭を掻きながら上げると、そこには美人が立っていた。

 丸く、柔和な印象を持たせるヒップから伸びる細い線は芸術的な曲線を描きながら引き締まったウエストを形作る。そして、その繊細で今にも折れてしまいそうなウエストからは想像も出来ない程に巨大な双丘、もとい双球。

 母性溢れる豊満なバストから更に視線を上げると、背中まで届きそうな程長い黒髪の中にトラウマを掻き立てる般若の如き顔。

 昔どこかで読んだラノベのようなシーンがまさか俺の世界にも現れるとは…。

 

「いつまでぼーっと寝ぼけているのだ! …はぁ。栗宮、放課後に職員室に来い」

 

 えー…、今日は帰って録画したアニメ見るつもりだったのに…。

 好きな本がアニメ化して1話目だぞ?見ない手なんてあるのか?

 

 ガッ!!

 先生は俺のこめかみを掴み笑顔でギチギチと力を入れていく。

 

「痛い痛い痛い痛いいいい!!」

 

 あと力入れながらしてる爽やかな笑顔もコワイです!!

 俺は必死に先生の手を剥がそうとするが掴む力は増していくばかり。

 先生っ、周りの人も怖がってますよ!!美人女教師の外面がっ!!

 

「なんだその不服そうな目は?返事はどうした?」

「はっ、はいい!喜んで行かせていただきます!だから離して!!」

 

 ぱっと。俺の懇願が叶い、恐怖の手から解放される。

 ふいー… 頭蓋骨割れるかと思ったぜ…。

 この先生握力も強いからほんとやばいんだよな…。

 

「全く…。無駄に時間を使ってしまった」

 

 やれやれというように離れていく先生の背中を、痛みが残るこめかみを押さえながら見送った。

 

 今の先生、犬山忍先生は俺の居るDクラスの担任で古文の先生だ。

 教え子の中でも授業中に寝ているような問題児の俺は様々な所で面倒を掛けている。

 俺としてはほっといてくれればそれでいいのだが、俺みたいな不良生徒の指導も先生の仕事だからしょうがない。

 まったく、あの先生見た目は良いんだからもうちょっと乙女らしくしてればモテると思うんだけどな。

 男受けにヤンキー娘を目指してるのか?最早番長って感じだけど…。

 

「くぁ……、ねむっ…」

 

 やる気が無いとかそう言うんじゃないんだ、ただ眠い。ただ熟睡していたいんだ。

 でもまあ、ここでまた寝たら次はないだろうから頑張って起きていようと思う。

 頑張れ、俺!あと40分だぞ!少し頑張れば帰れるんだぞ!

 40分か…、だるいな…、する事無いし…

 

 

 

 

 

 

 

 結局あのあとはえっちらおっちら船を漕ぎながらも授業を受け終えた。退屈過ぎて死ぬかと思ったぞ…。

 睡魔だってほんとは良い子なんだよ?天使みたいに優しくて慈母のように優しく包んでくれるんだよ?なんで皆嫌うの?仲間はずれはダメってあれだけ言ってるじゃん!

 でもまあ、もう今日は終わりだし帰ってアニメ見るぞー!!

 

「おい、栗宮!職員室行くぞ!早く来い!」

 

 うっ…しまった。少し前の事なのに忘れてた。

 

 ああああ!完全に帰るモードだったのに!!アニメ見る気満々だったのにい!!

 …しかし逆らうと怖いのも事実。ここは諦めて職員室に行って、謝ればすぐに帰れるさ。

 優秀な怠け者は無理に我を通すなんてしないのさ!

