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DOPEちゅーとりある02

 おれ──柳生正臣は全裸だった。決して露出趣味があるわけではない。何よりここには人目が無い。いるのは二足歩行の愛らしい黒猫、ダルタニャンだけだ。


「というわけで、まずは属性の判定をするにゃん!」


 DOPE onlineには【属性】という概念がある。おれは初め、地水火風のような元素属性をイメージして、光の戦士になりたい!などと願ったのだがそうではなかった。


「簡単な質問に答えていくだけにゃん。第一問!」


 ◆あなたは、規律を重んじますか?

 ◆あなたは、来世を信じますか?

 ◆あなたは、利潤を追求しますか?

 ◆あなたは、幸福ですか?

 ◆あなたは、自信家ですか?

 ◆あなたは、手段を選びますか?

 ◆あなたは、殺人を犯したことがありますか?

 ◆あなたは、愛玩動物を飼っていますか?

 ◆あなたは、友人を信頼していますか?

 ◆あなたは、あなたは、あなたは?

 ……etc


「以上にゃ。お疲れさまにゃ。」


 YES,NO方式かと思ったら、100を最大値として、度合いを入力する回答方式だった。1か0の質問ばかりだったように思えるのだが奇妙なことだ。


「ちなみに、シャオも同じ質問を受けたのか?」


 問えば、ダルタニャンは肩をすくめて否定した。


「彼女は自動判定機能を利用したにゃん──怒らないでにゃん!?」


 そんなものがあるなら最初からそっちを案内してくれ、と言いたいところだが折角のチュートリアルだからな。


「それでは発表するにゃん。マサオミの属性は【純なる善】にゃん!」


「なんだそりゃ?」


 曰く──基本の正狂善悪を四要素として、その組み合わせによって属性が決定されるらしい。【純粋】は、正狂のいずれにも属さず、偏善と呼ぶべき判定を受けたらしい。属性というよりも、個人の内面(パーソナリティ)というべきか。


「続いては種族にゃん。外見の調整も含めて、ここで行うにゃん。」


 追加で浮かび上がった窓には、様々な種族の外観データが回転している。概ね人間に準ずるものばかりだが、獣人、竜人のような亜人種のデータも見えている。


「注意して欲しいのは種族によってスタート地点が異なるにゃん。さっきのお嬢さんと同じスタート地点にするつもりにゃん?」


 首肯すれば、データの八割ほどがマスクされ暗くなった。


「敏捷性に優れている種族がいい。おすすめはあるか?」


 おれが問えば、ダルタニャンは一つの選択肢を提示した。


「ハーフリングにゃん。身長は低いけど、手癖の悪さは折り紙付きにゃん?」


 てっきりエルフなどの優美な種族が出てくると思っていたが違った。だが身長の低さ、身軽さは便利でもある。おれはハーフリングを選択して、外観の自動調節機能を利用した。特別イケメンに作る理由もなかったが、自分の顔そのままというのも避けたいところだ。すでに、名前を本名で登録してしまっているのだから──。


 結果として、おれの外観は小学生程度の身長に、すらりとした手足の青年になった。相貌は若干大人びているが、美童と呼ばれてちやほやされていた頃を思わせる。初期装備らしい貫頭衣も与えられた。


「とりあえず、ここで設定するのは以上にゃん。」


「職業なんかは決めないのか?」


 定番らしい選択肢が無いことを問えば、ダルタニャンはゲーム内で調べるようにと突き放してきた。


「最後に一つだけ教えておくにゃん。君たちはすでに人間ではないにゃん。手のひらをこちらに出して。」


 言われるままに手のひらをかざせば、黒猫が肉球を押し付けてくる。ふにふにとした感触を楽しんでいると、何やら熱のようなものが伝わり、おれの手に残った。


魔導書グリモア!」


 ダルタニャンが唱えれば、おれの右手には濃紫の表紙の古びた本が収まっている。随分と分厚いが、開くまでも無く自動的に頁がめくられていく。どうやら基本的な情報はこの魔導書ヘルプを調べろ、ということらしい。


「君たちは魔導書に導かれて異世界からやってきた異邦人ワンダラーにゃん。この世界にとって、よくも悪くも異物であることを認識してにゃん?」


 噛んで含めるような言い方には、何らかの示唆が含まれているのだろうが違和感しか感じない。おれは足元から光の粒子へと分解されながら、最後の質問を投げかけた。


「この世界でのおれ達の目的はなんだ?」


 首元まで消えかかりながら、おれは確かに聞いた。ダルタニャンはそれまでに見せなかった人間じみた笑みを浮かべてこう言ったのだ。


DOPEする(頭の先まで浸る)こと。」


 にゃん、と思い出したように付け加えた鳴き声を最後に、おれの視界は光に包まれた。



 §



 目覚めると、確かに視界が低かった(ハーフリングだった)。ここはどこだろうかと首を巡らせれば、鬱蒼とした木々に囲まれた森である。おれの腰ほどの下草も生い茂り、どこからか鳥の鳴き声も聞こえてくる。


「シャオはどこまで行ったのかね……。」


 一人ごちても、聞こえてくるのは風と木々の擦れ合う音。自然が奏でるハーモニーばかりだ。人の気配らしきものは何処にもない。

 それにしても──過剰な現実感だ。ここまで見事な森の空気を、おれは生まれて初めて吸った。富士の樹海に放り出されたときも、これほど清澄なものではなかったぞ。一切の澱みらしいものが混じっていない。


魔導書グリモア!」


 唱えてみれば、確かにおれの右手には先ほどと同じ分厚い本が現れた。おれは地図機能がついていないかを確認する。その求めに応じてか、魔導書はひとりでに頁を走らせて現在の位置を示しだした。


「歩いた地点しかマッピングされないのか。」


 地図の中央の光点が恐らくおれだろう。その周囲は明るく、衛星写真を転写したかのような鮮明な状態が描き出されている。しかしその範囲は非常に狭い。おれが視界に収めた範囲、だろうか。それ以上は霧がかかったように暗く隠されている。

 期待していた機能とは違うが、これはこれで有用だ。消えろ、と思念して本を手離せば魔導書は霧散した。


 気を取り直し、おれは森を散策し始めた。一先ずは北と思しき方角へ進んでみよう。

 歩きながら、この森にはところどころ何者かが入った形跡があることを確認した。何かを引きずって下草を潰した轍、木の皮を剥いで標として残された傷、そして火を焚いたであろう野営の跡。


 集落を目指すのであれば、この跡を辿ればいいだろう。シャオもそこにいる──はずだ。だが、いくらも歩かないうちに、異変があった。呼びだしもしないのに、魔導書が現れ先ほどの地図を開示したのだ。そこには、おれ以外の光点がもう一つ。


「シャオか?これ。」


 その光点は急速にこちらに向かってくる。果たしてそれはシャオだった。外観は現実の彼女と寸分違わない。だが様子がおかしい。汗を散らして全力で駆けて来る姿は、何かに追われているように見える。優美だったアオザイは走るためか、その裾を破いて白い腿を露にしている。


「おいおい、いきなりかよ。」


 シャオはおれの姿を認めると、満面の笑みを浮かべてきた。こういうときは、必ずろくでもない。黒髪の美少女の笑顔の向こうには、巨大な猪が猛進してきていた。


 こいつは意図的なトレインだ!


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