ナンパ
いつも通りーーーーーーーーーーではないことを、俺はしていた。
昨日や一昨日などをいつもと言えるのかは分からないが、昨日や一昨日は涼峰さんと茜と、昼休みも一緒にいたのだが……。
今日は二人共用事があるとか何とかで、弁当を食べたらさっさと帰ってしまった。それだけで、俺は本当にどうでもいいんだな、と思ってしまう。
まぁ、俺なんて、な……はは。……って俺、自虐的になってる。ポジティブなのが俺の特徴だ。それが消えたら俺には何も残らないんじゃないかーーーーーそれはないか。
昼休みは仕方なく、クラスにいる男たちと遊ぶことにしたのだ。
だが、その遊びというのがなんと、黒板に落書きしてクラスにいる女子に審査してもらうとかいう変な遊び。
こんなことやったの何年ぶりだろうか。俺って基本外いるし、こういうのは珍しいかもな。
だか。俺の美術は凡人には理解が出来無かったらしく、俺は五回戦中全敗してしまった。あれだ、あれ。俺はピカソのような、すげー人なんじゃないか……?
罰ゲーム(聞いてない)として、俺は人数分のジュースを奢らなくてはいけなくなってしまった。しかもジュース指定。
……というわけで俺は今、自動販売機を求めて歩いている。
あいつらが注文したコ〇・コーラは今だけちょっとビックサイズになっていて、お得なのだ。
だが、お得なコ〇・コーラが売っている自動販売機は一ヶ所しかなく、それがまた遠い。校舎の裏にあり、校庭を回っていかなくてはならない。全く不便だ。
「はぁ、くっそ……。本当に罰ゲームだな」
校庭を歩きながら呟く。
そうだ、この後授業が終わったら部活だから、いっちょ走るか。
部活といえば、今日からやっと入部スタートだ。バスケをしたくてうずうずした。
何歩か走っただけですぐに加速し、五〇メートル七秒の速さが出た。
もうすぐ校舎の裏だから、すぐに自動販売機でコ〇・コーラを買って戻れるだろう。
だんだん減速し、勢いを落としていく。最後にはもう歩いていて、丁度校舎の角を曲がろうとした時だった。
「ねぇ、君が涼峰凛ちゃん?」
声だけでチャラそうな男の声が聞こえた。
何となく、声だけで今している表情も頭に浮かぶ。
涼峰、凛……!?
男に声をかけられているんだ。
そろり、そろりと忍び足で壁の角に顔をひっつける。
そして、なるべく顔が壁から見えないように、目だけ出した。
多分きっと、髪の毛とか頬とか出てると思うけど。
そこで見えたのは四人のチャラい男達に囲まれている、二人。
青い顔で震えている涼峰さんと、キッと男達を睨む茜。
涼峰達に声をかけているのは二人だけで、残りの二人は煙草を吸ったり、その様子をみているだけだった。
茜、すげぇ……あんな男達を相手にあんな睨んでる――――――と思ったが、よく見ると涼峰さんの手を握る茜の手が震えている。
そんな彼女達を見ながら、銀色に光るピアスをした男が言った。
「……聞いてるんだけど?」
ズボンに手を突っ込んで言う、銀色のピアスをした不良。
それだけで、彼女達の恐怖心を揺さぶるのは満足だった。
余計震えだした涼峰さんを、茜はガクガクする足で懸命に立って支えている。
姉のようだ。
姉のような茜は、絞りだすような声で答えた。
「……っちが、います…………っ」
微かに震える茜を一瞥し、
「……ま、中入って喋ろうぜ」
男は茜の肩を掴んで押す。
いや、校舎内でさっきの様に喋るはずが無い。
校舎内でするとしたら、使われていない教室とか、屋上ーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーーーやばい。
本能的にそう感じた。
行くもんかと踏ん張っている茜から涼峰さんを引き剥がし、眉毛にピアスをふんだんにつけた男が涼峰さんを連れて歩いていく。
茜が涼峰さんに手を伸ばしたが、その手は涼峰さんの代わりに銀色ピアスの男が握った。
「俺等と楽しく遊ぼーぜ?」
今度は、涼峰さんが抵抗した。触れられた肩から大きな手を離すように身をよじらせ、叫んだ。
「嫌っ!」
男が驚き、触れ直そうとしたとき。