 俺は荷物をまとめたリュックを背負い、先生を追って職員室に向かった。

 

 

 

 職員室に入ると先に戻っていた犬山先生は書類の山から顔を出し俺だと確認すると、ちょいちょいと手招きをしてきた。

 職場の同僚に気付かれないように呼ぶ姿は何かイケナイことをしようとしているような背徳感があって興奮してしまうな。

 ちょっと照れつつコソコソと先生の元へと向かう。

 

「なんだ?そんな顔赤くして…。人と話すのがそんなに嬉しいのか?カウンセラーの先生紹介してやるぞ?」

「いや、先生が可愛く手招き…ああ、いえ、なんでもないです」

 

 周りの先生達に見えないように拳を握り締めたぞ、この人!

 イケナイことどころか物理でいけない事だよ!

 

「で、何度言われれば気が済むんだ?授業中は寝るなって言ってるだろうが。他の先生からも苦情が出始めているんだぞ?そんなに退学したいなら、書類出せ。はんこ押してやるよ」

「いやっ、ち、違うんですよ!これには深い訳がありまして…、その、昼間凄く眠くなるんですよ」

 

 キョトンと、犬山先生は目を丸くして俺を見つめた。

 そんな、み、見つめられると恥ずかしいですよ~。

 

「眠いからって素直に寝るなよ……はぁ。ここだと人が多いな…。ちょっと来い」

 

 キョロキョロと周りを見渡し他にも先生が多く居る事を確認すると、俺の腕を引き廊下へと連れ出した。

 やっ、そんなっ、腕が胸にっ!柔らかくて大きな先生の胸にっ!

 

 

 この学校、能亜高校の形は特徴的で、南側から教室のある本棟。視聴覚室などがある特別棟。そして、調理室等がある専門棟の3つの建物が平行に並び中心を渡り廊下が貫通した、漢字の王のような形をしている。

 

「ここまで来れば誰にも聞こえないだろう」

 

 先生に連れられてきたここは、真ん中の特別棟にある選択Bという教室だ。

 

「それで?お前の能力が原因なのは分かるが、これからどうする?停学か?退学か?」

「なんでやめるしか選択肢無いんですか…やめませんよ」

「どうして定時制の高校に来てるか理解に苦しむな」

 

 先生はため息をつきながら近くを机に腰掛け足を組んだ。

 普段はタイトスカートで隠されている肉付きの良い太ももが露わとなり、思わず目が釘付けになりかける。

 俺はもっと見たいという邪念を頭から引き剥がし会話を続ける。

 

「か、覚醒したのが去年の冬だったんだから、仕方ないじゃないですか!」


 欲望から離れきれず思考が乱雑になり、噛み噛みだったが上手く誤魔化せたと思う。

 先生は今日何度目かの深いため息をつくと足を組み替え体勢を整えた。

 …ぱんつが見えるんじゃないかって、ほんとヒヤヒヤしたぜ。

 

「お前の鼠の能力には同情する他無いが、それはそれ、これはこれだ。さっき言ったように他の先生からも苦情が来ているんだ。罪には罰を与える必要があるのはお前もよく分かっているな?」

「はい…」

 

 毎日のように教科書で叩かれてるしね!

 

「だがこうなってくると頭を叩くどころでは済まなくなってくる」

「はぁ…。あの、叩くって体罰に入りませんかね?」

「そんなのお前が訴えなければいい話だろう?」

 

 そう言いながら先生はまた俺に見えるように拳を握った。

 

「わ、分かってますよ!分かってますから物理交渉だけはやめてぇ!」

「分かっていればいいのだ。とまあ、お前のせいで大分話が逸れたが、要はお前に罰を与えようと思う」

 

 俺の願いは受け入れられ実力行使だけは避けられたが罰を受ける事には変わりないらしい。

 この流れ知ってるぞ、奉仕活動させられるんだろ?そして気付いたら女の子2人に取り合いにされて…ぐふふ…。

 

「…ぐふふ…」

「急に気持ち悪い笑い方するな。張り倒すぞ?あと涎拭け」

「…はっ!いけね!じゅるっ」

「まったく…何回話を逸らせば気が済むんだ。とにかく、罰としてお前には奉仕活動をしてもらう」


 …えっ!?先生、まさか…。

 

