シャロンの想い、ユングの想い
「シャロン様、ユング様よくおいで下さいました」
正面に佇む豪奢な法衣を纏った白髪の男性がにこやかに挨拶をして、二人を空いている席へ座るように促す。
シャロンは軽く頷き空いている椅子に腰を下ろす。
その顔の色は今にも倒れそうなほど蒼白で、何かに耐える様に膝の上でギュッと手を握りしめていた。
「シャロン…」
そっとシャロンの手にユングは自分の手を重ね優しくシャロンの名前を呼ぶ。
「ユング様…」
心配をかけまいと無理して微笑むが、顔が強張って思うように微笑むことが出来ないユングは、視線を自分の膝の上に落とす。
「シャロン様、ユング様、この度の招集にお越し頂き有り難うございます。今回は大神官エルンスト、私自身がお二方にお伝えせねばならぬ用件が出来ました上、お呼びいたしました。
ここに並ぶ副神官のハイネルと枢機卿らは、大神殿の正式な発表とする為の証人とする」
大神官エルンストが宣誓を行う。
大神殿の正式な発表と聞いて、シャロンは余計に青褪める。
大神殿からの発表は全世界に知られるものとなり、その決定事項を覆す事は出来ないのである。自分のユングへの密かな想い、そしてユングが応えてくれた事がここまで大きな事態になるとは思っていなかったのだ。
「お話しとはシャロン様とユング様のご関係についてです」
やはり…とシャロンは俯いてしまう。自分に何があってもユングは守らないといけない、そんな思いもありシャロンは大神官の話しを遮る。
「大神官様お話しの前に、まずは私の想いをを聞いて頂きたいのです」
控えめな声が部屋に響き、シャロンへ視線が集まる。
顔色は青褪めて白いものの、その瞳はまっすぐエルンストに向けられている。
普段から他の神子より控えめで、周囲の調和を重んじ自分の意見を殆ど言わないシャロンの真剣な眼差しに大神官は息を飲む。副神官のハイネルや枢機卿たちもシャロンの悲壮な表情に驚く。
「私への罰は何でも甘んじてお受けします。しかし、しかしユング様には穏便なご処置をお願いしたいと思います。ユング様は幼い私の淡い想いを不憫と思い応えてくれて下さっただけです」
「シャロン!!」
断罪されるのは自分だけで良い。そんな思いから告白するシャロンにユングは驚き、そして怒りを表しながらシャロンの名前を呼ぶ。
シャロンの自分に向ける視線が他の者に向ける視線と違う事に喜びを感じ、シャロンの気持ちが分かった時には天にも昇る想いで、風の精霊シルウェストに感謝したのに、そのシャロンが自分の気持ちを否定した事に悲しみと怒りを覚えた。
「シャロン!!私の気持ちはそんなに軽いものではない!!私はお前の気持ちを知り、どれだけ嬉しかったか!!それを不憫な気持ちでなどと言わないでくれ。私たちの関係が断罪される様な関係なら、ここを離れて二人でどこか遠く静かな所で暮らそう」
ユングの中にある想いを知りシャロンは嬉しくて涙を流す。
溢れる涙をユングがそっと拭う。
「エルンスト…だから言ったではないか。ちゃんとお一人ずつ説明をして、ご意思を伺ってからの方が良いのではと。シャロン様は繊細な方だから特に慎重にと言ったのに、祝事と取り合わなかったのは誰だ?風の精霊様のご不興を買って恩恵を受けられなくなったら、エルンストお前が断罪されるぞ?」
ため息交じりに副神官のハイネルがエルンストを睨みつける。他の枢機卿たちも呆れた顔をしてエルンストを見ていた。中には涙するシャロンに憐みの視線を送る者もいた。
エルンストは気まずそうに咳ばらいを一つすると二人の前に跪く。
二人はハイネルのエルンストへの言葉遣いに驚いたが、その内容にもっと驚きを表す。
「シャロン様、ユング様この度はお二人への説明が不足しており、特にシャロン様にはご不安な気持ちにさせてしまった事を謝罪します」
次回は本日18時に更新いたします。