一筋の光が流れた。
気付いたときにはもう、俺は飛び出して叫んでいた。
「凛っっ! 茜っ!」
凛も茜も男達も、全員が驚いて俺の方を見る。
俺の表情を見、涼峰さんと茜は怖そうに目をギュッとつぶって、耳を両手で塞いだ。
俺は驚いた男達の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとしてーーーーーーーーーー止める。
俺の殴ろうとした眉毛ピアス男は、目の前で拳が寸止めされて若干ビビッているように見えた。
俺は乱暴に掴んでいた手を放し、二人を守るように立つ。
そして怒りを抑えた声で男達を睨んだ。
「凛と茜に、そんなきたねぇ手で触るな」
一瞬この場に静寂が支配したが、眉毛にされるピアス男と銀色のピアス男が俺に詰めかかる。
かなり顔が近く、ほんのり煙草の匂いがした。吐き気がする。
「一年がでしゃばってるんじゃねーよ」
「一年は教室で勉強でもしてな、ホラ」
ガン! という大きな音がして気付くと、眉毛ピアス男が俺のすぐ横の壁に足を付けていた。
このまま喧嘩になったら、俺は多分負けるだろう。
喧嘩とかあまりしたことが無いし、涼峰さんの前で喧嘩はあまりしたくない。
男はやっぱり怖い、と思われてしまうからだ。
それに、そんな場面を見てほしくない。
そこで俺は涼峰さんと茜に、こそっと小声で耳打ちした。
「俺が手を叩いたら、校舎に逃げろ。いいな?」
え、と戸惑った顔をしていたが、二人は怯えた顔で頷いた。
ふ、と微笑を浮かべ、俺は彼女達のいちさな頭をくしゃっと撫でた。
びくびくっと涼峰さんが身震いしていたのが悲しいけど、今だけ、こうさせてくれ。
涼峰さんと茜を自分の身で隠し、静かに男達を見つめる。
いつになったら動くんだ、と男達が思いだしただろう瞬間、
バンッ!
男達がビクッと少し飛び上がり、足の速い涼峰さんを先頭に、茜もついて走っていく。
それを見た煙草を吸った男が叫ぶ。
「女が逃げるぞ! 追え!」
「させねぇ……よっ!」
今度こそ、走ってきた眉毛ピアス男の顔を殴った。男がよろめいて尻餅をつく。
涼峰さん達が走っていった道に俺が立ち塞がれば、少しは安全だろう。
次々と殴り掛かってくる男達を避けたり、相打ちにさせたりする。
「っるぁぁぁぁ!」
叫び声を上げて大きな拳を突きつけてくる二人の男。双方から殴るつもりのようだ。
俺はすっとしゃがんで避ける。
彼等は頭をぶつかり合って、勝手に気絶した。
これで、二人目。
そして、涼峰達に全く干渉していなかった黒い天然パーマがドサッと地面に倒れる。俺が腹を一撃したのだ。
あれ? 俺って意外と強いんじゃね? と、思ってしまうのも当たり前。あいつらは弱すぎるのではないか。ばたばた倒れていく雑魚キャラだ。
あと一人はーーーーー茶色い顔の背の高い男。まぁまぁ顔は整っている。
こいつは、前の三人とは違う―――。
男はふっと笑って、まず俺を褒めた。
「やってくれるじゃん。一年がな」
イラッとした。
さっきから、何なんだよ……!
というかこいつ、かなりの凛々しい顔にイケメンボイスだ。
バスケをするときみたいに、相手のボールを奪う為に近くに接近する。
素早い動きに、男は何の表情の変化も見せない。
さっきよりも思いっ切り、整った茶色い顔を殴った。
ーーーーーが、手応えが無い。避けられたのだ。
「残念だったな、一年くん?」
バカにしたように笑うその言葉は、俺の感情を大きくかき混ぜた。
そして、もう抑えていた苛立ちを開放した。
「さっきから一年一年うるせぇんだよ!」
男は何も変わらず、ただただ俺を見ている。
俺は拳を握りしめた。握りしめすぎて、肉に爪が食い込んで痛い。
「一年とか二年とか、そういうの関係なしに、俺はあいつらを守りたい! 一人の男として、守っていたいんだよ!」
ほのかに差し込んだ光が、男の茶色い顔を照らした。
久しぶりの投稿でごめんなさい(汗)
でも、活動報告でそれ君を選んでくれた方々が多かったのは嬉しかったです!
そのお陰で今、更新できているんですから。
これからもよろしくお願いします!