「移動するぞ、付いてこい」

「先生、あのラノベ読んでますよね!?」

 

 先生に聞いてみると、ギロッと俺を睨んで口を開いた。

 

「ラノベぇ?お前、温厚篤実・清廉潔白・才色兼備と優秀な能力、男達を魅了する美貌、清楚さを体現したような性格の私が子供騙しの文章で構成された本など読むと思っているのか?」

「先生の性格は同意しかねますが、やっぱりそうですよね」

「せ・い・か・く"も"、だろう?」

「はいいい!!そうです!!先生はこの世界で1番綺麗なお方です!!」

 

 ふぇぇ…、この人怖いよぉ…。睨まれただけなのに心臓が爆発しそうなくらいの圧があったよぉ…。

 

「…世界一は言い過ぎだ。早く行くぞ」

 

 先生は俺を置き去りに教室から出て行ってしまう。

 

「あっ!待って下さい!置いてったら逃げますよ!?」

「なに、逃げたら必要な事は全部やっておくから明日から来なくて良くなるぞ?少々面倒だがお前とこれきりだと思うと楽に感じるな」


 俺は退学だけは避けなければと必死の思いで先生を追いかけた。

 

 

 

「ところでお前、部活にも入らずに早く帰ってなにしてるんだ?彼女が居るわけでもないのだし」

「なんで先生は俺に彼女居ないの知ってるんですか?」

「見れば分かる」

 

 見ただけで分かるんですか、そうですか。

 俺ってそんなにモテなさそうかなぁ?や、実際モテないけども。

 

「でもなんでモテないんっすかね?成績は良いし、顔だって良い方だと思いますし、夜なんて眠くならないんですよ?ギンギンじゃないですか?」

「そういう下ネタを私とはいえ女性の前で平気で言うからだぞ。あと、トイレ寄ってやるから一度鏡見てこい」

 

 この先生さらりと貶してないか?

 顔は整っているんだけどねぇとか近所のおばちゃんに言われるくらいには良い方だと思うんだけどな~。

 

「でも確かに女子の前で聞こえるように下ネタ言う男子居ますしね。なんなんですかね?あれ。何をアピールしてるんだか」

「お前がそれ言うのか…。これは私の仮説だがあれは「下ネタを話せる俺、エロいこと沢山してるモテモテ野郎なんだぜ。Hも上手いんだぜ」アピールだと考えているな」

 

 なにその卑屈な童貞男子の無駄な努力!?

 えっ、俺今から下ネタ言うのは辞めるわ。童貞扱いされると困る。…俺童貞だけど。

 

「そもそも手当たり次第やることやってる奴に惹かれる訳無いんですよね…。むなしい努力ですね…」

「そうだな童貞宮。」

「その呼び方語呂悪いし、結構傷付くのでやめて貰えませんかね?」

「だが事実だろう?」

「事実だから傷付くんですって!」

 

 この人どんだけ俺の心クラッシュしたいの!?もうライフ無いよ!?

 先生だって彼氏居ないのに、なんで俺だけ責められなくちゃいけないんだろ。

 先生に彼氏居ないとか言った日には次の日が無くなるから言わないけども。

 

 はぁ、彼女出来ないかなぁ?

 

―――ピンポンパンポーン♪

 

 廊下に鳴り響いたアナウンスに俺と先生は思わず会話を中断して耳を澄ました。

 

『犬山先生、犬山先生。至急職員室に来て下さい』

 

 アナウンスに呼び出された先生は、少し嫌な顔をして腕時計を見た。綺麗な手首だなぁ。

 

「栗宮、この突き当たり左の部屋だ。先に向かっておいてくれ。逃げるなよ?明日から来なくていいようにしてやるからな」

「分かってますよ」

 

 誰が逃げるか。リスクがでかすぎる。

 

「すぐ戻る」

 

 そう言い残して今来た道を走って行く先生を見送って俺は先生に言われた教室へと歩を進めた。

 

 …あー、だるいなー。教室に美少女が待ってるとかだったらダッシュで行くのに。

 居たとしても獲物狩るような目つきで睨まれるんだろうなー。それはそれでいいけど。

 せっかくの放課後が無駄になってくな…、時間は有限なんだぜ?有意義に過ごさなきゃだめだろ?

