表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/50

神性邂逅 016

 神性邂逅016



 意識の覚醒とともに視界に飛び込んできたのは、血を溶かしたような不吉な夕暮れだった。

 灰色の霞がかった雲が、線を引いたように流れている。

 

 上体を起こし、周囲を確認する。

 赤茶けた荒野が無限に続いていた。

 おれは再び、この場所「ゲヘナ」に落とされた。

 だが前回とは少しばかり場所が違うように思われた。


「久しいなあ、坊主」


 かけられた声は、壮年の男のものだ。

 色落ちした鍍金のような、枯れた短髪に、粗野な笑いを浮かべる男。

 黒い眼帯を片目に架け、革鎧に身を包んだ傭兵風の装束だ。

 この男の名はアハト──無法のアハト──DOPEにおける冥府であるところのゲヘナに棲む英霊レムナントの一人だ。


「どれどれ、今回のボーナスはどんなもん──だ?」


 アハトはおれのものと思しい魔導書グリモアを勝手に引き出すと、その内容を精査し始めていた。

 DOPEにおけるプレイヤーの死は、その生の清算を意味する。

 それはレムナントの手によって算定され、デスボーナスとして還元される。


 おれは俯いたまま、死の間際を思った。

 ジヴィエフであると目される狼人の女性から放たれた剣気がおれの首を刎ねたのだ。

 愛の断頭台ギロチン・オブ・アムリアと呼ばれた技能。

 果たしてあれは物理的な技能なのか、それとも本当に剣の気とでも呼ぶべきものを飛ばしたのだろうか。


 魔導書をるアハトの手が止まっている。


「お前、いったい何をしでかした?」


 魔導書から顔を上げ、アハトは改めておれと相対する。

 粗野な雰囲気は鳴りを潜め、冷たい眼差しがおれに向けられていた。


「死人を生き返らせるつもりか?」


 おれはアハトから目を逸らす。

 ああ、シャオは死んでいるのだ──おれはここに至っても、その事実を認めるつもりはなかった──だから何だ。

 シャオが死んでいるのだとしたら、DOPEの中に生きるあの女は何だ?

 完全な模造と本物の区別をつける必要があるだとでも言うつもりか。

 仮にインフォモーフAIは所詮は人工物に過ぎず、DOPEに存在するシャオは生命の残滓──いうなれば、亡霊──それに過ぎないとして。ならば今、現実のおれの肉体を管制している存在もまた亡霊に過ぎないではないか。

 現世に亡霊(imAI)が彷徨いそぞろ歩くとは、22世紀の最先端ゲームにふさわしい有り様だ。


 おれを見下ろすアハトの目には、哀れみの色が濃く表れていた。

 冷めた目のまま、アハトはおれに背を向けた。

 おれの顔には自嘲気味な薄ら笑いが浮かんでいただろう。


 その顔をアハトは蹴った。

 後背から鋭く身を翻し、ソバットじみた回転蹴りがおれの顎を打ち抜いた。


 ゲヘナの赤い大地を、おれは無様に転がった。

 受身を取ろうともせず、勢いに任せたままおれは転がり続ける。


「腑抜けてんじゃねえぞ、餓鬼ィ!」


 アハトはおれの襟首を掴み上げ、ハーフリングの矮躯を宙吊りにして吠えた。

 その隻眼には怒りが沸騰していた。

 彼はおれを殴った。幾度も殴られたが、ゲヘナではダメージは急速に回復する。

 痛みが走り、流れ落ちていく。

 

 忘れ去る──痛みは時とともに薄れるものだ──おれを育てた祖父が、そんなことを言っていた記憶が、なぜか浮かび上がってきた。


「忘れられるのか、ああ!?そんな覚悟で黄泉返しに挑む勇者は一人もいねえ!一人もいねえぞ!」


 おれの髪を掴み上げ、噛み付くように叫ぶアハト。

 その目からは先ほどまでの怒りが薄れ、悲哀が色濃くなっていた。

 哀れなものを見る目。

 おれはそれが、同胞を相憐れむものだと直感した。


「アハトさんも、生き返らせたい人がいるんですか」


 口中に漂う血の匂いは薄れていく。

 おれの問いかけにアハトは答えぬまま、乱暴におれの肢体を投げ捨てた。

 今度はおれは受身を取った。

 

