男ってどんな感じ? 2
渡した後は俺はすることが無かった。
だから食べてから様子を見ることにしよう。
……と、思ったが。
どうしても反応が気になり、食べながらチラ見する俺。
だがすぐに、茜のナイフのような視線に耐え切れなくなり、見るのを断念した。
「茜ちゃんっ、これ、ここでいいの?」
「良く分かんないけど良いんじゃない? どうせ朝倉のだし」
「そう、なの……」
初めて知った、と感心するようにして頷く彼女。
「おい! 涼峰に変な事を教えるな!」
「本当の事だけど、何がいけないの?」
「もうゲームしててくれ」
相手するのが疲れる。
お弁当食べなきゃいけないというのに。
しかもこれから授業もあるんだぜ?
寝るけど。
「わぁ、茜ちゃんっ、私お姫様の代役になっちゃったよ……!」
「凛のお姫様……っ!? 見たい、見せて」
顔を紅潮させながらスマホを奪い取る茜。
「わ、私がそのまま居るんじゃないよ。アバターだけど私に似てないし……」
「なんだ。ならいいや」
その瞬間、興味を失いお弁当を片付け始めた。
だからコイツの、涼峰さんに対する態度っつーか執着心? は何なんだ?
ちょっと怖い。
俺が普通に食べれば、お弁当なんて小さいもんだしすぐに食べ終わる。
あっという間にお弁当を平らげ、茜の後を追うようにお弁当を片付けた。
ぽつん、と涼峰さんの可愛らしい小さなお弁当が置いてある。
シミレーションゲームをやっていて、食べようとも思わないのか。
俺だったらやりながら食べるけどなー。そこが、女の子らしくていいけど。
じいっと俺が見つめていると、涼峰さんが首をかしげた。
「茜ちゃん、何か今日のストーリー終わっちゃったみたいなんだけど……。チケット、買っていいかな?」
「買っちゃいなよ。 凛が続き見たいもんね!」
「うん! 買うね!」
買うと言っても、アプリ内のポイントとかで買えるものだろう。
さっきの俺がインストールしたアプリだって、集めたお金でキャラクターを変えられる。
楽しそうに鼻歌を歌いながらスマホを操作する涼峰さん。
と、その鼻歌が止まった。
「チケット二〇枚、一二三円……? 茜ちゃん、これはどうやって払うの?」
え…………………………。
え、え、え、『円』!?
マジのお金!? リアルのマネーかよ!?
そんな俺の唖然とした顔に気が付かない涼峰さんは、可愛らしく首を傾け茜の肩をちょんちょん、と叩いた。
すると茜が顔を赤くさせ、目をハートマークにして涼峰さんに飛びつく。
いくら可愛いからって、女子同士で……。
女子、同士?
まさか、あいつ……!?
考えるとゾワッとして、考えるのをすぐにやめた。
茜は少し鼻息を荒くさせて涼峰さんに擦り寄った。
「いいの、いいの。凛なら何でも許してあげる」
「オイ、許してあげるって俺が払うんだぞ!?」
遂に抑え切れなくなり、大きな声でツッコミを入れた。
すると茜は妖艶な笑みを浮かべ、まだ頬の赤みの残る顔を俺の顔に近付けた。
不覚にもドキッ、と胸が一瞬暴れる。
「凛の機嫌を損ねたら、もう一緒に入れないかもしれないけど……?」
ちょっと、さっき興奮していた名残で吐息が熱い。
やめてくれー。
俺には、涼峰さんという心に決めた人が……!
それだけでドキッとしてしまうのは健全な男子高校生だから仕方が無いけれど、やっぱり沈んだ。
「はぁ……わーったよ。ただし、あまり大きな金額にならないようにしろよ」
「あっ…! あり、がとうぅ……」
一瞬、涼峰さんの顔がぱあぁと輝いたのを見てしまったら、もうお金などどうでもよく思えてきてしまうのは涼峰による天然の魔法なのか。
お金は大事だけど、涼峰さんの為ならいいぜっ! ……みたいな感じになっちまう。
また、可愛らしい笑顔と共に鼻歌が流れる。
見ていると、嬉しそうになったり赤くなったり震えたりと、見ていて飽きない。
めっちゃ可愛い。
そんな感じで、今日も一日が過ぎていった。
昨日から部活の体験が始まって、俺はもちろん男子バスケ部だ。
もう入部届も書いた。
自主練だって欠かしていない。
あの、一回以外は。
やる気ちょーある、体力アール。
これが俺の、えーっと、なんだっけ。
そ、そう、座右の銘!
違う、モットー……か?
うん、多分モットー。
まぁ、なんだ。
やる気があれば何でも出来るもんな。
た、た、た、とリズム良く走るスピードを緩めないまま、俺は家の前でブレーキを掛けて止まった。
いつもなら考え事をしながら走るっていうのはあまりない。
だが、やっぱり涼峰さんの事となると考えずにはいられない。
恋って、怖いなぁ。
「ただいま」
鍵を掛けていないドアを開いてから、するっと運動靴から足を抜く。
水を飲みたくて、珍しくリビングに行く。
リビングには母と姉がそれぞれ色々な事をしていたが、母は俺の姿を見るとおかえり、と声を掛けてくれた。
母は、高校の息子がいる割には若いと思う。
友達にはかなりの数、「若いね」と言われた。
そんな母は、食事をする席で何か雑誌を見ている。
姉は自分と同じ茶髪だが、今日はストレートの綺麗な髪を緩く二つに結くヘアスタイルだった。
ピンクのケータイを耳に引っ付けながら、大きな声で友達だろうか。
テレビの前のソファで足をぶらぶらさせながら喋っている。
俺はテレビを背にして、低いテーブルの前にあぐらをかいた。
「あー、疲れた」
ランニングに疲れたと言うのもあるけれど、一日に疲れた。
勇輝との事もあるし、涼峰のやったシミレーションゲーム。
決してつまらなかったんじゃは無い。
楽しくても、疲れたという事はある、だろ。
何となくスマホを取り出して、あの乙女チックなアプリをタップする。
涼峰さんのハマったアプリがどんな物かを見たかったし、どれくらい課金されたのかも確認したかった。
お姫様~なタイトルを急いて連続タップすると、マイルームみたいなところの画面になった。
女の子のアバターは、ラベンダー色のふわりとしたミニドレスに、ピンクや白のバラが付いている。
三つ編みをカチューシャみたいにして、右耳のあたりでふわふわウェーブされた栗色の髪。
それに、ピンクや白のバラがドレスとおそろいで付けられている。
うわ、今日結婚式は……とか言ってたけど、涼峰さんはこう言うのが好みなのか。
メモしなくっちゃな。
課金は、俺がどうすれば見れるのか分からなかった為、見れなかった。
「げっ、あんたこんな乙女ゲーしてんの!? キッモ!」
突然頭の上から響いた、俺を罵倒する台詞。
「げっ!? 姉貴!? 何見てんだよ!」
慌てて画面をスリープモードにするが、それも意味無し。
もう見られてしまった後なのだから。
我が姉は俺を軽蔑するような目で、自分の身をさすった。
そして笑いながら、
「おかーさん、圭太が乙女ゲーしてるー!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あら、乙女ゲーってなぁに?」
「“女性向け”恋愛シミレーションゲームのこと」
「まぁ……」
そんなこと、教えなくていい!
やめてー! 俺まじで泣きそう!
もう、見なくてもどんな視線を二人で向けているか分かる。
その日の夕食は、今までで一番居心地が悪かった。
このオチも入れたかった。
笑えた、かな? と少々不安に思っております。
感想、是非ください!