 まあここでなに言っても無駄なんだけどな。

 

 

 

 

「突き当たりの左…ここか」

 

 薄汚れた質素な引き戸に手をかけ、ふと思う。

 鍵って開いているのか?

 

 この学校、というか大体の学校は防犯の為に戸締まりが徹底している。

 先生であるあの人は鍵を持っているからここが締まっていても開ける事が出来るが、一介の生徒である俺は鍵なんて持ってない。なんならこの部屋に来ることも知らなかった。

 そして先生が居ない今、この部屋に来るのは俺ただ一人だろう。

 やだなー、事務室行きたくないなー。

 ここ1番端だから事務室までかなり遠いぞ?だるいなー。

 

 よし!開かなかったらここで先生待ってよう!鍵渡さない先生が悪いんだし!俺は何も悪くない!

 

 俺は固い意志を持って勢いよく戸を開けた。

 

―――ガララッ!!

 

「こんにちは!」

「ぅぇへっ!?」

 

 晴天の日の朝日並に爽やかな挨拶を出会い頭にされ、俺は思わず飛び退いた。

 戸の先に立っていたのは肩の高さで切り揃えられた新雪のような白髪と、整った顔立ちと白磁の如くきめ細かい肌。 

 最早説明に白という言葉以外浮かばないくらい純白な印象を受ける美少女がいた。

 

 美少女は一呼吸置くと覚悟を決めたように口を開いた。

 

「あの栗宮さん、私と付き合って下さい!」

 

 …えっ、えっ!?何この状況!?なんで!?

 脳の回転が追いつかないんだけど!?

 

「えっと…告白の返事は、一旦置いといて。それよりも、沢山聞きたいことあるんだがいいか?」

「なんでもどうぞ聞いて下さい!あっ、ここで話すのもあれですし、中へどうぞ!」

 

 彼女のペースに流されるままに俺は室内へ連れ込まれる。

 今日はなんか人に流されまくりだな。いつものことか。

 

 教室の中は後ろ半分に机が積まれ、使われていない雰囲気だが、異質な物のせいでここが特殊な部屋だという事が表れている。

 異質な物、それは教室前半分に置かれたローテーブルと重厚な色のソファだった。

 物自体は別に問題ない。問題はなぜここにあるかだ。

 応接間だとしてもここはこの学校の1番端。

 来客をここまで連れてくるには待遇もろもろおかしいだろう。

 一体、何を接客する物なのか…。

 

 俺が促されるままソファに座る。柔らかすぎずしっかりと体を支えてくれる座り心地だ。

 職員室の応接間に使われている物は体が沈み込む程柔らかくてまったり出来るが、このソファは自然と真面目な気持ちになれる。

 

 ことり、とテーブルに俺の分の湯呑みを置いた彼女は俺の向かいのソファに腰掛けた。

 湯呑みには口を付けず早速本題に入る。

 

「それで、どこから聞けば良いんだ?ええと、まずはお前は?」

 

 こうは聞いたが俺は目の前の美少女は知っている。

 名前は白神和姫。この学校で知らない人は居ないくらいの有名人だ。

 テストは毎回ダントツの1位で運動神経も抜群。その上誰に対しても平等に接し、敬意も忘れない態度でどんな人とも友好的に話す。

 形の良い胸に引き締まった腹、ぷりっと肉が付いていながら小ぶりなお尻と魅力的な体付きをしていながら不思議と微塵のエロさを感じられないのが更に彼女の魅力を倍増させている。

