お昼の時間と約束
俺と勇輝は、変な雰囲気のまま四時間目を終えた。
茜と凛との昼は単純に楽しみだけど、今呼び出してくれて助かる。
何で、あんなこと言ったんだ……?
そんなことを考えながらリュックのチャックを開き、弁当と水筒を取り出した。
二つバラバラなの、すっげーめんどい。
弁当と水筒を入れられる小さなバックを買おうとしたが、なかなか良いのが無く、結局買えずじまいだ。
俺は両手に弁当と水筒を持ち、A組の教室へと向かう。
教室を覗くと、凛は青い顔で机を凝視しているのが見えた。
こんな様子の凛を見てしまうと、どうしても一緒に居るのが辛くなってしまう。
俺がこんな顔をさせているなんて、と。
「凛ー、茜ー」
俺が呼ぶと、俺の視野に居なかった茜が教室の右側から姿を現した。
「ちょっと待って」
それだけ言うと、茜は青い顔の凛のところへ行き、行こうよと促していた。
ありがたすぎる。
でもちょっと、悲しくなってくるよなー。
この状況を体験したら、きっと見を持って感じると思うぜ。
顔を上げると、凛と茜がのろこのろと俺の方へやってきた。
分かっていても聞いてしまう。
「……凛、大丈夫か?」
案の定、凛はふるふると首を振った。
二人は俺の前に立ったまま、何もしようとしていない。
……もしかしてこいつらを、俺が動かさないといけないのか。
鼻で息をついて、
「屋上でいいか?」
「別にいいけど」
「……うん……」
冷たいやら暗いやらで、可愛いのに勿体無い女子二人だった。
俺が屋上に向かって歩き出すと、後ろから俺に付いて来る足音がした。
良かった、あんな嫌々でも付いて来てくれるんだな。もっとも、付いて来てもらわなくては困るのだが。
しばらく進むと、足音が小さくなってきた。
俺があれ、と思い後ろを振り向くと。
A組の廊下で二人が足踏みしていた。
「おいいいいいっ!! 何で来てないんだよ!?」
俺のツッコミに、茜は首をすくめ、凛は怯えた目で俺を見ていた。
やべー……。また怯えた目で見られてる。悲しすぎ。
周りもいきなり怒鳴った俺に、不審そうな目を向けている。
そいつらに軽く頭を下げ、二人がここまで来るのを待つ。
見ていると、歩くのがとても遅かった。凛とか走るのは凄く速かったのに。
やっぱり、拒否反応を示しているのか。
そう考えるた度、心がナイフで傷付けられていくような感じがした。
***
何とか開けた屋上の扉。
来るまでがすっげー長かった。
歩くの遅いからやめろということか。
さりげなく、俺に諦めさせたいという心が見えている。
が。
先客がいた。
それも、普通の生徒ではなく、ガラの悪そうな三年生くらいの男達。
煙草を吸っている人もいたところを見ると、いわゆる『不良』というやつらだ。
俺達三人は仕方無く、違う場所に移動することにした。
校舎内をブラブラして、昼食を食べれる所がないか探していると、
「お、こことか……どうだ? 使われてない教室だろ、ここ」
「そうね」
カーテンの掛かった、暗い教室。
名前が書かれていたであろうプレートは、シールが取り外されている。
夜に来たら確実に何かが出そうだ。
中の様子を覗きながら扉をスライドさせると、少々埃っぽい匂いがした。
教室の半分に机が積み重ねられていて、段ボールなども沢山ある。
俺は窓辺までずかずか歩き、カーテンをざぁっと開けた。
その瞬間、太陽の光が教室を照らした。
「仕方無いから、今日はここで食べるか」
「え、ここで食べるの」
「……やだ、なぁ……」
一斉に反対の言葉を言われた。
「じゃーどこで食べるんだよ」
「自分の教室とか」
「うん、それがいい!」
「さりげなく別々に食べようとしてるよな!?」
本当に俺の事が嫌なんだとまた感じ、少ししぼんだ。
だが、しぼんでいる場合では無い。過ごせる時間も無くなってしまう。
「もうここでいいだろ。嫌な人は代わりとなる部屋を言って」
俺が言うと、彼女達は渋々頷いた。
そこで、茜が口をあまり開けずにぼそっと呟いた。
「え、何。床で食べるの?」
そうだ。食べる場所が欲しい。
ここは屋上では無く、しかも使われていない教室だ。床に座るのは男子の俺でも嫌だ。
俺はタワーとなっている一つの机の両はじを掴んで、凛達の前に置いた。
「これでどうだ?」
茜は机を指で触れたりして、汚くないか調べているようだった。
「汚いけど……床よりましか」
「んじゃー決定」
決まった途端、俺は猛スピードで机、そして椅子を全て三つずつ用意した。
密かに期待を寄せていた食べる順番だが、凛は茜の横に来て、俺が凛の隣に行こうとするとめっちゃ嫌がられた。もう泣きそうなくらい。
「頂きまーす」
「頂きます」
「……頂き、ます」
息とか全く合っていない。
二人三脚をしたら確実にビリだろう。
凛の弁当は、水色の水玉模様の女の子らしい弁当ケース。茜の弁当は、オレンジ色の模様の無い、シンプルな弁当ケースだった。
……会話が無い。
仮に俺が話しかけても、話は発展しないので困りものだ。
そんな時に、茜が箸を置いて喋り出した。
「私達と一緒にお弁当を食べる、条件があるから」
「え、それ初耳」
何も聞かされてないぞ……
それに今更条件などと言われても、もう一緒に食べてしまっている。詐欺だ!
