二人の気持ちと大神殿の想い
「シャロン様とユング様にお聞きしたい。お二人は互いに想いを寄せ合い、その想いは生涯違う事はございませんか?」
「はい、私の想いはユング様にございます」
「私もシャロン様と同じ気持ちです」
シャロンとユングの気持ちは同じだった。真剣な表情でエルンスト見つめ、その様子にエルンストは微笑みを浮かべてしっかりと頷く。ハイネルや周りの枢機卿も二人の言葉を聞いてホッとした表情を浮かべる。
「大神官様、どうして私とシャロン様の気持ちを聞いたのでしょうか?」
「ユング様、シャロン様、よくお聞きください。大神殿としてはシャロン様の事を女神の神子として世界に知らせなければいけません。そうなれば必然的に世界中の王族からシャロン様への婚姻話しが集まってきます。神聖国家ヴェイグと言われていますが、それは大神殿があり、精霊の神子の存在があるからです。そこに女神の神子の伴侶として他の国の王族を招いてしまえば、力ずくでシャロン様を奪おうと考える国が出てくるかも知れません」
「女神の神子の権威を盾に世界を制圧する国が出てくると…」
「そうですユング様。大神殿としてもそれだけは防がなくてはいけないのです。それならば同じ大神殿から、シャロン様の伴侶となる人を探し、女神の神子の伴侶として発表すれば問題ないと考えました。お二人の互いを想う気持ちを考えますとおのずと答えが出たのです。想い合う二人が伴侶になって下さればと…」
シャロンはエルンストの言葉に驚いたが、次第に涙が溢れ出してくる。
自分の不安を取り除いてくれると言っていた。ユングとの仲を黙認してくれるのだろうかと、ぼんやりと考えていたがユングの伴侶になって欲しいと言われるとは思っていなかった。
「シャロン様、ユング様、大神殿の総意としては、神子様たちには幸せになって頂きたいのです。世界の安寧を願う大役を一身に背負い、日々勤めを果たされている神子様たちにこれ以上の責務を負わしてはいけないと…私たちはシャロン様とユング様個人の幸せを願っております。そして、シャロン様、ユング様、この申し入れを受けて頂けますか?」
シャロンは必死に涙を止めようとするが、溢れる涙を止めることが出来ない。
エルンストはシャロンの返事を急かす事無く優しく見守る。
「シャロン…様…」
ユングはシャロンの名前を呼ぶ事しか出来なかった。
シャロンの瞳から溢れる涙を拭うことも、言葉をかける事も出来ない。
女神の神子となったシャロンの意思が一番に尊重されるのだ。
「大神殿の私たちへの心遣いに感謝を申し上げます。私個人の幸せを願って頂けるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょうね。ユング様さえ嫌でなければ、このお話しを喜んでお受けします。そして女神の神子としての務めを果たしたいと思います」
涙声ではあったがシャロンは自分の気持ちをしっかりと述べた。
その隣でユングもまたシャロンの言葉に幸せを噛みしめていた。そして何があってもシャロンを守ると決意する。
「大神官様、私の気持ちはいつでもシャロン様の傍にあります。この身に変えましてもシャロン様をお守りし、伴侶として恥ずかしくないよう努めさせて頂きます。この度の大神殿の心配りに感謝申し上げます」
「シャロン様、ユング様、ご婚約おめでとうございます。女神リーンと精霊たちに感謝申し上げます」
「ご婚約おめでとうございます」
ハイネルもエルンストに続き祝いの言葉を述べる。
そしてエルンストを始めとしてハイネルや他の枢機卿たちが椅子から立ち上がり、二人の前に跪く。
「ありがとうございます」
涙を流しながら微笑むシャロンの表情は、慈愛に満ちて美しい、まさに女神リーンの様だとユングは思った。