 1年から3年まで全員の注目の的で、男子達は彼女に告白しない誓いをたて彼女が望む相手と結ばれることを男子全員が望んでいるのが彼女なのである。

 そんな彼女が俺の目の前に座っている。俺に告白して。

 

「そうですよね!私の自己紹介がまだでしたね!私は白神和姫と申します。好きなものは甘いものと灰人様です!将来の夢は灰人様のお嫁さんになることで、毎日の自慰のおかずは灰人様に―」

「待て待て待て!!名前だけで良いから!俺そんな女子のオナネタ聞くほどゲスくないから!」

 

 誰に対しても友好的ってなんなんだ、仲良いとオナネタとか普通に言い合うのか?俺友達居ないけど絶対違うって言い切れるぞ?

 俺の注意を受け冷静になった白神は、自分の今の発言に羞恥を覚えたらしく顔を真っ赤にしてした。

 良かった。常識が無いタイプじゃなくて。

 いや~、あるよね~。テンションだけで話して後で恥ずかしくなるやつ。夜に枕に叫んだり、布団ボスボス殴ってみたりして忘れたくなるんだよなぁ。

 

「ごめんなさい、灰人様。少し冷静さが欠けていましたね。もう大丈夫です」

「そうか、それは良かった」

「目の前に居るんですもんね!コソコソ自慰なんてしてる暇ありません!灰人様Hしましょう!」

 

 白神はローテーブルに手を掛け、身を乗り出して俺の股間に手を伸ばした。

 

 熱っぽい潤んだ目つき。細く繊細な指。テラテラと煌めく手。

 気付けば胸元のリボンは外され、開けた襟元から陰影の濃い谷間が見える。…胸、やっぱり大きいなぁ。

 

 冴えない男子達には憧れだろう?美少女が、あの学校のマドンナが、俺の股間に手を伸ばしてるんだぜ?理由はともかく、この世紀の大チャンスを逃す理由はない!次なんて無いだろうし!

 

「むぅ、届かない…えいっ!」

「は?」

 

 白神は背が低くローテーブル越しだと俺に届かなかった。

 しかし、テーブルに足を掛けたかと思ったら次の瞬間俺にダイブしようと空中で手を広げていた。

 あまりの出来事に俺には世界がゆっくり進んでいるように思えた。

 …って違う!受け止めないと!

 

―――ドッシーンッ!!!

 

 飛び掛かる白神を抱きとめ安心していた俺だったが、白神がぶつかる衝撃は凄まじくソファが後ろに倒れてしまった。

 

「いててて…。おい、白神?大丈夫か?」

「はぁぁ…♡灰人様の体ぁ…♡」

 

 俺の心配を他所に白神は俺をペタペタと撫で回していた。本当に、こいつ大丈夫か?

 

「とりあえず起き上がるか…って白神?」

「灰人様…♡」

 

 白神は俺のYシャツのボタンを瞬く間に外してしまっていた。

 おいおい、ちょっと待て!ズボンの上からならまだセーフだが脱がすのはやり過ぎだ!

 取り返しがつかなくなる前に早く止めないと、白神の信頼も俺の学校生活も無くなっちまう!

 

「ちょい、ちょい待て!!タンマタンマ!!」

「…?灰人様の肌は…?服っ、邪魔!!」

「聞いてないし!!」

 

 俺はYシャツの中にTシャツを着ているからすぐに裸になることは避けられているが時間の問題だろう。この間になんとしても引き剥がさなきゃ!

 引き剥がす為に白神の肩に手を乗せ押し上げようとする。だが、運動神経抜群の白神に帰宅部の俺が敵う訳なくただ白神の侵蝕を遅れさせる効果程度しかなかった。

 

「ま、待てって、ほんとにっ、や、やめっ、あっ、だめぇ…」

 

 しゅるしゅると布擦れの音をたてながらTシャツが退かされると、ゆっくりじんわりまだ誰も触ったことのないズボンの中へと白神の手が進む。

 

「ほ、ほんとに、ねっ?お願いだから、付き合うよ?付き合うからっ、ね?初めてなの、やめてぇ!」

「ふへへ…灰人様の…♡」

 

 言うことを聞いてくれない白神に俺は貞操を諦めようとした、その時ッ!!

