ラララ壺
ふと我に返ると、目の前に小さな壺があった。
白く、ぬぺりとした、綺麗に綺麗になめまわした骨を思わせるような光沢の、手のひらにすぽりとおさまりそうな小ささの。
自分はそれを手にとってみようと、すいと右手を伸ばした。しかし届かなかった。正座でいた自分は、足を崩し、上半身を伸ばしてとろうとした。しかし壺は素知らぬ顔のまま、手の先にある。
自分はふと胸中にいらだちが湧くのを感じた。この壺ふぜいめが。貴様など。貴様など。
片膝を立たせ、勢いよく一歩を踏み出した。だが自分を支えるはずの地面の確かさはついぞ感じず、代わりにすっとぼけた空虚さに足を突っ込んでいた。
あっと思った。今まで腰を据えていたはずの地面すらも空虚さに溶け、自分は落下していた。
胸に詰まった息と見開いた目に緊張を自覚し、自分はバタバタともがいた。周囲は闇であった。が、壺だけは変わらず自分の目の前にあった。地面に置いてあるがごとく、水平に落下していた。自分は決死の覚悟で壺を求めた。今やこの空間において確かなものは壺だけだ。だがいくら腕を突き出しても振り回しても差し出しても、以前壺は手の少し先から寄ってこようとはしない。壺は常に手のすぐ先にあった。無表情のまま、じたばたと暴れ続ける指先の数センチから、決して離れようとはしなかった。自分は泣きそうになりながらそれを求め続けた。落下しながら。




