霊鉄のヴァリアント 序章
聖書の物語を元に近未来風に描いたファンタジー作品です。R15的な表現はありますが出来るだけ美しい描写としています。
「キャプテン独の日記」 霊鉄のヴァリアント
天野 菱
序章
それはオーロラが輝く夜だった。多くは地磁気と太陽風がぶつかって発光するものだが時としてとんでもないものが原因だったりする。
十月 二十六日 独 始
1
僕は晩秋に長野の湖畔で季節外れなキャンプをしていた。日常の煩わしさから解放されたくて、わざとこの時期を選び一人でもの思いに耽ってみたかった。
この高地に近い場所では日が沈むとたちどころに気温が下がり始める。シーズンが終ったため周りには誰もいない。人が居るとすれば、このキャンプサイトを運営している管理舎に管理人が一人いるだけだ。
僕はフリースとダウンジャケットを着込み椅子に深く腰を沈めて対岸の道路や住居の灯りを見ながらアルコールを口にしていた。買ってきたつまみの缶詰が夕食の代わりだ。
僕は何も考えずに対岸の灯りを見ていた。目の焦点もフリーにしていた。と、その時、僕の瞳に光のカーテンの様なものが映り自然、目の焦点はそれに合された。
「オーロラ? ……………こんな所でかっ!」
僕は暫く続く光のカーテンを眺めていたが、その中から光が分離して大きく方向を変えるのを見た。それは曲線を描いて地上に落ち地表近くで大きく輝いて消えた。
それは自分のいるところからそう遠くないように思われたため僕は椅子から腰を上げてそれを見に行くことにした。
この時期、熊に遭遇しないとも限らないので僕は予め用意しておいたサバイバルナイフとエアーガンを携行して光が落ちたと思われる方へ向かった。ヘッドライトの灯りは森林に入るとたちまち闇の中へ吸い込まれていく。僕は帰り路をロストしないように慎重に歩を進めた。
暫く進んだところで樹の陰から真っ赤な赤銅色に光る物が見えた。そして僕は瞬間的にこれが普通でない異常な事だと察した。
「隕石なら燃え尽きているはずなのに…………」
近くまで来ると僕は伏せて茂みの陰から物体の状況を確認した。
「大きさは約3メートル………形状は正方形―――何故だ?」
通常であればこんな綺麗な正方形が出来るはずはない。僕は慎重に茂みから出て物体の前に立った。と、その時いきなり目眩を感じて地面に転がった。「ドサッ」という音のほかは何も覚えていない。
目が覚めた時、僕はテントの中で寝ていた。寒くならないようにシュラフの中に誰かが運んで入れてくれたのか……………自分でこのキャンプサイトに戻った記憶は無かった。
まだ早いのか薄日が差し込む中、僕はテントを出て周りを見回した。すぐ横に置いたテーブルの上にサバイバルナイフとエアーガンが綺麗に揃えて置かれていた。
「昨日、僕はこいつを携帯して山の中へ……………」
僕はそれを取って自分の身に着けると再度、周りを見回した。するとテントからそう離れていない水際に一人の女性が立っているのに気が付いた。背丈は自分より少し高い、一六五センチ以上はあるだろうか…………髪の色は水銀のように輝くシルバー。そして着ている服は金属質に輝くボディースーツの様なもので覆われ体の輪郭をはっきりと浮き出させていた。左手には鞘に収まった剣が握られている。
(この場所に何故?) 居ること自体が何か違うような気がした。
女性は気配を察したのかゆっくりと僕の方を向いた。お互いに視線が合う、その時だった。
僕は異常な恐怖感を覚え瞬間的に身構えるとエアーガンを彼女に向けていた。すると彼女は表情を変えずにこう言った。
「私が怖いのか? 私は何もしていないぞ」
僕は何にも言えず恐怖で固まっていた。今まで感じたこともない身に差し迫るほどのアラートに頭が支配されていた。
次に彼女はこう言った。
「私は何もしない…………お前は戦闘に値しない。その武器を降ろせ…」
彼女がその先を言おうとした時、僕の指はトリガーを引いていた。
”パパパンッ――― ” 乾いた音が辺りに響いた。
瞬間、人? に向けて撃ったことに「しまったっ!」と思ったが、それは良い意味で裏切られた。
発射された球は彼女の手前で水滴がガラスの板に当たって潰れるように広がり、それは地面に落ちた。
「少し油断したか…」そう彼女が言い僕の方をキッ、と睨んだ瞬間、構えていたエアーガンは音を立てて潰れた。
僕は放り出して後ろに後退りしたがそれは宙に浮いたまま潰れて行き最後に〟バンッ〝と弾けた。
その場にへたり込んだ僕に彼女が近づいてくる。僕は腰が抜けているのか這いつくばる様にして逃げようとした。
先回りをした彼女は僕の顔の前の地面に剣を鞘ごと突き立てた。顔を上げて彼女を見た時、僕は神経が切れたように気を失った。
僕が次に目を覚ました時、明るい光がテントのシェルを通して差し込んできていた。太陽はおよそ中天を指している。恐らく昼はまわっているのだろう―――
(きっと悪い夢でも見ていたんだ、きっとそうだ………)