 この男は本当にAIなのだろうか。

 現実の世界に生きているには、あまりに天然に過ぎる。

 粗野であり、野蛮であり、戦うことを日常の糧としているような空気を纏っている。

 だがそれらの膜を覆ってなお、アハトの存在感は生々しい。


 アハトはそれ以上、おれを責めようとはしなかった。

 ただ厳しい面持ちのまま、おれを見下ろして告げた。


「てめえに割り振られたゲヘナ滞在時間は700時間だ」


 700時間……一ヶ月近い。長すぎる。第二次神性戦争の開始前日にぎりぎり間に合うか。


「おれが決めたわけじゃねえ、上位の管理AIが定めた法だ。だがそれにしたって長すぎる。異例の長期収監。もちろんボーナスはそれに見合った莫大なものになるだろうが……お前がダルタニャンと揉めてるのが影響してるのかもしれねえな」


 アハトは近場の岩に腰掛けると、葉煙草を噛み始めた。

 仕草で勧められたそれを、おれは丁重に断った。

 アハトは唾を吐き捨てると、浅く噛んだ煙草の葉も同様にした。

 それらを革靴の底で踏みにじり、一息いれながら彼は続ける。


「前回坊主が落とされたのは第一浅層だ。だいたいの連中はそこで済む。平均滞在時間40時間弱。で、お前が今回落とされたこの場所は第三十層──中層域──と、呼ばれてる場所だ。平均の滞在時間は1000時間を越える」


 アハトは噛んで含めるように、ゆっくりと説明する。

 おれが置かれた状況が、どういった類のものなのか、理解しろとでも言うように。


「中域層に落とされるのは、いいか、よく聞けよ。64人制レイドの達成者、あるいはPvPにおける1000人以上の殺害、あるいは神性戦争の優勝者──ともあれ、そういった埒外の業績カルマを積んだ──そんな連中が清算にやってくるのが中域層だ。坊主の履歴を見たが、ここに落とされるにはイマイチ足りねえ。恐らくはヤタノカミが意図的に査定を盛ったんだろう」


 上位管理AI──プレイヤーの人別を取り扱うダルタニャン以外──は、ほとんどプレイヤーの前に姿を見せることは無い。ヤタノカミと呼ばれたのは「時」を司るAI、すなわちDOPEにおいて発生するイベントスケジュールとその結果を管理する存在だという。


 ゲヘナへの移送には、プレイヤーの生の清算が不可欠であり、そこからこの分野はヤタノカミが管理するものとなっている。


 おれは頷いて話の先を促す。

 ここまでの話だけなら、ただの説明に過ぎない。


「ヤタノカミとダルタニャン──正確には奴の属するナインライブスだが──は序列の二位を争っている」


 管理AIは命令の優先権をめぐって序列争いをしていた。

 例えばヤタノカミは元来であればゲヘナへの移送を司っていなかったし、ダルタニャンはプレイヤーのBAN権限を持ってなどいなかった。それらは彼らが後天的に領域を主張した結果の産物だ。

 彼らは絶えず、己の職権領域を拡大しようと競い合っている。


「上位管理AIは、その下に無数の下位AIを束ねている。下位AIの持つ論理職権を委託され、それらを複合行使することで己の勢力を拡大し、そうして上位AI間に明確な序列を敷こうと争っている。それがDOPEの裏側で行われている戦いだ。マサオミ、お前はその戦いに巻き込まれつつある」


 アハトは新たに煙草の葉を噛み始めた。

 黒く濁った唾液を吐き捨て、彼は心底どうでも良さそうに言った。


「くだらねえ話だろ」


 おれは、ああ、とだけ答えた。


「要するにヤタノカミはお前にデスボーナスを盛って、一気に引き上げてやろうって腹だ。思惑はわからねえが、くれるもんは貰っておけ」


 面倒なことだ。

 ハッターの張り巡らせる粘り付くような策謀の網とは違う。

 おれとは別次元の存在が、遥か頭上から見下ろしている。

 実感に乏しいまま、おれは嘆息した。


「おれはここからさっさと出たい。短縮する方法はないんですか」


 アハトは歯を剥き出しにして凶暴に笑んだ。

 どこか人間離れしたような──ふいに覗いた彼の口腔は、異様に黒く染まっていた──怪物じみた笑みをおれに向けて、アハトは言った。


「おれに勝つことだな」


 いつかの数打ちの長剣を、アハトはおれに投げて寄越す。

 アハトもまた同じものを肩にかついでいる。

 