 

「ういーっす。すまんすまん、遅くなったな。栗宮ぁ?白神と話せてるか…?…って、うぇ!?」

 

 教室にさっき呼ばれて行った犬山先生が入って来た。

 先生は俺と白神の状態を見て心底驚いたらしく、フリーズしてしまう。

 いや、見てないで助けてよ!?

 

「せんっ、せぇ…ひゃっ、たすっ、んんっ、助けてぇ…ふぅうん…」

 

 白神が愛撫に留まらず、俺の体に口づけを始めた為に非常に恥ずかしい声が出てしまった。

 だが、俺の声色で今の状況を理解できたような先生は俺の元へ駆けつけ白神を持ち上げた。―――はずだった。

 

「おい白神、栗宮から手を離せ!」

「んん!!まだ灰人様のを堪能してません!いやです!」

 

 それまで当てるだけだった白神の手は、先生が持ち上げる瞬間に俺の体にしがみつき抵抗を始めた。

 両手で俺にしがみついているから俺のズボンの中に進もうとしていた手は侵蝕を止めている。

 この状態なら貞操は守れるな…。

 

「ちゅぷっ、じゅるっ、ちゅっちゅううう…♡」

「はぁああんん…ひゃめっ、ほんひょひ!…あああん…」

 

 安心して気を抜いていた所に、抱き直した白神が俺の体に口づけを始めた為、思いっきり喘いでしまった。…今すぐ死にたくなるほどの声で。

 1回気持ち良くなってしまうともう体に力を入れることは出来ずされるがままに襲われ続ける。

 

 白神は舌遣いも一流で、水を打つようないやらしい音をたてながら舐め回す。

 意識が徐々に薄れ、目の前の景色がチカチカ白飛びしそうになっっていく。

 

「いい加減にしろ!」

 

 ベリベリベリッという効果音が合いそうな動きで俺から白神が剥がれていく。

 先生に脇腹を掴まれ宙に浮いている白神はジタバタ先生からの脱出を試みる。

 絶頂しかけで中断された俺は遂には体が動かせず、その光景をただぼんやりと眺めるだけだった。





「それで?白神になにをした?」

 

 先生の介抱で白神はいつもの調子に戻り、俺も体が動かせるようになった。

 白神は何事もなかったように先生の分のお茶を淹れている。


「なんで俺が犯人みたいに言うんですかね?」

「どうせお前がやったんだろ?」


「違いますよ!私が灰人様のお嫁さんになったんです!」

 

 先生にお茶を出しながら俺と先生の会話に割り込んできた白神は天真爛漫にそう答えた。

 『お嫁さん』という言葉を聞いてピキッと先生から音が聞こえた気がした。


「灰人、お前、ついに地球から要らなくなったぞ」

「なんで殺されなきゃいけないんですか!?俺まだOK出してませんよ!」


 まだ付き合うとも言ってないのに白神の言動は吹っ飛んでいる。


「何?それは本当か?」

「はい。答える前に襲われ…」

「なんで即答でOK出さないんだよ!いいか?白神は学校一の美少女なんだぞ?誰もが待ち望む白神からの告白だぞ!?ふざけるな、何選り好みしてるんだよ!消えて無くなれ!」

「あんたは、告白して欲しいのして欲しくないのどっちなんだよ!?」


 意味が分からない。まず俺が怒られている時点で意味が分からない。なんで白神は俺が好きなのかも分からない。そして、この状況が分からない。

 詰問を受け、俺の停学退学人生リセットまで決行される雰囲気まで進みそうな頃にまた白神が爆弾を落とした。


「先生?灰人様は私との交際を認めて下さりましたよ?」

「「は?」」


 先生が俺を睨むがそれどころじゃない。

 俺が?白神の告白にOKを出した?いつだ?どこで?