僕は枕越しに仰向けのまま後ろを見た。彼女が覗き込んでいた。反射的に体が痙攣を打ったが先程の凄まじい殺気は嘘のように無かった。
「君は誰だ?」
「私はレギオン(軍団兵)のセンテリオン(百人隊長)。名前はネフェリィム・ヴァリアント……………お前はアベルの復讐者じゃないな、ここは何処なんだ。 私は死んだのか?」
「ハァ?…………あんた―――いや、君こそ何処から来たんだ。さっきの力は何だ」
「さっきの?」
「僕のエアーガンが潰された」
「………アレか、少し霊性が高ければ誰でも出来る事だ。そういえばお前のあの武器からは何も伝わってくるものが感じられなかったな」
彼女ネフェリィムは物に心が在るとでも言いたいのだろうか………僕は素っ気なく答えた。
「そんなものは無い」
次は逆に僕が彼女に質問した。
「ネフェリィム―――呼びにくいな、ネフェリィって、呼んでいいかな? 君は宇宙人なのか、何でこの国の言葉なの…………」
「宇宙? そんなものは知らない。私はアベルと戦闘中にいきなりこの場所に放り出されたんだ。私が使っている言葉以外で別の言葉なんてないよ、アベルも同じ言葉だ………」
(日本語が…共通なのか⁈)
「僕が夢を見たのでなければ…………昨日の夜、近くの山に四角い光物が落ちて来たんだ。ネフェリィと関係あるのか?」
「あれは私の盾―――戦車だ」
「オイオイ~ッ、どこの世界にそんな戦車があるんだ」
僕は身に危険が無いと分かると少し調子に乗った。そしてバックパックからスマートフォンを取り出してネットから戦車の画像を落して彼女に見せた。
彼女は画像より先にスマートフォンに興味を注いだ。
「そのガラスの板の様なものは何だ? 何か映し出したぞ、これは『神』の啓示なのか⁉」
「神の………これはスマホっていう便利なものなんだ。(これを知らないなんてどこの国の人間だぁ……)ここに映っているのが歴史上の戦車といわれているものだ、この中に該当するものはある?」
ネフェリィは無いと答えた。
「この中には強く戦闘を感じるものはないな…………恐らく私たちの敵ではないだろう」
彼女は立ち上がるとテントを出た。僕は後を追ってテントから出るとベンチコートを取り彼女へ放った。
「このキャンプ場はよくTVやアニメとかの背景で使われているから物語のキャラのコスプレをする人も多い。だけど今はシーズンオフだからね…………そいつを着て」
彼女は当然、僕のマイナーな説明が分からない様だったが取りあえずコートを羽織った。
「これからどうするんだ?」
「盾に…戦車に戻る。」
ネフェリはテーブルに立て掛けてあった剣を腰に帯びると山の中へ進んで行った。僕も彼女の後ろへ付いて進んだ。
山中の茂みを抜けると例の正方形の物体が在ったが昨夜見たような赤銅色ではなく光を反射しない黒色になっていた。
ネフェリィは僕の方に向き直るとこう言った。
「ここまでだ、お前は去れ」
「ネフェリィはどうするんだ………もしかしたら君自身、ここが何処かも知らないんじゃないのか」
「…………」
(―――図星か)
僕はこの女に酷く恐ろしい目に遭わされたが何故か親切にしてあげたい、と思った。あの死ぬような殺気が消えている今の彼女は変わってはいるが容姿も綺麗し性格も真っ直ぐな感じで変な癖も無いように思えたからだ。
(こんなことで親切にするってのも人が良いっていうか――――僕はどうかしている)
「僕と一緒に来ないか、君がどこから来たのか、ここが君にとってどういう場所なのか手掛かりが見つかるかもしれない」
彼女と僕は暫く対峙した。
「………頼む」と彼女は一言呟いた。
僕はこの一言で彼女が別の星から来た宇宙人でないことを確信した。この広大な宇宙を行く宇宙人がいるとするなら自分が落ちた場所くらいは当然分かっているはずだからだ。
彼女は正方形の物体、彼女が言うところの「盾」または「戦車」に向かって『小さくなるように』と命令するとそれはたちどころに手のひらに乗るほどの大きさになり彼女はそれを取ると僕に言った。
「これでいい―――連れて行ってくれ、安全な場所に頼む」
「安心して、大方は安全だから」
僕は湖畔に戻るとテントを畳み器財を車へ乗せるとキャンプサイトの管理人に一言声を掛けに行った。
「すみません、ちょっと用事が出来て帰らないといけないので―――お世話になりました。またよろしく」
「いえ、いいんですよ。機会があったらまた来てください。おや、そちらの方は?」
管理人は一緒にいるネフェリィを見てコートの裾から見えているボディースーツの様な服と腰に帯びている剣を見てコスプレイヤーと勘違いしている様だった。
「何処から来られたんですか? そのコスチュームも板についている、というか………本物っぽいですね」
僕は彼女を自分の後ろに隠すと次のように言ってキャンプ場を出た。
「また来年も来ますから」
聖書の話には様々なものが有り、人が生きて行く中で色々なことがありますが、それが描写されない部分はありません。
それ故に聖書は実際の生活に益する本、言葉として多くの人から認められています。