花泡沫
Twitterのお題箱のものです。
莇、紫陽花、苧環。シャクナゲ、シレネ、ロベリア。一面に咲き乱れる花は美しく。色とりどりの花が咲き乱れる庭園で少女は一人ぽつんと佇んでいた。す、と服の裾から取り出した石榴の実を食む、と白銀の髪に映える鮮やかな黄色いカーネーションの髪飾りが揺れた。腕に抱えられた花は、少女の肌のように白いスノードロップと彼女の瞳に負けず劣らぬ紅いオニユリ。周囲を見回すその瞳は、澄んだ宝石のようだった。
「綺麗ね……あの人にも持っていけばよかったかしら」
至極どうでもよさそうに、そんなことをつぶやきながら手近にあった黒百合を摘む。おもむろに散らされた花弁が、周囲を汚すように黒く染める。少女が歩を進め、近場にあったブルースター、フリージア、ミオソティスが凌辱され首を垂る。風が吹き、カトレアが揺れた。
微笑む少女に向かい来る人々がいる。美しい彼女のかんばせに魅入られた彼らは今日もまた、彼女を汚さんとするモノを贄として差し出す。
「ご苦労、下がってよい」
威厳に満ちた吹雪のような声に人々は、頭を垂れた。差し出された贄に、彼女は一瞥をくれる。
差し出された贄などどうでもよい、庭の肥料にするだけだ。と、少女は気だるげに屋敷に戻る。徐に下った地下には前に彼女に魅入られた村人たちに差し出されたモノが、植物の根に絡まれていた。人の形をしながらに、哀れにも植物に寄生された彼らを蹴飛ばしつつ少女は部屋の奥へと進む。
「あぁ、なぜ男共しか来ないのかしら……少女を養分としなくてはこの花は咲かないのに」
憂鬱そうに溜め息を吐く目の前には、一株の美しい薔薇が植えられていた。それは、穢れを知らぬかのような純白な蕾を付けていた。
「これは……邪魔ね」
そんな薔薇へ伸びようとしている根を、少女は踏み千切る。部屋のどこからか苦痛に呻く声がした。その声に、少女は嗜虐的な笑みを浮かべると、周囲に合った茎や根を懐から取り出したペーパーナイフで切り裂いてゆく。切れ味の悪いそれでブチブチと嫌な音を立てながら千切られてゆく茎と、本来ならば朱でないはずの樹液が飛び散る。部屋へと苦悶の声が連鎖した。自分に寄生した植物に自身の中身を吸い取られてなお、彼らはまだ死ぬことができなかった。外にある美しい庭園が何で咲いているのか、というのは彼女以外に誰も知る者はいない。
「この事実を知ったのならば、いつも贄を差し出す彼らは一体どんな反応をするのでしょう?」
頬にかかった朱い液体を指で拭いつつ少女は笑む。そのこえに、応えられるものは誰もいなかった。
庭では、ガザニアの花が風に揺れていた。
拝読有難うございました。