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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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主人公のいないところで_Ⅴ




 油断した。


 如何にか殺されずにすんだ日。話を聞いて、二つの槍認証式の詳細を掴もうと、会場である愛神市の中央図書館に行こうとしていたのだ。

 あの図書館は見た目大きいが、図書館の名の通り本が大体を占めている。あとあるのはドームのように広い会場が二つと、地下室のみ。そこには隠れた財宝があるとかなんとか言われているが、実際は神器の保管場所だ。


 当日の一週間前となれば、もう既に会場をセットしているところだろう。逆に言えば、それくらい先にセットしておかなければ、二日ある認証式は間に合わないのだ。

 中央にセットされたステージには飾られる花々、導くは赤の絨毯に拍手と歌のパレード。跪くは女王に許された騎士のみ。それを周りで見つめるのは、狂った信者ども。

 何も言えなくなるもどかしさと、過去の自分へと既視感。


 ――どうして。どうして、彼女を崇められるのだろう。

 問わなくても分かっている。夏名が殺される前の自分も、同じだったのだから。


 純粋に彼女を信じていた頃。何も失わず、笑顔で過ごしていた日々。あの時アタシは、学校で輝いていたのだ。

 あの時全てを知らなければ、あの時狐面に会わなければ、あの時、――やめよう。もしもの話を想像すれば、出てくるのは醜い郷愁。してはいけないノスタルジー。


 沈黙の続いた部屋では、寝ようとして目を瞑っていた自分と、本を読んでいるイリア。ニールは場を離れていない。そう、リラックスしていて、完全に無防備になった時。

「どーん!」

 子供のような声で、飛び起きる。

 声のした方を見ると、先程離れたはずの二人組がいた。



「……どうしましたか」

 戸惑ったイリアの声。無意識か、口調が崩れている。

「やばいよ! やばいね! 番犬が来た!」

 その言葉は、部屋に緊張感を与えた。



 番犬――それは彼が勝手につけた〝二つの槍〟の呼び名。その〝二つの槍〟が来たと言うことは、自分らを排除しに来たか、それとも場所がばれて確認しに来たか。後者ならばまだマシだが、結局どちらにしろ都合が悪い。


 情報では既に、〝二つの槍〟はリリス・サイナーである愛佳の眷属になっていると言う。まだ愛神市に潜んでいた時の、不快感が脳裏を過る。

 今代の〝二つの槍〟はまだ認証式も終わってないし、力を使う機会が無かったため、力量が分からない上、今まで一度もなかったエレジィゲームのお陰で、前例の〝二つの槍〟の力は参考にならない。


 その力は正体不明。その力は未知数。その力は、国から女王の側にいることを許された力。

 しかも資料で見た〝二つの槍〟の一人、――白夜、だったか。あの男は、不気味(・・・)だ。写真越しなのに、こちらを見抜くかのような相貌。ゾッとしたのを覚えている。



 イリアが本日三回目のレースを取った。光る両目に片手を上げて、口を開いた。

「〝原罪〟には三つの力があります。一つは破壊、二つは念力、三つは洗脳です。今は外に洗脳を使っています。今の内に、」

 焦った早口に、苛立ちを隠さない東城が遮った。

「今すぐやめろ。それじゃあ場所を教えているのと同じだ」



 その言葉が合図になったように、ドアが破壊された。音と煙に驚いて、その場で固まってしまう。

 視界が自由になった時、見えたのは――かつての親友が、二人。見えた凛音と悠馬の顔には、〝反女王派〟に向ける侮蔑はなく、ただ茫然としている。凛音の顔には、喜色さえ混じっていたのだ。


 真っ直ぐな目に、眩んだ。疼く劣等感。

 どのようにしていいか分からず無言でいると、先頭に立っていた〝二つの槍〟の片割れ――自分が嫌いな、白夜の方だ――が、イリアに声をかけた。



「久しぶり、イリア」

「肯定。お久しぶりです、白亜」



 場に会わない会話は、さらに混乱を呼ぶ。イリアへの信頼が全て消え去った。

 久しぶり、ということは一度会ったことがあると認め、しかも名前で言いあうほど親しいということだ。どうして白夜を白亜と呼んでいるのかは知らないが、イリアはこちらを探りに来た裏切り者かもしれないと言う可能性が、一気に増えたのだ。


 思わず、敵の白夜を凝視した。口元で出来た胡散臭い笑顔は、もしかすると、イリアを疑わせるための罠でもあるかもしれない。あちらにとっては親しみやすい笑顔かもしれないが、報告ではとんだ怠け者とも聞いたが、――全てを受け入れて国の宝となった者だ。油断はできない。そもそも、するものではない。

 だが、次の発せられた言葉で、その思考は消える。



「<無秩序(affrancare)>」



 その攻撃はイリアに向けられたもので、守ろうと出した力を、さらに〝拒絶〟した。そうなると、持っているのは拒絶に似た力か。それでも、発せられた無秩序を意味する言葉は、拒絶とは合っていない。

 それだけでも驚きなのに、跳ね返すことはできなかったが、攻撃を逸らすことに成功した白夜の力は、倉庫を壊した。


 ――――違う(・・)これ(・・)違う(・・)。あのリリス・サイナーの眷属とは言え、軽々と建物を壊すほどの力を持っているはずがない。

 出来るのは、直接加護者のみ。


 問いただしたいところだが、崩れた瓦礫が襲ってくる。瓦礫を〝拒絶〟し壊しながらイリアに駆け寄り、避難する。男二人は幻覚で自分の姿を作って来たらしく、その幻覚が既に壊されていた。

 背中を向けて走り、帰ってきたニールに力を借りて、視界を〝拒絶〟する。姿を見えないようにしたが、必至で走った。



「イリア、破壊して」

 走った先にあった木を、破壊する。

「ニール、拒絶して」

 またその先にいた人の、視界を拒絶する。



 拒絶、拒絶。自分が新しく持った力は、馴れ合いを許さない孤独そのもの。腕を引っ張って連れて行っているイリアも、信じられない。自分と加護をしている神しか、心を許してはいけない自分の居場所。それが〝反女王派〟の頭の役目。


 つい最近まで普通の学生だった自分には、あまりにも辛い生きがいと目的。決して叶う証拠のない、言ってしまえばやっても意味がないこと。

 戻りたいと思っているかと言われれば、否定は嘘になる。いつだって、戻りたいと思っていた。それでも、――それでも。







 アタシは、親友が憎かった。


 


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