だが茜は、確信していたように言った。
「朝倉はどんな条件でも、乗ると思っていたから」
確かにそうだ。俺はどんな条件でも、絶対に乗る。
茜は話を戻した。
「その一、凛のことを『涼峰さん』と呼ぶ事」
「はぁぁ!?」
何で苗字で呼ばなくちゃいけないんだよ!? しかもその一って事はまだまだあるのか!?
俺が不満気な声を出したのに、茜はスルーした。
「その二、凛に手を出さない事。あまり喋りかけないこと」
「え、何それ意味分かんねーよ」
「その三、私達の言う事を聞く事」
「もうそれでその一その二、できるじゃんか」
俺のツッコミは、虚しくもスルーされてしまった。何かいけなかったのか。
俺はまた、溜息をついた。
「いいよ、その条件呑む」
俺が言うと、茜は微かに微笑んだ。
「朝倉なら、そうすると思った」
そう言って、茜は少しペースを上げて弁当を食べ始める。
そこで、俺は忘れかけていた涼峰さんの存在を思い出した。
「凛……じゃなくて涼峰、さん」
茜に睨まれたので慌てて言い直す。
こえー。蛇だな。
涼峰さんはいきなり話しかけられて、ビックリしてあわあわしていて、持っていた箸を落としそうになっていた。
「な……っ、何です、かっ……?」
「俺さ、男性恐怖症を一緒に治す、って言ったよな」
なぜそんな話になるのかと、涼峰はきょとんとしていた。
そんな君も可愛いよ、とカッコつけて心の中で口説く。
「今日からそれを、スタートするっ!」
俺はずっと握っていた箸を弁当の上に置き、椅子を引く。
そして若干誇りの被った黒板の前に立ち、白いチョークを取った。
「今日は、男とは何なのか、という事を説明する」
ちょっと先生っぽい口調にした。
「……お……おとこぉ……?」
最後が弱々しくなっていて、大変可愛かった。こんなのを毎日見れたら最高だ。
俺は白いチョークを強く握り、カツカツと緑色の黒板に漢字一文字を大きく書いた。
『漢』
先生がするみたいにグーにした手で、感じの横をコンコン叩く。
「『漢』(俺)ーーーーー。それは、お笑いが好きで、バスケが好きで、勉強が嫌いで、喋るのが好きで、グリンピースが嫌いで、ゲームが好きで、
凛が好きなんだぁっ!!」
シーーーーーン
すっかり静まり返った、日の満ちる教室。
ついつい気分が向上して、えっと、えーっと……。
俺について話してしまい、しまいには大声で告白だ。
恥ずかし過ぎるぅぅぅぅぅ!!!
穴があったら入りたいとは、正にこの事だ。
今まで鼻で笑っていたが、悪かった! ことわざが正しいな! 俺が良く分かっていなかった!
そんな微妙な空気の中で、涼峰さんが(さっき『凛』って読んじまった!) おずおずと茜に尋ねた。
「……え、えっと……男子は、皆そうなの?」
「違うわね。きっと朝倉のことよ」
図星です。恥ずかしい……。
凛と圭太(と茜)の、初めてのお昼☆
最後のオチはどうでしたでしょうか……(汗)
これは一応ラブコメなんです。
だから、お笑い要素も、と入れたのですが……。
笑って頂けてたら幸いです。
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