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仕事を探そう06

 DOPE onlineの日本サービスが開始してから、現実時間で約80時間──DOPE内で1週間の時間が流れた。


 アルクヘイムの大通りに面したカフェは、すっかりおれ達の馴染みになっていた。今さらだが店の名前は「アムール・ド・ラメール」というそうだ。

 テラスには猪のマンソンにパンケーキを食わせるホブゴブリンの姿がある。ペットは入店お断りのはずだが、愛人だと言い張るウィツィロの熱意に、店長が根負けしたのだ。


「さすがは海の恋人を意味する名を冠しているだけのことはある。話せばわかるじゃないか。」


 ウィツィロはマンソンと蜜月を楽しむことができて、上機嫌だ。


「まあ、だいぶ前から常連さんですしね……いつも店の前で待たされてるマンソンちゃんがいい加減可哀想でしたから。」


 そう言いながらおれが注文したエスプレッソを給仕してくれるのは、このカフェのオーナー兼店長であるエミリーさんだ。ゆるやかにウェーブした金髪をかきあげる姿には、人妻めいた色香がある。

 ただ「アムール・ド・ラメール」のNPC店員が若干幼い男の子ばかりを雇っているのは彼女の趣味だと聞いて、人間の業の深さについて考えさせられている。

 エミリーさんからの、おれに対する視線が熱っぽいのは自意識過剰なばかりではなさそうだ。おれの外観はハーフリングの美童で、ショタ系を卒業するか否か、という年齢設定なのだから。


 そういえば、以前から疑問だったことが解決した。いつ来てもアルクヘイムの街は混雑しておらず、どの店も適度に空いていたことについてだ。どうやら中核都市に関しては自動で多重チャンネル化されるらしく、アルクヘイムだけで200チャンネルは存在するのだという。

 つまり──この一杯10LCの珈琲でエミリーさんはどれほど儲かっているのだろう?という心配は杞憂に過ぎなかったわけだ。単純計算で200倍の売り上げが見込めているのだから。【空腹】と【渇水】のペナルティが厳しいこともあって、DOPEの世界で飲食業はかなり割のいい稼ぎになるのだという。無論、アルクヘイムのテナントを賃貸できるだけの資金があることが前提となるが。

 とはいえ、その資金を持たない初心者にも道はある。トップチャンネルである1chには大通りに無数の屋台が並び、ジャンクフードを売りさばいている。一度見にいったが、祝日のテーマパーク張りの混雑に辟易として、以来1chには出入りしていない。


 おれとシャオとウィツィロは、森林の囲い込みに成功して以来、協同してその資源を管理している。一番は木材の伐採だが、最近は薬の材料になる野草や木の実などの販売も始めた。


 伐採にはシャオがフレッシュゴーレムを3体、ウィツィロが8時間交代制で2名ずつ計6人のNPCを供出して働かせていた。とはいえNPCには逃亡の可能性があるので、ウィツィロは彼らの労働を監督する必要があり、あまり能率がいいとは言えない。

 フレッシュゴーレムも、伐採のような重労働をさせ続けていると、筋肉が摩耗して千切れ、破損していくことがわかった。そのため定期的に入れ替える必要が生じていた。


 最初は渋っていたが、ウィツィロはその状況から、近場にある鉱山を案内してくれた。それは『馬賊の砦』から北東に10キロの位置にあった。そこでは人型の山賊タイプのモンスターが沸くのだ。ウィツィロがNPCを連れ去ってきていた源は、この鉱山だった。

 こうしてシャオにはフレッシュゴーレムの素材となる死体を得るアテがついた。


「おそらくだが、あの鉱山は最奥にポータルが用意されているのではないかと思う。ただ、鉱山内の敵の数が多くてな。諦めて帰って来たのだ。」


 山賊はしっかりと防具で身を固めて武装しており、猟犬まで飼いならしていた。入口にいた歩哨を拉致するのは簡単だったが、内部に入れば相当の数が沸いて出てくることは間違いない。

 いずれは鉱山を攻略し、ポータルストーンを入手したい。そうすれば『神鏡の墳墓』を拠点として木材を伐採しながら、鉱石を安定的に入手する目途がつく。


 シャオはおれとウィツィロの会話を聞き流しながら、売り上げの計算と帳簿の作成をしていた。今日は一週間分の収入を分配する日だ。


「まず全体の売り上げを発表するわね。この一週間で伐採した原木が約3000本。単価500で売買して、完売してる。市場にある数に対して、かなりの本数を流してるはずなんだけど、相場に変化はなくて700で売れてるときもあった。原木の総売り上げが1.6m(160万)よ。あとの細々とした品目で80k(8万)ってところね。」


 細目が示めされた帳簿を、ウィツィロは舐めるように改める。


「まさか木がこれほど高値で売れるとはな──他にいないのか?伐採を生業にしている連中は。」


 いるのだろう──いや、必ずいる。だが、取引仲介所ローカルマーケットを経由して取引しているプレイヤーが少ないのだ。恐らくだが、木材の需要は底なしで、それに対して独占的に供給するルートを牛耳るシンジケートが存在する。