 吐き捨てられた黒い唾液が、地面を汚した。

 黒い染みは沸騰していた。

 沸き立つタールに向けてアハトは剣の切っ先を擦り上げる。

 ざり、という不快な音が鳴り、地面が燃えた。

 剣の軌跡を追って炎が走る。点々としていた黒点からは炎が立ち昇った。


「癪な話だが……たった今、ヤタノカミが切符チケットを切った。お前の地上への帰還条件は変更だとよ。期限は無期、試練クエストの達成条件はこのアハトの打倒だ。それ以外に坊主が戻る手段はねえ」


 炎柱が揺れている。

 熱せられた空気が歪み、陽炎の中でアハトの相貌も揺れていた。

 おれの首が飛んだ。

 死んだと理解した次の瞬間に、おれの肉体は巻き戻る。


「ワンアウトだ。もっとも際限はねえから安心しろ」


 おれの背後から声がする。

 背から腹を長剣が貫いていた。

 炎熱と別種の熱さ、神経を焼かれる痛みが走り、抜け落ちていく。

 アハトは再び、おれの前に立っていた。

 眼帯の中、空洞である眼窩をいらいながら、男は口角の端から垂れた黒い唾液をぬぐった。


「アハトさんは、どちらに属しているんですか」


 痛みはすでに通り過ぎた。

 だが、死んだという感覚は簡単には拭い去れない。

 息を整えながらかろうじて吐いた問いに、アハトは呆けたような表情で答えた。


「お前、どうでもいいだろう、そんなこと。ヤタだろうが猫だろうがどうでもいいんだよ。愉しめよ──それとも何か、そのお利口なおつむが邪魔かあ──よ?」


 それは不可視の一閃、空間を割断する平面の斬撃──この感覚には覚えがある──おれの首は再び飛んだ。

 そしてまた死の間際を反芻する。

 先ほどの一撃は、ジヴィエフの用いたそれと同じ技能。

 すなわち『愛の断頭台(ギロチンオブアムリア)』!


「なぜ、あなたがその技能を」


 アハトは剣の柄(ヒルト)でおれの即頭部を打つと、よろめいた姿勢に向けて乱暴に剣を振った。胴は二つに裂け、おれは宙を舞う。下半身は霧散して、おれの核となる何かを中心に再現される。


「抵抗しろよお?そんなんじゃあ、いつまで経っても帰れねえぞお」


 おれは不細工に地を転がり、剣を拾い上げると防御の構えを見せる。

 すでに振り下ろされた一撃は確かにおれの剣と打ち合うはずだった──が、おれの頭頂から股にかけてアハトの剣が裂き抜いた──剣は握られたまま、何の手ごたえも生まなかった。

 

 死んだ、という感覚が背を撫でる。

 今何度目だ、この短時間の間におれは何度死んだ。


「面白くねえなあ、あれか?坊主は戦うのに理由がねえとダメなタイプか?つまんねえ男だなあ、てめえ」


 アハトはぐちゃぐちゃと葉煙草を噛みながら、墨に濡れたように黒い口腔を見せる。

 泡立つタールの唾液のなかを、赤い舌が踊っている。

 炎の柱があざ笑うように揺れ、アハトの吐いた唾を餌にその激しさを増した。


「まあ、いいだろ。名乗ってやる。日本の武士ってのは、そうやって誇りをかけて戦うんだろ?違うか?お前、その大層な名前を賭けろ」


 一方的な提案をアハトは突きつけてきた。

 おれの名?マサオミ、いや……柳生の名か。


「もともと700時間だからな、それを締め切り(デッドライン)にしようや。それまでに坊主がおれを倒せなかったら、おれの勝ちだ。坊主の『真名』に『糞雑魚ナメクジ』って書き加えてやるよ。いいだろう、ヤタノカミ。イベント弄れよ、さっさとやれよ。なあ、糞雑魚ナメクジ柳生正臣もそう思うだろ」


