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 しかし、そんな私の期待は裏切られた。

 8時15分、廊下で待たされる男子が増え、「はやく入れろー」と廊下が騒がしくなり、女子高仕様の1年B組は終わりを告げた。

 更衣室で着替えてきたのだろう、団Tを着た男子が教室に入ってきて、私は彼らの視線を感じた。

 気のせいだと思いたかったが、ちらっと目線を上げたら、男子の一人と目が合った。一瞬で目が逸らされた。

 み、見られてる……。

 うつむくが、いつもと違って髪の毛は私の顔を隠してくれない。全部頭の上でリボンに変身しているからだ。

 男子たちの思考は分かる。

 「うわ、仁川が(いつも一人のあの仁川が)(友達のいない仁川が)体育祭で張り切ってるぞ」というところだろう。

 恥ずかしすぎて死にたい。

 私はなんてことをしてしまったのだろう。

 友達のいない私が、こんな調子に乗ったことをしちゃダメだったんだ。

 「あいつリボンなんか頭に乗せちゃって、自分が可愛いとでも思ってるのか?」とか、「いつも一人で本読んでる暗い仁川が頑張っちゃってるぞ」とか思われているに違いない。

 やっぱり、高校デビューに失敗した身として、大人しくしておくべきだった。

 私は体育祭ムードに浮かれて、調子に乗っちゃった痛い子だ。

 ハルちゃんにヘアアレンジしてもらって上がっていたテンションが一気に下降した。

 もうダメだ……。

 私は机に突っ伏した。

 席が埋まっていくのを音と気配で感じる。

 みんな思い思いにしゃべっているが、その声は移動しない。一通りみんな席についたのだろう。

 もうみんな私なんて見ていないだろう――そう思って顔を上げたとたん、ちょうど席に向かう、つまり私の方に向かう西園くんと目が合った。

 彼の目が少し見開かれる。

 不意打ち。

 私もぎょっとした顔をしているに違いない。

「うっ」

 変な声が出た。しゃべったことのない男子なら無視するところだが、席が後ろで騎馬戦も同じグループの相手を無視するのは気が引ける。

「お、おはよ」

 恥ずかしくて、申し訳程度に残った横髪を指先でもてあそぶ。

 気まずい。変な声出しちゃったし。この髪の毛について何か言われたらどうしよう。後ろから見た時に、「あ、こいついつもと違う髪形してるな」くらいで流してほしかったんだけどな。

「……髪の毛」

 触れないで……。

「可愛いじゃん」

「え?」

 予想もしていなかった西園くんの言葉に、私の口から呆けた声が出た。

「でしょでしょ! 私がやったんだよ!」

 西園くんの声を聞きつけたハルちゃんが、隣の席から身を乗り出してきた。

「おお。春野、グッジョブ」

 また満面の笑顔になったハルちゃんに、「けどさ」と西園くんが顔を寄せた。

 何を言っているのか聞こえないが、ハルちゃんがニヤニヤ顔で私を見てくる。

「あたしは自分のためにやったの! 今日のレイナちゃんはあたしの一番の作品よ!」

 ニヤニヤ笑いながら胸を張るハルちゃん。

 何の話?

 西園くんのほうは、やれやれという風に首を左右にかしげてゴキゴキ言わせながら席に着いた。

 私は西園くんのさっきの言葉を反芻する。

 ――可愛い?

 可愛いって、言われたの?

 友達に言われるならまだしも、男子にそんな風に言われたのは初めてだった。

 実感がじわりと胸にしみこんだ。

 かわいい。かわいい。かわいい……。

 西園くんの「可愛い」発言を思い出して、顔が火照る。両手で頬を包み込む。

 自分の意思とは関係なく、嬉しいと思ってしまう。胸が異常にドキドキする。今も後ろから西園くんが見てるかと思うと、なんだかすごく緊張してしまう。

 いやいや、そんなのただの社交辞令だから。もしくは、高校って私が知らないだけで、簡単に「可愛い」とか「格好いい」とか「好き」とか言えちゃう雰囲気の場所なのかも。

 異性の「可愛い」の一言でこんなにドキドキするなんて、私は初めて恋を経験した小学生か。

 もう高校生なんだから、もっと大人にならないと……なのかな?



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