 シャオはそう分析していた。その根拠として、500を底値のラインとして、それ以下の出品を全て買い取っている層がいる。


「まあ、出品者や買い手が誰なのかは分からないから、私の妄想って可能性もあるわけ。とりあえずは気にしなくていいわ。500で売れる分には文句ない。」


 シャオは全部で170万近いLCを分配する。


「一人500kでウィツィロと私に諸費用で100kずつ追加するわ。それでいい?」


 それはおれに対しての確認ではない。労働力を供出していないおれを頭数にいれることを認めるように、ウィツィロに要求していたのだ。


「異存ない。」


 ウィツィロは応じて、60万LCを受け取った。おれの魔導書グリモアにも50万LCが追加される。


「いいのか?」


 改めて問えば、ウィツィロは当然だと頷いた。これから長期的なビズをする相手だと思ったからこそ、鉱山の情報まで開示したのだ、と。何より【悪】と共存できる【善】は貴重だ、とも言った。

 その意味を、おれ達はすでに知っていた。『神鏡の墳墓』のように、DOPEにはプレイヤーの【属性】によって攻略方法が変化するギミックが存在する。だが【属性】はただの数値ではない。プレイヤーの人間性、パーソナリティを色濃く反映したデータだ。

 利益のために、他人を犠牲にできる【善】は少ない。


「まあ、いつまでもシャオ嬢のヒモではいかんと思うがな。クハハ。」


 ホブゴブリンらしい、銅鑼のような笑い声だ。

 ウィツィロはすぐに、冗談だ、気にするなと言い直したが、おれはにやりと笑みを返した。


「まあ、見てろよ──すぐに稼げるようになる。」


 そう、おれはおれで仕事を探していたのだ。



 §



「ヒャッハー!新鮮な肉だー!」


 おれはハヤテの背に跨って、立ち上がる。アルクヘイムの工業区に出向き、工房で図面を引いて作ってもらった特注のあぶみのおかげだ。

 さらに『騎乗兵』のレベルは15に達して、新たに『騎乗戦闘Ⅰ』と『オーバードライブ』の技能スキルを習得した。


 おれが今追っているのは牛の群れ。正確にはワーカムという草食獣だ。危険度は星2つであり、ワイルドボアと変わらない。だが『神鏡の墳墓』から草原を南に下った位置に群生するという立地が良かった。


 おれは高速で機動するハヤテの上で、ストレージから安物の槍を取り出す。そして逃げる牛を追いながらすれ違い様に投擲する。幾本も槍が刺さるうちに、ワーカムは自然と斃れることになる。その繰り返しだ。

 ワーカムの突進は非常に強力で、角で突き上げられれば致命傷になりかねない。だがハヤテはそれよりも遥かに速い。

 鐙に負荷をかけ、中腰で馬上に立ち上がる。いわゆるモンキー乗りという姿勢だ。『騎乗』の技能が無ければ、鞍に尻をつけて座っているだけだっただろうが、今のおれには現代馬術の技も駆使できる。

 草原を風巻き、宙を疾駆する馬体は、ワーカムの突撃と並走しながらなお跳躍で背を越えて見せる。攻撃に技能を使うまでもなく、ワーカムはおれとハヤテの敵ではなかった。


 10頭の群れを、1頭も逃すことなく狩り殺すことができた。平野における『騎乗兵』の機動力は脅威の一言だ。

 ワーカムの巨体を、おれはその場で捌いていく。


 おれが取得した3つ目の職位クラスは『屠殺者』だ。『屠殺者』は生物の解体を司る職位である。レベル5で得られる『解体Ⅰ』の技能には、モンスターから得られる素材の数を最大化し、また得られる素材のレアリティを上昇させる効果がある。

 しかも便利なことに、『解体』の技能を持つ者が、NPCから購入できる『解体鉈ブッチャリングハチェット』を使えば、死体を一撃でアイテムにまで分解できるのだ。『解体』の技能を持たない場合、モンスターを捌いて素材を剥ぎ取るのは、かなりの苦労が伴うだろう。


 ──『牛肉(未鑑定)』、『モツ(未鑑定)』、『ワーカムの骨』、『ワーカムの皮』、『ワーカムの胆石』


『牛肉』や『モツ』が未鑑定なのは、『料理人』の職位を持つ者に見せて、部位を特定してもらう必要があるらしい。現実の食用には肥育した牧畜が最高級だが、DOPE内ではどうなのだろうか。おれはそれぞれをストレージに保管した。


 草原には朱く輝く宝石が残されていた。ボーンスネークのものよりも、二回り大きい生命石に視点を合わせれば、50LCの価値があることが示された。

 一つの群れで500LCの生命石と、大量の素材が手に入るなら、これは悪くない稼ぎだろう。


 おれは『生命探知Ⅱ』で草原を見渡す。使用を重ねるうちに、技能はⅠからⅡへと成長していた。以前よりも探知できる距離と精密さが増している気がする。

 草原の至る所に、命の光が輝いていた。おれが解体している間、ハヤテは気儘に草を食べていたが、おれが呼べば即座に駆け寄ってくる。鹿頭を撫で、再びハヤテに跨ったおれは、次の獲物に向かって走り出した。


以上で第一章「仕事を探そう」は完結です。お付き合いいただき、ありがとうございます。第二章は現在鋭意執筆中です。

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