 頭の芯の部分が冷えていく。

 柳生の名を汚される──本家に汚辱をきせる行為──断じて、許すわけにはいかない。


「名乗れ、下郎」


 おれはDOPE世界で始めて剣を正眼に構えた。

 アハトは満足気にうなずくと、剣を地に突き立てる。


「やあやあ我こそは、DOPE世界の秩序たる管理AI、その序列の第八位にあった(・・・)者。司りし領域は『技能動作スキルモーション』──とはいえ、今はただの英霊レムナント、無法のアハトに過ぎねえが──坊主の相手程度、訳ねえさ」


 アハトは顎をしゃくり、次はお前の番だというように促してきた。


「柳生正臣」


 おれはただ、己の名のみを語った。

 本来、剣士とあろう者が立ち会うとき、流派を名乗るのは礼儀と言えるだろう。

 だが、おれには柳生真陰流を名乗るだけの天稟は無い。

 それを名乗ることが許されているのは、おれではない。


「おいおい坊主、おれのこと舐めてんのか?まあいいぜ、まあいい。どっちにしろこれからたっぷり700時間お前には死に続けてもらおうじゃねえか。終わったときには糞雑魚ナメクジの出来上がりだ」


 突きつけた正眼の切っ先を、揺らすことなくおれは構え続ける。

 アハトの体が陽炎に溶けて消える。

 おれは動かず刹那の時を伸張して待った。

 鋭敏な皮膚の感覚が、微かな震えを感じたと同時に、おれはその方向に向けて剣を振った。


 その先にはアハトの姿、彼は驚きの表情を浮かべたが、すぐに獰猛な笑みを取り戻すと躊躇うことなく斬撃を放つ。

 おれの剣線と、アハトの軌跡は衝突するはずだった。

 だが切り結んだ交点は消失し、おれの顔面をアハトの剣が薙いだ。


 おれは鼻腔を横に裂かれながら、千切れつつある視界にアハトを収めていた。

 彼は後背への見事なスウェーによって一撃を回避し、おれの剣は力なく宙を泳いだ。

 糸を切られたようにおれの五体から力が抜け落ち、膝から崩れ落ち──間を置かず再生する。


「ぎゃははははは、いいじゃねえか。気を抜くんじゃねえぞお!」


 意識の断絶と回復。

 千切れる肉体と再生のなかで、死と復活を絶え間なく繰り返す。

 地獄ゲヘナの名を冠するにふさわしい場所。


 アハトの狂い笑いが響き、闘争は続く。

 研ぎ澄まされる感覚が、消えては現れるアハトの気配を捉えるが、剣を合わせるには至らない。


 何らかの技能がアハトの剣をすり抜けさせている。

 だが剣の間合いを嫌って離れれば、容赦ない断頭台ギロチンの一閃が飛んでくる。

 尽きることなく賦活する体力、無限に続く生命。

 おれは闘争に浸り、手に残る剣の重みに身を委ねる。


 それは自身が幼かった日々を想起させた。

 祖父──実際に血縁があったかは定かではない高齢の爺や──は、尾張柳生の傍流を自称していた。

 無論、それもまた事実であったかは怪しいものだったが、祖父はおれを剣士として厳しく育てた。

 木剣を握り、手の皮が厚くなるまで振り続けた日々。

 それは唐突に終わりを迎え、おれは柳生の本家へと養子に召し出された。


 幼少期の終わりとともに、おれは剣士としての自分を捨てた。

 おれに望まれたものは剣士であることよりも、振るう者に仕える「刀」そのものとしてのあり方だった。

 天稟は義兄にあり、彼は真陰流の正統にふさわしい人物だった。


 いつしかおれは刀を捨てた。

 軍学校の仕官課程に入り、将来は義兄とその妻となるべき人を守るための教育を受けてきた。

 おれは己の意思を捨て──柳生春馬とシャオ・ルゥの護刀となる宿命を負ってきた。


「おらあああああ!」


 絶叫とともに振り下ろされる剣に向け、おれは体をかわした。

 天地に垂直に流れたはずの剣は、軌跡を逆転して下段から襲い掛かる。