 思い当たる節がなくて思わず頭を抱え込んでしまう。

 どんだけ記憶を遡ってもマジで心当たりが無い。

 白神、もしかして夢でOKもらったとかじゃないの?


「さっき灰人様がおっしゃったじゃないですか。付き合うから離してくれって」


 白神に指摘されゆっくり考える。


「へっ!?…えーっと?…うーん…あ…マジだ」


 やばい、言ってた。付き合う言ってた。

 俺が自覚したのを見た白神の笑顔が弾けるのが見える。

 今更、テンションで言いましたとも言えないし…。


「えっと、その、末永くよろしくお願いします?」

「はいっ!(わたくし)も灰人様の人生の伴侶として精一杯頑張っていく所存でございます!」


 お互いの曖昧な挨拶も程々に、白神は俺の隣に座った。近いな。女子が隣に座るなんて人生でも赤ちゃん位の頃しかないから心拍数ガンガン上がってくるぞ?聞かれたら恥ずかしいな。聞かれないかまたドキドキしてるぜ。


「なんだこれ…」


 先生が溜息をついてやれやれと言ったように俺らを見直した。


「とりあえず、親交を深められたらしいから話を進めるぞ?」

「良いですよ。犬山先生」

「よし」


 俺の承諾なしで話が進むんですね。


「どうせ栗宮の事だ、本題には入ってないだろうから私が説明する」


 すごい。先生超能力者?俺ってあれかな本題入れない病とかかもしれん。


「ここでお前らには、迷える子羊達を救って欲しい」

「完全にあの本読んでますよね、先生?」

「何度も言わせるなよ?私はラノベなんて読んでないし、第一タバコなんて吸ってないだろ」

「絶対読んでるじゃないですか!?」


 そもそも俺ラノベって言ってないし!先生マジかよ!


「はぁ、分かった。パクりも良くないだろう。奉仕部でも良かったが、そうだな、お前ら二人は今日からここで探偵部をしてもらう」

「探偵、部。ですか?」


 白神はピンとこないのか首を傾げている。

 どうせ奉仕部と同じだろうから、俺はなんとなく理解できているがな。


「つまり、ここは私立探偵事務所って事ですね」

「ああ!なるほどそういう事ですか!じゃあ私、疾風やるので灰人様は切り札して下さい!そして倒れる私を抱きとめて下さい!」

「俺も変身するのにお前を支えるのかよ…まあ、いいだろう。へんっ―――」


「全然良くないだろ!何お前らさっき付き合い始めたばっかりでもうイチャイチャしているんだ!」

 

 独身アラサー女教師の先生が怒って机を叩いている。

 そんなことするから、モテないのでは?とか言ったら殺されるやつだ。

 というか、


「なんで白神、仮面ライダー知ってるんだ?」


 あの白神がだぞ?いや白神じゃなくともJKが仮面ライダーを知っている確率はかなり低いはず!


「灰人様とお話出来るように灰人様の趣味は全部網羅してあります!」


 やだなにこの子、一途?それより俺の趣味知ってる方が怖いんだけど。ストーカー入ってるの!?


「だから私を置いて二人の世界に入るなと言ってるだろうが!!もういい!あとは任せた!私は帰る!」


 俺と白神が話しているのって、そんなダメージでっかいの?


 そう思う程の早さで先生は瞳に涙を溜めて、この部屋から駆け出して行ってしまった。


「なんだったのでしょう?」

「なんだったんだろうな」




 後を任された俺らは戸締まりをして、ちゃっちゃと帰路についたのだった。

 時刻は5時半を過ぎた頃だった。


 …アニメ見れるかなぁ。いや見るね!

 初めての人は初めまして。どうもKuraheです。200字転生物語を知っている方なら驚いたかもしれません。今回はどっしり書いてみました。

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