「一目惚れしちゃったんだ、あの子に」
人と喋り声でいっぱいの広い廊下を弾んだ足取りで歩く。昼休みという時間のお陰で、人がたくさんいて歩き難い。
時折、どんな人がいるのかとキョロキョロとあちらこちらを見渡す。
男の割りには柔らかい茶色の髪、整った顔、すらりと高い身長。それが俺の第一印象だと言われた。
そんな俺は男女構わず色々な人に声をかけ、自己紹介をしていた。
「よっ! 俺、朝倉圭太! よろしくな!」
妙なハイテンションでそう言って手を振り、次の人を求めて去っていく。
当然、声をかけられた人達は皆呆然としていたり、戸惑っていたりした。
俺は口角を上げ、より弾んだ足取りで歩き出す。もうスキップに近いかもしれない。
――――――俺、朝倉圭太は、3日ほど前にこの高校、神奈川県立大銘高等学校に入学した。つまり、高校生デビューしたてということだ。
名前は凄そうな高校だが、そこまで偏差値が高いわけではないので頑張れば俺でも受かることができた。
高校生になり、目標を立てる人も多かろう。俺も、目標というか、望むものはある。
俺が、この三年間に望むもの。それは、友達とワイワイした楽しい学校生活。
それとーーーーーーーーーー恋人になるまでに大変な道程のある、恋愛。この二つだ。
俺は廊下を大きく見渡した。
うん、もうこの廊下の人にはだいたい挨拶できたな。もうD組まで来たし。
後は、教室にいる人もいるから……教室をちらっと見てから俺のクラス、B組に帰ろうか。
人混みの中で一人で立っているのも悲しいものなので、きびすを返し歩きながら教室を覗く。
D組、C組……。おっ、仲良くなれそうな人見っけ。
B組は俺のクラスだから、最後にA組を見てから戻ろう、そう計画を立てながらA組を覗いた。
……まぁ、普通だな。
目的は達成したので戻ろうとした時、ある一人の少女が目に入った。
セミロングのふわっとした肩甲骨より少し上の長さの栗色の髪。両耳の少し上から、白いリボンがちょこんとのぞいている。大きな瞳にかかる長い睫毛が綺麗。化粧っけもないのに、まるで人形のような可愛い少女だ。
別に、大きく騒いでいたわけでもないのに、自然と視界に入ってきた。というか、吸い寄せられるようにあの少女のことを見てしまっていた。
少女は、俺が見つめていることに気が付かず女友達と楽しそうにお喋りをしている。
話してみたいな、と思いながら今度こそ戻ろうと少女を見ながら体だけ左に向けた。
その瞬間。
可憐な、花が咲いた。
正確には少女が微笑んだのだが、花が咲いたと例えるのがしっくりくる。
見ればクラスの男子も俺と同様にその笑顔を見て幸せそうな顔をしている。……あの笑顔ハンパない。
俺は見ず知らずの彼らに強く共感した。
ところで、さっきの女神の笑顔を見てから心臓が暴れまくっている。それに、どうしようもない欲求感を感じる。どうしたものだろうか。
……なんて、とぼけることはできない。
俺は、この感情を知っている。
「一目惚れしちゃったんだ、あの子に…………」
俺の、聞き取れないくらい小さな呟きは生徒達の喋り声に掻き消された。
◯簡単プロフィール◯
●朝倉圭太(15)
1−B
クラスのムードメーカー的存在で、男女問わず人気がある。
結構モテる。
過去に恋沙汰があり、“恋人になるまでに大変な道程のある恋愛”を強く望んでいる。
●涼峰凛(15)
1−A
女子からの人気はまぁまぁ。
モテることに嫉妬している女子も少なくはない。
可愛らしい容姿でかなりモテたが、今までに付き合ったことなし。
なにか“ワケ”があるみたい……?