 足の甲から腿を裂き、肩までを削ぎ落とす一撃。

 おれは次第に死に慣れ初めていた。


「新しい技だな」


 激痛のなかで、意識の断絶を可能な限り短く留める。

 死と再生の繰り返しを縮め、アハトの動きを見落とすまいと追う。

 時間の感覚は曖昧だ。

 もはや刹那は伸張され、那由他の果てと区別されることさえなかった。


 いまだにアハトが振るう技能の正体は掴めない。

 だがおれはこの異常な空間に適応し始めていた。


「そう、そうだ。思い出せ、お前が剣を握る者であった頃を──そして愉しめ!」


 幾度も、幾度も、おれは死を味わう。

 アハトの剣は未知の技能によっておれを苛み続けるが、そのすべてをおれは見ている。


 やがて奇妙な感覚が芽生えた。

 わかる、のだ。

 アハトが振るう剣がどこから出で、どこへと向かうのか。

 その剣先に乗せられた重みが如何ほどのものか。

 そして、聞き覚えのある音声アラートが鳴った。


 ──【第四階梯(ランク4)職位クラス生成が完了しました】

 ──【上級職位アドバンスドクラス武神の眼を盗みし者ハール・オブ・オーディンズアイ』を取得しました】


 それはおれの身に急速に浸透した。

 

 わかる──そして、使える。

 アハトの振りぬいた剣がおれの受け構えた刀身をすり抜ける。

 額へと至る瞬間に、おれは己の身体からあらゆる力を抜いた。


 脱力は技能へと結ばれ、発動する。

 『影歩シャドウステップ』が、アハトの背後に揺れる陽炎へとおれを運んだ。

 空間の跳躍、現実にはあり得ぬ現象をおれは当然のものとして受け入れ、行使する。


 完璧なタイミングでおれはアハトの背後を取り、返しの太刀を見舞う。

 だがアハトはこちらを向かぬままに剣を翻して背中越しの防御を取った。


「技能──『ミラージュエッジ』!」


 刀身は交錯するが衝突せず、おれの剣がアハトの背を薙いだ。

 だが紙一重にアハトはその一刀をかわして見せた。

 それが回避技能によるものであることを、『武神の眼(オーディンズアイ)』は見逃さずにいた。


「坊主……化けやがったな」


 距離をとったアハトが呻いた。

 おれは刀を腰溜めに構える。

 それはすでに見た。

 記憶に残った姿形しけいはいまだに焼きついている。

 

 今ならば使える。


愛の断頭台(ギロチンオブアムリア)


 剣の行くべき軌跡を思い描き、刃を凪ぎの湖面として渡らせる。

 疾走する剣閃は受けることかなわぬ即死の一撃。

 アハトは目を剥いて地に身を伏せる。


 剣撃は飛翔し、アハトの背にそびえていた巌へと届くと、それを二つに裂いた。


 おれは『武神の眼』を手に入れた。

 この眼はあらゆる動作モーションを見抜く。

 そして完全に模倣された動作は、技能スキルの発動へと昇華される。


「ひでえ巡り合わせだ。だからおれとぶつけようってか、ヤタノカミ。DOPEに遍く動作由来技能モーションスキルを網羅した、このアハトから、全てを盗んだ化け物を産み出そうってか!」


 アハトは咆哮し、新たに虚空から剣を抜き出すと双手に握って距離を詰めて来る。

 おれの手にもまたアハトと同じ剣が現れる。

 

 アハトは口調とは裏腹に嬉しげに笑っていた。

 切り結び、ぶつかり合う。

 軽やかに互いの身は揺らめき、次々と新たな技能が閃き合う。

 アハトが扱うのは剣だけではない。

 短剣、斧、槍、戟、弓と得物を取り替えながら迫ってくる。


 おれはアハトと鏡写しの演舞を舞いながら無心の快さを覚えていた。







2017年5月17日20時の投稿分です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