「どうしてそうなった!?」 2
***
俺は屋上が好きだ。
春の今なら温かい太陽の日差しが心地いい。昼寝にもピッタリだ。
夏は、暑いがたまに吹く風が涼しい。その風にあえたら俺はいつも一人で「よっしゃラッキー!」と、心の中で叫んでいる。自然だし、いつあえるか分からないから貴重なんだぞ。
ついさっき来たばかりの屋上で、俺等は胡座をかきながらコンクリートの温かい地面に座る。ここは陽が当たっていて、地面が温かくなっていた。
「よーし、じゃあ教えてくれ!」
楽しみそうに言う勇輝を見ながら、俺はさっきの出来事を語った。
すると勇輝は心底驚いた、といった様子ではぁ~、と何度もゆっくり頷いていた。
「すごいな、圭太。すぐに告るのもすごいけど、治してやる、なんて」
「ハッ、まぁな」
俺はこれだけは、自慢していいと思った。絶対にしないけど。いや、出来ないけど。
勇輝は上がっていた肩の力を抜き、俺に尋ねた。
「なぁ」
「ん?」
次の言葉までに、数秒かかった。
ハテナマークが頭の上で跳びまわる俺に、勇輝は大声で叫んだ。
「どうしてそうなった!?」
「はっ!?」
ビックリして頭の上のハテナマークは散らばっていってしまった。
どういうことだ? さっきの説明を聞いていなかったのか?
でも、内容を言っていた。
散らばったハテナマークが戻り、頭の上で舞う。
「どうしてって……何? 説明したじゃん」
勇輝は興奮状態だ!
「違う! どうして涼峰と待ち合わせみたいなことになってるんだよ!?」
「あぁ、なるほど」
そっちを言いたかったわけか。
俺は頭を掻きながら、思い出すように宙を見つめた。
「えーっと――――――」
***
俺は計画を実行する、と決めた後、ベットから跳ね起きて鞄の中に入っているスマホを取り出した。
そして、メーラーを起動させて指で文章を打ち込む。
To.ミナ
ちょっと頼みたい事があるんだけど、頼んでもいいか?
文章を確認し、送信ボタンを押すとす数秒で送信された。
送り終わると俺はベットに後ろから倒れ、スマホを持ちながらごろごろ寝返りを打つ。
「オーケー、してくれるかな」
ぽつりと呟いた時、スマホの着信音が鳴った。通知を見るとミナからだった。
時間を見ると、まだ送信してから三分ほどしか経っていない。
返信はえーなー……。
でも早くしてもらった方がいいし、な。
その通知をタップしてメールを見る。
Re:
もちろんっ!
朝倉くんの頼みなら何でも聞くよ
デコメがごちゃごちゃうごめいていた。やっぱり女子だな、と思う。
『聞くよ』の文字の後には旧小文字のLのような、ぐるりと回っている黒い線のデコメ。その後には、肌色の親指を立てた手のデコメが腕を動かしていた。
最後には『Mina』とオレンジと黄色で書かれていて、その両脇に見た事のある黄色いひよこが踊っていた。あれだあれ、頭に二本毛が立ってて、オレンジ色のくちばし、丸っこい体。そのまんまの名前だった気がする。
俺は返信ボタンを押し、文を考えながら打ち、送る。
Re:2
また凛のことで悪いんだけど、凛と仲良しのポニーテールの女子いるだろ?
分かるか?
ポニーテールの女子の特徴を書く時、『胸が大きくてさ』と書こうとして、相手が女子だと思い出し慌てて消した。
それから、やり取りは続いた。
Re:3
あー、凛ちゃんのことか
いいよ、別に
分かる分かる!
天宮茜って言うんだよ
茜がどうかした?
Re:4
茜に、俺が『凛に一時間目が終わったら屋上来てくれって伝えて欲しい』って言ってたって、言ってもらえないか?
Re:5
えっ!?
朝倉くん茜に告白するの!?
Re:6
ちげーよ
ちょっと話したいことがあってな
相手に俺を知って貰いたいけど凛じゃそんな隙間ないから、こうして伝えてもらってるんだ
Re:7
なんだー……
良かった!
オッケーオッケー、ばっちり伝えておきますよ
Re:8
ありがとう
助かった
Re:9
どういたしまして
その代わり何でも言う事聞いてくれるの、いいのにしてもらおーっとw
ふ、と笑いながら、俺はスマホを画面スリープにして勉強机に置いた。
***
「――――――ってわけだよ」
「……ふ~ん」
勇輝はどこか複雑そうな顔をしていた。
俺は話し疲れ、コンクリートの床に仰向けに寝転がる。
「どうしたんだよ、勇輝」
曇った顔をした親友に尋ねながら、俺は空を見ていた。
白い綿のような雲が、絵の具で塗ったように鮮やかな青空に浮かんでいる。風がある時の雲は動いていて見ていると地味に面白いのだが、今日はあいにく風は吹いていなく、綿のようなのに重く見える。
勇輝は俺の見ている空を見上げながら呟いた。
「気付いてる? 圭太。あいつの、気」
……あいつ。それは。
冷や汗が頬にたらりと伝った。
「……え? あいつ……って、誰の事?」
俺はこの問いに答えないでくれ、と願いながら、言った。
勇輝は俺の言葉に表情の変化を見せずに、お尻を叩きながら立ち上がった。
「ならいいよ。もうチャイム鳴るだろうし行こうか」
勇輝は閉じたままのケータイの時計を見てから俺に言い、屋上のドアを開けた。
そこから陽の光の入った明るい階段が目に映ったが、俺の心は全くの反対だった。
今回はいつもより、ちょっと長かったかもしれませんね。
圭太と勇輝の雰囲気が険悪に……!
なぜ勇輝はあんな質問をしたのでしょうか。
『あいつ』とは誰なのでしょうか。
そんなことを考えながら、読んで頂けると嬉しいです。