実行
タンタンタン
この空間だけ切り離された様に、屋上へと続く階段は静かで俺の上履きの音が響く。
真新しさの残らない扉をゆっくり開くと、午前中の太陽の光が圭太を包んだ。俺は咄嗟に右手を額に当て、目を細める。
「まっぶし……けど、あったけー」
階段が薄暗かったせいで、こんなに眩しかったっけというくらい太陽の光が眩しい。
授業の合間にある短い休み時間だったためか、屋上には俺以外誰も居なかった。
「ふぅ……」
ドアから真っ直ぐ後ろに下がった位置で一息つき、柵に寄りかかったとき。
バン! と乱暴にドアを開ける音が聞こえ、反射的に扉を見る。
そこには女子二人――――――涼峰凛と天宮茜が扉の前に立ち、俺をすんげー目で睨みつけていた。正しくは茜だけだが。
凛は昨日と変わらない、 肩甲骨より少し長い栗色の髪から白いリボンが覗いているのが特徴の姿。青い顔で茜のブレザーの裾を握っていた。か、かわいい。
茜も昨日と変わらない、揺れるポニーテールが特徴の姿。ただ一つ昨日と違うのは、茜から湧き出るどす黒いオーラ。すっごく怖い。なんで怒ってんの。
まるで悪人から凛を守るみたいに凛の前に仁王立ちしている。って、そうしたら俺悪人?
俺は茜から目を逸らし、凛を見た。
だけど俺は何と言ったらいいかわからず、
「涼峰凛さん、だよね?」
この場面でこんなことを言っている人を見たら、俺はきっと突っ込んでしまうだろう。
凛は茜の後ろで小さくなったまま、軽く頷きながら言った。
「は……は……い……」
めっちゃ怯えられてるぅぅぅぅぅ!!
話してるだけなのに。……泣きたくなってきた。
でも俺はめげずに笑顔を作りながら続ける!
「俺は、B組の朝倉圭太。よろしくな?」
彼女は小さく頷いただけだった。
どうやら俺とよろしくする気は無いらしい。……号泣したくなってきた。
てか、そろそろこれ言っていい?
「……お前らさ、遠くないか?」
そう。二人は扉の前で、俺はそこから真っ直ぐ後ろに下がった位置。
これって人と話す距離か?普通俺の居る所まで来るんじゃ……?
でもまぁ、凛が無理なのだろう。小さく溜息をついて歩き出す。
が、一歩踏み出した瞬間の茜の大声で、これ以上前に進めなかった。
「近づかないでよこの変態。凛、危ないから気を付けて」
両手を大きく広げて凛を隠す茜。
「おいっ!誰が変態だ!! 俺が何かしたか!?」
「変態に理由なんかない」
……何か変なこと言い出したよこの人ー。俺何もしてないよね? そうだよね?
ともかく、俺は二人に近づいてはいけないらしい。あ"ー……死にたくなってきた。
仕方無い。この距離で話すしかねぇか……。
「はぁ。貴重な休み時間が変態なんかのせいで無くなる。ね、凛」
なんかで悪かったな。繰り返し言うけどおれは変態じゃねぇ!
幸い凛は何と言えばいいのか困っている様に見えた。
良かったー。凛が頷いてたら俺飛び降りてたかも。
つーか茜、何かキャラがおかしくなってねーか!?
でも茜の言う通り、俺が早く言わないと休み時間が無くなってしまう。
俺は胸の鼓動を感じながら、意を決して大きく口を開いた。
さて、『実行』は長くなったので2話に分けてみました。
そしていいところで切りました(笑)
『実行 2』をお楽しみにしてくれれば幸いです。
どうしてこうなったのかは、後ほど。
*天宮 茜
女子には優しいけど、男子にはツンツンしてたりなどと態度が悪い。
が、そこがいいと言っている人も少なくはない。
顔は可愛い方なので、もっと優しければなぁと惜しがられている。