大神官の呼び出し
神殿の扉が開かれると、祈りで焚いていた香の香りが漂ってくる。
少し甘いような、その中にも爽やかな香りの香木をシャロンは好んで使っていた。
開かれた扉からシャロンが顔を出すと、そこにユングの姿をみつけ微笑む。
「ユング様!いらして下さったのですか?」
嬉しそうに駆け寄ってきたシャロンの頭を撫でる。キラキラと太陽の化身のような黄金の髪は、本人の性格を表しているいるかのように、柔らかくしなやかで、ユングはこの髪をずっと触っていたと何時も思う。
「ちょうど大神官に呼ばれてな、そのついでと言ったら怒るか?」
「ついでだなんて、私はユング様に会えただけでも嬉しいです。しかし大神官様に呼ばれているのですか?私も本日祈りの後に赴くように言付かりました」
生誕祭や豊穣祭などの時期になれば、神子が集められ神事の打ち合わせを行う事がある位で、神子が同時に大神官に呼ばれることは滅多にない。
「まぁ、行けば分かる事だ。ナーエ今からシャロンと伺うと大神官様に伝えてくれ」
「分りました」
ユングの言葉に一礼してナーエは大神官への先達を行う為にその場を離れた。
「シャロン様、私もお部屋でお待ちしております」
ナーエの後に続くようにアトレもシャロンとユングを残し、その場を後にした。
「やはり気を遣わせてしまいましたね…」
シャロンの秘かな気持ちを知っているからこそ、その場を去るアトレにシャロンはため息をつく
母が子供を愛しむような眼差しで、アトレがシャロンを見ている事には気が付いていた。そしてその母性がシャロンの秘かな気持ちを気付かせたのだ。
「できた女官って事で褒めてやれよ」
「はい…」
シャロンがユングに惹かれている。ユングもシャロンの気持ちに気付いて、その想いに応えてくれている。この事は事実として皆に広まっているが、神殿がこの事について何も言ってこないのがシャロンは不思議で仕方無かった。
しかしユングと共に大神官に呼ばれたという事は、二人の関係について問うためだとシャロンは漠然と思った。
「大神官様に呼ばれたのって僕が原因かな」
胸のうちの不安を口にしてしまうシャロンに、ユングは優しく頭をなでる。
「シャロンが心配しなくても俺が守ってやるよ」
ユングがどうやってシャロンを守るのか、そんな事は分らないけどユングの言葉がシャロンは嬉しかった。
大神官の部屋は本殿の奥にあり、天井まで届きそうな重厚な扉が二人を待ち構えている。
「大神官様、ユングとシャロンが参りました」
ハッキリと通る声でユングが告げると、中から静かに扉が開かれる。
大神官の執務室には大神官の他にも、副神官など神殿中枢を任されている面々が二人を出迎えた。
「大神官様、ユング・ヴェイグ・ディーン参りました」
「同じくシャロン・ヴェイグ・シルウェスト参りました」
立場としては神子が大神官より立場が上になるので、跪く事無く右手を胸に添えるだけの挨拶になる。
ピリッとした緊張感にシャロンは、逃げ出したくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
つたない文章を読んでいただきありがとうございます。
次回も楽しみにしてください。